臨床薬理学

臨床薬理学 · 16

脂質異常症の薬物療法

Dyslipidaemia

前提:病態
脂質代謝に作用する薬・体重管理薬脂質異常症の分類;原発性高リポタンパク血症

🧠 全体像:のは、コレステロール値を整えることそのものではなく、動脈硬化による心血管イベントを減らすことである。だから順番は、①心血管リスクを4段階に分類する → ②リスクと未治療ので薬を使うか決める → ③リスクに応じたの目標値を決める → ④スタチンを最大量まで → 届かなければ → さらに阻害薬となる。薬はすべて、最終的に肝臓の受容体を増やしてを血中から回収させるか、合成・吸収を減らす。

治療の目的と心血管リスクの評価

治療(の改善か薬物療法か)は、心血管疾患のリスクを総合的に評価してから決める。リスクは低・中等度・高・超高の4群に分ける。

  • が確認されている人、1型・2型糖尿病、非常に強い単一の危険因子、では、原則として高リスクかとみなす。
  • などの原発性も、高リスク(または)である。
  • それ以外の一見健康な人では、危険因子が重なって高リスクになっていることがあるので、リスク推定モデルを使う。2019年版/EASではSCOREを用いる。SCOREは年齢・性別・喫煙・・から、最初の致死的な動脈硬化性イベントが10年以内に起こるを推定する。
リスク区分 当てはまる人(2019年版/EAS)1
臨床的に、または画像で明らかな:・・冠・脳卒中・・の既往、・・での有意なプラーク/臓器障害(・・神経障害)を伴うか主要危険因子が3つ以上の糖尿病、または罹病20年を超える早期発症の1型糖尿病/ 30 mL/分/1.73 m²未満の重症/SCORE 10%以上/か別の主要危険因子を伴う
高リスク 著しく高い単一の危険因子(8 mmol/L[310 mg/dL]超、 4.9 mmol/L[190 mg/dL]超、血圧180/110 mmHg以上)/他の主要危険因子のない/臓器障害はないが罹病10年以上か他の危険因子を伴う糖尿病/ 30〜59の中等度/SCORE 5%以上10%未満
罹病10年未満で他の危険因子のない若年の糖尿病(1型は35歳未満、2型は50歳未満)/SCORE 1%以上5%未満
低リスク SCORE 1%未満

⚠️ リスク推定モデルは更新されている。 2025年の/EAS焦点改訂は、一見健康な人の10年リスクの推定を、SCOREから、致死的・非致死的イベントを合わせて推定する70歳未満のSCORE2と70歳以上のへ切り替えた。さらに、や治療の境目にいる人では、 2 mg/L超、 50 mg/dL超、動脈硬化や冠動脈石灰化などの画像所見を「リスク」として使い、リスクを再分類する2。は生涯に少なくとも1回測定する2。上のSCOREによる分類は2019年版までの内容である。の年齢別の閾値はスコアのノートに、予防全体の考え方は心血管リスク因子と一次・にまとめてある。

薬物療法の適応:リスク×未治療のLDL-C

リスク区分が決まったら、リスクと薬を飲んでいない状態のの組み合わせで方針を選ぶ。高リスク・で薬を使わないのはがきわめて低い場合だけで、低リスクではまずの改善が基本になる。

SCOREによる 1.4 mmol/L未満(55 mg/dL) 1.4〜1.8未満(55〜70未満) 1.8〜2.6未満(70〜100未満) 2.6〜3.0未満(100〜116未満) 3.0〜4.9未満(116〜190未満) 4.9以上(190以上)
1%未満(低リスク) I/C I/C I/C I/C 、管理不良なら薬を考慮 IIa/A と薬物療法 IIa/A
1〜5%未満() I/C I/C IIa/A 、管理不良なら薬を考慮 IIa/A 、管理不良なら薬を考慮 IIa/A と薬物療法 IIa/A
5〜10%未満(高リスク) IIa/A IIa/A 、管理不良なら薬を考慮 IIa/A と薬物療法 I/A と薬物療法 I/A と薬物療法 I/A
10%以上、または危険状態による IIa/B 、管理不良なら薬を考慮 IIa/A と薬物療法 I/A と薬物療法 I/A と薬物療法 I/A と薬物療法 I/A
、管理不良なら薬を考慮 IIa/A と薬物療法 I/A と薬物療法 I/A と薬物療法 I/A と薬物療法 I/A と薬物療法 I/A

の単位はmmol/L(括弧内はmg/dL)。各セルの末尾は推奨クラス/である1。

💡 表は「右下ほど薬」になる。 リスクが高いほど、また未治療のが高いほど、薬物療法が必要になる。同じ 2.0 mmol/Lでも、低リスクならだけ、のなら直ちに薬物療法となる。心血管イベントのの減少は「もともとのリスク×の低下幅」で決まるためである。

LDL-Cの治療目標

の目標は、主にについて、リスク区分ごとに決められている1。

リスク区分 の目標 追加条件
(・とも) 1.4 mmol/L(55 mg/dL)未満 ベースラインから50%以上の低下。スタチン未使用なら高強度の治療が必要になりやすく、すでに治療中なら強度を上げる
高リスク 1.8 mmol/L(70 mg/dL)未満 ベースラインから50%以上の低下
2.6 mmol/L(100 mg/dL)未満 —
低リスク 3.0 mmol/L(116 mg/dL)未満 —
flowchart TD
  L["低リスク<br>SCORE 1%未満"] --> L1["目標 3.0 mmol/L未満<br>116 mg/dL"]
  M["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='moderate risk'>中等度リスク</span><br>SCORE 1〜5%未満<br>危険因子のない若年の糖尿病"] --> M1["目標 2.6 mmol/L未満<br>100 mg/dL"]
  H["高リスク<br>SCORE 5〜10%未満、著しい単一危険因子<br>危険因子のない<span class='jp-term jp-term-diagram' title='familial hypercholesterolemia, FH'>家族性高コレステロール血症</span><br>中等度<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic kidney disease'>CKD</span>、臓器障害のない糖尿病"] --> H1["目標 1.8 mmol/L未満<br>70 mg/dL<br>かつ50%以上低下"]
  V["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='very high risk'>超高リスク</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='atherosclerotic cardiovascular disease'>ASCVD</span>、SCORE 10%以上<br>危険因子を伴う<span class='jp-term jp-term-diagram' title='familial hypercholesterolemia, FH'>家族性高コレステロール血症</span><br>重症<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic kidney disease'>CKD</span>、臓器障害のある糖尿病"] --> V1["目標 1.4 mmol/L未満<br>55 mg/dL<br>かつ50%以上低下"]

💡 2つの条件(「50%以上下げる」と「目標値未満」)を両方満たす必要がある。もともとが低めの人でも、半分に下げることが求められる。2019年版は、最大量のスタチン治療中に2年以内に2回目のを起こした患者では、1.0 mmol/L(40 mg/dL)未満を目標にすることも考慮できるとした1。

薬の作用点:LDL受容体に集約される

flowchart TD
  A["小腸"] --> A1["食事・胆汁中の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cholesterol absorption'>コレステロール吸収</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ezetimibe'>エゼチミブ</span>が阻害"]
  A --> A2["胆汁酸の再吸収(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Enterohepatic circulation'>腸肝循環</span>)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='bile acid sequestrant'>胆汁酸吸着薬</span>が阻害"]
  B["肝細胞のコレステロール合成"] --> B1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ATP-citrate lyase (ACLY)'>ATPクエン酸リアーゼ</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='bempedoic acid'>ベンペド酸</span>が阻害"]
  B1 --> B2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='3-hydroxy-3-methylglutaryl coenzyme A'>HMG-CoA</span>還元酵素<br>スタチンが阻害"]
  A1 --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='in the hepatocyte'>肝細胞内</span>のコレステロールが減る"]
  A2 --> C
  B2 --> C
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-density lipoprotein'>LDL</span>受容体の発現が増える"]
  P["血中の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proprotein convertase subtilisin/kexin type 9'>PCSK9</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-density lipoprotein'>LDL</span>受容体の分解を促す"] --> P1["抗<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proprotein convertase subtilisin/kexin type 9'>PCSK9</span>抗体が結合して除去"]
  P1 --> D
  D --> E["血中の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-density lipoprotein'>LDL</span>を肝臓が回収<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-density lipoprotein cholesterol'>LDL-C</span>が下がる"]

スタチン

主な薬:、、(ここまでが重要)、、、フルバスタチン、ピタバスタチン。

作用機序と脂質への効果

  • 還元酵素をに阻害する。
  • 吸収後すぐに肝臓へ入る(で肝臓に取り込まれる)ため、主な作用は肝臓で起こる。
  • コレステロールの新規合成が減る → 受容体の発現が増える → 血中のの取り込みが増える。
  • 用量に応じて血漿を最大55%程度下げる。トリグリセリドも下げ、をわずかに上げる。

スタチン療法の強度

使う薬と用量によって、強度の異なるスタチン療法を区別できる(括弧内の用量も同じ強度に入る)。

強度 の低下目標 薬と用量
高強度 50%以上 (40)〜80 mg、20(40)mg
中強度 30〜50% 10(20)mg、(5)10 mg、20〜40 mg、40(80)mg、40 mg、フルバスタチン80 mg、フルバスタチン40 mgを1日2回、ピタバスタチン2〜4 mg
低強度 30%未満 10 mg、10〜20 mg、20 mg、フルバスタチン20〜40 mg、ピタバスタチン1 mg

/EASも、平均して50%以上下げる用量を高強度、30〜50%下げる用量を中強度と定義している1。承認用量の上限は国によって異なる。

臨床での使い方

副作用とモニタリング

に基づけば、のよい安全な薬である。

副作用 内容と対応
軽いもの 消化器症状、の上昇、不眠、皮疹
筋症状 筋痛(筋痛)のために飲めなくなる患者がいる。その場合は減量や他のを考える(スタチン関連筋障害)
重いもの 、と、それに続く重い腎不全(薬剤性腎障害)

/EASは、これらをもう少し定量的に示している1。

  • では、が基準値上限の10倍以上(しばしば40倍以上)になる。頻度は10万人年あたり1〜3例である。
  • 筋症状は観察研究では10〜15%と報告される。しかしした試験ではとの差がないか、あってもわずかで、思い込みによる症状(ノセボ効果)が一部を説明すると考えられている。
  • :の軽い上昇が0.5〜2%に起こるが、真の肝毒性とは関係せず、定期的な測定は不要とされた。
  • 新規の糖尿病がに増える(4年間で255人に1人)。それでも高リスク患者では心血管リスクの減少のほうがはるかに大きい。
検査 いつ・どう対応するか1
脂質() 開始前に2回以上。開始後・変更後は8(±4)週で。目標到達後は年1回
開始前と、開始・増量の8〜12週後に1回。その後は症状がなければ不要。3倍以上なら中止か減量
開始前に測る。基準値上限の4倍を超えていれば開始しない。定期測定は不要で、筋痛が出たら測る。10倍を超えたら中止し腎機能を確認する

⚠️ 相互作用:・・ピタバスタチン以外のスタチンは、主に肝臓ので代謝される。を阻害する薬を併用すると、スタチンの血中濃度が上がって筋障害が起こりやすい。代表は、・などの、・などのマクロライド、、・、、、である1。

エゼチミブ

項目 内容
作用機序 小腸でのコレステロールとの吸収を選択的に阻害する(のに作用)
副作用 で代謝されないので、肝毒性の可能性は低い
臨床での使い方 単剤でも高いを下げるが、スタチンとの併用で効果が高まる。では、①最大量のスタチンで目標に届かないときにスタチンに追加する第二選択、②スタチン不耐や禁忌のときに用いる

は単剤で10 mg/日によりを15〜22%、スタチンへのでさらに21〜27%下げる1。

💡 吸収を止めると肝臓に届くコレステロールが減り、肝臓は受容体を増やして血中から補おうとする。スタチン(合成を止める)と(吸収を止める)は別の供給路を断つので、併用で効果が足し算になる。

PCSK9阻害薬

主な薬:、(、皮下注射)。

  • は肝臓でつくられて血中へ分泌されるタンパクで、受容体に結合すると、受容体を細胞内でリソソーム分解へ導く。抗体が血中のを捕まえて除くと、受容体が分解されずに細胞表面へ戻り、肝細胞の受容体密度が上がる1。
  • 抗抗体は「細胞内タンパクに対する抗体」と説明されることがあるが、抗体が標的にするのは血中を循環するである。細胞内での合成そのものを止めるのは、小分子干渉のである。
  • を平均約60%下げる。スタチンは血中を増やすので、スタチンとの併用で最もよく効く1。

臨床での使い方:遺伝性のやで、第一選択の薬物療法でも目標値に届かないときに推奨される。単剤でも併用でも使える。スタチンやと併用するとも心血管イベントも減らす非常に強い薬だが、治療費が高く長期の安全性のデータが限られる。が見合うのはの患者に限られ、医療資源の限られた国では使えないこともある。

ベンペド酸

項目 内容
作用機序 を阻害する(内因性コレステロール合成で還元酵素より上流の酵素)。で活性化されるで、活性化酵素ACSVL1は骨格筋に発現していないため、スタチンのような筋の副作用が起こらない
副作用 痛風のリスクが上がる
臨床での使い方 現行のでは、スタチン不耐の患者でと組み合わせて、または目標に届かないときスタチンに追加して、心血管リスクを下げるために推奨される

の心血管を示したのがCLEAR Outcomes試験である。スタチン不耐で心血管疾患があるか高リスクの13,970例で、の低下率はより21.1ポイント大きく、(心血管死・・・冠)は11.7%対13.3%(0.87)に減った。ただし脳卒中・心血管死・には有意な差がなかった。痛風(3.1%対2.1%)・(2.2%対1.2%)と、クレアチニン・尿酸・の軽い上昇が多かった3。

💡 痛風が増えるのは、が腎でのを落として血清尿酸を上げるためである。痛風の既往がある人では尿酸を監視する(痛風との薬物療法)。

2025年の/EAS焦点改訂は、スタチンを使えない患者には、心血管利益が証明された非スタチン療法(・・モノクローナル抗体)を、単独または組み合わせて用いるとした。どれを選ぶかは、目標まであとどれだけを下げる必要があるかで決める2。

その他の脂質低下薬

フィブラート

項目 内容
主な薬 、
作用機序 の作動薬。脂肪酸のを促し、を活性化し、を抑える。肝臓の産生を減らし、の取り込みを増やす
脂質への効果 血中のとトリグリセリドを大きく下げ、を約10%下げ、を約10%上げる。フィブリノゲンを下げ、を改善し、NF-κBの発現を抑えての炎症を抑える
副作用 まれだが重いものとして、筋炎による、。軽い消化器症状。クロは胆石をつくりやすい()
臨床での使い方 (トリグリセリドとコレステロールの上昇、低)。が低くのリスクが高いとき。は尿酸の排泄を促すので、とが並ぶときに役立ちうる

/EASでは、の効果はトリグリセリドで約50%の低下、とでそれぞれ20%以下の変化とされ、基礎値によって大きく変わる1。

⚠️ とスタチン:「」という従来の説明は不正確。 従来は「がを介してスタチンの代謝を阻害するので」と説明されてきた。/EASによれば、はスタチンのの経路を阻害して血中濃度を著しく上げる。筋障害が増えるのでスタチンとの併用は避けるべきであり、併用を避けるというは従来の説明と同じである。一方、・では、スタチンと併用しても筋障害の増加はほとんどない1。

現行の位置づけとして、/EAS 2019年版では、が目標に達していてトリグリセリドが2.3 mmol/L(200 mg/dL)を超える患者に限り、スタチンへのかの追加を「考慮してもよい」(クラスIIb)とした。高リスク以上でスタチン治療中もトリグリセリドが1.5〜5.6 mmol/Lの患者には、高用量の(2 g×2回/日)のスタチンへの追加を考慮すべきとされる(クラスIIa)1。2025年の焦点改訂もこれを要点に挙げている2。

胆汁酸吸着薬

項目 内容
主な薬 、、()
作用機序 後、小腸で胆汁酸と結合し、再吸収とを妨げる。外因性コレステロールの吸収が減り、肝臓では内因性コレステロールを胆汁酸へ変える代謝が増える。受容体の発現が増えて血中が下がる
脂質への効果 は下がる。コレステロールは変わらず、トリグリセリドは望ましくない上昇を示すことがある
副作用 腸管の局所で起こる消化器症状(悪心・腹部膨満・便秘・下痢)がに出る。一部の薬やビタミンの吸収を妨げる
臨床での使い方 主にだけが大きく上がっている場合。。消化器症状は低用量でも多く、実用を制限する。少量から始め、十分な水と一緒に飲むと軽くなる。副作用が少ないので小児にも使える
  • に使う理由:などは腸管内で(とくにを受ける、ジゴキシンも)と結合して再吸収を断ち、排泄を早める。
  • 同じ理由で他の薬とも結合するので、は他の薬の4時間前か1時間後に飲む。は相互作用が少なく、スタチンと一緒に飲める1。
  • (A・D・E・K)の吸収も落ちる。
  • /EASでは、最大量でを18〜25%下げ、目標未達時のスタチンとの併用は「考慮してもよい」(IIb)である1。

ニコチン酸

項目 内容
作用機序 血管壁のを活性化し、の分泌を抑えて、・・トリグリセリドを下げる
副作用 皮膚血管の拡張による。少しずつ増量し、最初の数回は(アスピリン)を併用すると防げる
禁忌 を起こすので、インスリン抵抗性を悪化させるので糖尿病、尿酸を上げるので痛風
臨床での使い方 との併用でコレステロールを最大60%下げうる。100 mgを1日2〜3回から始めて治療量までゆっくり増やす。ただし現行のガイドラインは使用を勧めていない

⚠️ は過去の薬として理解する。 や配合剤のでは利益がなく、重い副作用が増えた。欧州ではを含む薬は承認されていない1。はプロスタグランジンD2による血管拡張で、アスピリンがこれを抑える。

LDL-Cを下げる治療戦略

の管理の主な流れは次のとおりである(2019年版/EASの図)。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='total cardiovascular risk'>総心血管リスク</span>を評価<br>リスク区分の表を使う"] --> B["ベースラインの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-density lipoprotein cholesterol'>LDL-C</span>を測る"]
  B --> C["一部の低・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='moderate risk'>中等度リスク</span>患者では<br>リスク<span class='jp-term jp-term-diagram' title='modifier'>修飾因子</span>・画像(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='latent'>潜在性</span>動脈硬化)で<br>リスクを再分類するか検討"]
  C --> D{"薬物療法の適応は?<br>リスク×<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-density lipoprotein cholesterol'>LDL-C</span>の表"}
  D -->|"なし"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lifestyle advice'>生活指導</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lifestyle intervention'>生活習慣介入</span>"]
  D -->|"あり"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Goals'>治療目標</span>を決める<br>目標値の表"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-intensity statin'>高強度スタチン</span>を<br>推奨最大量・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tolerance (of a dose/treatment)'>耐容</span>最大量まで"]
  G --> H{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-density lipoprotein cholesterol'>LDL-C</span>は目標に到達?"}
  H -->|"はい"| I["経過観察<br>年1回、必要ならより頻回に"]
  H -->|"いいえ"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ezetimibe'>エゼチミブ</span>を追加"]
  J --> K{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-density lipoprotein cholesterol'>LDL-C</span>は目標に到達?"}
  K -->|"はい"| I2["経過観察<br>年1回、必要ならより頻回に"]
  K -->|"いいえ"| L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proprotein convertase subtilisin/kexin type 9'>PCSK9</span>阻害薬を追加<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary prevention'>二次予防</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='very high risk'>超高リスク</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary prevention'>一次予防</span>では<span class='jp-term jp-term-diagram' title='familial hypercholesterolemia, FH'>家族性高コレステロール血症</span>に<br>別の主要危険因子を伴う<span class='jp-term jp-term-diagram' title='very high risk'>超高リスク</span>"]

2019年版の推奨の強さは次のとおりである1。

段階 推奨
を最大量まで I・A
スタチン最大量で未達 → 併用 I・B
スタチン+で未達のの → 阻害薬 I・A
同じく未達のの → 阻害薬 I・C
のないの → 阻害薬 IIb・C
スタチンがどの用量でも使えない → IIa・C
さらに阻害薬をに追加 IIb・C
目標未達時にスタチン+ IIb・C

2019年版と2025年焦点改訂の違い

論点 2019年版(従来の流れ) 2025年焦点改訂
健常者のリスク推定 10年以内の致死的イベントを推定するSCORE 70歳未満の・70歳以上の。・・画像をリスクとして使う2
スタチンを使えない患者 (クラスIIa)、次いで阻害薬を追加(クラスIIb) 心血管利益の証明された非スタチン療法(・・抗体)を、必要な低下幅に応じて選ぶ2
上の流れどおり段階的に強化 入院前から治療中なら入院中に強化。未治療でスタチン単独では届きそうにないなら、入院中から+の併用を考慮2
流れ図には含まれない 成人は生涯に1回は測り、50 mg/dL超をリスク増強因子とする2
特殊な集団 流れ図には含まれない 40歳以上の感染者にはのスタチン。心毒性の高リスク例ではスタチンを考慮()2
流れ図には含まれない 安全性と低下効果の示されていない・ビタミンは使わない2

💡 「まずスタチン、足りなければ」という骨格は変わっていない。変わったのは、スタチンを飲めない人に使える、心血管利益の証明された選択肢が増えたこと、そしてリスクが極めて高いでは段階を待たずに最初から併用する方向へ進んだことである。

まとめ

  • のは心血管イベントの予防であり、まずを低・中等度・高・超高の4群に分ける。・糖尿病・・は原則として高リスク以上。その他はリスク推定モデルを使う(2019年版のSCOREは2025年改訂で・に置き換わった)。
  • 薬物療法の適応は、リスクと未治療のの組み合わせで決まる。リスクが高くが高いほど薬を使う。
  • の目標は、低リスク3.0、中等度2.6、高リスク1.8(かつ50%以上低下)、1.4 mmol/L未満(かつ50%以上低下)。
  • 第一選択はスタチン(還元酵素阻害→受容体増加)。高強度は50%以上の低下。筋障害・、阻害薬との相互作用、新規糖尿病に注意し、は開始前と症状時に測る。
  • 目標未達なら(吸収阻害)、さらに抗体(血中を除き受容体を守る)。
  • は阻害で筋症状が少なく、CLEAR Outcomesでを減らしたが、痛風と胆石が増える。
  • はトリグリセリドを大きく下げる。はの阻害でスタチン濃度を上げるので併用しない(従来の説は誤り)。には作用がある。
  • はを下げるがトリグリセリドを上げうる。他剤・の吸収を妨げ、にも使う。
  • は・高血糖・を起こし、現行の欧州ガイドラインでは使わない。
  • 臨床面の詳細は、家族性の病型はを参照。

出典

  1. 1.2019 ESC/EAS Guidelines for the management of dyslipidaemias: lipid modification to reduce cardiovascular risk(European Heart Journal(Mach F, et al., 2020, DOI 10.1093/eurheartj/ehz455)・2020)ジュネーヴ大学のリポジトリ(unige:165849)から誌上版PDF(80頁)を取得して確認した。表4の心血管リスク分類(超高リスク:臨床的・画像上明らかなASCVD、臓器障害を伴うか主要危険因子3つ以上の糖尿病、罹病20年超の早期発症1型糖尿病、eGFR 30未満のCKD、SCORE 10%以上、ASCVDか他の主要危険因子を伴うFH。高リスク:総コレステロール8 mmol/L超・LDL-C 4.9 mmol/L超・血圧180/110以上の単一危険因子、他の主要危険因子のないFH、臓器障害はないが罹病10年以上か他の危険因子を伴う糖尿病、eGFR 30〜59のCKD、SCORE 5〜10%未満。中等度:他の危険因子のない罹病10年未満の若年糖尿病(1型35歳未満・2型50歳未満)、SCORE 1〜5%未満。低リスク:SCORE 1%未満)と、表5のリスク区分×未治療LDL-C 6区分の介入方針と推奨クラス/エビデンスレベルの全セル。LDL-C目標(超高リスク50%以上低下かつ1.4 mmol/L未満、高リスク50%以上低下かつ1.8未満、中等度2.6未満を考慮、低リスク3.0未満を考慮、2年以内に再発した例で1.0未満を考慮)。薬物療法の推奨(高強度スタチンを最大耐容量まで I・A、未達ならエゼチミブ I・B、超高リスクの二次予防で未達ならPCSK9阻害薬 I・A、FHのない超高リスク一次予防では IIb・C、スタチンがどの用量でも使えなければエゼチミブ IIa・C、さらにPCSK9阻害薬 IIb・C、胆汁酸吸着薬の併用 IIb・C)。高強度=平均50%以上、中強度=30〜50%の低下の定義。横紋筋融解ではCKが基準値上限の10倍以上(しばしば40倍以上)、頻度は10万人年あたり1〜3例。観察研究の筋症状10〜15%と盲検試験での差の乏しさ。ALT上昇0.5〜2%で定期的なALT測定は不要。新規糖尿病は4年間で255人に1人。プラバスタチン・ロスバスタチン・ピタバスタチン以外はCYPで主に代謝され、表10のCYP3A4関連の相互作用薬、ゲムフィブロジルは抱合(グルクロン酸抱合)経路でスタチン代謝を阻害し併用は避けるべきで、フェノフィブラート・ベザフィブラートでは筋障害の増加はほとんどないこと。エゼチミブはNPC1L1を介して小腸刷子縁でのコレステロール吸収を阻害し、単剤で15〜22%、スタチンへの上乗せで21〜27%下げること。胆汁酸吸着薬の機序、最大量で18〜25%の低下、HDL-C不変・トリグリセリド上昇、消化器症状、他剤の4時間前か1時間後に服用し、コレセベラムは忍容性がよく相互作用が少なくスタチンと一緒に服用できること。PCSK9モノクローナル抗体は血漿PCSK9を減らしてLDL受容体の分解を防ぎ、平均約60%下げ、スタチンは血中PCSK9を増やすこと。フィブラートはPPARαの作動薬でトリグリセリド約50%・LDL-C 20%以下・HDL-C 20%以下の変化。高トリグリセリド血症ではフェノフィブラートかベザフィブラートの併用はIIb、イコサペント酸エチルはIIa・B。ニコチン酸は試験で利益がなく重篤な有害事象が増え、欧州では承認薬がないこと。表13の脂質・ALT・CKの測定時期と対応。当時ベンペド酸は開発中で単剤約30%・エゼチミブ併用約50%の低下と記載されることを確認した。閲覧 2026-09-26
  2. 2.The '10 commandments' for the 2025 focused update of the 2019 ESC/EAS guidelines for the management of dyslipidaemias(European Heart Journal(ESC News。2025年焦点改訂の執筆委員 Mach・Roeters van Lennep・Koskinas による要約)・2026)エラスムス大学のリポジトリ(pure.eur.nl)の誌上版PDFで、2025年焦点改訂の新推奨は2019年版への追加であり変更した推奨だけが置き換わること、要点として①健常者の10年リスク推定をSCOREからSCORE2(70歳未満)・SCORE2-OP(70歳以上)へ変更、②中等度リスクや治療閾値付近では高感度CRP 2 mg/L超・Lp(a) 50 mg/dL超・画像(潜在性動脈硬化、冠動脈石灰化)などのリスク修飾因子で再分類、③スタチンを使えない患者には心血管利益が証明された非スタチン療法(エゼチミブ・ベンペド酸・PCSK9モノクローナル抗体)を必要な低下幅に応じて用いる、④ホモ接合体FHにエビナクマブ、⑤急性冠症候群で入院前から脂質低下療法を受けていれば入院中に強化し、未治療でスタチン単独では目標到達が見込めなければ入院中に高強度スタチンとエゼチミブの併用を考慮、⑥成人は生涯に1回はLp(a)を測定し50 mg/dL超をリスク増強因子とみなす、⑦トリグリセリド1.52〜5.63 mmol/Lの高・超高リスク例でスタチンに高用量イコサペント酸エチル(2 g×2回/日)の追加を考慮、⑧40歳以上のHIV感染者には一次予防としてスタチンを投与、⑨アントラサイクリンによる心毒性の高・超高リスク例にスタチンを考慮、⑩安全性とLDL-C低下効果が示されていないサプリメントを使わない、を確認した。閲覧 2026-09-26
  3. 3.Bempedoic Acid and Cardiovascular Outcomes in Statin-Intolerant Patients(New England Journal of Medicine(Nissen SEら、CLEAR Outcomes試験)・2023)抄録(PMID 36876740)で、スタチン不耐で心血管疾患があるかそのリスクが高い13,970例をベンペド酸180 mg/日とプラセボに割り付け、6か月時点のLDL-Cの低下率の差が21.1ポイント、主要複合評価項目(心血管死・非致死性心筋梗塞・非致死性脳卒中・冠血行再建)が11.7%対13.3%(ハザード比0.87)と減った一方、脳卒中・心血管死・全死亡には有意な効果がなく、痛風(3.1%対2.1%)・胆石症(2.2%対1.2%)と、クレアチニン・尿酸・肝酵素の軽度上昇が多かったことを確認した。閲覧 2026-09-26