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Disease Atlas · 神経 · 症候群

Ross症候群

Ross syndrome

別名
ロス症候群
臓器系
神経皮膚眼科
科目
NeurologyMedical Physiology
トピック
神経内科 G1-01:瞳孔支配の障害生理学 8.10:温度受容器・体温調節・皮膚循環の調節
鑑別疾患
ハーレクイン症候群多系統萎縮症糖尿病性自律神経障害特発性後天性全身性無汗症
続発疾患
熱中症・低体温症
治療薬
ボツリヌス毒素グリコピロニウム
症状
Adie緊張性瞳孔乏汗症発汗瞳孔不同
検査値
温熱発汗試験定量的軸索反射性発汗試験シリコン印象法交感神経皮膚反応

🧠 全体像:は、と(=)にが加わった、まれなである。三徴を暗記するより、患者が訴えるのは「汗が出ない」ではなく「汗が出すぎる」という逆転を掴むほうが実務では効く。無汗の領域には本人が気づかず、残った汗腺が代償して噴き出す限局した多汗だけがされる。だから診断は、多い側から無い側を探す——限局したの隣接領域に無汗の面を見つける作業になる。良性で進行しないが、無汗が広ければそのものが破綻する。

Adie症候群に何が足されているか

同じ「・の障害」を核に、随伴するの広さで呼び名が変わる。瞳孔側の機序(調節線維のによる、緊張性の再、低濃度への)はが担うので、ここでは発汗の側を扱う。

呼称 腱反射 発汗
あり 正常 正常
あり 低下・消失 正常1
あり 低下・消失 2
plus あり 低下・消失 +などより広い3
なし(眼のは保たれる) — 片側の発汗・機能の消失1

💡 ・・は同一の病態過程が違う範囲に出たものと考えられている3。別々の疾患を覚えるのではなく、「どこまで巻き込んだか」の一次元で並べる。

は片側性のことが多く、患者自身は無症状で、家族や医療者がとして気づくことが多い。

1958年の初報告以来およそ60例の報告にとどまるが、著者らは過小診断を疑っている3。が多汗なのでへ、が無症状なので眼科へ、と分かれてしまい、両者が結びつかない——これが見落としの構造である。

なぜ「汗が多い」と訴えるのか

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='postganglionic cholinergic'>節後コリン作動性</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='sudomotor fibers'>発汗線維</span>の選択的な脱落"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='segmental'>分節性</span>の無汗領域ができる"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thermoregulation'>体温調節</span>に必要な発汗量は変わらない"]
    C --> D["残存する正常な汗腺が代償性に過剰発汗"]
    D --> E["患者は「片側だけ汗が止まらない」と訴える"]
    B --> F["無汗の領域は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='awareness (subjective)'>自覚</span>されない"]
    F --> G["多汗の隣接領域を調べて初めて無汗が見つかる"]

無汗が広範になるほど、残った汗腺はに発汗を増やす。その限局した多汗が、患者にとってに最も苦痛な症状になる1。実際、大多数の患者で多汗がであり、社会生活上の苦痛の主因になっている3。報告例では右の顔面・頸部・肩と左下背部に持続的な多汗があり、その一方で他部位の発汗は進行性に失われていた1。

⭐ 「汗が増えた」という訴えを聞いたら、増えた部位ではなく減った部位を探す。 によるという考え方そのものはの鑑別でも扱われており、部位の左右差・上下差を確認するのが定石である。

⚠️ 広範な無汗はの破綻を意味する。 まで止めてしまうと、完全な無汗により発作を招きうる1。一般と同じくのリスクを負っており、「見た目には汗をかいている患者」がむしろ危険であるというになる。

機序はの分布で説明される。の選択的な脱落が無汗を、との関与がを来し3、はとのあいだののによる1。節後の線維が選択的に落ちるという一本の軸が、三徴すべてを貫いている。

発汗の分布から診断する

発汗検査は「異常があるか」ではなくどこがどう抜けているかを見るために行う。

検査 分かること
全身の発汗分布を面として可視化する。限局した代償性の多汗を見たら、隣接する無汗領域を探すという読み方がそのままの見つけ方になる。のパターンは神経根・神経幹レベルの限局した障害を示す
・ヨード(Minor)試験 ベッドサイドで無汗領域の輪郭を確認する32
QSART を選択的に定量する。と組み合わせると節前・節後の局在が決まり、は節後側に立つ
では記録されない3
を型取りして数と分布を定量する
低濃度点眼 瞳孔のを確認する。のおよそ80%で陽性2

そのものの疫学は、発症率10万人あたり年4.7、平均発症年齢32歳(多くは25〜45歳)、女性優位で男女比2.6:1、約80%が片側性で年4%の割合で両側化する2。

鑑別

鑑別 分ける手がかり
瞳孔と腱反射は同じだが発汗が正常1。発汗検査をしなければ両者は区別できない
片側の発汗・機能を失う。典型例では瞳孔が保たれるとされるが1、39例の連続症例では64%に同側によるがみられたという報告もある
が遠位優位・に分布し、にならない。異常と他の自律神経症状を伴う
無汗が全身性・びまん性に広がり進行性。・・を伴い、局在は節前側になる
無汗は斑状ではなく優位に分布し体幹はにとどまる(・腋窩の発汗は保たれやすい)。瞳孔・腱反射は正常4

⚠️ と診断したあとも、自己免疫の背景は一度は探る。 シェーグレン症候群や陽性との関連が報告されている3。「良性・特発性」とづける前に、治療可能な背景を潰しておく。

治療と生活指導

特異的な治療は無く、経過は非進行性で生命予後にも身体機能にも影響しない2。したがって治療は、多汗による社会生活上の苦痛をどこまで抑えるかという一点に絞られる。

  • 良性で進行しないことの説明そのものが治療の中心になる3。
  • 多汗への対症療法として、活動の調整、などのやの外用、の局所注射、重症例ではが挙げられる32。とは副作用が少ない反面、効果は部分的・一過性である1。
  • ⚠️ を抑える治療が、の最後の砦を奪う。 無汗が広範な症例では、を止めると完全な無汗となり発作を招きうるため、標準的な介入が行えないことがある1。抑えるべき多汗と、残すべき多汗を分けて考える。
  • 暑熱環境の回避、外部からの冷却、という非薬物的な対応の比重が、他のより大きくなる。
  • 瞳孔症状(・困難)とは治療対象にならない。

まとめ

  • は・または消失・の三徴で、にが加わったものにあたる。
  • が選択的に脱落するという一本の機序が、瞳孔・腱反射・発汗の三徴すべてを説明する。
  • は無汗ではなくである。無汗領域はされないため、多い側から無い側を探す。
  • で限局したを見たら隣接する無汗領域を探すという読み方が、そのままこの症候群の見つけ方になる。パターンは神経根・神経幹レベルを示す。
  • 広範な無汗はのリスクであり、まで止めると発作を招きうる。治療は多汗を抑える利益とを残す必要を天秤にかける。
  • とは発汗の有無で、とはの型(は、では同側Horner瞳孔の合併が報告される)で、とはの分布(か遠位優位か)で分ける。
  • 経過は非進行性で良性だが、シェーグレン症候群など自己免疫の背景は一度探る。

出典

  1. 1.Ross syndrome with generalized anhidrosis and localized disabling compensatory hyperhidrosis(Annals of Saudi Medicine(Raza N, Dar N, Mustafvi S, Zafar O)・2008)無汗が広範になると残存する正常な汗腺が代償性に発汗亢進を示し、その限局した多汗が患者にとって主観的に最も苦痛な症状になること、症例では右顔面・頸部・肩と左下背部の持続的な多汗が主訴であった一方で他部位の発汗は進行性に失われていたこと(Case節・Discussion節)、代償性発汗を止めると完全な無汗により高体温発作を招きうるため標準的な治療介入が行えなかったこと(Discussion節)、臨床観察とヨード・デンプン試験で多汗・無汗の領域を客観的に確認したこと(Case節)、瞳孔異常が毛様体神経節と虹彩括約筋のあいだの節後コリン作動性線維の脱神経によること、治療として胸腔鏡下交感神経遮断術・イオントフォレーシス・A型ボツリヌス毒素の局所注射が報告されており後二者は副作用が少ないが効果は部分的・一過性であること、Holmes-Adie症候群は強直性瞳孔と腱反射消失を示すが発汗は正常であり、ハーレクイン症候群は眼の交感神経支配を失わずに片側の発汗・血管運動機能を失う病態であること(Discussion節)を確認した閲覧 2026-08-20
  2. 2.Adie Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)Adie症候群に発汗低下が加わったものをRoss症候群と呼び、強直性瞳孔・腱反射低下・分節性無汗症の三徴で定義されること(Introduction節・Etiology節)、病巣が毛様体神経節の節後副交感神経の脱神経であり、再支配とシナプス後受容体の上方調節により脱神経過敏が生じること(Pathophysiology節)、低濃度(0.1〜0.125%)ピロカルピン点眼による脱神経過敏がおよそ80%の強直性瞳孔で確認できること(Evaluation節)、発症率が10万人あたり年4.7、平均発症年齢32歳(多くは25〜45歳)、女性優位で男女比2.6:1、約80%が片側性で年4%の割合で両側化すること(Epidemiology節)、無汗の検出にデンプン・ヨード試験とスプーン試験を用いること、より広い自律神経障害として発汗異常や起立性低血圧を伴いうること(Evaluation節)、経過が非進行性で生命予後にも身体機能にも影響しないこと、特異的治療を要さず難治性の発汗異常には胸部交感神経遮断術が挙げられること(Prognosis節・Treatment/Management節)を確認した閲覧 2026-08-20
  3. 3.Two Cases of Tonic Pupil: Ross and Ross Syndrome Plus(Cureus(Ahmad R, Saurabh K)・2022)Ross症候群が光近反応解離を伴う強直性瞳孔・分節性無汗症・腱反射消失で構成されること、Ross症候群・Holmes-Adie症候群・ハーレクイン症候群が同一の病態過程の異なる現れ方であり、Holmes-Adie症候群には発汗障害がなくハーレクイン症候群では瞳孔が保たれること(Discussion節)、1958年の初報告以来およそ60例が報告されているにとどまり過小診断の可能性があること、機序が毛様体神経節および節後コリン作動性線維の障害であり、コリン作動性発汗線維の選択的脱落が無汗を、後根神経節と脊髄介在ニューロンの関与が反射低下を来すこと、Ross症候群plusがHorner症候群の合併などより広い自律神経障害を伴う型を指すこと、多汗が大多数の患者で主訴となり社会的苦痛の主因であること、デンプン・ヨード(Minor)試験で無汗領域を、低濃度ピロカルピン試験で瞳孔のコリン作動性脱神経過敏を確認し、交感神経皮膚反応が記録されないこと、治療が対症的で活動の調整・グリコピロレートや塩化アルミニウム・ボツリヌス毒素注射・重症例の胸部交感神経遮断術と良性であることの説明からなること、シェーグレン症候群や抗核抗体陽性など自己免疫疾患との関連の報告があることを確認した(Discussion節)閲覧 2026-08-20
  4. 4.Acquired Idiopathic Generalized Anhidrosis (AIGA) and Its Complications: Implications for AIGA as an Autoimmune Disease(International Journal of Molecular Sciences・2021)特発性後天性全身性無汗症(AIGA)の主要病型である特発性純粋発汗神経機能不全(IPSF)では、無汗が四肢遠位に強く分布し体幹(胸腹部・背部)は減汗にとどまり、掌蹠・腋窩の精神性発汗はしばしば保たれること(Ross症候群のような分節性・斑状の分布ではない)、瞳孔・腱反射を含め発汗以外の自律神経症候・神経学的症候を伴わないことを確認した(担当ノート `diseases/acquired-idiopathic-generalized-anhidrosis` の是正で確認済み)。閲覧 2026-09-02