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Symptoms · Published

起座呼吸

Orthopnea

別名
起坐呼吸坐位呼吸
臓器系
循環器呼吸器
科目
Translational Medicine and Pathophysiology
トピック
病態生理学 1-3:心不全の原因と症状
関連疾患
がん治療関連心機能障害横隔膜機能不全肝肺症候群肺水腫慢性心不全輸血関連循環過負荷

🧠 全体像:は「横になると息苦しく、起きると楽になる」という体位そのものが診断的な手がかりになる症状である。原因の大半は心不全だが、機序は2つ重なっている——①静脈還流が増えて肺がうっ血する、②横隔膜が挙上してそのものが落ちる。この2つ目の機序は心臓を経由しないため、大量腹水・・重症など心不全以外の原因でもが起こりうる。「=心不全」と決め打ちしないことが診療の質を分ける。

定義と用語の整理

とは、臥位を取ることで生じ、上体を起こすことで軽快する呼吸困難を指す。単なると違い、体位の変化そのものが症状の発現・軽快を決める点が特徴で、では「横になると苦しくて枕を重ねて寝ている」「座ったまま眠る」といった代償行動の有無を聞くと拾いやすい。

病態生理:2つの機序が重なる

flowchart TD
    A["臥位をとる"] --> B["下肢・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='splanchnic venous bed'>内臓静脈床</span>の血液が<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='central circulation'>中心循環</span>へ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='redistribution'>再分布</span>"]
    A --> C["腹腔内容が横隔膜を<br>頭側へ押し上げる"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary circulation'>肺循環</span>への静脈還流増加"]
    D --> E{"左心はこの増加分を<br>処理できるか"}
    E -->|"できない(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Left-sided heart failure / LHF'>左心不全</span>)"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary venous pressure'>肺静脈圧</span>上昇→肺うっ血<br>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lung compliance'>肺コンプライアンス</span>低下"]
    C --> G["横隔膜の可動域低下<br>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vital capacity'>肺活量</span>低下"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orthopnea'>起座呼吸</span>"]
    G --> H
  • ①静脈還流の増加:臥位になると下肢・に貯留していた血液がへ戻る。代償できる心臓ならこの増加分を問題なく送り出せるが、左心が既に前負荷を処理しきれない状態()だと・が上昇し、が低下して呼吸困難が生じる1。
  • ②による低下:臥位では腹腔内容がの影響を受けにくくなり、横隔膜を頭側へ押し上げる。健常者ではこの影響による低下は15%未満にとどまるが、横隔膜の可動域があらかじめ制限されている病態では臥位でさらに大きくが落ちる2。この機序は心臓を経由しないため、心疾患がなくてもが起こりうる根拠になる。

発作性夜間呼吸困難・扁平呼吸との違い

同じ「体位性の呼吸困難」でも、いつ生じるか・どの向きで悪化するかが異なる。

悪化する体位 臥位 臥位(入眠後) 立位・(と逆)
出現のタイミング 臥位を取った直後 入眠後1〜2時間して突然 起立・着席直後
軽快までの時間 起座で数分 起座しても軽快に数十分かかりうる 臥位に戻ると速やかに改善
代表機序 静脈還流増加+ 夜間の体液+睡眠中の低下 体位による・の増悪
代表原因 心不全、大量腹水、 などの、、後

⭐ は「立つと苦しい」というとは逆方向の体位依存性で、によりが5%を超えて低下するとして定義される。・・など、体位によって率が変わる病態で生じ、と混同すると原因検索の方向を誤る3。

心不全以外の原因を見落とさない

⚠️ の機序(②)は心臓を経由しないため、次の病態でもが生じ、心疾患による症状と誤認されやすい。

  • 大量腹水:腹水が横隔膜を臥位でさらに押し上げる。肝硬変・悪性腫瘍によるなどが背景にある。
  • 両側・筋力低下:臥位で腹腔内容が麻痺した横隔膜を頭側へ押し上げ、がさらに20〜30%低下する。神経筋疾患・損傷が原因となる2。
  • 重症COPD:もともと・横隔膜が平低化しており、臥位でのわずかな可動域低下でも症状が出やすい。
  • 甲状腺腫による:頸部〜の腫大した甲状腺が臥位で気道を圧迫し、様の症状を来すことがある。

まとめ

  • は「静脈還流増加による肺うっ血」と「による低下」という2つの機序が重なって生じる。
  • は臥位で悪化する点は同じだが入眠後1〜2時間して生じ軽快に時間がかかる点で、は立位・で悪化する逆方向の体位依存性である点で、それぞれと区別する。
  • の機序は心臓を経由しないため、大量腹水・・重症・甲状腺腫によるでもが生じうる。心不全と決め打ちしない。

出典

  1. 1.Dyspnea, Orthopnea, and Paroxysmal Nocturnal Dyspnea(Clinical Methods, 3rd edition (NCBI Bookshelf)・1990)臥位では下肢・内臓静脈床から肺循環へ血液が再分布し、代償できない左室ではこの増加分を処理しきれず肺コンプライアンス・肺活量が低下して呼吸困難が生じることが起座呼吸の機序であること、発作性夜間呼吸困難は同じ機序に加え睡眠中の呼吸中枢反応性低下・アドレナリン作動性活動低下が関与し入眠後1〜2時間で生じ起座で軽快までに時間がかかる点で起座呼吸と異なることを確認した。閲覧 2026-08-19
  2. 2.Diaphragm Disorders(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)両側横隔神経麻痺・横隔膜筋力低下では臥位で腹部内容が麻痺した横隔膜を頭側へ押し上げるため起座呼吸が生じること、健常者では臥位での肺活量低下が15%未満にとどまるのに対し両側性の横隔膜筋力低下では臥位で努力肺活量がさらに20〜30%低下すること、この起座呼吸が心疾患による症状と誤認されうることを確認した。閲覧 2026-08-19
  3. 3.Platypnea(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)扁平呼吸が立位・坐位で悪化し臥位で軽快する起座呼吸とは逆方向の体位性呼吸困難であること、体位変換で酸素飽和度が5%を超えて低下する扁平呼吸-起立性低酸素血症症候群の診断基準、機序が体位により右左シャント・換気血流不均衡が増悪する体位性の右左シャントであること、代表的原因が卵円孔開存などの心内シャント・肝肺症候群・肺切除後・肺動静脈奇形であることを確認した。閲覧 2026-08-19