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Disease Atlas · 循環器 · 疾患

冠微小血管障害

Coronary microvascular dysfunction

別名
CMDMicrovascular anginaMVA微小血管性狭心症冠微小循環障害
臓器系
循環器
科目
Cardiology, Heart Surgery, Angiology, Vascular Surgery
トピック
循環器内科 A-19:虚血性心疾患の臨床像と評価
上位概念
慢性冠症候群(安定狭心症)
治療薬
メトプロロールビソプロロールアムロジピンジルチアゼムラミプリルペリンドプリル
症状
狭心痛胸痛呼吸困難
検査値
アセチルコリン負荷試験

🧠 全体像:(CMD)は、にはがないのに、その先の・細動脈レベルの微小循環が構造的・機能的に障害され、を来す病態である。かつて「造影が正常=異常なし」として片付けられてきた症例の相当数がこれに当たり、現在はにおける虚血・狭心症(INOCA/ANOCA)という大きな枠組みの中で捉える。⚠️ 同じANOCA/INOCAの中にあるとは機序が異なり、機能的検査で分ける——微小循環のを測るか、そのもののを誘発するかという検査の違いが、そのまま病態の違いに対応する。女性に多く、「造影が正常だから予後良好」ではない点が診療上もっとも重要な注意点になる。

病態・機序

は(太い)とその末梢の微小血管(・細動脈・毛細血管、内径500 μm未満)に分けられる。通常のの診療はの狭窄に注目しがちだが、の主要な調節部位は実際には微小血管側にある。CMDはこの微小循環における・・によってが低下し、労作時(あるいは安静時)に相対的なを来す病態である1。にやを伴わない「タイプ1 CMD」がここで扱う中核像で、心筋症・弁膜症・などに伴う二次性CMDとは区別する。

💡 微小血管は造影では見えない。 ・が直接可視化できるのはまでで、微小血管そのものは現在の画像技術では捉えられない。そのため診断は「造影で狭窄がない」ことを確認したうえで、や誘発試験という機能的な指標に頼らざるを得ない。

INOCA/ANOCAという枠組みの中での位置づけ

に(50%以上の狭窄)を認めないにもかかわらずの症状・所見を呈する病態群を、虚血の証拠の有無で二分して捉える。

用語 意味
INOCA(ischemia with non-obstructive coronary arteries) におけるの証拠を伴う病態群
ANOCA(angina with non-obstructive coronary arteries) における狭心症状を伴う病態群(虚血の証拠は必須でない、より広い枠組み)

CMD()とは、いずれもINOCA/ANOCAという同じ傘の下に位置する二大機序である。の診療で「臨床的可能性が低く追加検査を省略できる」に分類されなかった患者や、・を経ても症状が説明できない患者で、この枠組みに沿った機能評価が検討される。

⚠️ 冠攣縮性狭心症との区別:機能的検査で分ける

CMDとは、ともにを用いるが、「どこで」異常反応が起こるかで判定が分かれる1。

flowchart TD
    A["狭心症状があり<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epicardial coronary artery'>心外膜冠動脈</span>に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='significant stenosis'>有意狭窄</span>なし(ANOCA/INOCA)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acetylcholine provocation test'>アセチルコリン負荷試験</span>を施行"]
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epicardial coronary artery'>心外膜冠動脈</span>に局所的な攣縮あり"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasospastic angina'>冠攣縮性狭心症</span>"]
    B -->|"症状・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ischemic ECG changes'>虚血性心電図変化</span>はあるが<span class='jp-term jp-term-diagram' title='focal spasm'>局所攣縮</span>なし"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microvascular spasm'>微小血管攣縮</span>"]
    A --> E["CFR・IMRを測定"]
    E -->|"CFR低値またはIMR高値"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coronary microvascular dysfunction'>冠微小血管障害</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microvascular angina'>微小血管性狭心症</span>)"]
    D --> F
()
主座 ・細動脈(微小血管) の局所
症状・虚血性ECG変化はあるがのを認めない に90%以上の一過性狭窄が誘発される
検査 CFR低下・IMR上昇が特徴的 は正常のことが多い
症状の性質 労作時に加え安静時にも起こりうる、への反応が乏しいことが多い 夜間〜早朝の安静時発作が典型

⚠️ 両者は排他的ではなく合併しうる。 同一患者での機序と攣縮の両方が証明されることも珍しくなく、は一方を診断すれば他方を除外してよい検査ではない。

診断基準(COVADIS)

COVADISは2018年、(MVA)の検査に基づく診断(investigative diagnosis)のための標準化基準を提示した1。次の4条件すべてを満たせば、①②を満たし③④の一方のみを満たせばとする。

条件 内容
①症状 労作時・安静時の、またはなどの狭心症相当症状
②虚血の証拠 の、または非侵襲的画像検査での虚血所見
③の非存在 または造影で50%未満の狭窄、かつ/またはFFR>0.80
④微小血管機能障害の証拠 下記のいずれか1つ以上

④の内訳は、(a) (CFR)低下(手法により2.0以下または2.5以下)、(b) での(症状再現・虚血性ECG変化を認めるがのなし)、(c) (IMR)異常高値(25超)、(d) (25超)のいずれかで判定する1。

⭐ CFRとIMRは測る対象が違う。 CFRは安静時に対する時の倍率で微小血管の「」を表し、IMRは時の微小血管抵抗そのものを直接反映する。CFRはの状態にも影響されうるのに対し、IMRはより微小血管に特異的とされ、両者を組み合わせて評価する。

疫学・予後

CMDはのない胸痛患者、とくに閉経後女性に高頻度にみられる。攣縮を除外した患者でも約30〜50%にCMDを認めたとする報告がある1。

⚠️ 「造影が正常だから予後良好」ではない。 CMD患者1970例と非CMD患者4661例を統合したでは、のは3.93(95%CI 2.91-5.30)、(MACE)のは5.16(95%CI 2.81-9.47)と、CMDのある群で明らかに不良であった2。MINOCAの原因検索でが挙がるのもこの文脈で、「がない」という所見だけで診断・経過観察を終えてはならない。

治療

のように単一の特効薬があるわけではなく、症状緩和と微小循環そのものの改善(疾患修飾)を分けて考える。

目的 薬剤
症状緩和(第一選択) β遮断薬(、など)
症状緩和(β遮断薬が不適・無効時) (、など)
疾患修飾(内皮機能・微小循環の改善を狙う) スタチン、阻害薬(、など)

CFR・IMR・を組み合わせた(IDP)で機序を確定し、その結果に応じて治療を層別化する戦略(CorMicA試験)では、標準治療群と比較し6か月後のが平均11.7点改善した3。⭐ 「まず造影、次に、その結果に応じた」という順序そのものが、CMDでは治療の一部である。 機序を確定せずに経験的な薬剤選択を繰り返すより、で・低下・攣縮のどれが主体かを見極めることが症状改善に直結する。

まとめ

  • CMDはにがないのに微小循環(・細動脈)の・平滑筋機能障害・によりを来す病態で、INOCA/ANOCAという大きな枠組みの中の一機序である。
  • とはともにを用いるが、にが誘発されれば、なく症状・虚血性ECG変化のみならとして区別する。
  • COVADIS基準は症状・虚血の証拠・の非存在に加え、CFR低下(≤2.0〜2.5)・IMR高値(>25)・・のいずれかで微小血管機能障害を確認する。
  • 閉経後女性に多く、「造影が正常=予後良好」ではない——CMDは・MACEのリスクを有意に高める。
  • 治療はβ遮断薬を中心とした症状緩和と、スタチン・阻害薬による疾患修飾を組み合わせ、に基づく層別化が症状改善に有効である。

出典

  1. 1.International standardization of diagnostic criteria for microvascular angina(Coronary Vasomotion Disorders International Study Group(COVADIS)(International Journal of Cardiology誌)・2018)COVADISが微小血管狭心症(MVA)の検査に基づく診断(investigative diagnosis)基準として、①心筋虚血を示唆する症状、②他覚的な心筋虚血の証拠、③有意な心外膜冠動脈狭窄がないこと(50%未満の狭窄またはFFR>0.80)、④冠血流予備能(CFR)低下および/または誘発性微小血管攣縮の確認、の4条件を提示したこと、④の判定基準としてCFRは手法により2.0以下または2.5以下、微小血管抵抗指数(IMR)は25超、TIMIフレームカウントは25超がそれぞれ異常値とされること、微小血管攣縮はアセチルコリン負荷試験で症状の再現・虚血性心電図変化を認めるが心外膜冠動脈の局所攣縮を認めない場合と定義され、局所攣縮を認める場合は冠攣縮性狭心症として区別されること、4条件すべてを満たせば確診、一部のみなら疑診とされることを確認した閲覧 2026-09-01
  2. 2.Association of Isolated Coronary Microvascular Dysfunction With Mortality and Major Adverse Cardiac Events: A Systematic Review and Meta-Analysis of Aggregate Data(Journal of the American Heart Association・2020)冠血流予備能の低下で診断した冠微小血管障害(CMD)患者1970例とCMDのない患者4661例を統合した系統的レビュー・メタ解析で、全死亡がCMDなし群2.6%(122/4661)に対しCMDあり群9.3%(183/1970)でオッズ比3.93(95%CI 2.91-5.30)、主要心血管イベント(MACE)がCMDなし群4.5%(167/3742)に対しCMDあり群16.9%(245/1447)でオッズ比5.16(95%CI 2.81-9.47)であったこと、冠攣縮検査で心外膜攣縮が除外された患者でも約30〜50%にCMDを認めたことを確認した閲覧 2026-09-01
  3. 3.Stratified Medical Therapy Using Invasive Coronary Function Testing in Angina: The CorMicA Trial(Journal of the American College of Cardiology・2018)有意冠動脈狭窄のない狭心症(INOCA)患者151例を、CFR・IMR・FFR測定とアセチルコリン負荷試験を組み合わせた侵襲的診断手順(IDP)に基づく層別化治療群とシャム対照群に無作為化した試験で、6か月後の狭心症重症度(Seattle Angina Questionnaireサマリースコア)が層別化治療群で平均11.7点改善し対照群より有意に良好であったことを確認した閲覧 2026-09-01