病態生理学

病態生理学 · P-2-19

酸塩基平衡障害 症例2

Acid-base disorder, Case 2

前提:病態
1型糖尿病の発症機序代謝性酸塩基平衡障害:代謝性アシドーシスとアルカローシス

🧠 糖尿病のある55歳男性が、ここ数日で強まると易疲労のため妻に付き添われて受診した。 pH 7.30・HCO₃⁻ 10 mmol/l の代謝性アシドーシスで、は27と開大し、PCO₂ 22 mmHg は Winter の式どおりのである。血糖 12.5 mmol/l と糖尿病の既往から()を最も疑うが、ケトン体も乳酸も測られていないので、 と確定するにはケトン体の証明が要る。

症例提示

55歳男性。糖尿病があり、妻に付き添われて受診。妻によると、ここ数日でさとが増している。

: 肥満体型で、実年齢より老けて見える。

:

  • 血圧 160/98 mmHg
  • 脈拍 76/min
  • 呼吸数 20/min
  • 発熱なし

診察所見:

  • 心肺: 明らかな異常なし
  • チアノーゼや浮腫なし

検査値

:

  • pH 7.30
  • PCO₂ 22 mmHg
  • PO₂ 108 mmHg
  • HCO₃⁻ 10 mmol/l

生化学(値 / ):

  • Na⁺ 142(135-146 mmol/l)
  • K⁺ 4.4(3.5-5.1 mmol/l)
  • Cl⁻ 105(98-107 mmol/l)
  • Ca 2.35(2.2-2.65 mmol/l)
  • BUN 7(2.8-7.2 mmol/l)
  • クレアチニン 75(45-84 µmol/l)
  • 血糖 12.5(3.9-5.8 mmol/l)

重要な引用と示唆

引用 / 値 解釈
pH 7.30、HCO₃ 10 mmol/l(著減) + HCO₃著減で代謝性アシドーシス。💡 Henderson-Hasselbalch の式(pH = 6.1 + log₁₀[HCO₃⁻ ÷ (0.03 × PCO₂)])に PCO₂ 22 mmHg と HCO₃⁻ 10 mmol/l を入れると pH は約7.28で、示された7.30とほぼ一致する。この症例の3値は互いに整合している
PCO₂ 22 mmHg(低値) Winterの式:期待PaCO₂=1.5×10+8=23±2 → 21–25 mmHg。実測22 mmHgは範囲内で、が適切に働いている1。呼吸数は20/minと頻呼吸は目立たないので、PCO₂ をここまで下げているのは主にの増加(深い呼吸)と考えられる
= 142 −(105 + 10)= 27(高値) で、未測定酸の蓄積を示唆。正常AGは8〜12(K⁺ を含める定義では12〜16)で2、K⁺ を含めても 142 + 4.4 −(105 + 10)≈ 31 と開大している。AG が18を超えれば pH にかかわらずほぼ必ず有機酸の存在を示す3。=ΔAG(27-12=15)÷ΔHCO₃(24-10=14)≈1.07で1〜2の範囲に入り、正常AG性アシドーシスやの隠れた併存を示唆する所見はなく、純粋なAG開大性アシドーシスに合致する4
糖尿病、血糖 12.5 mmol/l(高値) 糖尿病患者の高血糖で、としてケト酸が最も疑わしい()。は通常1型糖尿病で起こるが、で受診する患者の35%までは2型糖尿病であり3、体格(肥満体型)から2型を疑っても除外根拠にはならない。発熱はないが、感染症やなどの誘因は除外する必要がある3。⚠️ 2024年の成人の合意報告では、 の診断には①血糖 11.1 mmol/l 以上または糖尿病の既往、②( 3.0 mmol/l 以上または2+以上)、③代謝性アシドーシス(pH <7.30 または HCO₃⁻ <18 mmol/l)の3つがすべてそろう必要がある5。本例は①(既往と12.5 mmol/l)と③(HCO₃⁻ 10 mmol/l。pH 7.30 はちょうど境界で「7.30未満」には当たらない)を満たすが、②のケトン体が測られていない。AG開大の原因には乳酸(2型糖尿病では内服の有無も確認)、なども含まれ2、ケトン上昇そのものにもやの鑑別がある5。この段階では「が最も疑わしい」にとどめ、血中と乳酸を測って確かめる。なお HCO₃⁻ 10 mmol/l は同報告の重症度表で中等症(10〜15 mmol/l 未満)の区分に当たる
K⁺ 4.4 mmol/l(内) では初期の K⁺ が正常〜高値でも体内総 K はほぼ必ず減っており、インスリンで K⁺ が細胞内へ戻ると低K血症が表に出る3。合意報告は、入院時 K⁺ が 3.5 mmol/l 未満ならインスリンを遅らせて K 補充を先行し、5.0 mmol/l 未満になったら 4〜5 mmol/l を保つよう補充を始めるとしている5。本例の4.4 mmol/l はインスリンを遅らせる条件には当たらないが、 と確定して治療を始めるなら、輸液と並行して K 補充が必要になる値である
“徐々にとなり易疲労” アシドーシス/代謝破綻に伴う低下を示唆
Cl⁻ 105(正常) 血中クロールは正常域で、高型(高Cl性ではない)に合致

要点

出典

  1. 1.Respiratory Compensation in Metabolic Disorders(Life in the Fast Lane (LITFL)・2020)Winterの式(期待PaCO2 ≈ 1.5×HCO3+8±2 mmHg)に本症例の値を当てはめると期待域は21–25 mmHgで、実測22 mmHgはこの範囲内にあり呼吸性代償が適切であることを確認した。閲覧 2026-08-14
  2. 2.Anion Gap(StatPearls Publishing (NCBI Bookshelf)・2025)Wayback(20260613171537、最終更新 2025年8月6日)の本文で、正常アニオンギャップは8〜12(Kを含めると12〜16)であること、AG開大性アシドーシスの原因の覚え方 MUDPILES にメトホルミン・尿毒症・糖尿病性ケトアシドーシス・乳酸などが含まれることを確認した。閲覧 2026-09-24
  3. 3.Acid-Base Disorders in the Critically Ill Patient(Clinical Journal of the American Society of Nephrology・2023)PMC10101555 の全文で確認:AG が 18 を超えれば pH にかかわらずほぼ必ず有機酸の存在を示すこと(腎機能が高度に低下したときの硫酸・リン酸の貯留で AG は上がるが 18 を超えることはまれ)。DKA は通常1型糖尿病で起こるが、DKA で受診する患者の35%までは2型糖尿病であり、感染症や心筋虚血などの誘因を除外することが重要であること。DKA では初期に K が高くても体内総 K はほぼ必ず減っており、高血糖の治療で K が細胞内へ戻ると低K血症が表に出ること。閲覧 2026-09-24
  4. 4.Delta Ratio(Life in the Fast Lane (LITFL)・2021)デルタ比(ΔAG÷ΔHCO3)による混合性酸塩基障害の判定基準を確認した。本症例はΔAG15/ΔHCO3 14≈1.07で1〜2の範囲に入り、純粋なAG開大性アシドーシス(隠れた正常AG性アシドーシスや代謝性アルカローシスの併存を示唆する所見なし)に合致する。閲覧 2026-08-14
  5. 5.Hyperglycaemic crises in adults with diabetes: a consensus report(ADA / EASD / JBDS / AACE / DTS・2024)PMC11343900(Diabetologia 版)の全文で確認:DKA の診断は3要素(血糖 11.1 mmol/L 以上または糖尿病の既往、ケトーシス、代謝性アシドーシス)がすべてそろうことを要し、ケトーシスは β-ヒドロキシ酪酸 3.0 mmol/L 以上または尿ケトン2+以上、アシドーシスは pH <7.30 または HCO₃⁻ <18 mmol/L とすること。重症度の表で HCO₃⁻ 10〜15 未満は中等症(すべての項目を満たす必要はない)。ケトン上昇の鑑別に飢餓ケトーシス・アルコール性ケトアシドーシス・妊娠ケトーシスを挙げること。入院時の K が 3.5 mmol/L 未満なら K 補充を先に始めて K が 3.5 mmol/L を超えるまでインスリンを遅らせ、K が 5.0 mmol/L 未満になったら 4〜5 mmol/L を保つよう補充を始めること。閲覧 2026-09-24