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Disease Atlas · 眼科 · 疾患

網膜中心動脈閉塞症

Central retinal artery occlusion

別名
網膜動脈閉塞CRAO
臓器系
眼科神経循環器
科目
Macroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)Neurology
トピック
解剖学 7.4:頭部:眼窩と眼神経内科 G2-01:視力低下の神経学的原因と視野欠損
鑑別疾患
後部虚血性視神経症硝子体出血前部虚血性視神経症網膜静脈閉塞症網膜剥離緑内障
関連疾患
脳梗塞
治療薬
メチルプレドニゾロン
症状
視力低下一過性黒内障相対的瞳孔求心路障害
検査値
赤沈C反応性蛋白(CRP)血算
画像所見
拡散強調画像高信号
元疾患
巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)

🧠 全体像:は「眼の」である。AHAはこれを急性期の一型と位置づけ、以後の脳血管・心血管イベントの前触れとして扱うことを求めている1。したがって診療の重心は眼球そのものへの処置ではない——発症時刻を確認して脳卒中と同じ緊急経路に乗せ、①を即座に除外し、②(頸動脈・心臓)を急いで探すことにある。長く行われてきたやは視力転帰を変えないことが示されており、それらに時間を使って全身の評価を遅らせることが最大の失敗になる。

解剖と病態

はの枝で、を持たないとして(からまで)を灌流する。はが担うため、が閉塞してもは生き残る。

flowchart TD
    A["塞栓・血栓による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='central retinal artery'>網膜中心動脈</span>の閉塞<br>(多くは頸動脈由来の塞栓)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='collateral pathway'>側副路</span>が無く、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inner retinal layers'>網膜内層</span>が急速に虚血に陥る"]
    B --> C["虚血で浮腫を来した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inner retinal layers'>網膜内層</span>が白色に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='opacity (turbidity)'>混濁</span>する"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='avascular'>無血管</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='choroid'>脈絡膜</span>から栄養される<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fovea'>中心窩</span>だけが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='opacity (turbidity)'>混濁</span>せず<br>下層の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='choroid'>脈絡膜</span>の赤色が透見される"]
    D --> E["白色化した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='posterior pole'>後極</span>の中心に赤い一点=桜実紅斑"]
    B --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ganglion cell'>神経節細胞</span>の不可逆的な脱落"]
    F --> G["高度の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>が残る"]

💡 桜実紅斑は「赤い病変」ではなく、周囲が白くなったことでの正常な赤が浮き上がった所見である。だからこそ網膜が引くとともに数週で消えていく。同じ所見はなどでも生じるが、そちらは両眼性・非急性で文脈がまったく異なる。

⭐ は5〜30%の眼に存在する由来の枝で、これが黄斑を灌流していればが温存される2。「なのに視力が保たれている」という一見矛盾する所見の説明になる。

病型

病型の内訳は次のとおりである3。

病型 割合 要点
・永続型 66%超 最も多い。塞栓性が中心
・一過性型 約16% として現れる。5年以内に22.2%が同側の脳卒中を起こす
・温存型 約14.3% が保たれる
4.5% 大半が。がまったく違う

発症率は米国1.9/10万人年、日本5.84/10万人年で、80歳を超える年齢層に最も多い2。

臨床像

⚠️ 痛みを伴うはこの病気ではない。 眼痛・充血・があれば急性閉塞隅角緑内障を、があればを考える。

診断で外してはならない2つの分岐

1. 巨細胞性動脈炎の除外(その場で)

50歳以上で頭痛・・頭皮の圧痛・全身炎症症状を伴うなら、その場で・CRP・血小板を提出する。は急性の緊急事態であり、迅速な対応を要する3。確定には(内膜の・の・)を行うが、生検で巨細胞を認めなくてもは否定できない3。疑った時点で結果を待たず(の大量静注)を開始する(用量と根拠は)。

2. 脳卒中としての評価(数時間以内)

AHAはを急性期の一型とし、以後の脳血管・心血管イベントの前触れとして、早期認識と救急医療への振り分けを優先するよう求めている1。実際の数字がこの姿勢を裏づける。

何が見つかるか 頻度
頭部MRIで急性脳虚血の変化(など) の30%23
を同定できる(多くは頸動脈由来、弁膜由来は少ない) 約55%2
新規のが1つ以上見つかる 78%2
その後の脳卒中発症(半数弱が発症4週以内) 13%2

⚠️ は発症直後に集中する。 発症1か月以内の相対発生比は14.0、最初の1週では44.51に達する3。「視力は戻らないから」と外来精査に回すのではなく、この一週間のうちに頸動脈画像・心エコー・心電図(心房細動の検出)まで済ませることが目的になる。

治療

flowchart TD
    A["突然の無痛性・片眼性の高度な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>"] --> B["眼底で網膜の白色<span class='jp-term jp-term-diagram' title='opacity (turbidity)'>混濁</span>と桜実紅斑を確認"]
    B --> C["発症時刻を確定し、脳卒中と同じ緊急経路へ"]
    C --> D{"50歳以上、または全身炎症症状・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='jaw claudication'>顎跛行</span>があるか"}
    D -->|"あり"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythrocyte sedimentation rate, ESR'>赤沈</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='C-reactive protein'>CRP</span>・血小板を即座に提出<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='giant cell arteritis, GCA'>巨細胞性動脈炎</span>を疑えば結果を待たず高用量ステロイド"]
    D -->|"なし"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-arteritic'>非動脈炎性</span>として扱う"]
    E --> G["並行して脳卒中としての精査<br>頭部MRI・頸動脈画像・心エコー・心電図"]
    F --> G
    G --> H["血管危険因子の是正と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antithrombotic therapy'>抗血栓療法</span>による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary prevention'>二次予防</span>"]

従来の眼科的処置

⚠️ ・・は臨床転帰を変えない。 これらを76%に施行する施設と26%にとどまる施設とで視力転帰に有意差はなかった(p=0.114)2。もで最終視力を改善せず、中耳の・の危険を伴う2。保存的治療がより良い予後をもたらすことを示したは存在しない3。

血栓溶解療法

現時点で最も期待されているのがである。AHAの科学的声明は、既存の文献からによる治療が有効でありうると示唆されるとしつつ、質の高いが必要だとしている1。実施時間枠は脳卒中プロトコルに準じた発症4.5時間以内が用いられ、最初のでは6時間以内に治療された例のみが視力3段階以上の改善を示したが、6か月後には維持されなかった2。

💡 網膜の虚血耐用時間はで、97分以内に閉塞が解除されれば虚血が完全に可逆でありうる一方、240分が広範な不可逆的虚血の境界とされる2。報告により幅があるが、「数時間以内でなければ意味がない」という時間感覚が血栓溶解の時間枠の根拠になっている。

二次予防

視力の回復可能性がどうであれ、以後の・心筋梗塞を防ぐことが最大のになる。危険因子の緊急のスクリーニングと治療が必要であり1、眼科と神経内科の連携のもとで包括的な血管危険因子の評価を行う3。

鑑別

疾患 見分ける手がかり
同じく突然の無痛性だが、眼底は白色ではなくと静脈怒張が主体。桜実紅斑を欠く
・が先行し、カーテン状のとして進行する。眼底で剥離した網膜が波打つ
急激なと。眼底が透見できないこと自体が所見になる
急性閉塞隅角緑内障 強い眼痛・頭痛・悪心・充血・を伴う。無痛性ではない
同じく突然の無痛性だが、が腫脹し、の網膜白濁と桜実紅斑を欠く。は型が典型。か否かを分けるため、同じくの除外を要する
を伴い、に不釣り合いなが目立つ。眼底は正常か
数分で自然に回復する。回復しても同じの検索を要する点は変わらない

まとめ

  • はを持たないで、閉塞するとが白色にし、から栄養されるだけが赤く残って桜実紅斑となる。
  • が5〜30%に存在し、黄斑を灌流していればが温存される。
  • 4.5%はで大半がである。50歳以上ではその場で・・血小板を提出し、疑えば結果を待たずステロイドを開始する。
  • AHAは急性期の一型と位置づける。頭部MRIで30%に急性脳虚血の変化、約55%にが見つかり、13%がその卒中を発症する。リスクは最初の1週に集中する。
  • ・・・は視力転帰を変えない。血栓溶解が期待されるが有効性は確立しておらず、質の高いが必要とされている。

出典

  1. 1.Management of Central Retinal Artery Occlusion: A Scientific Statement From the American Heart Association(American Heart Association / Stroke・2021)抄録のみを閲覧しており全文は未取得(発行元サイトが本文を返さない)。網膜中心動脈閉塞症を急性期脳梗塞の一型と位置づけ、重篤な視力障害を来すと同時に以後の脳血管イベント・心血管イベントの前触れであるとしていること、急性期は医学的緊急事態であり早期認識と救急医療への振り分けを優先するよう医療提供体制を変えるべきとしていること、実臨床では診療科・施設ごとに管理が大きくばらついていること、既存の文献からは経静脈的組織プラスミノゲンアクチベータによる治療が有効でありうると示唆されること、患者は血管危険因子の緊急のスクリーニングと治療を受けるべきであること、この領域には質の高いランダム化比較試験が必要であることを確認した閲覧 2026-09-02
  2. 2.Central retinal artery occlusion: a stroke of the eye(Eye (London)・2024)全文を閲覧した総説。発症率が米国1.9/10万人年・日本5.84/10万人年で80歳超に最も多いこと、急性期眼底で桜実紅斑を90%に認めること、毛様網膜動脈が5〜30%に存在すること、61%が最終視力指数弁以下であること、急性期の頭部MRIで網膜中心動脈閉塞症の30%・網膜動脈分枝閉塞症の25%に脳虚血性変化を認めること、約55%で塞栓源を同定でき多くは頸動脈由来で弁膜由来は少ないこと、13%がその後脳卒中を発症し半数弱が発症4週以内であること、78%に新規の心血管危険因子が1つ以上見つかること、眼球マッサージ・前房穿刺・眼圧下降薬は転帰を変えず(施行率76%の施設と26%の施設で視力転帰に有意差なし、p=0.114)高圧酸素療法もメタ解析で最終視力を改善しないこと、経静脈的血栓溶解は脳卒中プロトコルの4.5時間以内が用いられ最初のランダム化比較試験では6時間以内の治療例のみ視力3段階以上の改善を示したが6か月後には維持されなかったこと、動物モデルでは97分以内に閉塞が解除されれば網膜虚血が完全に可逆でありうる一方240分が広範な不可逆的虚血の境界とされることを確認した閲覧 2026-09-02
  3. 3.Progress in central retinal artery occlusion: a narrative review(Journal of International Medical Research・2023)全文を閲覧した総説。網膜中心動脈閉塞症の内訳が非動脈炎性の永続型66%超・非動脈炎性の一過性型約16%・毛様網膜動脈による温存型約14.3%・動脈炎性4.5%(大半が巨細胞性動脈炎)であること、動脈炎性は急性の治療的緊急事態であり迅速な対応を要すること、巨細胞性動脈炎ではCRP上昇・赤沈亢進を認め浅側頭動脈生検が内膜の同心性肥厚・内弾性板の断裂・多核巨細胞を示すが生検で巨細胞を認めなくても否定できないこと、保存的治療が自然経過より良好な予後をもたらすことを示した大規模ランダム化比較試験は無いこと、急性期の30%でMRI上の急性脳虚血を認めること、一過性型の22.2%が5年以内に同側の脳卒中を発症すること、網膜中心動脈閉塞症後の脳卒中リスクが発症1か月以内に相対発生比14.0(最初の1週では44.51)と最も高いことを確認した閲覧 2026-09-02