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Lab values · Published

アセチルコリン負荷試験

Acetylcholine provocation test

別名
冠攣縮誘発試験アセチルコリン負荷
臓器系
循環器
科目
Cardiology, Heart Surgery, Angiology, Vascular Surgery
トピック
循環器内科 A-20:狭心症
関連疾患
MINOCA冠微小血管障害

🧠 全体像:は、が「正常に近い」患者の胸痛の正体を突き止める誘発試験である。は「今、があるか」しか見せてくれないが、この検査は攣縮を起こしやすい血管かどうかという機能的な異常を人為的に暴き出す。ただし「起こせるか」を見る検査であって、日常生活で自然に攣縮が起きている頻度や重症度そのものを測るわけではない——陽性=その血管は攣縮する体質、陰性=この検査条件では攣縮を証明できなかった、という限定つきの答えしか出さない。

何を測っているか(生理学的な原理)

正常な冠動脈では、アセチルコリンは血管内皮からの(NO)遊離を介して血管を拡張させる。ところがが障害された冠動脈では、アセチルコリンの平滑筋への(を介した収縮)が優位になり、NOによる拮抗を受けないまま血管が攣縮する。つまりこの検査は、アセチルコリンそのもののを利用して、という「攣縮しやすさ」を可視化するである。

flowchart TD
    A["アセチルコリンを冠動脈内へ投与"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular endothelial function'>血管内皮機能</span>は正常か"}
    B -->|"正常"| C["NO遊離が優位となり血管拡張"]
    B -->|"障害あり"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='muscarinic receptor'>ムスカリン受容体</span>を介した<br>平滑筋の直接収縮が優位"]
    D --> E["冠動脈が攣縮"]
    E --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epicardial coronary artery'>心外膜冠動脈</span>で90%以上の狭窄か"}
    F -->|"はい"| G["エピカーディアル型<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coronary vasospasm'>冠攣縮</span>"]
    F -->|"いいえ(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='significant stenosis'>有意狭窄</span>なし)"| H{"胸痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ischemic ECG changes'>虚血性心電図変化</span>はあるか"}
    H -->|"あり"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microvascular spasm'>微小血管攣縮</span>を示唆"]
    H -->|"なし"| J["この条件では攣縮を証明できず"]

実施方法と前処置

室で、によりながないことを確認したうえで行う。

  • ⚠️ ・は検査前にあらかじめする。 診断精度を上げるため、可能な限り2日以上のを置く1。なしで行うと、攣縮が薬理学的に抑えられ偽陰性になりうる。
  • ・それぞれへアセチルコリンを段階的に増量しながら20秒かけて注入する(で20→50→100 μg、ではより少量の段階を用いる)。各段階の投与後に・心電図・症状を確認し、陽性所見が出た時点で投与を中止する。
  • ⚠️ 合併症に備え、各冠動脈へ十分量のをただちに冠動脈内投与できるを整えて行う。 遷延する攣縮、、房室ブロックが起こりうるためである1。特にへの投与時は高度徐脈が起こりやすく、バックアップペーシング(40〜50/分)を準備する1。
  • ⚠️ の急性期など血行動態が不安定な時期に行うのは危険であり、病態が安定してから施行する。

判定基準

⭐ COVADIS(Coronary Vasomotion Disorders International Study Group、冠国際研究グループ)基準では、次の3条件がすべて揃って初めて陽性と判定する2。日本循環器学会のガイドラインもこれと同じ3条件を採用している1。

条件 内容
① 血管径の変化 冠動脈径が投与前と比べて90%以上一過性に狭小化する
② 症状 患者が普段経験する通常の胸部症状を再現する
③ 心電図 虚血性の心電図変化(ST上昇または)を伴う

3条件のうち1つでも欠ければ陽性とはしない。エピカーディアル型(主要が90%以上狭小化する)とびまん性攣縮のいずれも、この基準で評価する。

異常が意味すること

所見のパターン 解釈
90%以上の狭窄+通常の胸痛+ エピカーディアル型()陽性
90%以上の狭窄には至らないが、通常の胸痛+を認める を示唆——の主要冠動脈にはがなくても、より末梢の微小血管レベルで同様の機序の攣縮が起きていると解釈する3
いずれの条件も満たさない この検査条件ではを証明できず。臨床的な疑いが強ければ後日の再検や他の機序(微小血管機能障害など)の評価を検討する

MINOCA(疾患を伴う心筋梗塞)の原因検索では、でが否定された後の原因検索の一角としてこの検査を用いる4。の枠組みでは、ANOCA/INOCA(を伴わない狭心症・虚血)の中の・を機能的に裏づける検査として位置づけられる。

⚠️ 判定を狂わせる因子

  • 不足による偽陰性:・を服用したまま行うと、薬理学的に攣縮が抑制され陽性所見が出にくくなる。
  • 施行時期:の急性期に行うのは危険であり避ける。に施行時期をずらす。
  • カテーテルの位置・造影条件:冠動脈全長を十分に描出できないと、限局した攣縮を見落としうる。

エルゴノビン負荷試験との違い

同じくを誘発する検査にエルゴノビン(、の関連薬)がある。エルゴノビンは20〜60 μgを2〜5分かけて緩徐に静注・冠動脈内投与するのに対し、アセチルコリンは各段階を20秒という短時間で投与する3という手技上の違いがあり、アセチルコリンはの評価にも用いやすいとされる。

まとめ

  • は、冠動脈によるの誘発試験であり、室で段階的にアセチルコリンを投与して行う。
  • ⚠️ 検査前に・をし、合併症(遷延攣縮・不整脈・房室ブロック)に備えてを即座に投与できるで行う。
  • 陽性判定は90%以上の一過性狭窄+通常の胸部症状+の3条件がすべて揃うこと(COVADIS基準)。
  • 90%以上の狭窄に至らずとも症状・心電図変化を伴えばを示唆する。
  • MINOCAの原因検索、におけるANOCA/INOCAの機能的評価の一角を担う。

出典

  1. 1.Guidelines for Diagnosis and Treatment of Patients With Vasospastic Angina (Coronary Spastic Angina) (JCS 2013)(日本循環器学会(Circulation Journal誌)・2014)冠攣縮誘発試験の陽性判定が「90%以上の一過性狭窄・通常の胸部症状・虚血性心電図変化」の3条件の組み合わせであること、検査の診断精度を高めるためカルシウム拮抗薬・長時間作用型硝酸薬を可能な限り2日以上休薬すべきこと、各冠動脈へ十分量の硝酸薬をただちに投与できる準備が必須であること、右冠動脈への投与時は高度徐脈に備えバックアップペーシング(40〜50/分)を用意することを確認した。閲覧 2026-08-19
  2. 2.International standardization of diagnostic criteria for vasospastic angina(Coronary Vasomotion Disorders International Study Group(COVADIS)/European Heart Journal・2017)COVADISが血管攣縮性狭心症の国際標準診断基準として、硝酸薬奏効性の狭心症・一過性の虚血性心電図変化・冠攣縮の証明(誘発試験による冠動脈径の一過性の有意狭小化に、通常の狭心痛と虚血性心電図変化を伴うこと)の組み合わせを提唱したことを確認した。閲覧 2026-08-19
  3. 3.Role of acetylcholine spasm provocation test as a pathophysiological assessment in nonobstructive coronary artery disease(Cardiovascular Intervention and Therapeutics・2020)心外膜冠動脈に90%以上の有意な狭窄を伴わないまま胸痛・虚血性心電図変化を来す病態を微小血管攣縮として区別すること、アセチルコリン負荷試験中の生命を脅かす不整脈の頻度が報告施設で0.5〜0.6%程度であったこと、非閉塞性冠動脈疾患(MINOCAを含む)の原因検索でアセチルコリン負荷試験が果たす役割を確認した。閲覧 2026-08-19
  4. 4.Contemporary Diagnosis and Management of Patients With Myocardial Infarction in the Absence of Obstructive Coronary Artery Disease: A Scientific Statement From the American Heart Association(American Heart Association(Circulation誌)・2019)MINOCAの原因検索において冠攣縮の証明にアセチルコリン負荷試験を追加検討することを確認した。閲覧 2026-08-19