小児科学

小児科学 · 3-21

小児糖尿病と高血糖

Diabetes Mellitus, Hyperglycaemia

前提:病態
1型糖尿病の発症機序
前提:正常
インスリン分泌とその調節。インスリンの中間代謝への作用。糖尿病。
疾患
1型糖尿病

🧠 全体像:小児1型糖尿病は自己免疫性β細胞破壊によるである。多尿・口渇・体重減少を見逃さず、嘔吐や深い呼吸を伴えば(diabetic ketoacidosis:)として緊急対応する。

1型糖尿病

と環境因子を背景にが破壊される。2種類以上のがあり正常血糖なら第1期、を伴うが無症状なら第2期、臨床的糖尿病となれば第3期と整理する。

💡 世界的な発症動向と地域差。 1型糖尿病のは地域差が非常に大きく、1990年代のDiaMond研究では15歳未満のがフィンランド(36.5/10万人年)とサルデーニャ(36.8/10万人年)で世界最高水準に達し、最も低い集団との差は350倍以上であった1。診断時のの頻度も国により12.8%から80%まで大きく異なり、国内総生産や医療アクセス・疾患啓発の差が関与しうる2。

💡 発症を遅らせる免疫療法。 1型糖尿病患者ので発症前の高リスク例を対象にしたでは、抗CD3抗体の単回14日投与により臨床的糖尿病診断までのがプラセボ群の24.4か月に対し48.4か月となり、約2年延長した(対象の72%は18歳以下)3。米国では Stage 2 の1歳以上で Stage 3 の発症を遅らせる適応を持つ。⚠️ 米国の添付文書は2026年6月にのを加え、・の重篤な再活性化を理由に、免疫不全の患者と活動性のウイルス感染のある患者を禁忌とし、投与前のの検査と最終投与後少なくとも2か月の監視を求めている4。

症状と診断

多尿、の再出現、口渇、、体重減少、倦怠感、視力ぼやけが典型である。乳幼児ではおむつの重さ、脱水、嘔吐、呼吸異常、意識障害が手掛かりになる。

糖尿病は、典型症状またはを伴う11.1 mmol/L以上、7.0 mmol/L以上、(oral glucose tolerance test:、ブドウ糖1.75 g/kg・最大75 g)の2時間値11.1 mmol/L以上、 6.5%以上のいずれかで診断する。明白な高血糖がなければ別日の再検で確認する。症状が強い小児に診断目的の糖を行い治療を遅らせない。

💡 1型と2型の鑑別、若年発症2型糖尿病の進行速度。 陽性やCペプチド低値は1型糖尿病を、抗体陰性・肥満・強い家族歴は2型糖尿病を示唆する。米国の無作為化試験(TODAY試験)では、肥満のある10〜17歳の新規発症2型糖尿病児でによりを維持できたのは約半数にとどまり、コントロール悪化はβ細胞機能の急速な低下と関連し、3.9年後には高血圧33.8%・16.6%・13.7%を認めた5。

長期治療

基礎・療法またはを用い、、炭水化物量、運動、を統合する。本人の年齢と家族の負担に合わせ、低血糖予防、学校での支援、心理社会面を含むチーム医療を行う。に加えCGMのも活用する。

💡 とシステム、目標の位置づけ。 6〜13歳を対象にしたでは、closed-loopシステム使用によりが対照(センサー拡張ポンプ療法)より約11パーセントポイント高く保たれ、重症低血糖やの増加はなかった6。1〜7歳の乳幼児を含む年齢層を対象にした試験でも、が8.7パーセントポイント高く、も0.4パーセントポイント低下し、低血糖状態の時間は増加しなかった7。ISPAD 2018年版は、包括的ケアを受けられる場合の目標を7.0%未満(53 mmol/mol)へ引き下げたが、低血糖をしにくい場合や先進的技術へのアクセスが乏しい場合などでは7.5%未満(58 mmol/mol)というより高い目標も妥当とした8。

糖尿病性ケトアシドーシス

は高血糖、、代謝性アシドーシスの組合せで、一般に血糖11 mmol/L超、静脈血pH 7.30未満またはHCO3⁻ 18 mmol/L未満、血中3 mmol/L以上または中等度以上のを用いる。9

感染、インスリン中断、ポンプ障害、診断前の進行が誘因となる。脱水、嘔吐、腹痛、、、意識変容を認める。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diabetic ketoacidosis'>DKA</span>:ABCDEと専門チーム"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='isotonic crystalloid'>等張晶質液</span>で循環・欠乏を補正"]
    B --> C["約1時間後に持続静注インスリン"]
    C --> D["血糖・ケトン・pH・Na・Kを反復"]
    D --> E["血糖低下後も<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ketosis'>ケトーシス</span>消失までインスリン継続"]
    E --> F["ブドウ糖を輸液へ追加"]
    D --> G["頭痛・徐脈・意識低下"]
    G --> H["脳障害を疑い直ちに治療"]

治療原則

  • ショックがあればを迅速投与し再評価する。非ショック例は脱水とを計算し、急激な変化を避けつつ補正する。
  • 輸液開始後にを通常0.05~0.1単位/kg/時で持続静注する。初回大量静注は行わない。
  • 血糖が低下したらブドウ糖を加え、血糖を保ちながらとアシドーシスが改善するまでインスリンを継続する。
  • 血清Kは初期に正常・高値でも総体内量は不足している。尿量とK値を確認して輸液へ補充し、心電図も監視する。
  • Naは血糖による希釈を考慮して補正値と推移を見る。は通常行わない。
  • 状態を頻回評価する。脳障害が疑われれば画像を待たずまたはで治療する。

脳障害は単純に「輸液が速過ぎたため」と断定できず、重症度や灌流変化など複数因子が関与する。臨床プロトコルに沿った注意深い補液が必要である。

まとめ

  • の再出現と体重減少は小児糖尿病の重要な組合せである。
  • では輸液を開始してから低用量持続インスリンを行い、Kとを監視する。
  • 血糖が下がってもが消えるまでインスリンを止めない。

出典

  1. 1.Incidence of childhood type 1 diabetes worldwide. Diabetes Mondiale (DiaMond) Project Group(Diabetes Care・2000)1990〜1994年に50か国100地域・小児75.1百万人を対象に登録した19,164例のデータで、15歳未満の1型糖尿病年齢調整罹患率は中国・ベネズエラの0.1/10万人年からサルデーニャの36.8/10万人年、フィンランドの36.5/10万人年まで350倍以上の地域差があったこと、罹患率20/10万人年以上の「非常に高い」集団にはサルデーニャ・フィンランドのほかスウェーデン・ノルウェー・ポルトガル・英国・カナダ・ニュージーランドが含まれたことを確認した。閲覧 2026-08-27
  2. 2.Variation between countries in the frequency of diabetic ketoacidosis at first presentation of type 1 diabetes in children: a systematic review(Diabetologia・2012)31か国・29,000人超の小児を含む65研究の系統的レビューで、1型糖尿病診断時のDKA頻度は12.8%から80%まで国により大きく異なり、アラブ首長国連邦・サウジアラビア・ルーマニアで高く、スウェーデン・スロバキア・カナダで低かったこと、DKA頻度は国内総生産・緯度・1型糖尿病の背景罹患率と逆相関したこと、著者らはこの差が疾患啓発や医療アクセスの違いを反映しうると考察したことを確認した。閲覧 2026-08-27
  3. 3.An Anti-CD3 Antibody, Teplizumab, in Relatives at Risk for Type 1 Diabetes(The New England Journal of Medicine・2019)1型糖尿病患者の血縁者で発症前の高リスク者76例(72%が18歳以下)を対象にしたプラセボ対照第2相試験で、テプリズマブ単回14日投与群では臨床的1型糖尿病診断までの期間中央値が48.4か月、プラセボ群では24.4か月であったこと(ハザード比0.41、95%信頼区間0.22〜0.78、P=0.006)、年間発症率がテプリズマブ群14.9%・プラセボ群35.9%であったことを確認した。閲覧 2026-08-27
  4. 4.TZIELD (teplizumab-mzwv) injection — Prescribing Information(U.S. Food and Drug Administration / Sanofi・2026)DailyMedの処方情報(DailyMed表示の改訂 6/2026)で、抗CD3モノクローナル抗体テプリズマブがStage2(1歳以上の小児・成人)の1型糖尿病でStage3(顕性糖尿病)の発症を遅らせる適応を持つこと(2022年に8歳以上で初承認、2026年に1歳以上へ適応拡大)、あわせて診断されて間もない(診断から8週以内の)Stage3の8〜17歳の小児で内因性インスリン分泌の低下を遅らせる適応がCペプチド低下の抑制に基づく迅速承認として加わったこと(継続承認は検証試験での臨床的有益性の確認を条件としうる)、Stage2では14日間の連日点滴(1日目65 mcg/m²から漸増し5〜14日目は1,030 mcg/m²)で1コースが完結し、Stage3では12日間の連日点滴を6か月あけて2コース行うこと、サイトカイン放出症候群が約5〜9%に主に投与開始5日以内に発現し発熱・悪心・倦怠感・肝酵素上昇を呈するためNSAIDs・抗ヒスタミン薬・制吐薬による前投薬が必要なこと、リンパ球減少が51〜78%に発現し500/µL未満が1週間以上持続する重度の遷延性リンパ球減少が0.9〜1.4%に生じた場合は投与を中止すること、2026年6月の改訂で枠組み警告(ウイルス再活性化)が加わり、EBV・CMVの重篤で生命を脅かす再活性化が報告されていること(免疫不全の患者でリスクが高く、体表面積の大きい成人や副腎不全・心血管疾患などの併存症をもつ成人でも重篤例が報告され、重篤例の大半は重度のリンパ球減少が持続するのに投与を続けた患者で起きた)、免疫不全または活動性のウイルス感染(EBV・CMV感染など)のある患者が禁忌であること、投与前に活動性のEBV・CMV感染を検査し(PCRなど)、最終投与後も少なくとも2か月は再活性化の徴候を監視し、疑えば投与を中止すること、年齢相応のワクチン接種を投与前に済ませることを確認した。閲覧 2026-09-24
  5. 5.Youth-Onset Type 2 Diabetes Mellitus: Lessons Learned From the TODAY Study(Mayo Clinic Proceedings・2014)肥満のある10〜17歳の新規発症2型糖尿病児699例を対象にした米国多施設無作為化試験(TODAY試験)のレビューで、メトホルミン単剤療法では約半数が血糖コントロールを維持できなかったこと、血糖コントロール悪化はインスリン抵抗性の悪化やアドヒアランス・BMIの差ではなくβ細胞機能の急速な低下と関連したこと、3.9年後に高血圧33.8%・微量アルブミン尿16.6%・網膜症13.7%を認めたことから、若年発症2型糖尿病は成人発症より急速に進行しうると論じたことを確認した。閲覧 2026-08-27
  6. 6.A Randomized Trial of Closed-Loop Control in Children with Type 1 Diabetes(The New England Journal of Medicine・2020)6〜13歳の1型糖尿病児101例(closed-loop群78例・対照群23例)を16週間・3対1の割合で無作為割り付けした多施設共同試験で、目標範囲内時間(70〜180 mg/dL)はclosed-loop群で53±17%から67±10%へ、対照(センサー拡張ポンプ)群で51±16%から55±13%へ変化し、補正後の群間差は11パーセントポイント(1日あたり2.6時間相当、95%信頼区間7〜14、P<0.001)であったこと、両群でDKAや重症低血糖の発生はなかったことを確認した。閲覧 2026-08-27
  7. 7.Randomized Trial of Closed-Loop Control in Very Young Children with Type 1 Diabetes(The New England Journal of Medicine・2022)1〜7歳(平均5.6±1.6歳)の1型糖尿病児74例を対象にした多施設共同クロスオーバー試験(KidsAP)で、ベースラインHbA1cは7.3±0.7%であり、closed-loop期は対照期と比べ目標範囲内時間が8.7パーセントポイント高く(95%信頼区間7.4〜9.9、P<0.001)、HbA1cは0.4パーセントポイント低く(95%信頼区間-0.5〜-0.3)、低血糖状態の時間の増加は認めなかったことを確認した。乳幼児を含む年齢層でclosed-loopの有効性が示された。閲覧 2026-08-27
  8. 8.ISPAD Clinical Practice Consensus Guidelines 2018: Glycemic control targets and glucose monitoring for children, adolescents, and young adults with diabetes(Pediatric Diabetes・2018)包括的ケアを受けられる25歳以下の小児・思春期・若年成人に対しHbA1c 53 mmol/mol未満(7.0%未満)を推奨目標としたこと、低血糖を自覚しにくい・重症低血糖の既往がある・先進的インスリン療法やCGMへのアクセスが乏しいなどの状況ではより高い目標(多くは58 mmol/mol未満[7.5%未満])が妥当としたこと、達成可能なら6.5%(47.5 mmol/mol)というより低い目標も許容されるとしたことを確認した。閲覧 2026-08-27
  9. 9.ISPAD clinical practice consensus guidelines 2022: Diabetic ketoacidosis and hyperglycemic hyperosmolar state(2022)小児DKAの診断基準(血糖11 mmol/L超、静脈血pH 7.30未満またはHCO3⁻ 18 mmol/L未満、血中βヒドロキシ酪酸3 mmol/L以上または中等度以上の尿ケトン)に関するISPAD 2022年版の国際推奨を確認した。閲覧 2026-08-27