臨床薬理学

臨床薬理学 · 18

虚血性心疾患(慢性・急性冠症候群)の薬物療法

Ischemic heart disease: chronic and acute coronary syndromes

前提:病態
心臓の酸素需要・供給に作用する薬・微小循環改善薬血液凝固に作用する薬I:抗血小板薬・線溶薬・止血薬血液凝固に作用する薬II:抗凝固薬

🧠 全体像:の薬は2つの目的で分けると整理できる。①症状を取る薬()は心筋の酸素の「需要を減らすか、供給を増やす」薬で、β遮断薬・・が柱になる。②イベントを防ぐ薬は血栓(・抗凝固薬)と動脈硬化(スタチンなど)を抑える薬である。慢性期は「β遮断薬/+アスピリン+スタチン」、は「アスピリン+阻害薬の2剤を12か月、、」、心房細動を合併したら「抗凝固薬を生涯、は短く、残すなら」が幹である。

疫学

は心血管死の最も多い原因である。年齢調整死亡率はここ数十年で下がったが、人口の増加と高齢化のため死亡の絶対数は増えている。同じように、による入院と、その結果として起こる疾患(心不全など)も増えている。

分類

慢性冠症候群

は、冠動脈の構造的な狭窄だけでなく機能的な異常も含む概念である。

大分類 内容
(構造的な冠動脈疾患) の動脈硬化(限局性またはびまん性)
やの後に安定化した
心筋やその他の(先天性冠動脈奇形など)
疾患(機能的な冠動脈疾患) の攣縮()
冠動脈の構造・機能の異常以外 貧血、頻脈、、血圧の変化など、需要と供給の釣り合いを崩す要因

急性冠症候群

病型 としてまとめるか
まとめない(のマーカーが上がらない)
ST非上昇型とともにとしてまとめる
ST非上昇型 ST上昇型とともにとしてまとめる

厳密には、ST非上昇型のうちが上がるものがで、上がらないものがである。どちらのST型でも、急性期の薬物療法の骨格(+抗凝固薬)は共通している(詳しくは)。

扱う範囲は、での狭心症状と虚血イベントの予防、のに対する前(早期)と後(長期)の薬物療法である。

心筋の酸素需給と薬の標的

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myocardial ischemia'>心筋虚血</span><br>酸素の供給が需要に追いつかない"] --> B["需要を決める因子<br>心拍数・収縮力・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='wall stress'>壁応力</span>(前負荷・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='afterload'>後負荷</span>)"]
  A --> C["供給を決める因子<br>拡張期の長さ・冠動脈の径・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxygen content'>酸素含量</span>"]
  B --> D["心拍数↓・収縮力↓<br>β遮断薬・非<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dihydropyridines'>ジヒドロピリジン系</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ivabradine'>イバブラジン</span>"]
  B --> E["前負荷↓・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='afterload'>後負荷</span>↓<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='nitrates'>硝酸薬</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dihydropyridines'>ジヒドロピリジン系</span>"]
  C --> F["拡張期を延ばす<br>β遮断薬・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ivabradine'>イバブラジン</span>"]
  C --> G["冠動脈を広げる・攣縮を解く<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='calcium channel blockers'>カルシウム拮抗薬</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nitrates'>硝酸薬</span>・ニコランジル"]
  A --> H["心筋の代謝・イオン<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='trimetazidine'>トリメタジジン</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ranolazine'>ラノラジン</span>"]

💡 は主に拡張期に流れる。心拍数を落とす薬は、を減らすと同時に拡張期を長くして供給も増やす「一石二鳥」の薬になる。

慢性冠症候群の薬物療法:症状の制御

基本の考え方

  • 目的は症状の制御である。
  • とその組み合わせは個別化する。多くの患者は原因が重なっており(例:の限局性狭窄+)、併用療法でしか満足な症状制御が得られないことも多い。「万人に合う」戦略は無い。
  • 現時点で根拠が不十分な問いが残る:古い(β遮断薬・)は新しい(、、、ニコランジル)より優れているのか。これらの薬は心血管を改善するのか。
  • 一般に、まずβ遮断薬との一方または両方を使い、必要に応じて他のを追加する。

β遮断薬

項目 内容
作用 βによる・・。心拍数を落として拡張期を延ばし、を改善する。全体として心臓のと消費を減らす
効く病型 には無効、には有益
心臓の副作用 徐脈、房室ブロック、、、
その他の副作用 低血糖の隠蔽、糖尿病誘発作用、倦怠感、抑うつ、
使い方 ゆっくり増量し、やめるときも(必要なら)徐々に減量する
主な薬 ()、()、(β遮断とα1遮断を併せ持つ)

💡 にβ遮断薬が効かないのは、を介した血管拡張まで止めてしまい、による収縮が相対的に優位になりうるからである。攣縮にはとを使う。急な中止は、増えていたβ受容体が一気に刺激されて狭心症や頻拍のを起こすので、する。

ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬

項目 内容
作用 冠動脈を拡げて心臓へのを増やす。末梢血管も拡げて血圧を下げ、を減らす。には作用しない(非と異なる)
効く病型 に加え、にも有益
他の用途 であると同時に(高血圧)
最もよく使われる。副作用の面で扱いやすいが、足首の浮腫が多い
レルカニジピン 主にとして使う。足首の浮腫を起こしにくい
強いで副作用が多い。重症、閉塞性、心不全では使わない

非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬

項目 内容
作用 にはに似るが、も遅らせる。このためβ遮断薬との併用は避ける
効く病型 に加え、にも有益
他の用途 (例:の速い心房細動)
避ける場面 が低下した患者。でさらに機能を落としうる
主な薬 、

💡 がやで危ないのは、心拍出を増やせない(出口が狭い)心臓で末梢血管だけが急に開くと、血圧が落ち、でがさらに悪くなるからである。の禁忌と同じ理屈である。

硝酸薬

項目 内容
作用 冠動脈と末梢血管を拡げ、心臓のを減らしを改善する。低用量では静脈だけが拡がり、前負荷が下がる
耐性 耐性が生じうる
効く病型 に加え、にも有益
副作用 最も多いのは低血圧と持続する頭痛。頭痛は治療開始時に強く、耐性ができると軽くなる
重要な禁忌 でのの障害()、阻害薬との併用、重症、
短時間作用。時に舌下(スプレー)
長時間作用。経口と経皮で使う

⚠️ などの阻害薬との併用は、どちらも環状GMPを増やすので重い低血圧を起こす。 では、低血圧、著しい徐脈または頻脈、、既知の重症、24〜48時間以内の阻害薬使用でを投与しない1。で危ないのは、右室が前負荷に頼って拍出しているため、で前負荷が落ちると心拍出量が崩れるからである。

💡 長時間作用型のには、を使わない(または少ない)時間帯を設けて耐性を減らすことが勧められる2。なお経皮のとして一般的なのはで、は主に経口で使う。

その他の抗狭心症薬

薬 機序 注意
のファニー電流()を直接阻害して心拍数だけを下げ、拡張期を延ばしてを増やす が保たれている場合と、でない場合(例:心房細動)には使わない。に作用する薬なので心房細動では効かない
の代謝を変える。を阻害し、細胞内の生成を減らす 脂肪酸の代わりにブドウ糖を燃やすと、同じ酸素でより多くのATPが得られる
Naチャネル(遅延Na電流)の阻害で細胞内Ca濃度を下げ、心室壁の張力を減らしてを下げる QT延長を起こしうる
ニコランジル に似た構造と作用機序をもち、耐性が生じにくい 基に加えてを開く作用も持つ

現行の 2024年版は、を 40%未満で症状が残る患者の追加薬として考慮し(クラスIIa)、 40%超で臨床的な心不全の無い患者への追加は推奨しない(クラスIII)。またなど強い阻害薬との併用も推奨しない(クラスIII)2。「収縮能が保たれた左室では使わない」という原則は、この推奨と同じ方向である。

抗狭心症薬の組み合わせ(ESC 2024年版の図)

2024年版は、7つの薬(群)を多角形の頂点に置き、どの2剤を組み合わせるとよいか、また各薬がどの状態で適応・禁忌になるかを1枚の図にしている2。

各薬の適応と禁忌

薬 特別な禁忌が無ければ適応 特定の状況で適応になりうる 禁忌
β遮断薬 、、高血圧、心房細動、 、、1型糖尿病
、、高血圧 —
・ 、、心房細動 — 、
・ニコランジル 、
—
、 — —
、 — —

2剤の組み合わせ

評価 組み合わせ 理由
有用な組み合わせ β遮断薬+
β遮断薬+・ニコランジル
+・
+
・+・ニコランジル
・ニコランジル+
「心拍数を下げる薬」と「血管を拡げる薬」の組み合わせで、互いの反射(血管拡張によるなど)を打ち消す
推奨されない ・+ 心拍数の過度の低下。阻害での濃度も上がる
似た作用をもつ β遮断薬+・
β遮断薬+
+・ニコランジル
同じ方向の作用を重ねる。前2つは徐脈・房室ブロック、最後は低血圧が問題になる
可能な組み合わせ とは、上の5つの薬(群)のどれとも、また互いにも組み合わせてよい 心拍数や血圧をほとんど変えないため、心拍数・血圧が低い患者でも使いやすい
flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic coronary syndrome (stable angina)'>慢性冠症候群</span>の狭心症"] --> B["全員:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='short-acting (regular)'>速効型</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='nitrates'>硝酸薬</span>を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ictal'>発作時</span>に<br>(クラスI)"]
  B --> C["初期治療:β遮断薬 または<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='calcium channel blockers'>カルシウム拮抗薬</span>(両方も可)<br>(クラスI)"]
  C --> D{"単剤で症状が残る?"}
  D -->|"はい"| E["β遮断薬+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dihydropyridines'>ジヒドロピリジン系</span><br>(禁忌が無ければ、IIa)"]
  E --> F{"なお症状が残る・使えない?"}
  F -->|"はい"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='long-acting nitrate'>長時間作用型硝酸薬</span> または <span class='jp-term jp-term-diagram' title='ranolazine'>ラノラジン</span>(クラスIIa)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='left ventricular ejection fraction'>LVEF</span> 40%未満なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ivabradine'>イバブラジン</span>(クラスIIa)<br>ニコランジル・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trimetazidine'>トリメタジジン</span>(クラスIIb)"]
  D -->|"いいえ"| H["継続し、イベント予防の薬を併用"]
  G --> I["心拍数・血圧・併存症に合わせて<br>組み合わせを個別化"]

出典:推奨度は2

慢性冠症候群の薬物療法:イベントの予防

基本の考え方

  • 目的は急性冠イベント()の発生を防ぐことである。
  • 主な薬の群は、、、阻害薬である。

抗血栓薬の単剤療法(急性心筋梗塞や最近のPCIの既往が無い場合)

(アスピリン)を経口または静注で用いる。

項目 内容
位置づけ で最もよく使われる
機序 酵素を不可逆的に阻害(アセチル化)し、の産生を抑える。は血小板を強く活性化し凝集させる
用量 では低用量で使う。この用量では鎮痛・作用は無い
副作用 出血、消化管の副作用(など)

💡 血小板には核が無く新しいを作れないので、アスピリンの効果は血小板の寿命(約7〜10日)のあいだ続く。一方、血管内皮はを作り直せるので、低用量ならだけが選択的に抑えられる。

現行の 2024年版では、でアスピリン75〜100 mg/日を生涯続け、心筋梗塞かの既往がある患者では75 mg/日がアスピリン単剤の安全で有効な代わりになる(いずれもクラスI)2。

PCIを受けた場合の抗血栓療法

2024年版の既定の戦略は、後にアスピリン+のを6か月(クラスI)、その後はアスピリンまたはの単剤を長期に(クラスI)である2。時間軸で見ると、開始から6か月までが、6か月以降が単剤で、1か月と3か月の区切りは出血高リスク例でを早く終える時点にあたる。

論点 従来の方針 現行( 2024年版)
の期間 6か月 既定は最長6か月。出血高リスクでは1〜3か月で単剤へ(クラスI)2
後の単剤 アスピリンを生涯 アスピリン75〜100 mgを生涯、または75 mg(いずれもクラスI)2
では必要 消化管出血リスクが高い患者で、を使う限り推奨2

💡 が選ばれる理由。 は肝臓のCYP2C19などで2段階に活性化されるである。とはCYP2C19を阻害してを減らすので、との併用は勧められない2。同じ理由で、CYP2C19の機能喪失アレルを持つ人は血小板抑制が弱く、後の虚血イベントが多い2。これが「抵抗性」の実体の一つである。

脂質低下療法

詳しくはの薬物療法を参照。

現行の 2024年版も、コレステロール1.4 mmol/L未満かつから50%以上の低下を目標とし、→→阻害薬の順に強める(スタチンと阻害薬はクラスI・レベルA)。スタチンが使えずでも届かない場合はを併用する2。この推奨の根拠になったCLEAR Outcomes試験では、スタチン不耐の13,970例でが11.7%対13.3%(0.87)に減り、痛風とが増えた3。

その他の予防薬

目的は、高血圧や2型糖尿病など他の心代謝リスクを減らすことである。

薬 従来の方針 現行( 2024年版)
阻害薬(阻害薬) 予防薬として挙げる 高血圧・糖尿病・心不全を合併すれば阻害薬(または)を推奨(クラスI)2
阻害薬、受容体作動薬 予防薬として挙げる 2型糖尿病を合併すれば、や併用薬によらず推奨(クラスI)2。詳しくは糖尿病の薬物療法
記載なし 動脈硬化性の冠動脈疾患で低用量0.5 mg/日を考慮(クラスIIa)2。根拠のLoDoCo2試験(慢性冠疾患5,522例)では心血管イベントの複合が6.8%対9.6%(0.69)に減ったが、非心血管死はやや多い傾向だった4

急性冠症候群の薬物療法

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute coronary syndrome, ACS'>急性冠症候群</span>の診断"] --> B["アスピリン負荷量<br>(第一選択)"]
  A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parenteral anticoagulant'>非経口抗凝固薬</span><br>第一選択は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unfractionated heparin (UFH)'>未分画ヘパリン</span>"]
  A --> D["症状への対処<br>モルヒネ・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antiemetics'>制吐薬</span><br>酸素は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='peripheral oxygen saturation'>SpO2</span> 90%未満のときだけ"]
  A --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proton pump inhibitor'>PPI</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pantoprazole'>パントプラゾール</span>"]
  B --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coronary angiography'>冠動脈造影</span>で治療法を決定"}
  C --> F
  F -->|"PCI"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dual antiplatelet therapy'>DAPT</span> 12か月<br>アスピリン+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prasugrel'>プラスグレル</span> または <span class='jp-term jp-term-diagram' title='ticagrelor'>チカグレロル</span><br>(次善は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clopidogrel'>クロピドグレル</span>)"]
  F -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coronary artery bypass grafting'>CABG</span>を選ぶ可能性"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clopidogrel'>クロピドグレル</span>を前投与していれば<br>効果が薄れるまで約5日待つ"]
  G --> I["その後アスピリンを生涯"]
  I --> J["再発予防:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lipid-lowering drug'>脂質低下薬</span>・レニン系阻害薬<br>β遮断薬(主に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ejection fraction'>駆出率</span>低下例)・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proton pump inhibitor'>PPI</span><br>必要なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Antianginal drugs'>抗狭心症薬</span>"]

血行再建前の薬

抗血小板薬

  • 第一選択はアスピリン単剤の負荷量。
  • 前のアスピリン+のは、もはや必須ではない。経皮的治療より外科的が選ばれることがあり、その場合の効果が術中の大出血リスクになるため、効果が薄れる(約5日)まで待たなければならない。

💡 は血小板の受容体を不可逆的に塞ぐので、薬を止めても、骨髄から新しい血小板が入れ替わるまで効果が残る。これが「約5日待つ」の理由である。冠動脈の解剖が分かる前に投与すると、が必要と分かったときに手術を遅らせてしまう。

論点 現行( 2023年版)
アスピリン 経口150〜300 mg(静注なら75〜250 mg)で負荷し、75〜100 mg/日で長期維持(クラスI)1
阻害薬の前投与 冠動脈の解剖が不明で24時間以内の早期を予定するではルーチンに行わない(クラスIII)。のPPCIでは考慮してよい(クラスIIb)1

非経口抗凝固薬

の利点 説明
① 効果をすぐ測れる や、ACTと略すで効き具合をすぐ測れ、用量を調整しやすい。はaPTIと表記されることもある
② 拮抗薬がある で中和できる
③ 腎機能の影響が小さい 主に腎以外で処理される

💡 は主に腎臓から排泄されるので、腎機能が落ちると蓄積する。 2023年版の用量表でも、1 mg/kg 1日2回皮下注は30 mL/分未満で1日1回に減らす。は70〜100 U/kg静注後、 60〜80秒を目標に調整する1。またはを部分的にしか中和できない。

現行では、診断した時点で全例にを始め(クラスI)、中は70〜100 IU/kgを静注する(クラスI)。のPPCIではが代替になり(クラスIIa)、早期に造影しないではを用いる(クラスI)1。

その他の薬

薬 目的 現行( 2023年版)
モルヒネ 鎮痛、不安の軽減 静注オピオイドを考慮(クラスIIa)。強い不安には軽い鎮静薬も考慮(クラスIIa)1
または モルヒネによる、または痛みに伴う悪心 —
酸素 90%未満のときだけ 低酸素血症(SaO2 90%未満)で推奨(クラスI)、低酸素血症が無ければに使わない(クラスIII)1
の 消化管出血リスクを下げる を行う消化管出血高リスク例に推奨(クラスI)1

⚠️ モルヒネは悪心・嘔吐を増やし、のを遅らせる1。経口の阻害薬の効き始めも遅れうるので、必要な分だけ使う。酸素を低酸素血症の無い患者に一律に使わないのは、利益が示されず、高酸素が冠血管を収縮させうるからである。

血行再建後の薬

PCI後のDAPT

項目 内容
第一選択 アスピリン+、またはアスピリン+
第二選択 アスピリン+
期間 では12か月(の後は6か月)、その後アスピリンを生涯
理由 とはより強力なADP拮抗薬で、非反応がずっと少ない(は2段階の代謝を要するため)
抗凝固薬を使っている患者 として使えるのはアスピリン+だけで、・は禁忌

2023年版の既定の戦略は、後の最初の12か月はアスピリン+阻害薬(クラスI)、12か月以降はアスピリン(クラスI)である1。

阻害薬 負荷量・( 2023年版) 位置づけ
60 mg負荷、10 mg/日(75歳以上か体重60 kg未満は5 mg/日) 阻害薬未使用でへ進む例に推奨(クラスI)。例ではより優先を考慮(クラスIIa)
180 mg負荷、90 mg 1日2回 治療戦略(侵襲的・保存的)を問わず推奨(クラスI)
300〜600 mg負荷、75 mg/日 ・が使えない、耐えられない、禁忌のときに推奨(クラスI)

出典:1

💡 はを要さない可逆的な阻害薬、は1段階の活性化で済むである。どちらもCYP2C19のの影響を受けにくく、効きが安定している。その代わり出血が多いので、出血高リスクでは期間の短縮や切り替えを考える。 2023年版は、出血を減らす代替として、3〜6か月で問題が無く虚血高リスクでない例の単剤化(クラスIIa)、強力な薬からへの段階的な切り替え(クラスIIb)、出血高リスク例の1か月後の単剤化(クラスIIb)を挙げ、最初の30日以内の切り替えは推奨しない(クラスIII)1。

新たなイベントの予防

  • 、阻害薬、β遮断薬(主にが低下した患者)、。
  • 必要に応じて。
薬 現行( 2023年版)
スタチン 入院後できるだけ早くを始め、コレステロール1.4 mmol/L未満かつ50%以上の低下を目指す。4〜6週で届かなければ(クラスI)、さらに阻害薬(クラスI)1
β遮断薬 40%以下なら心不全症状の有無にかかわらず推奨(クラスI)1
阻害薬 心不全症状、 40%以下、糖尿病、高血圧、のいずれかがあれば推奨(クラスI)1

抗血小板薬と抗凝固薬の併用

やの患者が心房細動を合併していると、と抗凝固薬の併用が必要になることが最も多い(詳しくは心房細動の薬物療法)。この場合、出血と血栓のリスクを見積もり、それに基づいて併用の期間を決める。

  • 原則:抗凝固薬(または)は長期(生涯)続け、は短期で中止する。
  • ADP阻害薬(阻害薬)の中ではだけを使う。
  • 先にアスピリンを止め、次にを止める。
時期 でを受けた場合 の場合
(または++アスピリン) 1週間 1週間
2剤療法(または+) 6〜12か月 12か月
(または) 生涯 生涯
flowchart TD
  A["心房細動+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='percutaneous coronary intervention'>PCI</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='triple therapy'>3剤療法</span>:抗凝固薬+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clopidogrel'>クロピドグレル</span>+アスピリン<br>最長1週間"]
  B --> C["アスピリンを中止"]
  C --> D["2剤療法:抗凝固薬+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clopidogrel'>クロピドグレル</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic coronary syndrome (stable angina)'>慢性冠症候群</span>:6〜12か月<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute coronary syndrome, ACS'>急性冠症候群</span>:12か月"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clopidogrel'>クロピドグレル</span>を中止"]
  E --> F["抗凝固薬単剤を生涯"]
論点 従来の方針 現行
の2剤療法 6〜12か月 アスピリンを1週間以内で止め、虚血リスクが高くなければ最長6か月、高ければ最長12か月の抗凝固薬+、その後は抗凝固薬単独(クラスI)。のリスクが出血リスクを上回れば3剤を1か月以上(合計6か月以内)も考慮(クラスIIa)2
の2剤療法 12か月 最長1週間のの後、NOACと単剤の(望ましくは)を最長12か月(クラスI)。12か月でを止める(クラスI)1
抗凝固薬の種類 または 使えるならをより優先(クラスI)2
・ 禁忌 の一部としては推奨しない(クラスIII)1。2剤療法の一部としては(データは乏しいがも)を考慮しうると本文は述べる2

💡 DOACには、、、があり、の代表はワルファリンである。は出血が多いので、が最も起こりやすい最初の期間だけにとどめ、そこから先は「抗凝固薬が心房細動の塞栓も冠動脈の血栓もある程度防ぐ」ことを頼りにを減らしていく。

まとめ

  • の薬は「症状を取る薬」と「イベントを防ぐ薬」の2本立て。には機能的な病型(、)も含まれる。
  • の初期治療はβ遮断薬か(両方も可)、発作には。β遮断薬はに無効、とはに有効。
  • 非はβ遮断薬と併用しない(房室ブロック・徐脈)、低下で避ける。とは重症とで避ける。はと阻害薬併用で禁忌、耐性には。
  • 第二選択:(・ 40%未満で追加、非と併用しない)、(阻害)、(遅延Na電流阻害、QT延長)、ニコランジル(に似て耐性が少ない)。
  • 慢性期の予防:アスピリン低用量を生涯(も代替になる)。後はアスピリン+を6か月。中は、と併用するなら。でコレステロール1.4 mmol/L未満、届かなければ→阻害薬。
  • :アスピリン負荷、(測れる・拮抗できる・腎に左右されにくい)、酸素は 90%未満のみ、モルヒネと、。阻害薬の前投与はルーチンにしない(なら約5日待つ)。
  • 後はアスピリン+またはを12か月(次善は)、その後アスピリンを生涯。 40%以下ではβ遮断薬、阻害薬。
  • 心房細動の合併:抗凝固薬は生涯、3剤は1週間、次にアスピリンを止め、抗凝固薬+をで最長6〜12か月・で12か月、最後はも止める。阻害薬は。
  • 臨床面の詳細は狭心症、非の治療、の治療、と適応を参照。

出典

  1. 1.2023 ESC Guidelines for the management of acute coronary syndromes(European Society of Cardiology・2023)誌上版PDF(リエージュ大学リポジトリORBiのehad191.pdf)で次を確認した。推奨表3で低酸素血症(SaO2 90%未満)に酸素を推奨し(I/C)、低酸素血症の無い患者への日常的な酸素投与を推奨しない(III/A)、痛みには静注オピオイドを(IIa/C)、強い不安には軽い鎮静薬を考慮する(IIa/C)こと、モルヒネが悪心・嘔吐を増やし経口薬の吸収を遅らせること、低血圧・著しい徐脈または頻脈・右室梗塞・既知の重症大動脈弁狭窄・24〜48時間以内のPDE5阻害薬使用では硝酸薬を投与しないこと。推奨表5で、アスピリンは経口150〜300 mg(静注なら75〜250 mg)で負荷し75〜100 mg/日で維持(I/A)、全例にP2Y12受容体阻害薬を加え出血高リスクでなければ12か月(I/A)、DAPTに併用するPPIを消化管出血高リスク例に推奨(I/A)、プラスグレルはPCIへ進むP2Y12阻害薬未使用例に60 mg負荷・10 mg/日(75歳以上か体重60 kg未満では5 mg/日)(I/B)、チカグレロルは治療戦略によらず180 mg負荷・90 mg 1日2回(I/B)、クロピドグレル300〜600 mg負荷・75 mg/日はプラスグレル・チカグレロルが使えないときに(I/C)、PCIへ進む例ではプラスグレルをチカグレロルより優先(IIa/B)、冠動脈の解剖が不明で24時間以内の早期侵襲的治療を予定するNSTE-ACSでのP2Y12阻害薬のルーチン前投与は推奨しない(III/A)がPPCIでは考慮してよい(IIb/B)こと、診断時に全例へ非経口抗凝固薬(I/A)、PCI中の未分画ヘパリン70〜100 IU/kg静注(I/C)、STEMIのPPCIではエノキサパリンを代替として考慮(IIa/A)、早期侵襲的治療を予定しないNSTE-ACSではフォンダパリヌクス(I/B)、心房細動を合併する例では最長1週間の3剤療法の後にNOACと単剤の抗血小板薬(望ましくはクロピドグレル)を最長12か月(I/A)、チカグレロル・プラスグレルを3剤療法に用いない(III/C)、抗凝固薬内服例では12か月で抗血小板薬を中止(I/B)すること。3〜6か月後の単剤化・P2Y12阻害薬の段階的な切り替えなどの代替戦略、Table 8で未分画ヘパリンの初期投与を70〜100 U/kg静注後にaPTT 60〜80秒を目標に調整し、エノキサパリンは1 mg/kgを1日2回皮下注でクレアチニンクリアランス30 mL/分未満では1日1回に減量することを確認した。長期治療ではLVEF 40%以下へのβ遮断薬(I/A)、心不全症状・LVEF 40%以下・糖尿病・高血圧・CKDへのACE阻害薬(I/A)、入院後できるだけ早い高強度スタチン、LDLコレステロール1.4 mmol/L未満かつ50%以上の低下、4〜6週で未達ならエゼチミブ(I/B)、さらにPCSK9阻害薬(I/A)を確認した。閲覧 2026-09-26
  2. 2.2024 ESC Guidelines for the management of chronic coronary syndromes(European Society of Cardiology・2024)出版前版PDFの全文で次を確認した。推奨表16で、抗狭心症薬は患者の特性・併存症・病態に合わせて選び(I/C)、速効型硝酸薬を発作の即時寛解に(I/B)、大多数の患者の初期治療にβ遮断薬かカルシウム拮抗薬(またはその両方)を(I/B)、単剤で不十分ならβ遮断薬とジヒドロピリジン系の併用を(IIa/B)、追加薬として長時間作用型硝酸薬かラノラジンを(IIa/B)、長時間作用型硝酸薬には休薬時間を(IIa/B)、LVEF 40%未満ではイバブラジンを(IIa/B)、ニコランジルかトリメタジジンを(IIb/B)推奨・考慮し、LVEF 40%超で心不全の無い患者へのイバブラジン追加(III/B)、イバブラジンと非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬など強いCYP3A4阻害薬の併用(III/B)、肥大型心筋症とPDE阻害薬併用での硝酸薬(III/B)を推奨しないこと。抗狭心症薬の組み合わせ図が有用・可能・類似作用・非推奨の組み合わせと各薬の適応・禁忌を示すこと、β遮断薬は洞不全症候群で適応にならないこと。推奨表17で、心筋梗塞またはPCIの既往ではDAPT後にアスピリン75〜100 mgを生涯(I/A)、その代わりにクロピドグレル75 mgも安全で有効(I/A)、PCI後の既定の戦略はアスピリン+クロピドグレルのDAPTを最長6か月(I/A)、出血高リスクでは1〜3か月でDAPTを終える(I/A)、抗凝固薬の長期適応があればPCI後にアスピリンを1週間以内で中止し、虚血高リスクでなければ最長6か月、高リスクなら最長12か月の抗凝固薬+クロピドグレルを経て抗凝固薬単独とする(I/A)、DOACをVKAより優先する(I/A)、長期は抗凝固薬単独を生涯(I/B)、チカグレロル・プラスグレルを3剤療法に用いない(III/C)こと。オメプラゾールとエソメプラゾールはCYP2C19を阻害してクロピドグレルの活性代謝物を減らすのでクロピドグレルとの併用が勧められないこと、消化管出血リスクが高い患者では抗血栓薬を使う限りPPIを推奨すること、CYP2C19機能喪失アレルの保因者は血小板抑制が弱いこと。推奨表17で、ステント血栓症のリスクが出血リスクを上回れば合計6か月以内で3剤療法を1か月以上考慮すること(IIa/C)、本文がチカグレロル(データは無いがおそらくプラスグレルも)を2剤療法の一部としては考慮しうると述べること、CYP2C19機能喪失アレルの保因者はPCI後の虚血イベントが多いこと。推奨表18でLDLコレステロール1.4 mmol/L(55 mg/dL)未満かつ50%以上の低下を目標とし(I/A)、高強度スタチン(I/A)、エゼチミブ(I/B)、PCSK9阻害薬(I/A)を段階的に用い、スタチン不耐でエゼチミブでも届かなければベンペド酸を併用すること(I/B)。推奨表19で2型糖尿病合併例にSGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬を(I/A)、推奨表20で低用量コルヒチン0.5 mg/日を(IIa/A)、推奨表21で高血圧・糖尿病・心不全の合併例にACE阻害薬(またはARB)を(I/A)推奨することを確認した。閲覧 2026-09-26
  3. 3.Bempedoic Acid and Cardiovascular Outcomes in Statin-Intolerant Patients(New England Journal of Medicine(Nissen SEら、CLEAR Outcomes試験)・2023)抄録(PMID 36876740)で、スタチン不耐で心血管疾患があるか高リスクの13,970例にベンペド酸180 mg/日かプラセボを投与し、主要複合評価項目(心血管死・非致死性心筋梗塞・非致死性脳卒中・冠血行再建)が11.7%対13.3%(ハザード比0.87)と減ったこと、痛風と胆石症が増えたことを確認した。閲覧 2026-09-26
  4. 4.Colchicine in Patients with Chronic Coronary Disease(New England Journal of Medicine・2020)抄録(PMID 32865380)で、慢性冠疾患5,522例にコルヒチン0.5 mgを1日1回またはプラセボを投与し(追跡中央値28.6か月)、心血管死・自然発症心筋梗塞・虚血性脳卒中・虚血による冠血行再建の複合が6.8%対9.6%(ハザード比0.69)、心血管死・心筋梗塞・虚血性脳卒中の複合が4.2%対5.7%(0.72)と減った一方、非心血管死はコルヒチン群で多い傾向(ハザード比1.51、95%信頼区間0.99〜2.31)だったことを確認した。閲覧 2026-09-26