産科学

産科学 · 08

妊娠と糖尿病・妊娠糖尿病

Pregnancy and diabetes mellitus. Gestational diabetes

前提:病態
1型糖尿病の発症機序2型糖尿病の発症機序
前提:正常
インスリン分泌とその調節
疾患
肩甲難産妊娠糖尿病

🧠 全体像:妊娠後半は胎盤ホルモンによりインスリン抵抗性が増す。GDMでは母体高血糖が胎児高血糖・を起こし、と出生後低血糖につながるため、24〜28週に検出し、食事・運動、必要ならインスリンで管理し、産後も糖尿病リスクを追跡する。

定義と分類

  • は、妊娠中に初めて診断された、明らかなに該当しない高血糖である。
  • 妊娠初期に非妊娠時の糖尿病を満たす場合は、GDMではなくとして扱う。
  • 1型・2型糖尿病が妊娠前から存在する場合をという。
実用分類 管理
A1 GDM 栄養療法・運動のみで目標達成
A2 GDM インスリンなど薬物療法が必要

のB〜Hは発症年齢・・でを分類する歴史的体系である。現在は糖尿病型、、腎・眼・を直接評価する。

病態生理

flowchart TD
    A["hPL・胎盤性GH・プロゲステロン・コルチゾール増加"] --> B["母体インスリン抵抗性増加"]
    B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pancreatic beta cell'>膵β細胞</span>が代償できる?"}
    C -->|"はい"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='normal glucose tolerance'>正常耐糖能</span>"]
    C -->|"いいえ"| E["母体高血糖・GDM"]
    E --> F["ブドウ糖が胎盤を通過"]
    F --> G["胎児高血糖・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperinsulinemia'>高インスリン血症</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='macrosomia'>巨大児</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='shoulder dystocia'>肩甲難産</span>"]
    G --> I["出生後もインスリン高値"]
    I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neonatal hypoglycemia'>新生児低血糖</span>"]

インスリン自体は胎盤をほぼ通過しない。の高血糖は、とリスクを上げる。

スクリーニング

  • 妊娠前に未検査なら、初回または15週未満にリスク因子をもつ人を中心に未診断糖尿病を評価する。
  • 初期検査が陰性でも、24〜28週にGDMスクリーニングを行う。
  • GDM既往、肥満、PMOS、既往、糖尿病家族歴などは高リスクである。

1段階法:75 g OGTT

空腹時に75 gを行い、次の1項目以上でGDMと診断する方式がある1。

時点 閾値
空腹時 5.1 mmol/L(92 mg/dL)以上
1時間 10.0 mmol/L(180 mg/dL)以上
2時間 8.5 mmol/L(153 mg/dL)以上

2段階法:50 g GCT→100 g OGTT

  1. 非空腹時50 gブドウ糖負荷1時間値でスクリーニングする。
  2. 陽性なら空腹時100 g、3時間を行う。

では通常、次の2項目以上でGDMとする。

時点 閾値
空腹時 5.3 mmol/L(95 mg/dL)以上
1時間 10.0 mmol/L(180 mg/dL)以上
2時間 8.6 mmol/L(155 mg/dL)以上
3時間 7.8 mmol/L(140 mg/dL)以上

1段階法と2段階法は併存しており、地域・施設の統一プロトコルを用いる。

💡 どちらの閾値も「ここから急に危険になる」境界ではない。 HAPO研究は、糖尿病の診断域に満たない母体血糖値でも・帝王切開・胎児との関連が連続的であり、明確な閾値がないことを示した2。1段階法はこのから単一のを設定したものであり、2段階法()より診断されるGDM症例数を増やす一方、どちらがを改善するかは決着していない。

血糖目標

時点 目標
空腹時 70〜95 mg/dL(3.9〜5.3 mmol/L)
食後1時間 110〜140 mg/dL(6.1〜7.8 mmol/L)
食後2時間 100〜120 mg/dL(5.6〜6.7 mmol/L)

低血糖を起こさず達成できる範囲で個別化する。妊娠前のは可能なら6.5%未満、妊娠中は低血糖なしに6%未満を目指し、必要なら7%未満へ緩和する。HbA1c <8%は通常の最適目標ではない。

管理

生活療法

  • と、十分なエネルギー・蛋白・を保ちつつ高血糖を抑える食事を計画する。
  • 炭水化物を極端に制限せず、、豆類、野菜、果物、良質な蛋白・脂質を組み合わせる。
  • 禁忌がなければ、中等度運動を週150分程度、食後の歩行など実行可能な形で行う。
  • 空腹時・を自己測定し、目標を確認する。

薬物療法

  • 生活療法で目標に達しなければインスリンを追加する。インスリンは1型糖尿病に必須で、GDM・2型糖尿病でも第一選択である。
  • 基礎・、ポンプ、を病型と低血糖リスクに合わせる。
  • とは胎盤を通過する。長期児転帰やを含めて説明し、を安易な第一選択としない。とインスリンを比較したMiG試験では新生児合併症の複合に有意差はなかった(32.0% 対 32.2%)が、群の半数近くがを要した3。
  • 1型糖尿病では重症低血糖対策としてグルカゴンを準備し、は比較的低い血糖でも起こりうることを教える。

母体・胎児モニタリング

母体では、低血糖、、腎症・悪化を監視する。胎児・新生児では、流産、、、早産、、低血糖、、、を病型とに応じて評価する。

妊娠前糖尿病

  • 妊娠前から葉酸、薬剤、腎機能、尿蛋白、眼底、甲状腺、心血管リスクを評価する。
  • 第1三半期、詳細形態超音波、適応に応じを行う。
  • は急速な血糖改善で一時悪化しうるため、眼科フォローを行う。

GDM

  • のみで良好に管理され合併症がない場合と、薬物療法・管理不良・胎児発育異常がある場合で、開始時期を分ける。
  • 超音波で胎児発育とを評価するが、には誤差がある。

分娩・新生児

  • 分娩時期は病型、、薬物療法、胎児発育、で決める。
  • 4,500 g以上では、リスクを踏まえてを相談するが、推定誤差と本人の希望を共有する。
  • は血糖を測定し、必要に応じブドウ糖・インスリンを調整する。
  • 新生児は低血糖、、、、低Ca血症を監視し、早期授乳と施設プロトコルで治療する。IVグルカゴンを全例に投与するわけではない。

産後

  • でインスリン抵抗性が急減するため、インスリン量を直ちに再評価する。GDMでは通常薬物療法が不要になる。
  • GDM既往者は産後4〜12週に75 g を行う。
  • その後も1〜3年ごとに2型糖尿病・を生涯スクリーニングする。
  • は母児双方に利益があり、母体低血糖を防ぐため食事・インスリンを調整する。
  • 次回妊娠前の血糖評価、体重管理、避妊計画を相談する。

まとめ

  • GDMは明らかなを除外し、24〜28週の1段階法または2段階法で診断する。
  • 管理は栄養・運動から始め、必要なら胎盤を通過しないインスリンを追加する。
  • 高血糖は胎児を介してと出生後低血糖を起こす。
  • では高血糖による流産・と、母体腎・に注意する。
  • GDMは分娩後に消えても将来の2型糖尿病リスクを示すため、4〜12週とが必要である。

出典

  1. 1.International Association of Diabetes and Pregnancy Study Groups Recommendations on the Diagnosis and Classification of Hyperglycemia in Pregnancy(Diabetes Care・2010)75g OGTTの1段階法による妊娠糖尿病の診断閾値が空腹時5.1 mmol/L(92 mg/dL)、1時間値10.0 mmol/L(180 mg/dL)、2時間値8.5 mmol/L(153 mg/dL)で、いずれか1つ以上を満たせば妊娠糖尿病とすることを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Hyperglycemia and adverse pregnancy outcomes(The New England Journal of Medicine・2008)HAPO研究(9か国15施設、25,505例の妊婦に75g OGTTを施行)は、糖尿病の診断域に満たない母体血糖値でも出生体重90パーセンタイル超・帝王切開・臍帯血C-ペプチド高値との連続的な関連があり、リスクが明確に上昇する単一の閾値は認めなかったことを確認した。この連続性がIADPSGの1段階法の診断閾値設定の根拠になっている。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Metformin versus insulin for the treatment of gestational diabetes(The New England Journal of Medicine・2008)MiG試験(ニュージーランド・オーストラリア、GDM女性751例)で、メトホルミン群(46.3%が追加インスリンを要した)とインスリン群で新生児合併症の複合アウトカムに有意差はなく(32.0% 対 32.2%、相対危険度0.99)、母親の76.6%がメトホルミンでの治療継続を望んだことを確認した。閲覧 2026-08-26