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Symptoms · Published

原発性多汗症

Primary hyperhidrosis

別名
特発性多汗症原発性局所多汗症腋窩多汗症手掌多汗症
臓器系
皮膚神経
科目
Pharmacology
トピック
薬理学 A1:コリン作動性・アドレナリン作動性伝達とそのシナプス前調節

🧠 全体像は「汗の量」そのものの異常ではなく、発汗を命じる交感神経の出力が過剰になっている状態である。汗腺の数・形態は健常者と変わらない。臨床的に効くのはただ一つの問い——全身性かか、そして睡眠中に消えるか——であり、・左右対称・睡眠中消失が揃えば原発性、全身性で夜間も続き体重減少や発熱を伴えば続発性を疑う。は交感神経支配でありながら伝達物質がアセチルコリンという数少ない例外であり、これが外用という、機序の異なる2種類の局所治療がどちらも効く理由になっている。

定義と用語の整理

」というは範囲が広いため、まず本ノートが扱う範囲を切り分ける。

用語 特徴 役割分担
手掌・足底・腋窩・頭部顔面に限局左右対称、6か月以上、睡眠中は消失、25歳未満発症・家族歴が多い 本ノートの主題1
発汗 全身性・を問わない発汗全般の鑑別(・熱放散の発汗・急性の緊急病態を含む) 続発性・急性の発汗、鑑別のはここに譲る
夜間に限局する発汗。体重減少・発熱とのB症状評価 は睡眠中に消失する点で対照的
発汗量の減少・消失。はここから波及する 対義の病態。によるとの鑑別に関わる

診断後の重症度は、患者本人の支障感を1〜4の4段階で自己評価するHyperhidrosis Disease Severity Scale(HDSS)で評価し、3・4を重症として治療対象とする。

家族歴は患者の約3分の2にみられる。 小児期・思春期に発症し、6か月以上前から週2回以上のエピソードが続くという経過も診断の目安になる2

⚠️ 原発性と続発性を分ける軸は「全身性かか」「睡眠中に消失するか」「随伴症状の有無」の3つに尽きる。 全身性で夜間も持続し、体重減少発熱を伴うなら原発性としない——の項のB症状評価に進む。

病態生理

原発性局所の原因は不明だが、罹患者の汗腺は学的に健常者と数・大きさに異同がなく、汗腺そのものではなく発汗を命じる経路の機能亢進と考えられている1

発汗の経路は視床下部のの順に並ぶ(の項参照)。この交感神経でありながら伝達物質がアセチルコリンでを介するという数少ない例外にあたり、A1で扱う修飾の枠組みでは「放出」段階を止める薬が汗腺にも効くことになる。はこの経路の出力そのものが過剰になっている状態であり、腺の形態・分布は変わらない。

💡 「交感神経なのに」という例外構造が、そのまま治療の入口になる。 に遮断する外用と、でアセチルコリン放出そのものを止めるは、標的段階は違うが同じ経路の異なる場所を塞ぐという点で共通する。

⚠️ 見逃してはいけないもの

危険度の高い順に並べる。全身性・夜間持続・体重減少・発熱があれば原発性としない。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["過剰発汗の訴え"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medical interview (history-taking)'>問診</span>:全身性か、<br>手掌・足底・腋窩・頭部顔面に限局する<br>左右対称性の発汗か"}
    B -->|"全身性・非対称・随伴症状あり"| C{"随伴症状を絞る"}
    C -->|"体重減少・発熱・夜間持続"| D["血液検査・画像検索<br>(結核・リンパ腫を評価)"]
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paroxysmal hypertension'>発作性高血圧</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='palpitations'>動悸</span>・頭痛"| E["血中・尿中<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metanephrine'>メタネフリン</span>を測定<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pheochromocytoma'>褐色細胞腫</span>を評価)"]
    C -->|"暑がり・頻脈・体重減少"| F["TSH・遊離T4を測定"]
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cold sweat'>冷汗</span>・振戦・空腹感"| G["血糖を測定<br>(結果を待たず治療してよい)"]
    C -->|"薬剤開始・増量との時間関係"| H["原因薬剤の減量・中止を検討"]
    C -->|"糖尿病・他の自律神経症状"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='compensatory hyperhidrosis'>代償性多汗</span>として<br>乏汗のある領域を探す"]
    B -->|"左右対称の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='localized'>局所性</span>、6か月以上"| J{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diagnostic criteria'>診断基準</span>を2項目以上満たすか:<br>25歳以下発症・睡眠中消失・<br>週1回以上・家族歴・日常生活への支障"}
    J -->|"満たさない"| C
    J -->|"満たす"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary hyperhidrosis'>原発性多汗症</span>と診断"]
    K --> L["HDSSで重症度を評価<br>(1〜4、3・4が治療対象)"]

対症療法の考え方

原疾患はないため、治療はそのまま対症療法である。治療のゴールは発汗を完全に消すことではなく、患者本人が困っているかどうかで開始を判断する1

部位ごとに保険適用と推奨度が異なるため、段階を踏んで選ぶ。

部位 第一選択 中間 難治時
腋窩 外用外用 局所注射(重症例のみ保険適用) 内服、条件付きでETS
手掌 ⇔外用外用 局所注射(保険適用外) 内服、条件付きでETS
足底 外用・局所注射(いずれも保険適用外) 内服
頭部顔面 外用 内服局所注射(保険適用外) 条件付きでETS

⚠️ は最終手段であり、という不可逆な合併症を必ず伴う。 とくに頭部顔面では「重篤な合併症としてのは避けられない」とされ、既存治療に抵抗性で患者本人が強く希望する場合に限り、十分なインフォームドコンセントを条件に検討される1。切った交感神経は元に戻らないため、他の治療で発汗が十分に抑えられない場合の最後の選択肢と位置づける。

まとめ

  • は汗腺自体の異常ではなく、視床下部・の発汗出力そのものが過剰になった状態で、腺の数・形態は正常である。
  • ・左右対称・睡眠中消失・6か月以上という所見が続発性との切り分けの軸で、全身性・夜間持続・体重減少・発熱があれば原発性としない。
  • は交感神経支配でありながら伝達物質がアセチルコリンという例外であり、これが外用という異なる標的段階の治療がどちらも効く理由になる。
  • 見逃してはいけないのは低血糖、、悪性腫瘍のB症状、甲状腺機能亢進症、結核、薬剤性、による、閉経の順で、危険度の高いものから除外する。
  • 治療は部位ごとに段階が決まっており、外用・外用が第一選択、局所注射は主に重症の腋窩例に保険適用がある。
  • という不可逆な合併症を必ず伴う最終手段であり、十分なインフォームドコンセントなしに選択してはならない。

出典

  1. 1.原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版(2023年12月一部改訂)(日本皮膚科学会・2023)原発性局所多汗症の診断基準(Hornbergerらによる、原因不明の局所性過剰発汗が6か月以上続き、①25歳以下発症②左右対称③睡眠中は発汗が止まる④週1回以上のエピソード⑤家族歴⑥日常生活への支障のうち2項目以上)、重症度評価にHyperhidrosis Disease Severity Scale(HDSS、1〜4の4段階で3・4を重症とする)を用いること、多汗症患者の汗腺は組織病理学的に健常者と数・大きさに異同がなく発汗機能そのものの亢進と考えられていること、続発性多汗症の原因(全身性:薬剤性・循環器疾患・呼吸不全・感染症・悪性腫瘍・内分泌代謝疾患〔甲状腺機能亢進症・低血糖・褐色細胞腫など〕・パーキンソン病、局所性:脳梗塞や末梢神経障害による無汗からの代償性発汗・Frey症候群・味覚性発汗・不安障害など)、腋窩・手掌・足底・頭部顔面のそれぞれで治療手順と推奨度が異なること(外用抗コリン薬・塩化アルミニウム外用は推奨度B、ボツリヌス毒素局所注射は腋窩の重症例のみ保険適用、内服抗コリン薬以降は推奨度C1が中心)、交感神経遮断術(ETS)は重症・保存的治療抵抗性・患者本人の強い希望がある場合に限る条件付きの推奨で、頭部顔面領域では代償性発汗が重篤な合併症として避けられずインフォームドコンセントが必須とされていることを確認した閲覧 2026-08-03
  2. 2.Diagnosis Guidelines(International Hyperhidrosis Society・2026)原発性多汗症の多くが小児期・思春期に発症し、手掌・足底・腋窩に左右対称性の過剰発汗を来すこと、睡眠中は過剰な発汗を来さないこと、患者の3分の2で他の家族にも多汗症を認めること、6か月以上前から週2回以上のエピソードがあることを診断の目安とすること、続発性を疑う場合には発汗部位・持続期間・家族歴・誘因・全身症状のレビュー・服薬歴を確認することを確認した閲覧 2026-08-03