病態生理学

病態生理学 · 2-19

カリウム(K+)平衡の異常

Potassium (K+) balance disorders

応用トピック
ホメオスタシスとその障害生命を脅かす電解質異常(Na・K・Ca)の補正低K血症・高K血症電解質異常腫瘍救急小児腫瘍救急小児のNa・K異常:低/高Na血症・低/高K血症酸塩基平衡障害 症例3
疾患
横紋筋融解症
検査値
カリウム

🧠 K⁺ は「膜電位の」。 体内 K⁺ の 98% は細胞内。わずか 2% の細胞外 K⁺ がわずかに動くだけでが変わり、心筋・神経の興奮性が大きく揺れる → だから K⁺ 異常はまず 致死的不整脈として現れる。

K⁺の恒常性

  • 細胞内: 体 K⁺ の 98%(~150 mmol/L)— 蛋白合成に必須。
  • 細胞外: 2%(3.5–5 mmol/L)— 厳密に制御、に必要。
  • K⁺ 低下/上昇 → 膜の過分極/脱分極 → 興奮性に影響 → 不整脈。と測定上の注意はを参照。
  • 大きな細胞内貯蔵から K⁺ が漏れ出す危険があり、食事からの摂取も1日約120 mmol と多いので、体は常に高K血症に備えている。
  • 調節: + 。血漿 K⁺ が上がると、重量の大きい骨格筋が K⁺ を速やかに大量に取り込む(負のフィードバック)。インスリン は Na⁺/K⁺ ATPase を介して K⁺ を細胞内へ入れる(フィードフォワード)。排泄は正午にピーク(の調節)。

腎での制御

  • 性(集合管):↑+Na⁺/K⁺ ATPase → Na⁺再吸収+ROMK 経由で K⁺排泄。
  • 性: 高K血症が NCC↓、尿細管流量↑、K⁺枯渇 → H⁺/K⁺ ATPase → H⁺排泄+K⁺再吸収(→ )。

高K血症

原因

  1. 過剰摂取(単独では稀):
  2. 障害(講義では最も多い原因 — ・):
    • /線維化
    • (、)— 4型として現れる
    • K⁺保持
    • 副腎不全
    • 阻害薬/
    • GFR↓(の流量が減り、Na⁺ 再吸収と K⁺ 排泄が落ちる。ネフローゼ/、心不全、肝硬変でも起こる)
    • 💡 腎不全と高K血症の結びつき: では 低下・尿細管流量低下・尿細管壊死が、では 低下に加えて尿細管間質の線維化(がアルドステロンに反応しない)が K⁺ 排泄を妨げる。では代謝性アシドーシスも K⁺ を細胞外へ移し、のためにカリウムを多く含む代用塩を使うことも高K血症を招く。
  3. 細胞外への移動:
    • 代謝性アシドーシス(細胞外のH⁺と細胞内のK⁺が交換される)
    • β2遮断薬

⚠️ まず偽性高K血症を除外する

採血手技によって検体中の細胞からK⁺が漏出し、実際の血清K値は正常なのに高値として報告されることがある。症状も心電図変化も伴わない高値は、まずこれを疑う。

  • 採血時の溶血(細い針、強い吸引、激しい振盪、搬送遅延)
  • を長く締めた状態での採血、強い握りし運動
  • 著明な・(検体内での細胞崩壊・血小板からのK⁺放出)

⚠️ 治療を急ぐ必要がない限り、非溶血条件で再採血して確認する。を真の高K血症として治療すると、不要なCa投与やによるリスク(低血糖など)を患者に負わせることになる。

帰結(心臓の不整脈が最重要)

⭐ ECG変化は概ね次の順に進行する(ただし必ずこの順をたどるとは限らない)。

flowchart TD
  A["血清K⁺上昇"] --> B["テント状(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pointed'>尖鋭</span>)T波"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='PR interval prolongation'>PR延長</span>・P波平坦化"]
  C --> D["P波消失・QRS幅延長<br>徐脈・房室ブロック"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Sign'>サイン</span>カーブ(QRSとT波が融合)"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ventricular tachycardia, VT'>心室頻拍</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ventricular fibrillation, VF'>心室細動</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='asystole'>心静止</span>"]
重症度 血清K 臨床上の扱い
軽度 5.5〜5.9 mmol/L 原因・薬剤・腎機能を評価し、を確認
中等度 6.0〜6.4 mmol/L 緊急心電図を行い、臨床状態と上昇速度に応じて治療
重度 6.5 mmol/L以上 不整脈・心停止リスクがあるため、緊急評価とK低下療法を開始

重症度の区切り(軽度 5.5〜5.9、中等度 6.0〜6.4、重度 6.5 mmol/L 以上)は、欧州蘇生協議会の定義を採った英国腎臓学会(旧 Renal Association)の2020年の指針による。同指針は、入院患者で K⁺ 6.0 mmol/L 以上なら緊急にをとること、6.5 mmol/L 以上では持続的な心電図監視を行うことを推奨している1。

⚠️ 心電図変化は血清K値と一対一に対応せず、典型的な順序を必ずたどるわけではない。正常心電図でも重度高K血症を安全とは判断しない。

💡 軽い上昇と高度の上昇で、心筋に起こることは逆向きになる。 講義は 8 mM 前後を境に次のように説明する。中等度(<8 mM)では膜が脱分極し、内向き性 K⁺ チャネルが直接活性化されて、興奮性が上がり伝導が速まり、活動電位が短く再分極が速くなる(心電図では高く尖ったT波)。高度(>8 mM)では膜電位がさらに陽性へ傾いて Na⁺ チャネルが不活性化されたまま戻らず、興奮性が下がり伝導が遅れる(PQ延長、P波平坦化、QRS幅拡大)。その結果、性の・と、・・のどちらも起こりうる。

  • その他:
    • 4型RTA(高K血症がの NH₃ 産生を抑えるため、が落ちる)
    • 下痢/腹痛
    • 筋痛
    • 慢性の高K血症は(腎不全に伴う)末梢神経障害に関与する

低K血症

原因

  1. 摂取不足(稀):
    • 認知症
  2. 異常喪失:
    • 腎性:
      • 過剰
      • 1型・2型RTA
      • K⁺排泄
      • ⚠️ 低Mg血症(腎からのK⁺喪失を助長し、後述のとおりK補充だけでは治りにくくする)
    • 腎外性:
      • 下痢/下剤は直接
      • 嘔吐はを介して間接的に
  3. 細胞内への移動:
    • インスリン/β2作動薬過量
    • (ICP↑、MI、)

帰結

  • 膜の 過分極 → 興奮性↓、・AP 延長。Na⁺/K⁺ ATPase↓ → → 、VT、VF。
  • ECG:
    • ST 低下
    • QT 延長
    • T 振幅↓
    • 顕著な
  • 全身症状:
    • 疲労
    • 脱力
    • うつ
    • 筋痛/痙攣
    • 便秘
    • 反射低下

治療

💡 高K血症の Ca²⁺ は「K⁺ を下げる薬」ではない — 膜を安定化して不整脈から心臓を守る応急処置にすぎない。K⁺ の総量はまったく変わらないので、体外へ除去する手段を並行しなければ数時間で元の高値へ戻る。役割分担は①(Ca²⁺)→②細胞内への一時的な移動(インスリン+ブドウ糖、β2作動薬)→③体外への除去(利尿薬・K⁺吸着薬・透析)の3段構えで覚える。

高K血症:3段構えの緊急治療[^geldermann-acute-hyperkalemia-2026]

  1. 膜の安定化(Kは下げない): 静注 Ca²⁺(など)。Ca²⁺ 濃度を上げると Na⁺ チャネルの閾値と膜電位が上がり、不活性化した Na⁺ チャネルが回復しやすくなるだけで、血清K値は動かさない。効果は数十分と短く、必要なら再投与する。⚠️ 適応の書き方は資料で異なる。 講義と英国腎臓学会の2020年の指針は「高K血症の心電図変化がある場合」に投与するとし(1C)、心電図が心毒性の最良の指標で効果も心電図の改善で判定し、静注 Ca にも害があることを理由に挙げる1。2026年の救急の総説は「心電図変化、または血清K 6.5 mmol/L 以上」を主な適応としている2。
  2. 細胞内への一時的な移動: インスリン+ブドウ糖を軸に、吸入 β2作動薬(など)を併用する。Na⁺/K⁺ ATPaseを介してK⁺を細胞内へ押し込むが、あくまで体内での配置換えであり、効果が切れればする。⚠️ 非糖尿病患者や治療前血糖が低い患者では、後のに注意し血糖を反復測定する。
  3. 体外への除去(これをしないと数時間で戻る): 尿量がありを伴えば利尿薬でKのを促す(救急での前向きの根拠は乏しい2。講義は、有効な用量では著しいNa利尿を起こしうるので慎重に使うとする)。腎不全や重症例ではが最も確実で速い除去手段になる。腸管での(、など)もに働く(腸管でKを他のイオンと交換して捕らえる)。救急での位置づけはまだ検証が要るとする総説がある一方2、英国腎臓学会の指針はK 6.5 mmol/L以上の生命を脅かす高K血症の緊急管理の選択肢に挙げている( 1B、 1C)1。⚠️ 従来の()は有効性への疑問と消化管有害事象(等)のリスクから、近年は第一選択とされなくなっている。

⚠️ は急性高K血症へルーチンには投与しない(英国腎臓学会 2C)1。重い代謝性アシドーシスを伴う場合など、限られた状況での補助にとどまる2。

低K血症:補正と難治例の見直し

  • 安定して経口摂取可能なら経口K⁺補充を優先する(目標 ~4 mmol/L)。ECG異常や症状があれば静注K⁺に切り替える。
  • ⚠️ 静注K⁺はに上限がある。 からのはやのリスクになるため、一般病棟の路ではおおむね10 mmol/時までにとどめる。これを超える速度が必要なときは・持続心電図監視・下に限る。いずれの場合もで濃度と速度を管理し、高濃度K液を希釈せず直接静注してはならない(具体的な濃度・速度は施設プロトコルに従う。詳細は生命を脅かす電解質異常の補正)。
  • ブドウ糖液を溶媒に使うと、がさらにK⁺を細胞内へ引き込み一過性に低K血症を悪化させ得るため避ける。
  • 治療後はリバウンド高K血症を防ぐため血清Kを反復モニターする。とくに細胞内への移動による低K血症(インスリン・β2作動薬・など)では、原因が去ると K⁺ が細胞外へ戻るので危険が高い。
  • ⚠️ 経口・静注でK⁺を補充しても改善しない難治例では、必ずMgを測定する。 Mg欠乏があると細胞内Mgの低下がROMKチャネルへの抑制を解除し、でのK⁺分泌が増えて腎性喪失が続くため、Kだけを補充しても上がらない3。Mgを同時に補正して初めてK⁺が是正される。

まとめ

項目 高K血症(5.5 mmol/L以上) 低K血症(<3.5 mmol/L)
膜への影響 脱分極。軽い上昇では興奮性↑、高度では Na⁺ チャネル不活性化で興奮性↓・ 過分極で興奮性↓、再分極が遅れ活動電位が延長
心電図 尖ったT波 → ・P波平坦化 → QRS幅拡大 → カーブ → ・(必ずこの順とは限らない) 、、QT延長、
主な原因 障害(・、、、阻害薬/)、細胞外への移動、過剰摂取 腎性喪失(過剰、利尿薬、低Mg血症)、腎外性喪失(下痢・嘔吐)、細胞内への移動
治療 ①Ca²⁺で → ②インスリン+ブドウ糖・β2作動薬で細胞内へ → ③利尿薬・・透析で体外へ が基本(目標 ~4 mmol/L)、心電図異常や症状があれば静注(速度に上限)。難治ならMgを測る
  • 症状も心電図変化もない高値は、まず溶血などによるを疑い、非溶血条件で再採血する。
  • 静注Ca²⁺はKを下げない応急処置で、体外への除去を並行しないと数時間で元に戻る。Caの適応を心電図変化に限るか、K 6.5 mmol/L以上にも広げるかは資料で異なる。
  • 重症度の区切りは軽度5.5〜5.9、中等度6.0〜6.4、重度6.5 mmol/L以上。

出典

  1. 1.Clinical Practice Guidelines: Treatment of Acute Hyperkalaemia in Adults(UK Kidney Association(旧 Renal Association)・2020)英国腎臓学会のサイトに掲載された PDF(表紙は Final version June 2020・Review date June 2025、ファイルは2022年8月作成の V2.0)の全文で確認:欧州蘇生協議会の定義に倣い高K血症を K⁺ 5.5 mmol/L 以上とし、軽度5.5〜5.9・中等度6.0〜6.4・重度6.5 mmol/L以上に分けること。入院患者で K⁺ 6.0 mmol/L 以上なら緊急に12誘導心電図をとること(1B)、K⁺ 6.5 mmol/L 以上・12誘導心電図に高K血症の所見がある患者・6.0〜6.4 で状態が悪いか急上昇が見込まれる患者には持続3誘導心電図監視を行うこと(1C)。Guideline 16.2 で静注カルシウム塩は高K血症の心電図所見がある患者に投与するとし(1C)、理由として心電図が心毒性の最良の指標であること、効果は心電図の改善で評価すること、静注カルシウムにも害があることを挙げること。静注重炭酸Naはルーチンに使わないこと(2C)。ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム(1B)とパチロマー(1C)を K⁺ 6.5 mmol/L 以上の生命を脅かす高K血症の緊急管理の選択肢とし、ポリスチレンスルホン酸カルシウムは重度高K血症の緊急管理には使わないこと(2B)。閲覧 2026-09-24
  2. 2.Acute hyperkalaemia in emergency care: evidence-based approaches(Emergency Medicine Journal・2026)急性高K血症では静注Ca投与はECG変化またはK 6.5 mmol/L以上が主な適応で、インスリン・ブドウ糖療法がKの細胞内移動の中心的治療であり吸入β2刺激薬が相乗的に働くこと、および従来のポリスチレンスルホン酸ナトリウムは有効性への疑問と消化管有害事象のリスクから推奨されなくなっていることを確認した。閲覧 2026-08-14
  3. 3.Mechanism of Hypokalemia in Magnesium Deficiency(Journal of the American Society of Nephrology・2007)Mg欠乏は細胞内Mgの低下を介してROMKチャネルへのMgによる抑制を解除し遠位尿細管でのK分泌を増やすため、K補充だけでは低K血症が難治性になることを確認した。閲覧 2026-08-14