内科学

内科学 · L-08

末梢動脈疾患

Peripheral artery disease

前提:病態
アテローム性動脈硬化症足関節上腕血圧比(ABI)の定義と測定
前提:正常
骨格筋の循環と運動の循環への影響
疾患
末梢動脈疾患
症状
間欠性跛行肢端チアノーゼ蒼白
スコア
Fontaine分類Rutherford分類WIfI分類

🧠 全体像:は全身性動脈硬化の一表現である。だけでなく無症候例も多く、で診断し、全身の心血管リスク低減、運動療法、管理を行う。突然の疼痛・蒼白・はとして直ちに血管専門チームへつなぐ。

病因と危険因子

主因は動脈硬化で、喫煙、糖尿病、高血圧、、高齢、が重要である。患者は心筋梗塞・脳卒中・心血管死のリスクが高く、だけの疾患として扱わない。

臨床像

病型 症状・所見
無症候性 歩行量が少ないため症状が表面化しない場合を含む
一定距離の歩行で筋痛・が出現し、休息で軽快
() 2週間以上続く、治癒しない潰瘍、壊疽1
() 急激な血流低下。疼痛、蒼白、、感覚障害、、

⚠️ 「()」は「()」へ改称された。 2019年のGlobal Vascular Guidelinesが、虚血は「ある閾値を超えると重症」という二分ではなく連続体であり、創傷や感染と合わせてリスクを決めるという理由からの語を推奨した1。は「があり、かつ・壊疽・2週間を超えるのいずれかを伴う」と定義され、・・塞栓性・非動脈硬化性の潰瘍は除外される。旧称のも試験問題や旧文献には残るため、同じ病態を指す語として対応づけて覚える。

では皮膚温低下、、、爪変化、、遠位脈拍減弱を認める。はで悪化し、下垂で軽快することがある。

診断

慢性下肢虚血の臨床分類

臨床像
I 0 無症候
IIa 1
IIa–IIb 2 中等度
IIb 3 重度
III 4
IV 5 小範囲の
IV 6 広範囲の

この対応表は症状の共通言語であり、のリスクは、虚血、をまとめたでさらに評価する。を疑ったら、切迫度の判定と並行して血管専門医へ緊急に紹介する1。

ABI

はを上腕で除して求める。

解釈
≤0.90 を支持
0.91–0.99 境界域
1.00–1.40 通常範囲
>1.40 石灰化による血管を疑う

糖尿病・でがとなる場合はを用いる。2024年ACC/AHA指針は、この4区分での報告をClass 1とし、(>1.40)では・と波形評価を追加して TBI ≤0.70 を異常と扱うよう求めている2。症状が典型的で安静時が正常または境界域(>0.90 かつ ≤1.40)なら、運動負荷トレッドミルを行う(同じくClass 1)2。

画像

  • Duplex超音波:病変確認の第一選択画像
  • /:計画と解剖評価
  • :主に治療を前提とする場合

慢性PADの治療

全身性リスク低減

  • 禁煙支援、血圧・糖尿病管理
  • を基本とし、動脈硬化性ではをベースラインから50%以上低下させ、<55 mg/dLを目標にする。この <55 mg/dL は2019年/EAS指針の区分の目標(でクラスI・A)で3、2025年の焦点改訂でも据え置かれた4
  • 💡 冠動脈疾患を併せ持つは、2025年の焦点改訂で <40 mg/dL を考慮してよい層に名指しされた。 の図がの下に「極めて高いリスク」という区分(図中の表記は Extreme risk)を置き、多(例:冠動脈と末梢動脈)の動脈疾患と、最大量のスタチンを基礎とする治療下でを繰り返す例を対象に <1.0 mmol/L(40 mg/dL未満)を示した4。⚠️ ただし推奨の強さはクラスIIb(考慮してもよい)で、この区分は図にしか現れず対応する推奨表は置かれていない。40 mg/dL未満という目標自体は新しくなく、2019年版が「最大量のスタチンを基礎とする治療中に2年以内に2回目のを起こした患者」に限って同じクラスIIb・レベルBで示していたものである3
  • 症候性ではを行い、虚血・出血リスクに応じ低用量抗凝固薬併用を検討する

💡 低用量+アスピリンの根拠は COMPASS と VOYAGER である。 安定した動脈硬化性血管疾患を対象としたCOMPASSでは、 2.5 mg 1日2回+アスピリン 100 mg が心血管死・脳卒中・心筋梗塞の複合を 5.4%→4.1%(HR 0.76)に減らす一方、大出血は 1.9%→3.1%(HR 1.70)に増えた5。下肢後を対象としたVOYAGER では、同じ用量で・血管性を含む複合転帰が3年で 19.9%→17.3%(HR 0.85)に減り、TIMI大出血は有意に増えなかった(2.65% vs 1.87%)がISTH大出血は増えた6。虚血リスクの高さと出血リスクを個別に秤にかける薬であって、症候性全例に足すものではない。

  • 足の診察、適切な靴、創傷・感染の早期治療

歩行機能改善

を基本とし、が出現する歩行と休息を反復する。32試験1835例のCochraneレビューでは、運動療法は通常ケアに比べ無痛歩行距離を平均 82 m、最大歩行距離を平均 120 m 延ばし、効果は2年まで持続した(いずれも質の高いエビデンス)7。

⚠️ 運動療法はも死亡率も改善しない。 同じレビューでのは 0.04(95%CI 0.00〜0.08)で有意でなく、死亡(RR 0.92)・切断(RR 0.20)への効果を示す証拠もなかった7。運動療法が改善するのは歩行機能であり、血行動態や生命予後ではない——全身心血管リスク低減(禁煙・スタチン・)を代替しない。は症状を改善し得るが、心不全では禁忌である。十分な運動・薬物治療でも生活制限症状が続く場合、またはではを評価する。

急性下肢虚血

Rutherford急性下肢虚血分類

カテゴリー 感覚障害 筋力低下 含意
I viable なし なし 聴取可 聴取可 直ちに肢の危機ではない
IIa に限局する軽度 なし しばしば 聴取可 速やかな治療で可能
IIb を越える 軽度〜中等度 通常 聴取可 直ちに再灌流が必要
III irreversible 深い無感覚 、組織損失
flowchart TD
    A["突然の疼痛・蒼白・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulselessness'>脈拍消失</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute limb ischemia'>ALI</span>を疑う"]
    B --> C["神経障害とドプラ信号で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='limb salvage'>救肢</span>可能性を評価"]
    C --> D["直ちに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unfractionated heparin (UFH)'>未分画ヘパリン</span>を開始<br>禁忌がなければ"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extravascular'>血管外</span>科/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endovascular treatment'>血管内治療</span>チームへ緊急連絡"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombectomy'>血栓除去</span>・血栓溶解・バイパスなどで再灌流"]

感覚障害や筋力低下は切迫虚血の徴候であり、画像検査のために再灌流を遅らせない。不可逆的虚血ではと全身合併症を考慮し切断が必要となることがある。

下肢潰瘍の見分け方

所見 潰瘍
典型部位 、足部外側、圧迫点 周囲の 足底の
痛み 強い。挙上で悪化 重だるさ。挙上で改善 のため乏しいことがある
皮膚・脈拍 、光沢、毛・爪の変化、脈拍減弱 温暖、浮腫、褐色色素沈着、静脈瘤 乾燥、、感覚消失、を合併し得る
創の形 で壊死を伴いやすい 浅くで滲出が多い に囲まれた円形創

まとめ

  • は下肢症状だけでなく全身性心血管リスクを示す。
  • を入口とし、血管では、介入計画にはDuplex・・MRAを用いる。
  • で神経障害を認めたら緊急再灌流が必要である。

関連ノート

出典

  1. 1.Global vascular guidelines on the management of chronic limb-threatening ischemia(Journal of Vascular Surgery・2019)灌流の閾値ではなく連続体として捉えるため「重症下肢虚血(CLI)」より「慢性下肢切迫虚血(CLTI)」の語を推奨する。CLTIは末梢動脈疾患に安静時痛・壊疽・2週間を超える下肢潰瘍のいずれかを伴う臨床症候群と定義され、静脈性・外傷性・塞栓性・非動脈硬化性の病因は除外される。重症度評価には創傷・虚血・足部感染を別々に採点するSVSのWIfI分類を用い、CLTIを疑う全患者を血管専門医へ緊急に紹介する閲覧 2026-08-25
  2. 2.2024 ACC/AHA/AACVPR/APMA/ABC/SCAI/SVM/SVN/SVS/SIR/VESS Guideline for the Management of Lower Extremity Peripheral Artery Disease(American College of Cardiology / American Heart Association・2024)安静時ABIを異常(≤0.90)・境界域(0.91〜0.99)・正常(1.00〜1.40)・非圧迫性(>1.40)の4区分で報告する(Class 1)。非圧迫性(ABI>1.40)では足趾血圧・足趾上腕血圧比(TBI)と波形評価を追加し、TBI≤0.70を異常とする。労作時の下肢症状があり安静時ABIが正常または境界域なら運動負荷トレッドミルABIを行う(Class 1)閲覧 2026-08-25
  3. 3.2019 ESC/EAS Guidelines for the management of dyslipidaemias: lipid modification to reduce cardiovascular risk(European Heart Journal(Mach F, et al., 2020, DOI 10.1093/eurheartj/ehz455)・2020)ジュネーヴ大学のリポジトリ archive-ouverte.unige.ch から誌上版PDF(80頁)を自分で取得して確認した。二次予防の超高リスクでベースラインから50%以上の低下かつ<1.4 mmol/L(<55 mg/dL)がClass I・Level A であること。逐語で `For patients with ASCVD who experience a second vascular event within 2 years (not necessarily of the same type as the first event) while taking maximally tolerated statin-based therapy, an LDL-C goal of <1.0 mmol/L (<40 mg/dL) may be considered.` とあり、Class IIb・Level B で、40 mg/dL未満という目標がこの2019年版に既に存在すること。ただしこの版に `polyvascular` は全文0件で、多血管床の動脈疾患を名指しした区分は持たないこと閲覧 2026-09-17
  4. 4.2025 Focused Update of the 2019 ESC/EAS Guidelines for the management of dyslipidaemias(European Society of Cardiology / European Atherosclerosis Society・2025)Internet Archive 経由(web.archive.org の id_ 付きURLが academic.oup.com の advance-article-pdf を watermark02.silverchair.com へ転送する)で advance article 版PDF(20頁)を自分で取得して確認した。本文に `It is important to note that the LDL-C treatment goals (Figure 1) and therapeutic guidance (Table 4) for persons in each risk category have not changed from the 2019 ESC/EAS Guidelines.` とあり、LDL-C目標値(超高リスク<55、高リスク<70、中等度<100、低リスク<116 mg/dL)が2019年版から不変であること。Figure 1 が超高リスクの下に `Extreme risk` の区分を置き、`Patients with ASCVD who experience recurrent vascular events while taking maximally tolerated statin-based therapy` と `Patients with polyvascular (e.g. coronary and peripheral) arterial disease` に<1.0 mmol/L(<40 mg/dL)をClass IIbで示すこと。⚠️ この区分は Figure 1 にしか現れず、対応する Recommendation Table は無いこと閲覧 2026-09-17
  5. 5.Rivaroxaban with or without Aspirin in Stable Cardiovascular Disease(The New England Journal of Medicine・2017)安定した動脈硬化性血管疾患27,395例で、リバーロキサバン2.5 mg 1日2回+アスピリン100 mg 1日1回はアスピリン単独に比べ心血管死・脳卒中・心筋梗塞の複合を4.1% vs 5.4%(HR 0.76、95%CI 0.66〜0.86)に減らしたが、大出血は3.1% vs 1.9%(HR 1.70、95%CI 1.40〜2.05)と増えた閲覧 2026-08-25
  6. 6.Rivaroxaban in Peripheral Artery Disease after Revascularization(The New England Journal of Medicine・2020)下肢血行再建後の末梢動脈疾患6,564例で、リバーロキサバン2.5 mg 1日2回+アスピリンはアスピリン単独に比べ急性下肢虚血・血管性大切断・心筋梗塞・虚血性脳卒中・心血管死の複合を3年で17.3% vs 19.9%(HR 0.85、95%CI 0.76〜0.96)に減らした。TIMI大出血は有意差なし(2.65% vs 1.87%、HR 1.43)だがISTH大出血は増加した(5.94% vs 4.06%、HR 1.42)閲覧 2026-08-25
  7. 7.Exercise for intermittent claudication(Cochrane Database of Systematic Reviews・2017)32試験1835例のメタ解析で、運動療法は無治療・通常ケアに比べ無痛歩行距離を平均82.11 m(95%CI 71.73〜92.48)、最大歩行距離を平均120.36 m(95%CI 50.79〜189.92)改善し、効果は2年まで持続した(いずれも質の高いエビデンス)。一方でABIは改善せず(平均差0.04、95%CI 0.00〜0.08)、死亡(RR 0.92)・切断(RR 0.20)への効果を示す証拠はなかった閲覧 2026-08-25