疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 眼科 · 疾患

網膜静脈閉塞症

Retinal vein occlusion

別名
RVO
臓器系
眼科循環器
科目
AnatomyPathophysiology
トピック
解剖学 7.4:頭部:眼窩と眼病態生理学 1-1:高血圧の定義・分類、二次性高血圧、合併症
鑑別疾患
糖尿病網膜症
合併症
緑内障黄斑浮腫硝子体出血
治療薬
ベバシズマブ
症状
飛蚊症霧視視力低下

🧠 全体像は「静脈がなぜ詰まるか」を動脈側から考えると理解できる。網膜の動脈と静脈は動静脈交叉部で共通の外膜鞘を共有しているため、高血圧・動脈硬化で硬く肥厚した動脈が、すぐ隣の静脈を機械的に圧迫して血栓を作る。これが最大の危険因子が高血圧・動脈硬化である理由であり、抗凝固薬が効かない(血管の問題であって凝固の問題ではない)理由でもある。もう一つの核心は虚血型と非虚血型の区別——無灌流領域が広い虚血型だけが、数か月以内に(90日緑内障)という視機能を破壊しうる合併症に至る。

病態:動静脈交叉部での圧迫

flowchart TD
    A["高血圧・動脈硬化により<br>網膜動脈壁が肥厚・硬化"] --> B["動静脈交叉部で動脈と静脈が<br>共通の外膜鞘を共有"]
    B --> C["硬化した動脈が静脈を機械的に圧迫"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intravenous'>静脈内</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='turbulent flow'>乱流</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endothelial injury'>内皮障害</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombus formation'>血栓形成</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venous occlusion'>静脈閉塞</span>"]
    E --> F["閉塞より末梢でうっ血・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capillary pressure'>毛細血管圧</span>上昇"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retinal hemorrhage'>網膜出血</span>・虚血"]
    G --> H{"無灌流領域は広いか"}
    H -->|"広い=虚血型"| I["VEGF過剰産生<br>→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='neovascular glaucoma'>血管新生緑内障</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous hemorrhage'>硝子体出血</span>のリスク"]
    H -->|"狭い=非虚血型"| J["視力予後は比較的良好"]
    G --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='macular edema'>黄斑浮腫</span><br>(病型を問わず<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>の主因)"]

は視神経の部で、は動静脈交叉部にある分枝静脈で、それぞれ同じ機序により生じる12。BRVOではほぼ全例で硬化した肥厚壁の動脈が薄壁の静脈の前方に位置し、この機械的圧迫が・内膜障害・を招く2

危険因子は高血圧が最重要で、次いで加齢・歴・脳卒中歴が続く(メタ:高血圧2.82、年齢1.60/10年、心筋梗塞歴2.23、脳卒中歴2.07)3。CRVOでは55歳以上が症例の90%超を占め、50歳以上の73%に高血圧を認める1・糖尿病・経口避妊薬使用も危険因子である1。若年例で明らかな血管危険因子を欠く場合は、症、など)の精査を検討する。

⚠️ 抗凝固薬は適応ではない。 療法の有効性を支持する質の高い根拠は無く3、機序が「静脈の圧迫による血栓」であって全身性の凝固異常ではない以上、抗凝固薬で予防・治療できる病態ではないことと整合する。むしろ全身の危険因子(高血圧・)の評価と是正が管理の軸になる。

CRVOとBRVOの対比

同じ動静脈交叉部の圧迫機序から生じる2つの病型だが、閉塞部位の違いが眼底所見・視力予後を大きく分ける。

項目
閉塞部位 視神経部(網膜本幹) 動静脈交叉部の分枝静脈
眼底所見 4に広がる・静脈怒張——「血液と雷雲」と形容される所見 1に限局する楔形状・点状出血、2
虚血型の定義 で非灌流領域10乳頭径以上3 非灌流領域5乳頭径超2
視力予後 非虚血型は良好、虚血型は不良(虚血型は視力20/200未満が多い) 無治療でも50〜60%が最終視力20/40以上を達成しうる2

CRVOでは非虚血型と虚血型の区別が予後のすべてを左右する。 非虚血型は視力20/200以上・相対性(RAPD)軽度で予後良好、虚血型は視力20/200未満・RAPD明らかで予後不良である1

⚠️ 血管新生緑内障(90日緑内障)

虚血型CRVOの最大のは、そのものより続発する血管新生にある。広範な無灌流領域からVEGFが過剰産生され、・隅角に)が生じると、路が線維で塞がれてする。この通常閉塞後2〜4か月(「90日緑内障」)で発症し、虚血型CRVOの眼の約50%に生じる1。同じの機序から出血を来すこともある。

⚠️ 虚血型と診断した時点で、視力予後の説明だけでなく、血管新生の定期チェック(隅角検査を含む)を数か月にわたって続けることが臨床上の要点になる。・隅角にが出現すればの適応である3

臨床像

糖尿病網膜症との鑑別

を来しが有効という点でRVOと重なり、実務上の鑑別対象になる。分布と対称性で区別する——RVOは片眼性で、出血は閉塞した静脈のに沿って(CRVOなら4、BRVOなら1の楔形)に分布するが主体であるのに対し、は糖尿病のを反映して両眼性・対称性に進行し、点状・が両眼のに散在する。片眼のみに急性発症した出血であればRVOを、両眼性で緩徐進行する出血であればを優先して考える。

診断

に加え、蛍光眼底造影()で無灌流領域の広さを評価し、虚血型・非虚血型を判定する。の評価・経過観察に用いる。全身評価として血圧測定、血液検査(血算、脂質、血糖)を行い、若年例ではのスクリーニングを追加する。

治療

病態 治療
抗VEGF注射(等)が第一選択13。不応・残存例には製剤を検討1
虚血型(無灌流広範) 。特に・隅角にが出現すれば施行する3
全身管理 高血圧・・糖尿病の是正、のフォロー

⚠️ 前述のとおり抗凝固薬・をルーチンに追加する根拠は無く3、治療の軸はあくまでと全身の血管危険因子の管理である。

まとめ

  • は、動静脈交叉部で硬化した動脈が静脈を圧迫し血栓を作る病態で、高血圧・動脈硬化が最大の危険因子である。
  • CRVO(4)とBRVO(1の楔形出血)は同じ機序による2病型で、視力予後・虚血型の定義基準(無灌流10乳頭径 vs 5乳頭径)が異なる。
  • 虚血型(無灌流領域が広い)は非虚血型より予後不良で、閉塞後2〜4か月で(90日緑内障)を高率(約50%)に来す。
  • 抗凝固薬は適応でなく、治療はへの抗VEGF注射を軸に、虚血型・出現例へはを追加し、全身の危険因子を是正する。

出典

  1. 1.Central Retinal Vein Occlusion(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)網膜中心静脈閉塞症が視神経の篩状板部での閉塞であること、動脈と静脈が篩状板より後方の動静脈交叉部で共通の外膜鞘を共有するため動脈硬化性変化が静脈を圧迫しCRVOを起こしうること、主要危険因子として55歳以上(90%超)・高血圧(50歳以上の73%)・高コレステロール血症・糖尿病・経口避妊薬使用があること、非虚血型は視力20/200以上・RAPD軽度で予後良好、虚血型は視力20/200未満・RAPD明らかで予後不良であること、血管新生緑内障(90日緑内障)が通常2〜4か月で虚血型の約50%の眼に生じること、黄斑浮腫の第一選択が抗VEGF療法で二次治療に硝子体内トリアムシノロン・デキサメタゾン製剤があることを確認した閲覧 2026-08-11
  2. 2.Branch Retinal Vein Occlusion(American Academy of Ophthalmology (EyeWiki)・2026)BRVOが網膜中心静脈の分枝における静脈閉塞であること、動静脈交叉部でほぼ全例が硬化した肥厚壁の動脈が薄壁の静脈の前方に位置し機械的圧迫が乱流・内膜障害・血栓形成を招くこと、眼底所見が火炎状出血・点状出血・綿花様白斑・硬性白斑で古典的に楔形分布を呈すること、無治療でも50〜60%が最終視力20/40以上を達成しうること、虚血型BRVOが非灌流領域5乳頭径超と定義されること、治療が抗VEGF薬・grid laser・ステロイドであることを確認した閲覧 2026-08-11
  3. 3.Systematic review of clinical practice guidelines for the diagnosis and management of retinal vein occlusion((Eye / Springer Nature)・2024)網膜静脈閉塞症の危険因子で高血圧が最も重要(メタオッズ比2.82)で、年齢(10年ごとに1.60)・心筋梗塞歴(2.23)・脳卒中歴(2.07)が続くこと、虚血型CRVOが後極部で非灌流領域10乳頭径以上と定義されること、抗凝固療法・抗血小板療法を支持する質の高い根拠はないこと、黄斑浮腫の第一選択が抗VEGF療法であること、虹彩・隅角新生血管出現時に汎網膜光凝固が推奨されることを確認した閲覧 2026-08-11