病態生理学

病態生理学 · 1-12

脂質異常症の分類;原発性高リポタンパク血症

Dyslipidemias; primary hyperlipoproteinemia syndromes

応用トピック
心血管リスク因子と一次・二次予防脂質異常症の薬物療法脂質異常症
疾患
LCAT欠損症Tangier病家族性異常βリポ蛋白血症家族性高カイロミクロン血症家族性高トリグリセリド血症家族性複合型高脂血症脂質異常症多因子性カイロミクロン血症症候群
検査値
脂質検査
スコア
Fredrickson分類

🧠 リポタンパクは「水に溶けない脂を運ぶ宅配便」。 食事由来は、肝由来は →→(コレステロールを末梢へ配達)、 は余ったコレステロールを肝へ回収(=)。どの便が滞るかでの型が決まる。

リポタンパク— 組成と分類

  • (、TAG)を表面(、リン脂質、)が囲む。
分類 主な脂質 由来・備考
TAG ApoB-48, A/C/E 腸 — 最大・最低密度
TAG ApoB-100, C, E 肝
CE ApoB-100, E, C の
CE ApoB-100 の — 血中コレステロール主運搬体
CE/リン脂質 ApoA, C, E 肝/腸

リポタンパク代謝(3つの便を縦に追う)

flowchart TD
  CM["① 外因性:腸で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chylomicron'>カイロミクロン</span>(TAGに富む)"] --> CM2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lipoprotein lipase'>LPL</span>がTAG分解 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='remnant'>レムナント</span>→ 肝がApoE経由で回収"]
  V["② 内因性:肝で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='very-low-density lipoprotein'>VLDL</span>(ApoB-100)"] --> V2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lipoprotein lipase'>LPL</span>がTAG分解 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='intermediate-density lipoprotein'>IDL</span> → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-density lipoprotein'>LDL</span>(コレステロール運搬体)"]
  V2 --> LDLR["肝・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extrahepatic'>肝外</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-density lipoprotein'>LDL</span>受容体が取込み"]
  H["③ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='reverse cholesterol transport'>逆転送</span>:ApoA-I → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='disc-shaped'>円盤状</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-density lipoprotein'>HDL</span> → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='lecithin-cholesterol acyltransferase'>LCAT</span>で成熟"] --> RCT["末梢コレステロールを回収 → 肝へSR-BI経由 → 胆汁へ排泄(主要な排泄路)"]
  RCT --> PROT["⇒ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-atherosclerotic'>抗動脈硬化</span>"]
  • (食事性): 腸が分泌 → から ApoB-48/C-II/E 獲得 → (脂肪/筋)が TAG分解 → を肝が ApoE 経由エンドサイトーシス。
  • →→(内因性): 肝が分泌 → ApoC-II/E 獲得 → で TAG分解 → → → ApoC-II/E 喪失 → LDL → 受容体が取込み。
  • & : ApoA-I → → LCAT がコレステロールを→ 末梢から回収(マクロファージ等)→ SR-BI で肝へ → /胆汁中へ排泄(ステロイド骨格は体内で分解できないので、胆汁へ捨てるのがコレステロールを体外へ出す主要な経路)。
  • 。

脂質異常症— 分類

  • = 絶食時でも血漿 TAG/コレステロール↑。
  • 原発性(~50%): 遺伝性(/)。
  • 続発性(~40–50%): 他疾患の結果。
  • 帰結:
  • Lp(a): 通常のには含まれない項目で、遺伝的に規定され・薬物療法の影響をほぼ受けないリポタンパクで、とは独立したリスク因子。/EASの2019年版は成人で生涯に少なくとも1回の測定を考慮するとしており(クラスIIa・C)、目的は180 mg/dL(430 nmol/L)を超える遺伝性の例——生涯リスクがFHに匹敵する層——の同定である1。2025年の焦点改訂はこれに加えて、50 mg/dL(105 nmol/L)を超えるを全成人でリスク増強因子とみなすという推奨を新設した(クラスIIa・B)2。

Fredrickson 分類

病型 上昇するリポタンパク 関連疾患
I (/)
IIa LDL
IIb +
III / 家族性異常β
IV VLDL
V +

⚠️ は増加するリポタンパクのパターンによる1960年代由来の歴史的な表現型分類であり、現在の診療では診断・治療決定の第一線として使わない。現行の管理は・/TG値・家族歴と個々のリスクを直接評価して決める。それでも各症候群の特徴を整理する枠組みとしては有用なので、以下では対応するFredrickson型も併記する。

原発性症候群

家族性高カイロミクロン血症

家族性高コレステロール血症(FH)

💡 スタチンの効き方は受容体がどれだけ残っているかで決まる。 スタチンは肝のコレステロール合成↓ → 受容体の発現↑ → クリアランス↑、という経路で効くので、受容体が半分残るではよく効く。受容体活性がほとんど無いでは効果が乏しく、受容体に依存しない治療を重ねる必要がある。

  • (優性)遺伝。 受容体の合成/処理欠損 → ・血清コレステロール↑(TAGは正常)、加速した、マクロファージ→。
    • : 出生時から重度の、、冠動脈疾患。講義では残存する受容体活性で「受容体陰性(0〜2%)」と「受容体欠陥型(2〜25%)」に分け、受容体が無いのでスタチンは効かないとする。
      • ⚠️ 現行の管理では「スタチンは無効だから使わない」ではない。 EASの2023年のは、でも+から始め、8週以内にを標的とする治療(・)を考慮するとしている。ただしスタチン・・阻害薬の効果は残存する受容体活性に依存するので、受容体機能がほぼ無い(null、2%以下)例では効きにくい3。
      • ⚠️ 阻害薬は受容体非依存的な薬ではない。 を止めて受容体の分解を防ぐ薬なので、受容体が残っていて初めて効く。受容体に依存しないのは、(MTP阻害薬)、エビナクマブ(ANGPTL3を標的とする抗体)、リポタンパクである3。
      • 💡 同じは、LDLR変異を機能2%以下の「null」と2〜70%の「受容体欠陥型」に分けている。講義の「2〜25%」とは上限が違う3。
    • : 講義では最も多い疾患とされる。頻度は従来「1/500」とされてきたが、一般人口約1,100万人を対象としたでは0.32%=約1/313とより高頻度で4、EASのが引く北欧の一般集団の直接スクリーニングでは、で確実+を合わせて約1/200だった5。⭐ の患者では約1/31、では約1/15と、集団を絞るほど頻度は跳ね上がる4——若年の冠動脈疾患を診たらFHを疑う根拠がここにある。出生時から、、。食事+スタチン(受容体が半分残っているため有効)。
  • 診断: 若年発症の性心血管疾患()、著明高、、の家族歴があれば疑い、代表的な臨床診断基準としてを用いる。家族歴・既往歴・身体所見(6点、45歳未満の4点等)・値(>8.5 mmol/L=>325 mg/dLで8点等)・(LDLR/APOB/の病的変異確認で8点)に加点し、合計点で**確実(>8点)・(6–8点)・可能性あり(3–5点)**に分類する(配点の全項目はを参照)5。
  • 管理目標: 治療強度は単独値ではなく、確立したの既往・糖尿病・・高値等を含めた総合的なリスクから決める。目安はで <55 mg/dLかつベースラインから50%以上低下、高リスクで<70 mg/dLで、これは/EASの2019年版が定めた値1であり、2025年の焦点改訂も「各リスクカテゴリの目標は2019年版から変更していない」と明記している2。

家族性異常βリポタンパク血症

  • または潜性遺伝。変異 ApoE(ApoE2/E2 が代表)→ 過剰産生/利用低下 → ↑、TAG+コレステロール↑。⭐ 遺伝子型だけでは発症せず、second hit となる代謝要因が要る——肥満・糖尿病・甲状腺機能低下症・などが引き金になる(ApoE2/E2 保因者の多くは生涯発症しない)。
  • 症状: 、。
  • 診断: 成人期に、(コレステロールとTAGがともに上昇)とApoE変異の分子遺伝学的な確認で行う。
  • 治療: 食事+スタチン。

まとめ

論点 要点
リポタンパク 外因性()、内因性(→→)、(→肝→胆汁酸)
分類 原発性(遺伝性、約50%)と続発性(約40〜50%)。帰結は心血管リスク↑・動脈硬化・膵炎
増えるリポタンパクで分けた歴史的な表現型分類。整理の枠組みとして使う
/、TAG著増、腹痛・膵炎・。は正常で心血管リスクは上がらない。
FH 頻度は一般人口で約1/313(0.32%)、では約1/15。スタチンがよく効く
FH スタチン+から始めるが、効果は残存受容体活性に依存。阻害薬も受容体依存。受容体非依存は・エビナクマブ・
FHの診断 (>8点確実、6〜8点、3〜5点可能性あり)
家族性異常β ApoE2/E2に肥満・糖尿病・甲状腺機能低下症などの二次要因が加わって発症。
管理目標 <55 mg/dL(かつ50%以上低下)、高リスク <70 mg/dL

出典

  1. 1.2019 ESC/EAS Guidelines for the management of dyslipidaemias: lipid modification to reduce cardiovascular risk(European Heart Journal(Mach F, et al., 2020, DOI 10.1093/eurheartj/ehz455)・2020)ジュネーヴ大学のリポジトリ archive-ouverte.unige.ch から誌上版PDF(80頁)を自分で取得して確認した。Lp(a) の推奨が逐語で `Lp(a) measurement should be considered at least once in each adult person’s lifetime to identify those with very high inherited Lp(a) levels >180 mg/dL (>430 nmol/L) who may have a lifetime risk of ASCVD equivalent to the risk associated with heterozygous familial hypercholesterolaemia.` であり、Class IIa・Level C であること。層別のLDL-C目標(超高リスクは50%以上の低下かつ<1.4 mmol/L=<55 mg/dL、高リスクは50%以上の低下かつ<1.8 mmol/L=<70 mg/dL)がこの2019年版で定められたものであること閲覧 2026-09-17
  2. 2.2025 Focused Update of the 2019 ESC/EAS Guidelines for the management of dyslipidaemias(European Society of Cardiology / European Atherosclerosis Society・2025)Internet Archive 経由(web.archive.org の id_ 付きURLが academic.oup.com の advance-article-pdf を watermark02.silverchair.com へ転送する)で advance article 版PDF(20頁)を自分で取得して確認した。本文に `It is important to note that the LDL-C treatment goals (Figure 1) and therapeutic guidance (Table 4) for persons in each risk category have not changed from the 2019 ESC/EAS Guidelines.` とあり、LDL-C目標値(超高リスク<55 mg/dLかつベースラインから50%以上低下、高リスク<70 mg/dL)が2019年版から不変であること。Recommendation Table 4 の新推奨は `Lp(a) levels above 50 mg/dL (105 nmol/L) should be considered in all adults as a CV risk-enhancing factor, with higher Lp(a) levels associated with a greater increase in risk.` でClass IIa・Level B であり、「生涯に少なくとも1回測定する」という記述は本文が2019年版(参考文献1)に帰属させていること閲覧 2026-09-17
  3. 3.2023 Update on European Atherosclerosis Society Consensus Statement on Homozygous Familial Hypercholesterolaemia: new treatments and clinical guidance(European Atherosclerosis Society・2023)Europe PMCの全文(PMC10314327)で、ホモ接合体FHの治療は高強度スタチン+エゼチミブから始め、8週以内にPCSK9を標的とする治療を考慮すること、スタチン・エゼチミブ・PCSK9阻害薬への反応は残存するLDL受容体活性の程度に依存し、ロミタピド・ANGPTL3を標的とする治療(エビナクマブ)・リポタンパクアフェレーシスへの反応はLDL受容体機能に依存しないこと、LDLR変異は機能2%以下の「null」と2〜70%の「受容体欠陥型」に分けられることを確認した。閲覧 2026-09-24
  4. 4.Worldwide Prevalence of Familial Hypercholesterolemia: Meta-Analyses of 11 Million Subjects(Journal of the American College of Cardiology・2020)一般人口10,921,310人(44研究)のメタ解析で、ヘテロ接合体家族性高コレステロール血症の頻度が0.32%(95%CI 0.26〜0.39%、1:313に相当)と、従来の1/500という推定より高頻度であったこと。虚血性心疾患では3.2%(1:31)、早発虚血性心疾患では6.7%(1:15)、重度高コレステロール血症では7.2%(1:14)とさらに高いこと。閲覧 2026-08-14
  5. 5.Familial hypercholesterolaemia is underdiagnosed and undertreated in the general population: guidance for clinicians to prevent coronary heart disease: consensus statement of the European Atherosclerosis Society(European Atherosclerosis Society・2013)全文(PMC3844152)の表1で、成人のヘテロ接合体FHのオランダ脂質クリニックネットワーク基準(腱黄色腫6点、45歳未満の角膜輪4点、LDL-C >8.5 mmol/L(>325 mg/dL)8点、LDLR・APOB・PCSK9の病因変異8点、合計 >8点で確実・6〜8点で疑診・3〜5点で可能性あり)を確認した。北欧の一般集団(コペンハーゲン一般集団研究、69,016人)の直接スクリーニングで、確実+疑診(>5点)を合わせた頻度が約1/200であったこと、理論上の推定値は1/500であったことも抄録と本文で確認した。閲覧 2026-08-14