内科学

内科学 · L-20

糖尿病の分類と診断

Classification and diagnosis of diabetes mellitus

前提:病態
1型糖尿病の発症機序2型糖尿病の発症機序
前提:正常
インスリン分泌とその調節
疾患
1型糖尿病2型糖尿病緩徐進行1型糖尿病前糖尿病単一遺伝子糖尿病(MODY・新生児糖尿病)糖尿病
検査値
GAD65抗体HbA1cIA-2抗体ZnT8抗体インスリン自己抗体高血糖

🧠 全体像:糖尿病の診断は、「高血糖を標準化検査で確認する」「明白な高血糖でなければ2つ目の異常結果で確証する」「自己抗体、Cペプチド、臨床像から病型を分類する」の3段階で行う。年齢・体格だけで1型と2型を決めず、妊娠、単一遺伝子、膵疾患、薬剤性を見逃さない。

分類

病型 主な手掛かり
1型糖尿病(type 1 diabetes:T1D) 自己免疫性β細胞破壊によるが中心 急速な口渇・多尿・体重減少、、、低Cペプチド
2型糖尿病(type 2 diabetes:T2D) インスリン抵抗性を背景とする進行性β細胞分泌不全 緩徐発症、家族歴、、、
その他の特定病型 単一遺伝子、外分泌膵疾患、内分泌疾患、薬剤・ 非典型年齢・家族歴、膵疾患、原因薬・基礎疾患
妊娠第2・3三半期に診断され、妊娠前に明らかな糖尿病でなかった異常 多くは無症候。、などのリスク

は緩徐進行するT1Dの表現型であり、独立した「1.5型」として年齢だけで診断しない。

💡 ()と(SPIDDM)は、同じ現象を違う定義で切っている。 日本糖尿病学会のSPIDDM基準(2023年)は、①陽性、②診断時に/を伴わずインスリン治療を直ちに要さない、③診断後3か月以上を経て緩徐に(空腹時Cペプチド <0.6 ng/mL)へ進行する、の3項目で定義する。欧米のが「インスリン導入まで6か月超」を条件とするのに対し、SPIDDMは「3か月超」を採るため、同じ患者でも枠組みによって呼び名が変わる1。

⚠️ この病型ではを避ける。 SPIDDMではの使用がへの進行を早めうると報告されており、早期からインスリン治療を行った群のほうが進行が少なかった1。「発症年齢が高い=2型としてから」という反射が害になる代表例である。

非妊娠者の診断基準

検査 糖尿病域
HbA1c ≥6.5%(≥48 mmol/mol)2 5.7–6.4%
≥7.0 mmol/L(≥126 mg/dL) 5.6–6.9 mmol/L(100–125 mg/dL)
75 g 2時間値 ≥11.1 mmol/L(≥200 mg/dL) 7.8–11.0 mmol/L(140–199 mg/dL)
典型的高血糖症状またはを伴い ≥11.1 mmol/L の確定閾値には用いない

のは下限 6.1 mmol/L(110 mg/dL)を用いるため、ADA基準(5.6 mmol/L=100 mg/dL)と混在させない。は「」という語を使わず「」としてIFGとIGTをまとめ、には正式な診断を置いていない3。の空腹時値と2時間値を別々に解釈する。

確認の原則

flowchart TD
    A["症状・リスクまたはスクリーニング異常"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glycated haemoglobin A1c'>HbA1c</span>・FPG・75 g <span class='jp-term jp-term-diagram' title='oral glucose tolerance test'>OGTT</span>"]
    B --> C{"典型症状/クリーゼ+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='random plasma glucose'>随時血糖</span>≥11.1?"}
    C -->|"はい"| D["糖尿病と診断・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='timing'>緊急度</span>評価"]
    C -->|"いいえ"| E["同日別検査または別日に再検"]
    E --> F{"2つの異常結果?"}
    F -->|"はい"| G["糖尿病と診断"]
    F -->|"不一致"| H["閾値を超えた検査を速やかに再検"]
    G --> I["病型分類"]

無症候で明白な高血糖がなければが必要である。同一検体の異なる2検査でも、別日の同一検査でもよい2。毛細血管自己測定やは緊急判断・管理に有用だが、・糖尿病の確定診断には用いない。

HbA1cの限界

HbA1cは過去約2〜3か月の血糖を反映し、診断にはNGSP/DCCT標準化法を用いる。妊娠、・輸血、溶血、、透析、、欠損、一部では実血糖と乖離するためを優先する。が短ければは実際の平均血糖より低く出る(赤血球がを受ける時間が短いため)4。と反復血糖が著しく不一致ならや病態を再評価する。

⚠️ 単独のスクリーニングは、過剰診断と過少診断の両方を起こす。 はの検出感度が低く、 6.5〜6.6%でもが正常だった例と、が長年正常でで初めて糖尿病と判明した例の両方が報告されている5。血糖値やとが乖離する高リスク者ではを行う。 乖離の程度にはがあり、「ギャップ」「ヘモグロビン指数」として記述される5。

病型診断

1型糖尿病

  • GAD抗体を第一に、、ZnT8抗体、などを組み合わせる。
  • は初発となり得るが全例ではない。肥満・成人発症でもT1Dを除外しない。
  • Cペプチド低値は内因性を支持するが、発症早期、同時血糖、腎機能を踏まえて解釈する。
  • 、セリアック病、副腎不全などの合併を評価する。

💡 1型糖尿病は「発症した瞬間から始まる病気」ではなく、3段階の病期をもつ疾患として定義し直された。 Stage 1は複数のが陽性で血糖は正常・無症候、Stage 2は自己抗体陽性かつだがまだ無症候、Stage 3が症候性のである2。Stage 2からStage 3への進行リスクは2年で約60%、5年で約75%と高く、自己抗体陽性者を「まだ糖尿病ではない」ではなく「病期1〜2の1型糖尿病」として扱う2。この枠組みがあるので、血糖が正常でも自己抗体スクリーニングと経過観察に意味がある。

2型糖尿病

、、不足、睡眠・薬剤などによりインスリン抵抗性が増し、代償性分泌を維持できなくなると高血糖になる。多くは無症候だが、口渇、多尿、、感染、創傷治癒遅延、体重減少を来し、だけでなくを起こすこともある。

Cペプチド

Cペプチドはの指標で、血糖、食事、腎機能、間と併せて読む。T2D初期では正常〜高値、では低下し得る。注射インスリンにはCペプチドが含まれない。

その他の特定病型

  • :の若年糖尿病、自己抗体陰性、保たれたCペプチド、非典型な体格・腎外所見で疑う。GCK、HNF1A、HNF4A、HNF1Bなどは治療・家族検査を変える。は25歳未満発症・・3世代以上の家族歴で疑い、最多はHNF1A-(MODY3、全体の30〜60%)でに非常によく反応する。GCK-(MODY2)は99〜144 mg/dL程度にとどまりが低く管理のみで足りる(薬物治療を要しない)。HNF1B-(MODY5)は・を伴い、とは独立に腎機能が低下する6。
  • 外分泌膵疾患:、膵切除、、嚢胞性線維症、。と低血糖リスクも扱う。
  • 内分泌疾患:、、甲状腺機能亢進症、、。
  • 薬剤:グルココルチコイド、、、移植関連薬など。ステロイドでは午後〜が目立つ。

妊娠糖尿病

妊娠初期にリスクに応じ既存のを評価し、陰性なら通常24〜28週に検査する。75 g の1段階法では空腹時5.1 mmol/L(92 mg/dL)、1時間10.0 mmol/L(180 mg/dL)、2時間8.5 mmol/L(153 mg/dL)のいずれか1つ以上でGDMとする7。妊娠中のは ≥7.0 mmol/L、HbA1c ≥6.5%、 ≥11.1 mmol/L(要)で定義され、GDMとは区別する。妊娠初期のが ≥5.1 mmol/L であればその時点でGDMに分類してよい7。地域により50 g負荷後100 g の2段階法を用いるため、基準を混在させない。

食事・・自己測定で不十分ならインスリンを標準として検討する。分娩4〜12週後に75 g を行い、その後も1〜3年ごとにスクリーニングする。

まとめ

  • 糖尿病域は ≥6.5%、FPG ≥7.0 mmol/L、75 g 2時間値 ≥11.1 mmol/Lである。
  • 明白な高血糖でなければ2つ目の異常結果で確証し、が不正確な状況を見抜く。
  • 病型は年齢・体格だけで決めず、自己抗体、したCペプチド、家族歴、膵疾患・薬剤を統合する。1型糖尿病はStage 1〜3の病期をもち、/SPIDDMではを避ける。

関連ノート

出典

  1. 1.New diagnostic criteria (2023) for slowly progressive type 1 diabetes (SPIDDM): Report from Committee on Type 1 Diabetes of the Japan Diabetes Society(Journal of Diabetes Investigation(Shimada A, et al., Japan Diabetes Society)・2023)緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)の診断が膵島関連自己抗体陽性・診断時にケトーシスを伴わずインスリンを直ちに要さない・診断後3か月以上を経て緩徐にインスリン依存(空腹時Cペプチド0.6 ng/mL未満)へ進行することの3項目で、30歳以上発症のSPIDDMの表現型が欧米のLADAと類似するが疾患概念は異なること、LADAがインスリン導入までの期間を6か月超と定義するのに対しSPIDDMは3か月超とすること、SPIDDMではスルホニル尿素薬がインスリン依存状態への進行を早めうるため避けるべきことを確認した。閲覧 2026-08-19
  2. 2.2. Diagnosis and Classification of Diabetes: Standards of Care in Diabetes—2026(American Diabetes Association・2026)糖尿病の診断基準(空腹時血漿ブドウ糖7.0 mmol/L・126 mg/dL以上、75g OGTT2時間値11.1 mmol/L・200 mg/dL以上、HbA1c 6.5%以上、高血糖症状またはクリーゼを伴う随時血糖11.1 mmol/L以上)、症状・クリーゼを欠く場合は同一検体の別項目または別日の再検査で2項目の異常が必要なこと、前糖尿病がHbA1c 5.7〜6.4%・空腹時血糖5.6〜6.9 mmol/L(100〜125 mg/dL)・OGTT2時間値7.8〜11.0 mmol/L(140〜199 mg/dL)で定義されること、1型糖尿病をStage 1(複数の膵島自己抗体陽性+正常血糖・無症候)、Stage 2(自己抗体陽性+耐糖能異常・無症候)、Stage 3(症候性の顕性糖尿病)に分ける病期分類を採っており、Stage 2からStage 3への進行リスクが2年で約60%・5年で約75%であることを確認した。閲覧 2026-08-25
  3. 3.Definition and Diagnosis of Diabetes Mellitus and Intermediate Hyperglycaemia: Report of a WHO/IDF Consultation(World Health Organization / International Diabetes Federation・2006)WHO基準では空腹時血糖異常(IFG)の下限を6.1 mmol/L(110 mg/dL)とし、ADA基準の5.6 mmol/L(100 mg/dL)より高いカットオフを用いること、WHOは「前糖尿病」ではなく「中間型高血糖」という語を用いIFGとIGTを含むと整理していること、HbA1cについて正式な診断カットオフを設けていないことを確認した。閲覧 2026-08-19
  4. 4.The influence of shorter red blood cell lifespan on the rate of HbA1c target achieved in type 2 diabetes patients with a HbA1c detection value lower than 7%(Journal of Diabetes・2023)赤血球寿命の短縮はHbA1cを実際の平均血糖より低く見せ、血糖コントロールの判定を歪めうることを確認した。閲覧 2026-08-20
  5. 5.Pitfalls of HbA1c in the Diagnosis of Diabetes(The Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism・2020)HbA1c単独のスクリーニングは耐糖能異常の検出感度が低く、OGTTを行わずにHbA1cだけで判断すると2型糖尿病を過剰診断も過少診断もしうること(HbA1c 6.5〜6.6%でもOGTTが正常だった症例と、HbA1cが長年正常でOGTTで糖尿病と判明した症例を提示)、血糖・フルクトサミンとHbA1cが乖離する高リスク者ではOGTTを行うべきであること、この乖離が「グリケーションギャップ」「ヘモグロビングリケーション指数」として個人差を表すことを確認した。閲覧 2026-08-25
  6. 6.Maturity Onset Diabetes in the Young(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)MODYを疑う臨床像が25歳未満での発症・通常は正常体重・少なくとも3世代にわたる糖尿病の家族歴であること、GCK-MODY(MODY2)は空腹時血糖99〜144 mg/dLにとどまり合併症リスクが低く生活習慣管理のみで足りること、HNF1A-MODY(MODY3)がMODYの30〜60%を占め最多でスルホニル尿素薬に非常に反応しやすいこと、HNF1B-MODY(MODY5)は腎嚢胞・尿路奇形を伴い腎機能が進行性に低下することを確認した。閲覧 2026-08-11
  7. 7.International Association of Diabetes and Pregnancy Study Groups Recommendations on the Diagnosis and Classification of Hyperglycemia in Pregnancy(Diabetes Care・2010)75g OGTTの1段階法による妊娠糖尿病の診断閾値が空腹時5.1 mmol/L(92 mg/dL)、1時間値10.0 mmol/L(180 mg/dL)、2時間値8.5 mmol/L(153 mg/dL)で、いずれか1つ以上を満たせば妊娠糖尿病とすること、妊娠中の顕性糖尿病は空腹時血糖7.0 mmol/L以上・HbA1c 6.5%以上・随時血糖11.1 mmol/L以上(要確認検査)で定義されること、24〜28週より前のOGTTをルーチンには推奨しないが妊娠初期の空腹時血糖5.1 mmol/L以上も妊娠糖尿病に分類することを全文で確認した。閲覧 2026-08-25