病態生理学

病態生理学 · P-2-20

酸塩基平衡障害 症例3

Acid-base disorder, Case 3

前提:病態
代謝性酸塩基平衡障害:代謝性アシドーシスとアルカローシスカリウム(K+)平衡の異常
検査値
代謝性アシドーシス

🧠 1型糖尿病のある29歳男性が定期検診で受診し、体格良好で健康そうに見える。 pH 7.33・HCO₃⁻ 14 mmol/l の代謝性アシドーシスで、は9と正常、Cl⁻ 112 mmol/l と高値、K⁺ 6.4 mmol/l の高K血症を伴う。「高K血症+正常AG性(高Cl性)アシドーシス」の組み合わせから、状態による4型(高K型)を軸に考える。尿pH 5.5はそれだけでは型を決められない境界の値で、薬剤性や副腎不全など他の状態も鑑別に残る。

症例提示

29歳男性。定期検診で受診。1型糖尿病の既往あり。

: 体格良好で健康そうに見える。

:

  • 血圧 110/70 mmHg
  • 脈拍 76/min
  • 呼吸数 26/min
  • 発熱なし

診察所見:

  • 心肺: 明らかな異常なし
  • チアノーゼや浮腫なし

検査値

:

  • pH 7.33
  • PCO₂ 30 mmHg
  • PO₂ 105 mmHg
  • HCO₃⁻ 14 mmol/l

生化学(値 / ):

  • Na⁺ 135(135-146 mmol/l)
  • K⁺ 6.4(3.5-5.1 mmol/l)
  • Cl⁻ 112(98-107 mmol/l)
  • Ca 2.4(2.2-2.65 mmol/l)
  • BUN 8.5(2.8-7.2 mmol/l)
  • クレアチニン 90(45-84 µmol/l)
  • 血糖 6(3.9-5.8 mmol/l)

尿: pH 5.5


重要な引用と示唆

引用 / 値 解釈
pH 7.33、HCO₃ 14 mmol/l(低値) + 低HCO₃で代謝性アシドーシス。💡 Henderson-Hasselbalch の式に PCO₂ 30 mmHg と HCO₃⁻ 14 mmol/l を入れると pH は約7.29で、示された7.33とは0.04ずれる(pH と PCO₂ からした HCO₃⁻ は約15 mmol/l)。ただしどちらの HCO₃⁻ を使っても次の行の代償の判定は変わらない
PCO₂ 30 mmHg(低値) Winterの式:期待PaCO₂=1.5×14+8=29±2 → 27–31 mmHg1。実測30 mmHgは範囲内で、は適切(した HCO₃⁻ 約15 mmol/l で計算しても期待域は約29〜33 mmHg で、30 mmHg はやはり範囲内)。呼吸数26/minもこのと合う
= 135 −(112 + 14)= 9、Cl⁻ 112(高値) 正常は8〜12(K⁺ をに含める定義では12〜16)とされ2、本例の9はこれに収まる(K⁺ を含めても 135 + 6.4 −(112 + 14)≈ 15 で正常域)ため、正常のと判定できる。アルブミンは測定されていないので、による見かけの低下は確かめられない
K⁺ 6.4 mmol/l(高値) 正常AG性アシドーシスに高K血症を伴い、(RTA)4型(高K型)を示唆する。4型の血清K⁺は5.5〜6.5 mmol/lとされ、低K血症を伴う1型()・2型(近位型)と分ける手がかりになる3。ただし高K血症を伴う正常AG性アシドーシスは、薬剤(阻害薬・など)や()による状態でも起こるので23、内服歴の確認と、必要ならレニン・アルドステロン・コルチゾールの測定が要る。⚠️ 英国腎臓学会の区分では6.0〜6.4 mmol/lは中等度の高K血症で、地域(外来・検診)で見つかった場合は1日以内に K⁺ を再検し、急性疾患の様子があれば病院での評価を提案している4
1型糖尿病、血糖 6 mmol/L(5.8をわずかに超えるがではない) 糖尿病は(4型RTA)の代表的な背景疾患であり3、AGが開大しておらず著明高血糖も伴わないためは否定的
尿pH 5.5 ⚠️ この値だけでは型を決められない。 RTAの分類表は尿pHを1型()で5.3超、4型で5.5未満としており3、5.5ちょうどは1型の「5.3超」に入り、4型の「5.5未満」には入らない境界の値である。4型のうち尿pH 5.5未満はアルドステロン作用の障害を示し、集合管の構造的障害では尿はよりアルカリ性になる。また高K性アシドーシスで尿pHを5.5未満にできない例には、のRTA(など)もある3。1回ので、酸負荷の条件も示されていないので、型の鑑別は尿pHより血清K⁺(本例は高値)に重みを置き、必要ならで腎のを確かめる
(尿素)8.5 mmol/l、クレアチニン 90 µmol/l(軽度高値) クレアチニン 90 µmol/l(約1.0 mg/dl)は施設基準の上限(84)をわずかに超える程度で、これだけでとは言えない。4型RTAは がほぼ正常か中等度低下にとどまる患者にも起こる3。の有無は と尿アルブミンで評価する

要点

  • 診断: 糖尿病患者に生じた4型(高K型)(RTA)(高K血症・高Cl性・)が最も考えやすい。ただし薬剤性の高K血症・アシドーシス(阻害薬・など)や副腎不全による状態を除外するため、内服歴の確認と内分泌の評価が要る。
  • 代償: Winterの式(期待PaCO₂ 27–31 mmHg)に対し実測30 mmHgは範囲内で、適切なを示す。
  • 機序: (糖尿病で高頻度)により、集合管でのH⁺・K⁺排泄がともに低下し、アシドーシスと高K血症を来す。高K血症自体がのアンモニア産生を抑制し、をさらに悪化させる悪循環も生じる3。
  • 鑑別の要点: 正常+高K血症が、低K血症を伴う1型()RTAより4型RTAを支持する主な根拠である。尿pH 5.5は分類表の境界(1型は5.3超、4型は5.5未満)にあり、尿pHだけでは1型と4型を分けられない。
  • 高K血症の扱い: K⁺ 6.4 mmol/l は中等度の高K血症で、検診で見つかった場合は1日以内に再検する。
  • 対比: と異なりは拡大せず、血糖もではない。

出典

  1. 1.Respiratory Compensation in Metabolic Disorders(Life in the Fast Lane (LITFL)・2020)代謝性アシドーシスに対する呼吸性代償の予測式(Winterの式、期待PaCO2 ≈ 1.5×HCO3+8±2 mmHg)を確認した。本例(HCO3 14)では期待PaCO2は27〜31 mmHgとなる閲覧 2026-08-26
  2. 2.Anion Gap(StatPearls Publishing (NCBI Bookshelf)・2025)Wayback(20260613171537、最終更新 2025年8月6日)の本文で確認:正常アニオンギャップは8〜12(Kを含めると12〜16)であること、補正後もAGが正常範囲なら尿アニオンギャップ・尿pH・尿電解質で腎性と消化管性の正常AG性代謝性アシドーシスを鑑別すること、Addison病やアルドステロンの作用を妨げる薬剤は高Cl性代謝性アシドーシスを起こし、その像は4型RTAに似ること閲覧 2026-09-24
  3. 3.Renal Tubular Acidosis and Management Strategies: A Narrative Review(Advances in Therapy・2021)PMC7889554 の全文で確認:Table 1 は尿pHを遠位型(1型)>5.3、近位型(2型)<5.5、高K型(4型)<5.5、血清HCO₃⁻をそれぞれ10〜20・16〜20・16〜22 mmol/L、血清Kを低値(<3.5)・低値(<3.5)・高値(5.5〜6.5 mmol/L)とすること。4型RTAは糖尿病や間質性腎炎の患者に多く、GFRはほぼ正常か中等度低下にとどまりうること、低アルドステロン症(Addison病、RAAS阻害薬なども原因に挙がる)で集合管のH⁺・K⁺排泄が落ち、高K血症自体が近位尿細管のアンモニア産生を抑えて酸排泄をさらに悪化させること。尿pH 5.5未満はアルドステロン作用の障害を示し、集合管の構造的障害では尿pHはよりアルカリ性になること。閉塞性尿路疾患で高K性アシドーシスを示し尿pHを5.5未満にできない例は電位依存性遠位型RTAと考えられること閲覧 2026-09-24
  4. 4.Clinical Practice Guidelines: Treatment of Acute Hyperkalaemia in Adults(UK Kidney Association(旧 Renal Association)・2020)英国腎臓学会のサイトに掲載された PDF(表紙は Final version June 2020)の全文で確認:高K血症を軽度5.5〜5.9・中等度6.0〜6.4・重度6.5 mmol/L以上に分けること。地域で見つかった中等度高K血症は1日以内に K を再検し(1C)、K 5.5 mmol/L 以上では K を下げる介入を始め(1B)、急性疾患の様子がある軽度〜中等度の患者は病院での評価を提案すること(1B)。改訂版(UKKA Clinical Practice Guideline – Management of Hyperkalaemia in Adults、Final version October 2023)の PDF でも、区分と Guideline 1.2.2・4.2 の文言は同じであることを確認した。閲覧 2026-09-24