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Disease Atlas · 神経 · 疾患

多系統萎縮症

Multiple system atrophy

別名
MSAShy-Drager症候群
臓器系
神経
科目
HistopathologyNeurology
トピック
組織病理 H2-131:パーキンソン病(Braak病期分類とαシヌクレイノパチー)神経内科 G3-10:パーキンソン症候群を呈する疾患神経内科 G1-28:パーキンソン病の診断神経内科 G2-09:小脳の機能系と小脳障害の徴候神経内科 G2-16:発話・言語障害の分類
鑑別疾患
パーキンソン病進行性核上性麻痺大脳皮質基底核変性症糖尿病性自律神経障害
治療薬
レボドパ
症状
起立性低血圧切迫性尿失禁小脳性運動失調吸気性喘鳴転倒REM睡眠行動異常症便秘
画像所見
ドパミントランスポーターSPECTMIBGシンチグラフィhot cross bun徴候

🧠 全体像は、神経細胞ではなく)の細胞質内にが蓄積するという、他のシヌクレイノパチーとは蓄積する細胞が異なるである。この病理が・小脳・に及ぶため、またはのどちらが前景に立つかでMSA-P優位型)とMSA-C優位型)に分けるが、両病型を貫く核心はが病初期から必発することにある。パーキンソン病との最大の分かれ目もここで、が運動症状と同時期かそれ以前から重度に出現し、への反応は乏しいか一過性にとどまる。

病態

MSAはαシヌクレイノパチーの一つだが、型認知症・パーキンソン病がニューロン内にを蓄積させるのに対し、MSAではの細胞質内にとしてが蓄積する点が病理学的に対照的である。この違いが、蓄積する部位・広がり方・臨床像の違いに反映される。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oligodendrocyte'>乏突起膠細胞</span>内への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alpha-synuclein'>αシヌクレイン</span>蓄積"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='GCI'>グリア細胞質内封入体</span>の形成"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nigrostriatal system'>黒質線条体系</span>の変性"]
    B --> D["小脳・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pontine nuclei'>橋核</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inferior olivary nucleus'>下オリーブ核</span>の変性"]
    B --> E["脊髄中間質外側核など自律神経中枢の変性"]
    C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='MSA-P'>パーキンソニズム</span>"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='MSA-C'>小脳性運動失調</span>"]
    E --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='orthostatic hypotension (postural hypotension)'>起立性低血圧</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='voiding dysfunction'>排尿障害</span>が病初期から必発"]

の変性が優位な例をMSA-P、・小脳・橋小に相当する経路)の変性が優位な例をMSA-Cと呼ぶ1。しかしどちらの病型でもの変性は共通して早期から生じるため、またはのいずれが前景でも、自律神経症候の有無を必ず確認する。

臨床像:自律神経障害が最大の鑑別点

早期・重度のから進行して尿閉に至る)が、運動症状の発症とほぼ同時期から生じるのがMSAの最大の特徴であり、これがパーキンソン病との分かれ目になる。パーキンソン病でもは生じるが、通常は運動症状より遅れて軽度に出現する。

領域 所見
自律神経 早期・重度の、発汗異常
)だが反応は乏しいか一過性
呼吸・ (声帯外転筋麻痺による)
その他 早期からの転倒便秘

⚠️ 夜間のは、単なる「いびき」として見過ごしてはならないである。 声帯外転筋の麻痺によるを反映し、後述する突然死のリスクと直結する。

診断:MDS 2022年基準

現行のは2022年のMDS(国際パーキンソン病・運動障害学会)基準であり、旧来のGilman基準(第2次コンセンサス声明)ではない。 MDS 2022年基準は診断確実性を4段階(神経病理学的確定・臨床的確実臨床的疑い・可能性のあるMSA)に分ける1

の基準は「血圧低下との両方」ではなく、次の3項目のうち少なくとも1つ(OR)を満たせばよい。

基準 臨床的確実 臨床的疑い
説明のつかない100 mL以上 を問わない
尿失禁 説明のつかない 同左
起立(または起立試験)3分以内に20mmHg以上(通常は10mmHg以上も伴う)の低下。収縮期基準のみを満たす場合も診断を許容する 起立または起立試験10分以内の血圧低下

臨床的ではさらに、萎縮・鉄沈着、hot cross bun sign、橋・小脳中脚の萎縮または亢進のうち少なくとも1つの構造MRIマーカーが必須である。臨床的ではMRIマーカーは必須ではない1

臨床的では、反応性の乏しさも基準に組み込まれている。1000 mgまでのを1か月以上使用してもMDS-UPDRS運動スコアの改善が30%未満であることが求められる一方、MSA-P患者の42.5〜56.7%には一過性の反応と運動合併症(など)がみられたとする報告もあり、「が全く効かない」と単純化しない1

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parkinsonism'>パーキンソニズム</span>または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebellar ataxia'>小脳失調</span>"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autonomic neuropathy'>自律神経障害</span>が早期・重度にあるか"}
    B -->|"乏しい・遅発性"| C["パーキンソン病を優先して検討"]
    B -->|"早期・重度"| D["MSAを疑う"]
    D --> E["起立性血圧低下・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='post-void residual volume (PVR)'>残尿量</span>を評価"]
    E --> F["構造MRIで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='putamen'>被殻</span>・橋・小脳中脚を評価"]
    F --> G["MDS 2022年基準で確実性を判定"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='levodopa'>レボドパ</span>反応性・進行速度を継続評価"]

画像所見

橋の軸位MRIで(橋横走線維)の変性が十字型の高信号として描出されるhot cross bun sign萎縮・鉄沈着、の萎縮がMDS基準の構造MRIマーカーとして用いられる1

⚠️ 外側縁のは、かつてMSA-Pのとして教えられたが、現行のMDS 2022年基準の構成要素からは明示的に除外されている。 3.0T MRIでは健常者にも高頻度にみられ、的価値が限定的と判断されたためである1。この所見だけでMSAを疑わない。DaT-SPECTは線条体取り込み低下を示すがパーキンソン病と区別できない。は、心臓のがMSAでは比較的保たれるため取り込み低下が目立ちにくく、障害を反映して低下しやすいパーキンソン病との鑑別の補助になる。

鑑別診断

疾患 鑑別の手掛かり
パーキンソン病 は遅発性・軽度が典型。への反応が明瞭かつ持続する
、発症早期からの後方への易転倒が前景。はMSAほど早期・重度ではない
著明な左右差、が前景。はMSAほど早期・重度ではない

治療

MSAのそのものを止める治療は確立していない。対症療法とリハビリテーションが中心になる。

  • 、塩分・水分摂取の調整、頭部挙上での睡眠などのを優先し、必要に応じてを検討する。
  • の定期評価、の導入。
  • の試験投与を行うが、反応は乏しいか一過性にとどまることが多い1
  • :確立した薬物治療はなく、によるバランス訓練が中心。
  • :夜間の睡眠評価を行い、重症例ではを含む気道確保を検討する。

予後:夜間喘鳴と突然死

⚠️ 夜間のは突然死の危険因子である。 中国人MSA患者131例の検討では、死因の第1位は呼吸器感染(65.6%)だが、第2位は突然死(14.5%)であり、夜間喘鳴を有する患者では突然死の頻度が有意に高かった(42.9% 対 9.1%、P<0.001)2。声帯外転筋麻痺によるに加え、そのものが低酸素・に対する覚醒・心血管応答を鈍らせるため、閉塞から回復できずに睡眠中に死亡すると考えられている。夜間喘鳴を確認したら、単なる経過観察にとどめず気道管理の適応を積極的に検討する。

まとめ

  • MSAは内にとして蓄積する変性疾患で、MSA-P(優位型)とMSA-C(優位型)に分けるが、両病型でが病初期から必発する点が共通の核心である。
  • 早期・重度のが、への反応が乏しいこととあわせて、パーキンソン病との最大の鑑別点になる。
  • 現行のは2022年のMDS基準(臨床的確実・臨床的疑い・可能性のあるMSAなど4段階)で、旧Gilman基準ではない。基準は・尿失禁・のいずれか1つ(OR)で足り、臨床的ではこれに加えてhot cross bun signなど構造MRIマーカーが少なくとも1つ必要である。外側のは現行基準からは除外されている。
  • 夜間のは声帯外転筋麻痺とを反映するで、突然死のリスクと有意に関連する。
  • 治療は対症療法が中心で、そのものを止める治療は確立していない。

出典

  1. 1.The Movement Disorder Society Criteria for the Diagnosis of Multiple System Atrophy(Movement Disorder Society(Movement Disorders誌、Wenning GKら)・2022)MDS 2022年基準が神経病理学的確定・臨床的確実・臨床的疑い・可能性のある前駆期MSAの4段階の診断確実性を定義すること、パーキンソニズム優位型(MSA-P)と小脳失調優位型(MSA-C)の2つの運動病型に分けること、臨床的確実例の自律神経障害基準は①残尿100 mL以上を伴う説明のつかない排尿困難、②説明のつかない切迫性尿失禁、③神経原性起立性低血圧(起立または起立試験3分以内に収縮期血圧20mmHg以上、通常は拡張期血圧10mmHg以上も伴う低下。収縮期基準のみを満たす場合も診断を許容する)の3項目のうち少なくとも1つ(OR)を満たせばよいこと、臨床的疑い例では残尿量を問わない排尿症状や起立・起立試験10分以内の血圧低下でも足りること、臨床的確実例の診断には被殻萎縮・鉄沈着、hot cross bun sign、橋・小脳中脚の萎縮または拡散能亢進のうち少なくとも1つの構造MRIマーカーを要すること、被殻外側縁の線状高信号(putaminal rim sign)は3.0T MRIでは健常者にも高頻度にみられ鑑別診断的価値が限定的なため現行基準の構成要素から明示的に除外されていること、レボドパ反応性の乏しさ(1000 mgまでのレボドパを1か月以上使用してもMDS-UPDRS運動スコアの改善が30%未満)が確実例の基準に含まれる一方でMSA-P患者の42.5〜56.7%に一過性のレボドパ反応と運動合併症がみられたとする報告もあることを確認した閲覧 2026-08-11
  2. 2.Causes of Death in Chinese Patients with Multiple System Atrophy(Aging and Disease・2018)中国人MSA患者131例の後方視的検討で死因の第1位が呼吸器感染(65.6%)、第2位が突然死(14.5%)であったこと、突然死は夜間喘鳴を有する患者で有意に多かった(42.9%対9.1%、P<0.001)ことを結果の節で確認した閲覧 2026-08-11