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Disease Atlas · 神経 · 疾患

進行性核上性麻痺

Progressive supranuclear palsy

別名
PSPSteele-Richardson-Olszewski症候群
臓器系
神経
科目
Neurology
トピック
神経内科 G3-10:パーキンソン症候群を呈する疾患神経内科 G1-28:パーキンソン病の診断
鑑別疾患
パーキンソン病多系統萎縮症大脳皮質基底核変性症
関連疾患
血管性・レビー小体型・前頭側頭型認知症など非アルツハイマー型認知症
治療薬
レボドパボツリヌス毒素
症状
垂直性核上性注視麻痺眼瞼開放失行サッケード侵入転倒
画像所見
ドパミントランスポーターSPECTMIBGシンチグラフィモーニンググローリー徴候

🧠 全体像は、パーキンソン病と同じ「」から出発しながら、まったく別のをたどるである。鑑別の軸は3つに絞られる——垂直方向、とくに下方の、発症早期からの後方への易転倒、そしてへの反応が乏しいこと。この3点が揃えば、パーキンソン病として長期にを漸増する前に立ち止まる価値がある。

概要

は、脳幹・大脳基底核・などに4リピートが異常蓄積するである。歴史的にはSteele・Richardson・Olszewskiの3名が報告したことからSteele-Richardson-Olszewski症候群とも呼ばれる。パーキンソン病に次いで頻度の高い非定型の一つに数えられ、とともにの代表疾患を構成する。

病態

flowchart TD
    A["4リピート<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tau (protein)'>タウ</span>の異常凝集"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='midbrain tegmentum'>中脳被蓋</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pretectal area'>視蓋前域</span>・大脳基底核の神経細胞脱落"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rostral interstitial nucleus of the MLF'>riMLF</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interstitial nucleus of Cajal'>Cajal間質核</span>など垂直方向の<br>眼球運動中枢の障害"]
    B --> D["大脳基底核・脳幹の姿勢制御回路の障害"]
    B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nigrostriatal system'>黒質線条体系</span>の変性"]
    C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vertical supranuclear gaze palsy'>垂直性核上性注視麻痺</span>"]
    D --> G["軸性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rigidity (muscle rigidity)'>筋強剛</span>・後方への易転倒"]
    E --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parkinsonism'>パーキンソニズム</span>だが<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='levodopa'>レボドパ</span>への反応は乏しい"]

パーキンソン病がα-を主体とする病であるのに対し、PSPは微小管結合4リピートを主とするの脳内凝集で神経病理学的に定義される1。病変が黒質だけでなく脳幹・大脳基底核・へ広く及ぶため、ドパミン補充だけでは症状を十分に補えない。

臨床像

領域 所見
眼球運動 (とくに下方視から障害されやすい)、眼瞼開放の高頻度化
姿勢・歩行 発症早期からの後方への易転倒性、軸性優位の、頸部後屈(頸部が後ろへ反る姿勢異常。パーキンソン病でみられる姿勢と対照的)
表情・構音 驚いたような表情(の持続収縮による)、・嚥下障害
認知・行動 障害、などの徴候。詳細はの項を参照

と早期の後方転倒が揃えば、この2所見だけで、臨床亜型 PSP-RS として生前に到達しうる最も高い確実性区分である probable** を満たしうる**1。一方でPSPには複数の臨床亜型があり、が前景に立ち経過も緩徐でパーキンソン病と紛らわしいPSP-P(優位型)、症状が前景に立つPSP-F、を呈するPSP-CBSなども含まれる1

診断

MDS 2017年臨床診断基準

(O)・(P)・(A)・障害(C)の4領域を評価し、それぞれに確実性の高い順でレベル1〜3を割り当てる。

領域 レベル1(最も確実性が高い) 代表的なレベル2・3所見
眼球運動(O) 垂直の緩徐化/・眼瞼開放
姿勢保持(P) 発症3年以内の反復性転倒 引き試験での易/引き試験で2歩を超える後方ステップ
(A) 発症3年以内の進行性 軸性優位で抵抗性の/振戦・左右差・反応を伴う
認知(C) 性の認知・行動症状/

(O1またはO2) + (P1またはP2) の組合せは、感度は高くないが特異度が高いprobable PSP-RSを定義する1

⚠️ への反応の乏しさはに組み込まれた所見であり、単なる印象ではない。 抵抗性は「MDS-UPDRS運動スコアの改善が30%以下」と操作的に定義され、軸性優位で抵抗性の反応性のより高い診断確実性に位置づけられる1。長期にわたって用量を漸増してもなお反応に乏しい経過そのものが、パーキンソン病との鑑別情報になる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parkinsonism'>パーキンソニズム</span>を呈する患者を診察"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vertical supranuclear gaze palsy'>垂直性核上性注視麻痺</span>と<br>発症早期からの後方転倒があるか"}
    B -->|"両方あり"| C["probable PSP-RSとして高い確実性で診断"]
    B -->|"一方または両方が乏しい"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='levodopa'>レボドパ</span>への反応は明瞭で持続するか"}
    D -->|"乏しい・限定的"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='square wave jerks'>方形波ジャーク</span>・眼瞼開放<span class='jp-term jp-term-diagram' title='apraxia'>失行</span>・<br>認知/行動症状の有無を評価"]
    E --> F["他のPSP亜型(PSP-P・PSP-F・PSP-CBSなど)を検討"]
    D -->|"明瞭で持続する"| G["パーキンソン病を優先して検討"]

画像検査の位置づけ

正中MRIでが萎縮し橋が保たれることで生じるハチドリ(ハミングバード)徴候は、PSPをパーキンソン病・から鑑別する補助所見として広く用いられる2

DaT-SPECTはパーキンソン病同様にPSPでも集積低下を示し、両疾患を単独で区別できない。MIBGは、が保たれるPSPでは正常範囲にとどまりやすく、障害を反映して低下するパーキンソン病との鑑別に補助的に用いられる。いずれの画像検査も単独で確定診断とはならず、麻痺・早期転倒・反応)が診断の中心であり続ける。

治療

PSPのそのものを止める治療は確立していない。対応は症状ごとの対症療法とリハビリテーションが中心になる。

  • への:明瞭な反応は期待しにくいが、部分反応がありうるため一定期間・十分量での試験投与が行われる。反応に乏しければ長期漫然投与を避け、非薬物的対応へ重心を移す。
  • 眼瞼開放注射が選択肢になる。詳細は眼瞼開放を参照。
  • 転倒予防の導入、環境調整、による姿勢・バランス訓練を早期から行う。後方への易転倒性は骨折・に直結するため、対症薬より生活環境の整備が対応の中心になる。
  • 構音・嚥下障害:言語聴覚療法による評価と食形態の調整、の予防。
  • 意思決定支援:進行性で予後不良な経過をたどるため、嚥下機能低下やの要否などを含めたを早期から本人・家族と共有する。

まとめ

  • PSPはであり、α-病であるパーキンソン病とは病理学的に異なる。
  • 臨床的には、発症早期からの後方への易転倒、への反応の乏しさの3点がパーキンソン病との鑑別の軸になる。
  • MDS 2017年基準は眼球運動・姿勢保持・・認知の4領域をレベル1〜3で評価し、+早期転倒でprobable PSP-RSを高い確実性で診断できる。抵抗性はMDS-UPDRS運動スコア改善30%以下と操作的に定義される。
  • MRIのハチドリ徴候(萎縮・橋保持)は鑑別の補助所見であり、DaT-SPECTはパーキンソン病と区別できないが、MIBG交感神経が保たれるPSPで正常域にとどまりやすい。
  • そのものへの治療はなく、の試験投与、眼瞼開放への、転倒予防と嚥下管理を中心とした対症療法・リハビリテーションが対応の柱になる。

出典

  1. 1.Clinical diagnosis of progressive supranuclear palsy: The Movement Disorder Society criteria(Movement Disorder Society(Movement Disorders誌)・2017)進行性核上性麻痺が微小管結合4リピートを主とするタウ(4リピートタウ)の脳内凝集で神経病理学的に定義されること、眼球運動障害(O)・姿勢保持障害(P)・無動(A)・認知機能障害(C)の4領域それぞれに確実性レベル1〜3があり垂直性核上性注視麻痺(O1)と発症3年以内の反復性転倒(P1)が最も確実性の高い所見であること、レボドパ抵抗性がMDS-UPDRS運動スコアの改善30%以下と定義され軸性・レボドパ抵抗性のパーキンソニズム(A2)がレボドパ反応性の型(A3)より高い確実性区分に位置づけられること、PSP-RS(Richardson症候群)・PSP-P(パーキンソニズム優位型)・PSP-F(前頭葉型)・PSP-CBS(大脳皮質基底核症候群型)など複数の臨床亜型が設定されていることを確認した閲覧 2026-08-11
  2. 2.Hummingbird sign in progressive supranuclear palsy disease(Journal of Research in Medical Sciences(Pandey S, et al.)・2012)正中矢状断MRIで中脳被蓋が萎縮する一方で橋は保たれるためハチドリ(ペンギン)様の輪郭を呈すること、この所見が進行性核上性麻痺をパーキンソン病・多系統萎縮症と鑑別するのに有用であること、中脳面積と橋面積の比(magnetic resonance parkinsonism index)も診断の補助になることを確認した閲覧 2026-08-11