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Disease Atlas · 神経 · 先天性疾患

Niemann-Pick病C型

Niemann-Pick disease type C

別名
ニーマンピック病C型ニーマン・ピック病C型
臓器系
神経内分泌・代謝小児精神
科目
Medical BiochemistryPediatrics
トピック
生化学 5/2:膜構成脂質;シグナル分子の前駆体小児科 1-20:小児の肝腫大・脾腫
上位概念
ライソゾーム病
鑑別疾患
Gaucher病進行性核上性麻痺胆道閉鎖症
治療薬
ミグルスタット
症状
垂直性核上性注視麻痺脾腫肝腫大カタプレキシー小脳性運動失調構音障害嚥下障害発達退行筋緊張低下遷延性黄疸
検査値
オキシステロールAFP

🧠 全体像:は、名前がA型・B型と同じでもまったく別の病気である。A型・B型は SMPD1 の変異による欠損症、つまり古典的な「分解酵素が無い」蓄積症だが、C型は NPC1/NPC2 の機能喪失によりリソソームからコレステロールを外へ運び出せない細胞内輸送の病気である1。⭐ 臨床でこの病気を思い出す一点は「治療がある」ことに尽きる——を来す変性疾患のうち、が存在する数少ない原因である。そして発症年齢がの胆汁うっ滞から成人の精神症状まで極端に幅広いので、小児科・神経内科・精神科・肝臓内科のどの入口からも来る。

A型・B型とC型は同じ名前の別疾患

同じ「」の名で呼ばれてきたのは、いずれも骨髄にを認めるという形態学的な共通点によるもので、遺伝子も機序も異なる。

項目 A型・B型 C型(本項)
SMPD1 NPC1(95%)・NPC2(5%)
機序 の欠損でが分解できない リソソームからの障害。・も二次的に溜まる
蓄積する主体
桜実紅斑 A型は全例、B型は約1/3 ではない
頻度 25万人に1人(では4万人に1人) 15万人に1人

出典はいずれもStatPearlsの記載による1。⚠️ 「桜実紅斑があるから」ではC型を取り逃がす。 桜実紅斑はA型を強く示唆する所見であって、C型の診断の手がかりにはならない。なお Nova Scotia の遺伝的隔離集団で記載された「D型」は、生化学的にも臨床的にもC型と区別できず、NPC1 のによるものと判明している2。

病態生理

NPC1(18番染色体)と NPC2(14番染色体)がコードする蛋白は、・リソソームに存在し、取り込まれたコレステロールを膜外へ受け渡す役目を担う。どちらかが機能を失うとコレステロールの出口が塞がれ、やを含む複数の脂質がリソソーム内に溜まる21。

flowchart TD
    A["NPC1/NPC2 の機能喪失"] --> B["リソソームからコレステロールを<br>排出できない"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unesterified cholesterol'>非エステル化コレステロール</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glycolipid'>糖脂質</span>が<br>リソソーム内に蓄積"]
    C --> D["リソソーム機能不全と炎症・アポトーシス"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reticuloendothelial system, RES'>網内系</span>:肝脾腫・胆汁うっ滞・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary infiltrate'>肺浸潤</span>"]
    D --> F["中枢神経:中脳<span class='jp-term jp-term-diagram' title='saccade'>サッカード</span>系→小脳→大脳皮質"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vertical saccade palsy'>垂直サッカード麻痺</span> → 失調 → 認知症"]

💡 酵素欠損症ではないので「酵素活性を測る」診断が効かない。 やのように白血球の酵素活性で決まらず、()とに依存するのはこのためである。

発症年齢で臨床像が入れ替わる

⭐ 年齢が違えば別の病気に見える、というのがC型の最大の特徴である。

発症時期 主な臨床像
早期乳児期(2歳未満) 、新生児肝疾患。遷延するとを伴うと典型的。この時期に死亡する例も多い
後期乳児期(2〜6歳未満) と発達遅滞で始まり、やがてが明らかになる。次いで不器用さから失調へ
若年期(6〜15歳未満) 不器用さ→失調。学業不振が注意欠如とされやすい。・が続き、・・が加わる
思春期・成人(15歳以降) 小児期と同様の神経症状だが進行が緩徐。、・様の病像・様の精神症状が前面に出ることがある

いずれもGeneReviewsの年齢別記載による2。⚠️ 肝脾腫が無いことは診断を否定しない。 症候性の肝疾患で発症した児も成長とともにが触れなくなることがあり、そもそもを一度も呈さない患者も多い。逆に、神経・精神症状にが加わる例ではC型を強く支持する1。

眼球運動障害の見方が変わった

72例のビデオ眼球運動では、垂直のが健常対照の95%信頼区間を下回った患者が98.2%であったのに対し、垂直ののが低下していたのは46.9%にとどまった。つまりこの病気の基本徴候は「麻痺」ではなく麻痺であり、追従だけを診る通常の眼球運動診察では初期を取り逃がす3。

⚠️ 「下方視から障害される」という通説は、このでは支持されなかった。 同研究では下方と上方の障害の程度が同等であった(は下方51°/s・上方78.8°/s)3。診察では上下どちらの速度も見ることになる。

💡 代償運動が診断の手がかりになる。 患者はを起こすために強くし、頭部や体幹を振って視線を目標へ運ぶ。が湾曲するaround the house徴候も伴い、いずれもなど他のと共通する3。この所見はの頭部運動と外見が重なるので、両者を併せて診る。

その他の神経・精神症状

  • (): 小児の約20%にみられ、笑いなど強い情動刺激で突然筋緊張が失われる。1日に何度も起これば高度に生活を損ない、へ進展しうる2。⭐ 笑うと崩れ落ちる小児を見たらC型を鑑別に入れる。
  • : 約1/3に部分発作・を認め、のこともある2。
  • ・・嚥下障害: 一肢の動作時から始まり四肢・体軸へ広がる。嚥下障害はと並行して進み、最終的に経口摂取が不能になる2。

診断

  1. 生化学スクリーニング: 測定が旧来の方法に代わり、としても一次としても位置づけられている。7-オキシコレステロールおよびコレスタン-3β,5α,6β-トリオール由来の胆汁酸も上昇し、のが落ちる新生児で有用でありうる2。
  2. 確定診断: NPC1 または NPC2 ので確定する。は推奨されず、(パネル・パネルなど)か網羅的を用いる2。
  3. 補助所見: 肝病変で発症した児では血清AFPが上昇しうる。頭部MRIは晩期まで正常なことが多く、進行例での萎縮・の菲薄化を認める2。

鑑別

場面 鑑別すべきもの 分かれ目
、先天感染、白血病・リンパ腫・組織球症 特発性と診断された乳児の27%がC型だったという報告がある2
肝脾腫+蓄積症 (しわくちゃの紙様)かか。C型は酵素活性で診断できない
障害 若年発症・失調・脾腫・による代償があればC型を疑う
若年の精神病像 治療抵抗性の精神症状に・脾腫が隠れていないかを診察で拾う

治療

⭐ 治療は「症状の緩和」ではなく進行を遅らせることを狙う段階に入っている。

薬剤 位置づけ
複数の国でC型の神経症状に対して承認。米国では単剤として承認されていない
2024年9月に米国で、2歳以上に対し併用で神経症状の治療として承認
2024年9月に米国で、体重15kg以上の成人・小児の神経症状の治療として単剤承認

いずれもGeneReviewsの治療表による2。GeneReviewsは、Pattersonら2020の複数データセットの解析を引いて、投与例の生存が診断時点から平均5年(神経症状の発症時点からは約10年)延長したと述べている2。⚠️ を勧めない状況がある——高度の神経障害・認知症がある、余命1年未満の他の致死的疾患がある、肝脾腫のみで神経症状が無い、の3つである2。

支持療法は神経内科・・・・栄養・心理・社会福祉・臨床遺伝の多職種で行う。⚠️ 避けるべきものとして、を過剰にする薬、と相互作用して発作を悪化させうる薬、そしてアルコールを含む失調を悪化させる薬が挙げられている2。であり、発症者の同胞は早期に治療対象を拾い上げる目的で遺伝学的状態を明らかにしておくことが適切とされる2。

予後

古典的な小児発症例では、による死亡が10歳代後半から20歳代に多い。思春期・成人発症例は進行がはるかに緩徐で、発症から25年を経て70歳代まで生存した例も記載されている2。

まとめ

  • C型はA型・B型とは別の遺伝子・別の機序であり、NPC1/NPC2 によるリソソームからの障害である。では診断できない。
  • 発症年齢がの胆汁うっ滞から成人の・精神症状まで極端に幅広く、どの診療科の入口からも来る。
  • 基本徴候はで、追従だけを診る診察では初期を取り逃がす。・による代償が診断の手がかりになる。
  • 「下方視から障害される」という通説は、72例のビデオ眼球運動では支持されなかった。
  • 約20%に、約1/3にを伴う。肝脾腫が無いことは診断を否定しない。
  • 診断は測定と NPC1/NPC2 ので決める。
  • ・(併用)・というがあり、の原因の中で「治療可能」であることがこの疾患を鑑別に残す最大の理由である。

出典

  1. 1.Niemann-Pick Disease(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)A型・B型はSMPD1の変異による酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症であり、C型はNPC1・NPC2の変異によりコレステロールのリソソームからの排出が阻害される別機序であること、A型は生後3か月までに肝脾腫と成長障害で発症し3歳未満で致死的で全例に桜実紅斑を認めること、B型は肝脾腫・間質性肺疾患・血小板減少を主体とし約1/3に桜実紅斑と神経症状を伴うこと、A型・B型の頻度が25万人に1人(アシュケナージ系ユダヤ人では4万人に1人)でC型が15万人に1人であること、成人NPC患者の約50%は肝脾腫を欠くか軽度にとどまるため神経・精神疾患に孤立性脾腫が加わればNPCを支持すること、骨髄の泡沫細胞は電子顕微鏡で同心円状の層状封入体を示すことを確認した閲覧 2026-09-03
  2. 2.Niemann-Pick Disease Type C(GeneReviews (NCBI Bookshelf)・2025)診断はNPC1またはNPC2の両アレル性病的バリアントで確定し、NPC1が95%・NPC2が5%を占めること、オキシステロール測定が旧来法に代わる一次スクリーニング兼一次診断検査になったこと、発症年齢で臨床像が入れ替わること(早期乳児期は胎児腹水・新生児胆汁うっ滞性黄疸・肺浸潤、後期乳児期は筋緊張低下と発達遅滞、若年期は不器用さから失調へ、思春期以降は早発認知症・精神症状)、コロラドの報告では特発性新生児胆汁うっ滞と診断された乳児の27%がNPCであったこと、約1/3にてんかん発作、約20%に笑い発作性脱力(gelastic cataplexy)を認めること、誤嚥性肺炎による死亡が10歳代後半から20歳代に多いこと、有病率が西欧で約1:150,000・フランスの発生率が約1:120,000・米国の推定有病率が100万人あたり2.9であること、器質腫大が無いことは診断を否定しないこと、ミグルスタットが複数国で神経症状に対して承認されているが米国では単剤としてFDA承認されていないこと、アリモクロモルが2024年9月に2歳以上でミグルスタット併用としてFDA承認されたこと、レバセチルロイシンが2024年9月に体重15kg以上でFDA承認されたこと、GeneReviewsがPattersonら2020の解析を引いてミグルスタット投与例の生存が診断時点から平均5年延長したと述べていること、ミグルスタットを勧めない状況(高度の神経障害・認知症、余命1年未満の他の致死的疾患、肝脾腫のみ)、失調を悪化させる薬剤とアルコールを避けること、頭部MRIは晩期まで正常なことが多く進行例で上小脳虫部の萎縮・脳梁の菲薄化を認めること、GeneReviewsがGardinら2023の早期肝病変コホートを引いて血清AFPが21例中17例で上昇していたと述べていること、発症者の同胞について早期に治療対象を拾い上げる目的で遺伝学的状態を明らかにすることが適切とされること、思春期・成人発症例では発症から25年を経て70歳代まで生存した例が記載されていることを確認した閲覧 2026-09-03
  3. 3.A cross-sectional, prospective ocular motor study in 72 patients with Niemann-Pick disease type C(European Journal of Neurology・2021)ビデオ眼球運動計測を用いた72例の横断研究で、垂直サッカードの最大速度が健常対照の95%信頼区間を下回った患者が98.2%であったのに対し追従眼球運動の利得が低下していたのは46.9%にとどまり、NPCの基本徴候は注視麻痺(VSGP)ではなくサッカード麻痺(VSSP)であること、一般に言われてきたのとは異なり下方サッカードと上方サッカードの障害の程度は同等であったこと(下方51°/s・上方78.8°/s、いずれも対照との比較でp<0.001)、患者がサッカードを起こすために瞬目や頭部・体幹の運動を用いること、サッカード軌跡が湾曲するaround the house徴候がGaucher病3型など他のライソゾーム病でもみられることを確認した閲覧 2026-09-03