臨床薬理学

臨床薬理学 · 20

心不全の薬物療法

Heart failure

前提:病態
強心薬(陽性変力薬)レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系作用薬カリウム排泄性利尿薬

🧠 全体像:心不全の薬は「弱った心臓を鞭打つ薬」ではなく、心臓を追い詰めている(と交感神経)を止める薬が主役である。慢性期、とくにの低下した心不全では、阻害薬または・β遮断薬・MRA・阻害薬のを早く全部そろえて目標量まで増やすことが寿命を延ばし、利尿薬は症状を取るための脇役になる。急性期は発想が逆転し、「うっ血しているか(湿・乾)、灌流が足りているか(温・冷)」で分け、うっ血には利尿薬と、低灌流には・と機械的補助を使う。

心不全とは:代償機構がかえって心臓を壊す

心不全は複数の原因をもつ複雑なで、最も多い原因は()、高血圧(高血圧)、弁膜症、不整脈、心筋症である。本態は心拍出量が低下し、身体に十分な酸素を届けて正常なを保てなくなることである。

心拍出量が落ちると、身体は2つのを働かせる。

flowchart TD
  A["心筋の障害<br>虚血・高血圧・弁膜症・不整脈・心筋症"] --> B["心拍出量の低下"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renal perfusion'>腎灌流</span>の低下"]
  B --> D["圧受容体の反応"]
  C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renin-angiotensin-aldosterone system'>レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系</span>の活性化"]
  E --> E1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='elevated blood pressure'>血圧上昇</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='afterload'>後負荷</span>↑)<br>塩分・水の貯留(前負荷↑・うっ血)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiac hypertrophy'>心肥大</span>・線維化(リモデリング)"]
  D --> F["交感神経の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypertonia'>緊張亢進</span>"]
  F --> F1["頻脈・収縮力↑・血管収縮<br>しばらくは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue perfusion'>組織灌流</span>を保つ"]
  E1 --> G["傷んだ心筋に<br>さらに負担がかかる"]
  F1 --> G
  G --> H["時間とともに非代償に陥る"]
  H --> B

💡 代償が悪循環になるのが心不全の核心である。短期的に灌流を守るはずのの反応が、長期的には・前負荷・心拍数を上げ、心筋を線維化させて病気を進める。だから予後を改善する薬(阻害薬・・、MRA、β遮断薬)は、どれもこの反応を遮断する薬である。

予後は悪く、治療しなければ診断から約5年以内に60%を超える患者が死亡する。薬物療法は病気の進行を遅らせ、生活の質を改善できる。

薬の標的

標的 狙い 代表的な薬
を上げる(心拍数を上げずに) ()
前負荷・拡張期の充満を減らす 心臓の仕事量とを減らし、肺うっ血を軽くする 薬、利尿薬
を減らす しやすくする 阻害薬、、
過剰なと不整脈を抑える を減らし、拡張期を延ばす β1遮断薬、

分類

慢性心不全と急性心不全

大分類 分類
の低下した心不全、軽度低下した、保たれた
新規発症の、の()

左室駆出率による3区分(ESC 2021年版)

2021年版はをで3つに分けた。

基準
1 症状±徴候※1 症状±徴候※1 症状±徴候※1
2 40%以下 41〜49%※2 50%以上
3 − − 左室・左室上昇に合致する心臓の構造的・機能的異常の証拠(の上昇を含む)※3
  • ※1 心不全の早期(とくに)や、最適な治療を受けている患者では徴候がないことがある。
  • ※2 の診断は、ほかにの証拠(左房の拡大、、心エコーでの左室充満障害の指標など)があれば確からしくなる。
  • ※3 の診断は、異常の数が多いほど確からしくなる。

💡 だけの証拠まで求めるのは、が保たれたには肥満・肺疾患・貧血など心臓以外の原因が多いからである。

⚠️ 現行の 2026年版はを廃止した。 は病因・病態(の低下)・薬への反応がに近く、 41〜49%の多くの患者でがさらに下がりうるため、心不全を2区分に組み替えた1。

区分 2021年版 2026年版(現行)
の低下した心不全 40%以下 50%未満+症状・徴候
軽度低下した心不全 41〜49% 廃止(に統合)
の保たれた心不全 50%以上+構造的・機能的異常の証拠 50%以上+症状・徴候+・上昇に合致する異常の証拠(上昇が裏づける)

治療でが改善した患者は、 2026年版ではが絶対値で10%以上上昇し、かつ40%を超えたものと定義され、改善しても、ごく一部の選ばれた患者を除き基盤薬物療法を続ける1。

重症度:ACC/AHAステージとNYHA分類

症状に基づく重症度の分類として、米国心臓病学会・米国心臓協会の(A〜Dの4段階で重くなる)と、臨床で広く使われる心(I〜IV度)がある。薬物療法の戦略は、急性か慢性かでも大きく分かれる。

ACC/AHA 状態 分類 状態
A 危険因子(高血圧、糖尿病など)はあるが、も症状もない − −
B はあるが、症状・徴候はない I度 通常ので症状が出ない
C があり、現在または過去に症状がある II度 安静時は無症状だが、通常ので疲労・・呼吸困難が出る
C 同上 III度 通常より軽い活動で症状が出る
D 特別な介入を要する難治性の心不全 IV度 安静時にも症状があり、どんな活動でも悪化する

💡 は後戻りしない進行の段階で、分類はいまの症状の段階である。治療で分類は上下するが、Cの患者がBに戻ることはない。

診断のアルゴリズム(ESC 2021年版)

flowchart TD
  A["心不全の疑い<br>危険因子・症状や徴候・心電図異常"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='N-terminal pro-B-type natriuretic peptide'>NT-proBNP</span> 125 pg/mL以上<br>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='B-type natriuretic peptide'>BNP</span> 35 pg/mL以上"}
  B -->|"はい<br>(強く疑うとき・測定できないときも)"| C["心エコー"]
  B -->|"いいえ"| X["心不全は考えにくい"]
  C --> D{"異常所見があるか"}
  D -->|"なし"| X
  X --> Y["ほかの診断を考える"]
  D -->|"あり"| E["心不全と確定<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='left ventricular ejection fraction'>LVEF</span>で表現型を決める"]
  E --> F1["40%以下:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heart failure with reduced ejection fraction'>HFrEF</span>"]
  E --> F2["41〜49%:HFmrEF"]
  E --> F3["50%以上:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heart failure with preserved ejection fraction'>HFpEF</span>"]
  F1 --> G["病因を決めて治療を始める"]
  F2 --> G
  F3 --> G

⚠️ の単一の( 125 pg/mL未満、 35 pg/mL未満)は、年齢とともに値が上がるため高齢者で特異度に欠ける。 2026年版は外来で心不全が「ありそう」とする年齢別の閾値(50歳未満で125、50〜75歳で250、75歳超で500 pg/mL以上)を示している。また、はの分解を妨げてを上げるが、は影響を受けないので、服用中はで評価する1。

慢性心不全の治療薬(各論)

レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬

ACE阻害薬とARB

項目 内容
主な薬 阻害薬:、、、
拮抗薬である:、テルミサルタン、、カンデサルタン
作用 とを下げる
を抑えて塩分・水の貯留を減らす
結合組織の増殖とリモデリングを抑える
組織の(ノルアドレナリン放出を促す)を減らして交感神経活動を抑える
適応 の低下したで死亡率を下げる
禁忌 阻害薬と・の併用、両側
副作用 高K血症、低血圧、一過性の腎機能低下、

💡 で禁忌になる理由。 狭窄の奥の腎臓は、IIでを締めて圧を保っている。これを遮断すると濾過圧が崩れ、を起こす。開始直後のクレアチニンの軽い上昇も同じ機序で、軽度の上昇なら中止せずに経過を見る。

💡 と咳が阻害薬で多い理由。 はを分解する酵素()でもあるので、阻害薬ではがたまる。はを阻害しないため、咳とがずっと少ない1。

アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬

項目 内容
薬 として
作用 が体内のの分解を妨げ、Naと水のを増やして心臓の仕事量を減らす。は血圧も下げ、心不全で起こる線維化(瘢痕)から心臓を守る。がIIの作用を遮断する
適応 の低下したで死亡率を下げる
禁忌 阻害薬との併用
副作用 高K血症、低血圧、一過性の腎機能低下

⚠️ もを分解するので、阻害薬と重ねるとが大きく増えての危険が高まる。阻害薬からへ切り替えるときは少なくとも36時間のを置く。はも起こしやすい1。

SGLT2阻害薬

項目 内容
薬 、
作用 複合的な機序(直接の作用の可能性と)
適応 の全範囲の
禁忌 1型糖尿病(の危険)
副作用 の増加

現行の 2026年版は、よくある副作用に性器・尿路感染を挙げ、開始直後のの軽い低下は想定内で、長期的には腎機能を守るとしている1。

⚠️ 1型糖尿病(表の禁忌)に加え、2型糖尿病でもインスリン治療中に糖質摂取が減ったりインスリンを減量したりしたときはに注意する2。

💡 が心不全に効く一因は、でNaとブドウ糖の再吸収を止めてとNa利尿を起こし、うっ血を減らすことである。ただし効果は利尿だけでは説明しきれない。

ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬

項目 内容
薬 MRAとして、、(新しい非ステロイド型)
作用 静脈圧と心室の前負荷を下げる
浮腫を減らす
長期的に収縮機能の効率を上げる
アルドステロンによる心筋・血管の線維化を減らす
適応 の低下したで死亡率を下げる
禁忌 高度の腎不全
副作用 高K血症、()

現行の注意点1:

  • MRAは 25 mL/分/1.73 m²未満の患者では試験されておらず、血清Kが5.0 mmol/L以上の患者で始めるときも慎重にする。
  • 服用中にKが5.5 mEq/Lを超えたら、まず再検し、減量か一時中止を考える。高K血症が治まれば再開する。
  • と非ステロイド型のはへの選択性が高く、が少ない。

💡 でが起こるのは、ステロイド骨格をもつためにも遮断するからである。

利尿薬

群 薬 役割
、 塩分・水の貯留、前負荷・、浮腫を減らす。急性・慢性の両方で浮腫を減らし症状を改善する
と組み合わせて、の複数の部位を順に遮断する(連続的遮断)

血管拡張薬:ヒドララジンと硝酸薬

項目 内容
薬 (NO産生を高める)、
作用 (細動脈を拡張)と(静脈を拡張)の併用は、心拍出量を増やし前負荷を下げる
適応 の低下した心不全。阻害薬・が禁忌のとき(腎不全など)、またはアフリカ系米国人の追加治療として勧められる

💡 動脈側()と静脈側(前負荷)の拡張薬を組み合わせるのは、片方だけでは不十分だからである。単独ではとが、単独では耐性が問題になる。

β遮断薬

項目 内容
作用 心臓のを減らす
カテコールアミンによる頻脈を抑える
心筋のリモデリングを抑える
適応 での長期投与で死亡率を下げる:(ももつ)、の・・
副作用・禁忌 心不全のとでは勧められない
徐脈、房室ブロック

💡 のある薬がなぜ心不全を良くするのか。 な交感神経の過剰刺激は、のCa・アポトーシス・β受容体のを起こし、心筋を傷める。β遮断薬はこの毒性から心筋を守り、数か月かけてを改善させる(逆リモデリング)。ただし開始直後は収縮力が落ちるので、安定した患者に少量から始め、ゆっくり増量する。の患者では、まず利尿でうっ血を取ってから始める。

イバブラジン(If電流の遮断薬)

項目 内容
薬
使い方 が低下し心拍数が速い(70/分超)心不全で考慮する
効果 入院を減らす

💡 はの(ファニー電流)だけを抑えて心拍数を下げ、収縮力や血圧には影響しない。に働く薬なので、でなければ効かない(心房細動では無効)。現行の 2026年版は、β遮断薬の効果が確立しているので、まずβ遮断薬を目標量まで増やし、そのうえでを見て追加を考えるとしている1。

強心配糖体:ジゴキシンとジギトキシン

項目 内容
薬 ジゴキシン、
作用 を阻害し、細胞内Ca濃度を上げる
主な効果 を上げる()
を高める
副交感神経の緊張を高め、心拍数とを下げる(・)
死亡率には影響しない
適応 心不全のにある患者での急性のの(の速い心房細動など)
での低下した心不全で、入院を減らす目的で考慮してよい
ジゴキシンは治療域が狭く、血中濃度の測定に基づいて個別に調節する
禁忌・注意 急性・心筋梗塞
、
を抑える薬との併用では徐脈に特に注意
ジゴキシンへの感受性を高める状態:低K血症、甲状腺機能低下症、
flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='digitalis'>ジギタリス</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sodium-potassium ATPase'>Na⁺/K⁺-ATPase</span>を阻害"] --> B["細胞内Na⁺が増える"]
  B --> C["Na⁺/Ca²⁺交換系でのCa²⁺排出が減る"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sarcoplasmic reticulum'>筋小胞体</span>のCa²⁺が増える"]
  D --> E["収縮力が上がる<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='positive inotropic effect'>陽性変力作用</span>)"]
  A --> F["迷走神経の緊張を高める"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sinoatrial (SA) node'>洞結節</span>の拍動↓・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='AV conduction'>房室伝導</span>↓<br>心房細動の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ventricular response'>心室応答</span>を遅くする"]
  C --> H["過剰になると<br>Ca²⁺<span class='jp-term jp-term-diagram' title='overload'>過負荷</span>による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='delayed afterdepolarization'>遅延後脱分極</span>"]
  H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='automaticity'>自動能</span>↑・不整脈<br>(中毒の本態)"]

⚠️ 低K血症でが起こりやすい理由。 はのK⁺結合部位と競合するので、Kが低いと結合が強まる。甲状腺機能低下症ではと排泄が減り、ではのジゴキシンがたまる。やもジゴキシン濃度を上げる。

現行の 2026年版は、ジゴキシンは主に腎臓から、は肝臓で除かれると区別し、ジゴキシンの血中濃度は1.2 ng/mL未満を目標にするとしている1。

死亡率への効果による整理

群 死亡率を下げるとされてきた薬 現行の知見( 2026年版)1
阻害薬 、、、、トランドラプリル 死亡と入院を減らした最初の薬群。とトランドラプリルの目標量はの試験に由来
カンデサルタン、 カンデサルタンは心血管死と心不全入院を、は心不全入院を減らしたが、を減らしたはない
β遮断薬 、、、 、の、は死亡を減らした。はと心血管入院の複合評価項目だけ

開始量と目標量の例(ESC 2026年版の表から)

β遮断薬と阻害薬は少量で始め、試験で有効だった目標量(または最大量)まで増やす。

薬 開始量 目標量
2.5 mg 1日2回 10〜20 mg 1日2回
49/51 mg 1日2回(低血圧などでは24/26 mg) 97/103 mg 1日2回
1.25 mg 1日1回 10 mg 1日1回
12.5〜25 mg 1日1回 50 mg 1日1回
・ 10 mg 1日1回 10 mg 1日1回(増量しない)

1

駆出率の低下した心不全の治療戦略

症状の有無で分ける

  • 無症候(ACC/AHAA・B、 I度):まず基礎疾患の管理を優先する。塩分・水分の制限とについて患者を教育する。
  • 症候性(C・D、 II〜IV度):阻害薬(不耐なら)、β遮断薬、MRA、阻害薬による積極的な治療が必要である。

第一選択の4剤併用(ESC 2021年版の中心図)

2021年版は、の治療を「全員に」と「選ばれた患者に」の2段で整理し、それぞれに推奨クラスを付けた3。

⭐ 死亡率を下げるため、全員に(クラスI):阻害薬または、β遮断薬、MRA、阻害薬。

心不全入院・死亡を減らすため、選ばれた患者に

対象となる状態 治療 推奨クラス
利尿薬 I
で、QRS幅150 ms以上 ペースメーカ型または付きの I
でのQRS幅130〜149 ms、または以外でQRS幅150 ms以上 ペースメーカ型または付きの IIa
虚血性の病因 ICD I
非虚血性の病因 ICD IIa
心房細動 I
心房細動 ジゴキシン、 IIa
冠動脈疾患 IIa
鉄欠乏 カルボキシの静注 IIa
またはTAVI I
経カテーテル的なの IIa
で心拍数70/分超 IIa
黒人 + IIa
阻害薬・の不耐 I

禁忌がなければ全員に4剤の併用を始め、これらは死亡と入院をともに減らす。4群の開始順は指定されておらず、(過剰か正常か)・腎機能・血圧・心拍数を見ながら、できるだけ早く組み合わせる。心不全で入院した後は6週間以内に目標量まで増やす(2023年の重点更新で追加)2。

現行の 2026年版はこれらを「基盤薬物療法」と呼び、診断したらすぐに同時に始めてよいとし、少なくとも1〜2週ごとの増量と入院後6週間の迅速な導入・増量、阻害薬・からへの切り替えを推奨している(いずれもクラスI)1。

💡 なぜ順番より「早く全部」なのか。 4群は別々の経路を遮断するので効果が足し算になり、どれも数週で効き始める。1剤ずつ目標量まで上げる旧来のやり方では、4剤がそろうまでの数か月に防げたはずの入院・死亡が起こる。

症状の治療:浮腫への利尿薬

  • 利尿薬は呼吸困難と浮腫を和らげるが、で死亡・入院を減らす効果は示されていない。
  • ふつうは(など)が第一選択である。
  • では、やを併用する連続的遮断を使ってよい。
  • 利尿薬の治療中はKを検査で監視する。K喪失は治療中にとくに危険である。
  • MRAと阻害薬の治療中は、Na・K・クレアチニンを定期的に監視する。

現行の 2026年版は、うっ血のある患者での量をに応じてその都度個別に調節することを推奨し、ユーボレミア(適正な)を保てる最少量を使うこと、安定した患者でのの慢性使用は外来で気づかれない高度の電解質異常を招くので避けることを述べている1。

💡 でのNa再吸収を止めても、がに再吸収を増やす(の一因)。遠位をで、近位をで同時に遮断するとNa利尿がに増えるが、低K血症・低Na血症・腎機能悪化が起こりやすく、電解質とクレアチニンを頻回に測る。

追加の治療選択肢

治療 従来の使い方 現行( 2026年版)1
(+) でも症状が残るときの追加(アフリカ系米国人での無作為化試験で有効)。で阻害薬が禁忌なら、上昇したとを最適化するためとを勧める。が高ければを考慮してよい 自己申告で黒人の、 40%以下の症候性で、最適な基盤治療にして考慮する(IIa)。阻害薬・・のいずれにもがなければ考慮してよい(IIb)。黒人以外での有益性は不明
で心拍数70/分超、 35%未満、阻害薬/+β遮断薬+MRAの最大量でも症状が残るとき 35%以下、、70/分超で、阻害薬/・MRA・阻害薬・β遮断薬の最大量を使っているときに考慮する(IIa)。β遮断薬にがないときも考慮する(IIa)
阻害薬/+β遮断薬+MRAを最大量まで増やしても症状があり、 45%未満かつ心拍数70/分超のときに考慮。持続的なごく少量(ジゴキシン0.125 mg/日、0.07 mg/日) 40%以下の症候性で、最適な基盤治療でも心不全入院を減らすために考慮する(IIa)。2021年版の「」の限定は外れ、も含む。用量は血中濃度で調節する(開始量はジゴキシン62.5 µg/日、0.07 mg/日)
− 45%未満の症候性で最適な基盤治療でも入院と心血管死を減らすために考慮してよい(IIb)
鉄の静注 − 鉄欠乏のある症候性で症状と生活の質の改善に推奨(I)、入院を減らすために考慮(IIa)

💡 ジゴキシンを「ごく少量」で使うのは、治療域が狭く、少しの濃度上昇でに入るからである(現行の目標血中濃度は前述の1.2 ng/mL未満)。

非薬物療法

一部の患者では、薬物療法をで補う。心機能を改善するの、の・のためののICD、あるいは両者を組み合わせた-Dである。適応の詳細はICDと:適応と種類を参照。

駆出率が軽度低下・保たれた心不全

2023年の重点更新は、阻害薬をにかかわらず心血管を改善する第一選択とし、利尿薬を症状を取る追加治療とした。のRAS阻害薬・MRA・β遮断薬は2021年版から引き継いだ弱い推奨である2。では併存症(腎疾患、肥満、、心房細動など)の管理が重要な追加治療になる3。

治療 (2023年重点更新) (2023年重点更新)
に利尿薬 I I
/ I I
阻害薬// IIb −
MRA IIb −
β遮断薬 IIb −
病因と心血管・非心血管の併存症の治療 − I

⚠️ 現行の 2026年版では表が変わった1。

  • 41〜49%はとして治療する。この範囲だけのはないが、病態と薬への反応はに近い。
  • MRAはを問わず症候性心不全の全員に推奨(クラスI)となった。ではステロイド型(、)、ではステロイド型または非ステロイド型()を使う。
  • への阻害薬・・は、心不全入院を減らすために考慮してよい(IIb)。
  • 阻害薬はを問わずクラスIのままである。

💡 で阻害薬とMRAが減らしたのは主に心不全入院で、死亡率の低下ははっきりしない。高齢・女性・多併存症の患者が多く、併存症の管理そのものが治療の大きな部分を占める。

併存症のある心不全

糖尿病と慢性腎臓病

心不全(とくに)では2型糖尿病とがよく併存し、この組み合わせは最近、心・腎・と呼ばれている。これらの併存症があれば、阻害薬と新しいMRAのを心不全治療の第一選択として使うことが勧められる。これらの薬は糖尿病との経過も改善するからである。

推奨(2023年重点更新) クラス レベル
2型糖尿病とのある患者で、心不全入院または心血管死の危険を減らすために阻害薬(または)を推奨する I A
2型糖尿病とのある患者で、心不全入院の危険を減らすためにを推奨する I A

💡 この推奨は、厳密には心不全を発症させない(予防する)ための推奨として置かれている2。 2026年版でも同じ2つが心不全予防の推奨(クラスI)に入っている1。すでに心不全のある患者では、上に述べた基盤薬物療法の一部として阻害薬とMRAを使う。糖尿病の薬物療法は糖尿病を参照。

心房細動

心房細動と心不全はしばしば併存する。心房細動は心不全の発症を促し、逆にでは左房の拡大が心房細動を起こしやすくする。

flowchart TD
  A["心不全に心房細動を合併"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ventricular response'>心室応答</span>が速く<br>血行動態が不安定か"}
  B -->|"はい"| C["緊急の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electrical cardioversion'>電気的除細動</span>"]
  B -->|"いいえ"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rate control'>心拍数調節</span>か<span class='jp-term jp-term-diagram' title='maintenance of sinus rhythm'>洞調律維持</span>の薬物療法"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rate control'>心拍数調節</span><br>非代償でなければβ遮断薬、またはジゴキシン"]
  D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amiodarone'>アミオダロン</span>も<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rate control'>心拍数調節</span>に使える<br>ただし薬理学的に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sinus rhythm'>洞調律</span>に戻りうる"]
  F --> G{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left atrial thrombus'>左房内血栓</span>の危険はないか"}
  D --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='maintenance of sinus rhythm'>洞調律維持</span>を目指す"]
  H --> G
  G -->|"3週間以上途切れず抗凝固<br>または発症から短時間<br>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transesophageal echocardiography (TEE)'>経食道心エコー</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='computed tomography'>CT</span>で血栓を除外"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='defibrillation'>除細動</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amiodarone'>アミオダロン</span>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electrical cardioversion'>電気的除細動</span>"]
  G -->|"満たさない"| J["抗凝固を続けてから再評価"]
  I --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='defibrillation'>除細動</span>後の抗凝固<br>(血栓性イベントが増えるため)"]
  K --> L["長期:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary vein isolation'>肺静脈隔離</span><br>クライオバルーンまたは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high frequency'>高周波</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ablation'>アブレーション</span>"]

左房に血栓があると後の塞栓の危険が非常に高いので、に戻す前に血栓の危険がないことを確かめる。

⚠️ 現行の推奨との違い。

論点 従来の整理 現行
の条件 上の図の3条件のいずれか(発症24〜48時間以内を含む) 持続が24時間を超えるなら、3週間の治療域の抗凝固かによる血栓除外なしにしない( 2024年版の心房細動ガイドライン)4
後の抗凝固 スコアにかかわらず少なくとも4週間 大多数の患者で少なくとも4週間。血栓塞栓の危険因子がなく、発症24時間以内にへ戻った患者だけは省略しうる4
抗凝固の適応を決めるスコア CHA2DS2-VASc 性別の項目を除いたで判断する1(詳細は心房細動)
の薬 上の図のとおり 安定したではβ遮断薬が第一選択(I)、不十分・不耐ならジゴキシン(IIa)、血行動態が不安定なら急性のに静注かジゴキシン(IIb)。でが速く血行動態が不安定なら、緊急のを推奨(I)1
薬理学的 (上の図) ではを使い、・・ドロネダロンは予後が悪いので避ける1

の実際は電気的およびを参照。

急性心不全

定義と臨床像

は、組織の低灌流、肺水腫に至る圧の上昇、組織のうっ血を伴う、急速に進行する循環不全である。重症なので直ちに介入を要する。

2016年版の推奨にもとづき、の患者は末梢循環の質(低灌流か灌流が保たれているか=「冷」か「温」か)とうっ血・肺水腫の有無(「乾」か「湿」か)で4群に分けられる。最も多いのは灌流が保たれうっ血がある「温・湿」型で、最も少ないのは低灌流とうっ血がそろう「冷・湿」型である。「冷・湿」型は予後が最も悪い。

うっ血なし(乾) うっ血あり(湿)
低灌流なし(温) 温・乾 温・湿(最多)
低灌流あり(冷) 冷・乾 冷・湿(最少・予後最悪)

⚠️ 低灌流は低血圧と同じ意味ではないが、低血圧を伴うことが多い。

用語の定義(ESC 2016年版)

用語 定義
うっ血の症状・徴候() 肺うっ血、、、両側の肺、両側の
うっ血の症状・徴候() 頸静脈の怒張、両側の、うっ血性の、、腹水、腸管うっ血の症状
低灌流の症状・徴候 :冷たく汗ばんだ四肢、乏尿、精神、めまい、脈圧の狭小化
:代謝性アシドーシス、血清乳酸の上昇、の上昇
低血圧 90 mmHg未満
徐脈 心拍数40/分未満
頻脈 心拍数120/分超
異常な を使った25回/分を超える呼吸数、または呼吸困難があるのに8回/分未満の呼吸数

現行の 2026年版は「」を「」と呼び替え、症状の出現が急でも緩徐でも、緊急の受診と治療の開始・強化を要するほど重いものと定義した。臨床像は、、、の4つに分け(重なりうる)、うっ血と低灌流を2つの主な表現とする枠組みは引き継いでいる。低灌流のな指標として血清乳酸が役立つ1。

治療戦略の柱

  • 循環との安定化を直ちに始める。
  • ガス交換を安定させる。
  • 症状を和らげる。
  • 病因を明らかにし、原因治療をできるだけ早く始める。
  • 血圧・心拍数・を厳重に監視する。
  • 呼吸、全身の酸素化、不整脈、、急性虚血の有無、急性の弁膜症を評価・再評価する。
  • 必要なら、ペーシング、冠動脈のを行う。
  • のでは、で使っている薬、とくにβ遮断薬の中止を考慮する(従来の整理)。

⚠️ β遮断薬などの中止は、現行の推奨と方向が逆である。 2021年版はすでに、入院中のβ遮断薬の中止・減量が後ろ向き解析で予後悪化と関連したと述べている3。 2026年版は、すでに基盤薬物療法を受けている患者では継続するか、できるだけ早く再開することを推奨し、明らかな低灌流の徴候や特別な理由がなければ中止しないとしている1。減量・中止を考えるのは、臓器低灌流のある進行したなど、が灌流を脅かす場面である1。

初期管理:急性心不全が疑われる患者(ESC 2021年版)

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute HF'>急性心不全</span>の疑い"] --> P["緊急相:最初の医療接触の直後"]
  P --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiogenic shock, CS'>心原性ショック</span><br>または呼吸不全があるか"}
  B -->|"あり"| C["薬物による循環補助<br>換気の補助<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='mechanical circulatory support'>機械的循環補助</span>"]
  B -->|"なし"| D["即時相:最初の60〜120分<br>急性の病因を特定する"]
  D --> E{"CHAMPITのいずれかがあるか"}
  E -->|"あり"| F["原因に対する特異的な治療を<br>直ちに開始する"]
  E -->|"なし"| G["臨床像に応じたその後の治療"]
頭文字 直ちに是正すべき原因
C
H (を参照)
A 不整脈
M 急性の機械的原因:に伴う(、、急性)、・心臓の手技、心内膜炎による・の急性閉鎖不全、・血栓症3
P 肺塞栓症
I 感染症
T 心タンポナーデ

急性非代償性心不全の管理(ESC 2021年版)

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute decompensated heart failure'>急性非代償性心不全</span><br>うっ血・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluid overload (volume overload)'>体液過剰</span>"] --> B{"低灌流があるか"}
  B -->|"なし"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='loop diuretics'>ループ利尿薬</span><br>(クラスI)"]
  C --> D{"うっ血は改善したか"}
  D -->|"いいえ"| E["利尿薬の増量(クラスI)<br>かつ/または利尿薬の併用(クラスIIa)"]
  E --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diuretic resistance'>利尿薬抵抗性</span><br>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='end-stage renal failure'>末期腎不全</span>か"}
  F -->|"はい"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='kidney replacement therapy, KRT'>腎代替療法</span>(クラスIIa)<br>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='palliative care'>緩和ケア</span>を検討"]
  B -->|"あり"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='loop diuretics'>ループ利尿薬</span>(クラスI)<br>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inotropic agent'>強心薬</span>を検討(クラスIIb)"]
  H --> I{"低灌流とうっ血は改善したか"}
  I -->|"いいえ"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasopressor'>昇圧薬</span>(ノルアドレナリン)を検討<br>(クラスIIb)"]
  J --> K{"低灌流・臓器障害が続くか"}
  K -->|"はい"| L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mechanical circulatory support'>機械的循環補助</span>(クラスIIa)<br>かつ/または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='kidney replacement therapy, KRT'>腎代替療法</span>(クラスIIa)<br>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='palliative care'>緩和ケア</span>を検討"]
  D -->|"はい"| M["薬物療法の最適化<br>(クラスI)"]
  F -->|"いいえ"| M
  I -->|"はい"| M
  K -->|"いいえ"| M

灌流状態にかかわらず、うっ血を取るのに十分な量の利尿薬を使い、利尿量を厳重に監視する3。

💡 低灌流があっても利尿薬は止めない。うっ血そのものがを上げてを下げ(うっ血腎)、心室のを上げても悪くするからである。そのうえで灌流が足りなければ、血圧が保てなければを足していく。

肺うっ血と低血圧への薬物療法

肺うっ血を伴うでは、静注、静注オピオイド、酸素が使われてきた。これに血圧が保たれた例のなどを加え、現行の推奨と並べる。

薬 目的 現行の推奨( 2026年版)1
静注 うっ血・浮腫の治療 で入院した全員に推奨(I)。すでにを使っていた患者では、短期の静注か経口の追加を考慮(IIa)
静注オピオイド 不安・呼吸苦・呼吸困難の軽減 ルーチン使用は推奨しない(III)。呼吸不全の危険があり、ほかの治療で取れない高度の痛み・不安のある選ばれた患者に限る
酸素 低酸素血症の是正 90%未満または 60 mmHg未満のときに推奨(I)。低酸素のない患者への無差別な投与は有害でありうる
(、) 前負荷・を下げる 110 mmHg超で初期治療として考慮してよい(IIb)。では体液の総量より肺へのが主体なので、高用量の利尿薬よりが役立つ
阻害薬 基盤治療の早期導入、うっ血の改善 初期の安定化の後、入院中に開始することを推奨(I)

著しい低血圧、、では、・、またはが必要になる。現行の 2026年版は、輸液負荷を含む標準治療に反応しない90 mmHg未満で低灌流のある患者にを考慮してよく(IIb)、のは望ましくはノルアドレナリンとしている(IIb)1。の受容体・適応・禁忌の比較とショック全体での使い分けは輸液療法・ショック・にまとめてあり、ここではの各論を扱う。

急性心不全で使う陽性変力薬(各論)

flowchart TD
  A["β1受容体"] --> B["Gs蛋白→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adenylyl cyclase, AC'>アデニル酸シクラーゼ</span>"]
  B --> C["cAMP↑"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='protein kinase A (PKA)'>プロテインキナーゼA</span>"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='L-type calcium channel'>L型Caチャネル</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sarcoplasmic reticulum'>筋小胞体</span>からのCa²⁺放出↑"]
  E --> F["収縮力↑"]
  G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dobutamine'>ドブタミン</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dopamine'>ドーパミン</span>"] --> A
  H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='milrinone'>ミルリノン</span>:PDE3を阻害"] --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cyclic adenosine monophosphate'>cAMP</span>の分解を止める<br>β受容体を経ずに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cyclic adenosine monophosphate'>cAMP</span>↑"]
  I --> C
  I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular smooth muscle'>血管平滑筋</span>でも<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cyclic adenosine monophosphate'>cAMP</span>↑<br>→血管拡張"]
  K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='levosimendan'>レボシメンダン</span>"] --> L["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='troponin C'>トロポニンC</span>の構造を安定化<br>Ca²⁺感受性↑"]
  L --> F
  K --> M["血管の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ATP-sensitive potassium channel'>ATP感受性Kチャネル</span>を開く<br>→血管拡張"]

β1受容体刺激薬:ドブタミン

項目 内容
作用機序 な作用薬。血管のとへの作用は弱い
主な効果
治療量でを上げ、にはほとんど影響しない
心拍出量を増やし、と圧を下げる
治療量ではより不整脈を起こしにくい
適応 血行動態の補助を要する

の
・注意 半減期が短く、できず、だけで使う。β受容体を介するので、β遮断薬の服用中は効きにくい
の目安( 2021年版) 2〜20 µg/kg/分3

ドーパミン

項目 内容
作用機序 低用量(0.5〜2 µg/kg/分):受容体を刺激し、主に腎臓・腸間膜・心臓・脳の血管を拡張する
中等量(2〜5 µg/kg/分):心臓のβ1受容体を介して
高用量(5〜10 µg/kg/分):血管のα1受容体を刺激して血管収縮+ノルアドレナリン放出
主な効果 頻脈・と心筋酸素消費の増加(狭心症状を招く)のため、より使われにくい
の腎保護作用はで示されていない
適応
消化管で不活化されるので、だけで使う

💡 用量で作用が切り替わるのは、受容体→β1→α1の順に親和性が高いからである。ただし境界値は教科書によって異なり( 2021年版の表は3〜5 µg/kg/分を、5 µg/kg/分超を+昇圧とする3)、も大きいので、「低用量なら腎血管だけに効く」とは期待できない。

⚠️ は、原因を問わないショックの無作為化試験でノルアドレナリンより不整脈イベントが多かった。現行の推奨で昇圧が必要なときはノルアドレナリンを優先する1。

PDE阻害薬:ミルリノン

項目 内容
分類 ビピリジン系
作用機序 心臓のを阻害して細胞内を増やし、を示す
同じ機序で血管を拡張する
適応 の短期治療(地域差があり、ハンガリーでは少なく米国で多い)
禁忌 。長期投与で重い不整脈と死亡の増加を招いた
の目安( 2021年版) 0.375〜0.75 µg/kg/分3

💡 のような「強心作用とを併せもつ薬」は強心拡張薬と呼ばれる。β受容体を経由しないので、β遮断薬を服用中の患者でも効く。 2026年版は、β遮断薬服用中の患者ではやPDE3阻害薬をより優先しうるとしている1。一方で血管拡張による低血圧が限界になり、主に腎臓から排泄されるのででは蓄積に注意する。

カルシウム感受性増強薬:レボシメンダン

項目 内容
作用機序 の構造を安定させる
弱い阻害作用
血管のを活性化する
主な効果 を上げる
弛緩には影響しない(拡張期はCa²⁺濃度が低く、にほとんど結合しない)
として働く(そのため血圧が下がる)
適応 重症ので静注すると、心拍出量を増やし、圧とを下げる
の目安( 2021年版) 0.1 µg/kg/分(0.05〜0.2)3。β受容体を経由しないのでβ遮断薬の服用中も効く

💡 はCa²⁺があるとき(収縮期)だけに結合して感受性を上げるので、主に細胞内Ca²⁺を大きく増やさずに収縮力を上げ、弛緩を妨げない。を増やす薬に比べ、Caによる不整脈や酸素消費の増加が理論上少ない。

⚠️ 、とくにのものは・心房細動の増加・・不整脈を起こし、死亡を増やしうる。どのにもや低心拍出での死亡率改善の十分な根拠はなく、低灌流を立て直すための一時的な橋渡しとして、少量から始めて厳重に監視しながら使う31。

まとめ

  • 心不全は心拍出量の低下に対すると交感神経の代償が悪循環となって進む。予後を改善する薬は、どれもこの代償を遮断する。
  • 2021年版の3区分(40%以下・41〜49%・50%以上)は、 2026年版でが廃止され、 50%未満をとする2区分になった。
  • は(阻害薬または・β遮断薬・MRA・阻害薬)を順番にこだわらず早く始め、1〜2週ごとに、入院後は6週間以内に目標量まで上げる。利尿薬は症状を取るだけで予後は変えない。
  • 監視:阻害薬・MRAでK・Na・クレアチニン、利尿薬でK(併用中の低K血症はとくに危険)。阻害薬からへは36時間空け、では阻害薬を避ける。
  • 追加治療は、(入院は減らすが死亡は減らさない。濃度1.2 ng/mL未満)、+、、鉄静注、・ICD。を減らしたはなく、は複合評価項目だけを減らした。
  • 現行では阻害薬とMRAはを問わずクラスI。2型糖尿病+では阻害薬とで心不全を予防する。
  • 心房細動合併:不安定なら緊急の、安定ならβ遮断薬(次いでジゴキシン)。持続24時間超のには3週間の抗凝固かが要り、後も大多数で4週間以上抗凝固を続ける。
  • は温・冷と湿・乾で分け、CHAMPITで原因を探す。うっ血には静注、血圧が高ければ、低灌流には、ショックにはノルアドレナリンと。オピオイドはルーチンに使わず、基盤治療は明らかな低灌流がなければ続ける。
  • (、、、)はいずれも低灌流を立て直す一時的な橋渡しで、β遮断薬の服用中はとが効く。

出典

  1. 1.2026 ESC Guidelines for the management of heart failure(European Society of Cardiology (ESC)・2026)出版社ページのWayback Machine保存版(20260910061149)の本文で逐語を確認した。3.3.1節でHFmrEFを廃止しHFrEF(LVEF 50%未満)とHFpEF(LVEF 50%以上+構造的・機能的異常の客観的証拠)の2区分としたこと、改善したLVEFを絶対値10%以上の上昇かつ40%超とし、一部の選ばれた患者を除き至適薬物療法を続けること。5.1.1節で2021年版の単一の除外閾値(NT-proBNP 125 pg/mL未満、BNP 35 pg/mL未満)が高齢者で特異度に欠け、外来の年齢別閾値(50歳未満125、50〜75歳250、75歳超500 pg/mL以上)を示すこと、NT-proBNPはARNIの影響を受けないこと。推奨表5でSGLT2阻害薬とMRA(HFrEFはステロイド型、HFpEFはステロイド型・非ステロイド型)をLVEFを問わず症候性心不全にI/A、HFrEFにβ遮断薬とACE阻害薬またはARNIをI/A、ARNIへの切り替えをI/B1、ACE阻害薬・ARNI不耐時のARBをI/A、強心配糖体(ジゴキシン・ジギトキシン)をLVEF 40%以下でIIa/B1(表6で、2021年版の洞調律のHFrEFへのジゴキシンの推奨からの改訂として並べる)、イバブラジンをLVEF 35%以下・洞調律・安静時心拍70/分超でIIa/B1、自己申告の黒人へのヒドララジン+硝酸イソソルビドをIIa/B2、RAS阻害薬不耐時をIIb/C、ベルイシグアトをIIb/B1、HFpEFへのACE阻害薬/ARB/ARNIをIIb/C、少なくとも1〜2週ごとの増量をI/Cとすること。6.1節で基盤薬物療法の開始順を指定する根拠はなく同時に開始してよいこと、ARNIはACE阻害薬から36時間以上空けること、MRAはeGFR 25未満で未検証でK 5.0 mmol/L以上では慎重に、服用中にKが5.5 mEq/Lを超えたらまず再検し減量か一時中止を考え高K血症が治まれば再開すること、エプレレノンとフィネレノンは女性化乳房が少ないこと、ARBで全死亡を減らした試験はないこと、ネビボロールは複合評価項目のみ減らしたこと、ジゴキシン濃度の目標は1.2 ng/mL未満、ジゴキシンは腎排泄・ジギトキシンは肝代謝であること、安定患者でのチアジド系の慢性使用を避けること、表11の開始量・目標量。7章で急性心不全を非代償性心不全と呼び替え4区分としたこと、既存の基盤薬物療法は明らかな低灌流がなければ中止せず継続・早期再開すること、臓器低灌流のある進行したHFrEFではβ遮断薬・イバブラジンの減量・中止を考慮すること、推奨表9で酸素(SpO2 90%未満)I/C、静注ループ利尿薬I/A、アセタゾラミドまたはヒドロクロロチアジド追加IIa/B1、入院中のSGLT2阻害薬開始I/B1、収縮期110 mmHg超の静注血管拡張薬IIb/C、収縮期90 mmHg未満で低灌流の強心薬IIb/C、心原性ショックの昇圧薬(望ましくはノルアドレナリン)IIb/C、オピオイドのルーチン使用III/C、推奨表8で入院後6週間の迅速な導入・増量I/B2、β遮断薬服用中はレボシメンダンやPDE3阻害薬がドブタミンより好まれうること。6.1.4節でACE阻害薬が死亡と罹病を減らした最初の薬群であること、ARBはキニナーゼを阻害せず咳と血管性浮腫が少ないこと、カンデサルタンは心血管死と心不全入院を、バルサルタンは心不全入院を減らしたこと、ビソプロロール・徐放性メトプロロール・カルベジロールは死亡を減らしたこと、イバブラジンはβ遮断薬を目標量まで増やしてから考えること。SGLT2阻害薬のよくある副作用は性器・尿路感染で、開始時のeGFR低下は想定内で長期には腎機能を改善すること。7.3節で低灌流の客観的指標に血清乳酸が役立つこと、急性肺水腫は体液の総量過剰より肺への再分布が主体で高用量の利尿薬より血管拡張薬を要しうること、7.5節で低酸素のない患者への無差別な酸素投与が有害でありうること、強心薬は不整脈と心筋虚血の危険からルーチンに使わず死亡率改善の根拠が不十分なこと、原因を問わないショックの無作為化試験でドパミンはノルアドレナリンより不整脈が多かったこと、オピオイドは呼吸不全の危険から選ばれた患者に限ること。表18と推奨表15でAF合併時の抗凝固をCHA2DS2-VAで決めること、β遮断薬による心拍数調節I、ジゴキシンIIa、不安定例の急性の心拍数調節に静注アミオダロンまたはジゴキシンIIb、非代償性心不全で心室応答が速く血行動態が不安定なら緊急の除細動I/C、HFrEFの薬理学的除細動はアミオダロンでフレカイニド・プロパフェノン・ドロネダロンは避けること、鉄静注をHFrEFの症状改善にI/B1・入院抑制にIIa/B1、2型糖尿病+CKDでのSGLT2阻害薬・フィネレノンを心不全予防にI/Aとすることを確認した。閲覧 2026-09-26
  2. 2.2023 Focused Update of the 2021 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure(European Society of Cardiology・2023)出版社ページのWayback Machine保存版(20240119212201)の本文で確認した。2021年版がHFmrEFにHFrEFの治療薬を弱い推奨(IIb/C)で置いていたこと、EMPEROR-PreservedとDELIVERを受けてSGLT2阻害薬をHFmrEF・HFpEFに加えたこと、STRONG-HFに基づき急性心不全入院後6週間の迅速な導入・増量と密な外来追跡を推奨すること、2型糖尿病とCKDの患者での心不全予防の推奨(推奨表4、SGLT2阻害薬とフィネレノン)を新設したこと、SGLT2阻害薬ではケトアシドーシスの危険のある2型糖尿病患者、とくにインスリン治療中で糖質摂取の減少やインスリン量の変更があるときに注意を要すること閲覧 2026-09-26
  3. 3.2021 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure(European Society of Cardiology・2021)誌上版PDF全文(リエージュ大学ORBiの ehab368.pdf、European Heart Journal 42巻3599〜3726頁)で確認した。図3(HFrEFの中心図)の色分けが緑=推奨クラスI、黄=IIaであること。図12(急性心不全の初期管理)の脚注で急性の機械的原因を急性冠症候群に伴う心筋破裂(自由壁破裂・心室中隔穿孔・急性僧帽弁逆流)、胸部外傷・心臓手技、心内膜炎による自己弁・人工弁の急性閉鎖不全、大動脈解離・血栓症とすること。図7(急性非代償性心不全の管理)の脚注で灌流状態にかかわらず十分な利尿薬量と利尿の厳重な監視を求めること。表22で強心薬・昇圧薬の投与速度(ドブタミン2〜20、ドーパミン3〜5で陽性変力・5超で陽性変力+昇圧、ミルリノン0.375〜0.75、レボシメンダン0.1〔0.05〜0.2〕、ノルアドレナリン0.2〜1.0 µg/kg/分)を示すこと。急性心不全入院中のβ遮断薬の中止・減量が後ろ向き解析で予後悪化と関連したこと。強心薬、とくにアドレナリン作動性のものが洞頻脈、心房細動の心室応答増加、心筋虚血、不整脈を起こし死亡を増やしうること。HFpEFで病因と心血管・非心血管の併存症の検索と治療、うっ血への利尿薬をI/Cとすること。⚠️ この版は2026年版(esc-hf-2026)に置き換えられており、本ノートでは版の比較のためにだけ引く閲覧 2026-09-26
  4. 4.2024 ESC Guidelines for the management of atrial fibrillation developed in collaboration with the European Association for Cardio-Thoracic Surgery (EACTS)(European Society of Cardiology・2024)出版社ページのWayback Machine保存版(20251207234158)の7.2.1項で逐語を確認した。除細動の前に少なくとも3週間の治療域の抗凝固が要り、急ぐときは経食道心エコーで血栓を除外すること、従来は発症48時間未満なら抗凝固や経食道心エコーなしで除細動してきたが、安全を優先して持続24時間超では3週間の抗凝固か経食道心エコーなしに除細動しないとしたこと、除細動後は大多数の患者で少なくとも4週間抗凝固を続け、血栓塞栓の危険因子がなく発症24時間以内に洞調律に戻った例だけは除細動後の抗凝固を省略しうること閲覧 2026-09-26