病態生理学

病態生理学 · 1-13

続発性高リポタンパク血症に関連する症候群

Secondary hyperlipoproteinemia syndromes

応用トピック
脂質異常症
疾患
脂質異常症
検査値
脂質検査

🧠 続発性 = 「他の病気の置き土産」。 代表的な原因は糖尿病・・肝疾患・甲状腺機能低下症・。原発性と違い、原因疾患を治せば脂質も戻ることが多いので、治療前に必ず原因を特定する。

概観

他疾患・薬剤・の結果として生じるリポタンパク異常。原因は大きく、①糖尿病・肥満などの代謝性疾患、②甲状腺機能低下症、③・などの腎疾患、④胆汁うっ滞・閉塞性肝疾患などの肝胆道疾患、⑤過剰アルコール摂取、⑥妊娠、⑦などの自己免疫疾患、⑧・などの薬剤性、に分けられる。患者の約1/3がを併せ持つ。講義の「よくある原因」の一覧は糖尿病・・肝疾患・甲状腺機能低下症・ループスの5つで、肥満は当然すぎるため一覧に入れていないという扱いである。

⭐ 「原発性」と呼んでよいのは続発性の原因をすべて除外した後だけ。 だけを見て判断せず、血糖・・尿蛋白/腎機能・肝機能・アルコール歴・薬剤歴を確認せずに脂質異常を「原発性(家族性)」と診断してはならない。続発性なら、原因疾患の治療・原因薬剤の中止で脂質が正常化することが多い(ただし遺伝的な原発性成分が併存し、是正後も残存する例もある)。とくにTAGが膵炎を起こすほど高くなるの血症では、ほとんどの例にがあり、そこに薬剤や病態が重なって発症する1。

糖尿病性脂質異常症

  • 変化:
    • TAG↑
    • HDL↓
病型 脂質変化・備考
Type 1 DM TAG↑、HDL↓ — インスリン補充で解消
Type 2 DM TAG↑、HDL↓、+(sdLDL) = 高度に。だけでは正常化せず、核心はインスリン抵抗性。でもよくみられ、食事と体重管理でインスリン抵抗性そのものを改善する

病態機序

💡 インスリンは本来 ApoB を分解する係。 糖尿病でそれが効かず ApoB が安定化 → 肝が を作り過ぎ → で交換 → 最終的にの sdLDL になる。

flowchart TD
  IR["インスリン抵抗性"] --> HSL["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hormone-sensitive lipase (HSL)'>ホルモン感受性リパーゼ</span>↑ → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='lipolysis'>脂肪分解</span>↑ → 肝へFFA↑"]
  HSL --> STAB["ApoB安定化(インスリンによる分解が欠如)→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='very-low-density lipoprotein'>VLDL</span>合成↑"]
  IR --> LPL["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lipoprotein lipase (LPL)'>リポタンパクリパーゼ</span>↓ → 循環TAG/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='very-low-density lipoprotein'>VLDL</span>↑"]
  STAB --> CETP["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cholesteryl ester transfer protein'>CETP</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cholesteryl ester'>コレステリルエステル</span>を交換"]
  LPL --> CETP
  CETP --> SDL["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-density lipoprotein'>LDL</span>→sdLDL(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atherogenic'>動脈硬化惹起性</span>→CVリスク↑)"]
  CETP --> HDLX["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-density lipoprotein'>HDL</span>→ApoA-Iが腎で排泄→ASリスク↑"]

アルコール性脂質異常症

💡 U字カーブの両刃の剣。 少量は ↑/↓ で保護的、大量は TAG合成↑ で+CVリスク↑。

  • 低摂取: 冠動脈疾患/(AMI)//脳卒中↓。
  • 高摂取: TAG合成↑ → 心血管リスク↑+(→)。で回復する。飲酒期間が短ければすぐに、長年の大量飲酒では1か月ほどかかることがある。

腎疾患の脂質異常

ネフローゼ症候群

  • アルブミン喪失 → ↓ → 肝が蛋白/リポタンパク産生↑(ApoB↑→↑)。/↓ → 分解↓。受容体分解↑。正味: ↑、↑(TAGも上昇しうる)。
  • の原疾患を治療し蛋白尿が改善すれば、脂質も正常化しうる。

慢性腎臓病(非ネフローゼ)

  • の蛋白尿を伴わないでも、腎不全に至った患者では高TAG血症がよくみられ、との活性低下でTAGに富むリポタンパクのクリアランスが落ちることが関係しうる2。TAG↑、HDL↓が典型で、など質的異常も伴う。(↑が主体)とはパターンが異なる点に注意。

胆汁うっ滞・閉塞性肝疾患の脂質異常

肥満の脂質異常

  • 肥満(特に型)はインスリン抵抗性を介してとほぼ同じ経路(↑→肝へのFFA流入↑→産生↑)をたどる。TAG↑、HDL↓が典型。
  • 減量・運動療法だけで産生が是正されうる点で、「原因を治せば脂質が戻る」の代表例。

妊娠による生理的脂質異常

  • 妊娠中はエストロゲンが肝からのTAGに富むリポタンパク()の分泌を促すため、TAGは妊娠の進行とともに漸増する。には妊娠前より200%以上(=およそ3倍以上)まで生理的に上昇しうる2。多くは分娩後に自然に消退し、治療介入は通常不要。
  • ただし妊娠前から高TAG血症がある患者では、この生理的上昇がされて重症高TAG血症(後述)に至り、妊娠中のリスクとなりうるため注意する。

薬剤性脂質異常

薬剤 脂質変化 機序
(など) ↑、↑、TAG↑(、軽度) 機序は完全には解明されていないが、インスリン抵抗性の悪化が関与すると考えられる
β遮断薬(、の・など) TAG↑、↓ による活性化が遮断され、TAGに富むリポタンパクの分解が低下する
(など) TAG↑↑(重症化しやすい) 肝での合成促進と活性低下。で、投与前後でTAGのモニタリングが必須
(など) ↑、TAG↑ 抑制と受容体発現低下により、の肝への取り込みが減る
(、など) TAG↑↑、↑ とインスリン抵抗性、肝でのApoB分解抑制による産生亢進が関与する
(など) TAG↑、体重増加 による体重増加とインスリン抵抗性が主因
(など) ↑、TAG↑ 末梢の促進と肝への流入増加により、肝での合成が増える(と同じ経路)

これらに加え、、、()もTAGを上げる。β遮断薬はより、・・で影響が大きく、これらのの影響がとくに問題になるのは遺伝的なの素因をもつ患者である2。

⚠️ を下げる薬がTAGを上げることもある。 (・など)はを悪化させ、重症(>1000 mg/dL)と異常βでは禁忌とされる。TAGが200 mg/dLを超える中等度のでも、さらに大きく上昇しうる2。

⚠️ いずれも原因薬剤の中止・変更でおおむね改善する。特に・は重症高TAG血症(次項)を来しうるため、投与前後でTAGを確認する。

⚠️ 重症高トリグリセリド血症と急性膵炎

続発性によるTAG上昇(糖尿病のコントロール不良、大量飲酒、の生理的上昇、・などの薬剤性)が重なると、重症に至りうる。TAG 500 mg/dL以上、特に 1,000 mg/dL以上では、膵炎のリスクを下げるためにTAGを下げることを優先する1。血清や偽性の原因にもなる。を疑う腹痛では、胆石・アルコール歴だけでなくTAG値も必ず確認する。

甲状腺機能低下症の脂質異常

まとめ

原因 主な脂質変化 要点
糖尿病 TAG↑・↓・、2型ではsdLDL↑ 1型はインスリン補充で解消、2型はだけでは正常化しない(核心はインスリン抵抗性)
アルコール 少量は↑/↓、大量はTAG↑・ U字カーブ。で回復
↑・↑ アルブミン喪失→肝のリポタンパク産生↑、分解↓
(非ネフローゼ) TAG↑・↓ ・活性↓でクリアランス低下
胆汁うっ滞 ↑、リポタンパクX 胆汁へのコレステロール排泄障害
肥満 TAG↑・↓ インスリン抵抗性を介して糖尿病性とほぼ同じ経路をたどる
妊娠 TAG漸増(に妊娠前より200%以上) 生理的。もともとがあると膵炎リスク
甲状腺機能低下症 ↑・↑(TAG↑も) で正常化。異常βを顕在化させうる
薬剤 薬剤ごとに異なる ・β遮断薬・・・・など。はTAGを上げる
  • 「原発性」と判断する前に続発性の原因を除外する。TAG 500 mg/dL以上(特に1,000 mg/dL以上)では膵炎予防のためTAG低下を優先する。

出典

  1. 1.2021 ACC Expert Consensus Decision Pathway on the Management of ASCVD Risk Reduction in Patients With Persistent Hypertriglyceridemia: A Report of the American College of Cardiology Solution Set Oversight Committee(American College of Cardiology・2021)Wayback保存の誌上HTML全文(jacc.org)で、TAG 500 mg/dL以上、特に1,000 mg/dL以上の重症高トリグリセリド血症では、高TG血症に伴う膵炎のリスクを下げるためにTAGを下げることを優先するとしていること、続発性の原因の検索と治療が重要であること、多因子性乳び血症症候群ではほとんどの例に遺伝的素因があり、それに薬剤や病態が重なって膵炎を来しやすくなることを確認した。閲覧 2026-08-14
  2. 2.Evaluation and Treatment of Hypertriglyceridemia: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline(Endocrine Society・2012)本文(PMC3431581)で、①妊娠中はTAGが漸増し第3三半期には妊娠前より200%以上(すなわち約3倍以上)上昇すること、②甲状腺ホルモン欠乏はLDLコレステロール上昇に加えTAGも上昇させ、異常βリポタンパク血症(dysbetalipoproteinemia)の表現型を顕在化させうること、③ネフローゼ症候群では肝でのApoB含有リポタンパク(VLDLを含む)産生が増加すること、④腎不全ではLPLと肝性リパーゼの活性低下によりTAGに富むリポタンパクのクリアランスが低下して高TAG血症を来しやすいこと、⑤TAGを上げる薬剤としてサイアザイド系利尿薬・フロセミド、β遮断薬(カルベジロールよりアテノロール・メトプロロール・プロプラノロールで強い)、レチノイド(イソトレチノイン・ベキサロテン)、HIVプロテアーゼ阻害薬(リトナビル・ロピナビル)、経口エストロゲン、非定型抗精神病薬(クロザピン・オランザピン・リスペリドン・クエチアピン)、シロリムス、糖質コルチコイド過剰が挙げられていること、⑥妊娠中のTAG上昇はエストロゲンによる肝のTAGに富むリポタンパク分泌の促進によること、⑦胆汁酸吸着薬(コレスチラミン・コレスチポール・コレセベラム)は高TG血症を悪化させ、重症高TG血症(>1000 mg/dL)と異常βリポタンパク血症では禁忌とされることを確認した。閲覧 2026-08-14