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Disease Atlas · 神経 · 疾患

感覚性ニューロノパチー

Sensory neuronopathy

別名
後根神経節症感覚性ガングリオノパチー後根神経節炎
臓器系
神経腫瘍
科目
NeurologyNeurology and Neurosurgery
トピック
神経内科 G3-09:神経系の傍腫瘍症候群(ニューロパチー・小脳変性・ランバート・イートン症候群)神経内科 G3-27:代謝性・自己免疫性・その他の全身疾患に伴う神経症状神経内科 06:感覚系の診察(Sensory system examination)
鑑別疾患
亜急性連合性脊髄変性症糖尿病性ニューロパチー慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー
関連疾患
傍腫瘍性小脳変性
原因薬剤
シスプラチンビタミンB6
症状
感覚性運動失調Romberg徴候知覚異常しびれ反射消失神経障害性疼痛
検査値
神経自己抗体神経伝導検査脳脊髄液検査
原因となる疾患
シェーグレン症候群肺癌

🧠 全体像:は、末梢神経の軸索ではなく細胞体そのもの——のニューロン——が壊れる病態である。この一点から臨床像がすべて導ける。軸索が長い順に壊れるのと違い、細胞体がやられるのでどの高さの神経節が壊れるかは長さとになる。だから顔面にも体幹にも及び、左右非対称になり、上肢から始まりうる。⭐ 「でない感覚障害」を見たときに立ち上がる枠組みであり、そして原因の筆頭がのであるため、これは神経の診断であると同時に悪性腫瘍検索の開始命令でもある。

非長さ依存性——これが核心

(遠位対称性)
病変部位 軸索(末梢の遠位端から) (細胞体)
分布 、下肢から 。上肢から始まりうる、顔・体幹にも及ぶ
左右差 対称 非対称が多い
経過 緩徐進行が多い 急性〜亜急性が多い
代表原因 糖尿病、アルコール、 傍腫瘍性、、シスプラチン

で数字を並べると差は明瞭である。群ではの分布が82%、上肢を含む障害が93.6%、が71%、の非対称が46%を占めた1。⭐ とりわけ強いのは顔面である——顔面の感覚障害は群の10%に認められたのに対し、対照の群では1例も無かった1。逆に対照群では下肢限局(48%)との発症(66%)が多い1。

💡 なぜが狙われるのか。 はの外にあり、血流と・毒物に直接さらされている。も、も、ここへは届きやすい。この解剖が「傍腫瘍性・自己免疫性・薬剤性」という原因の顔ぶれを決めている。

他覚所見——深部感覚が落ちるとどう見えるか

障害されるのは主に大径のなので、振動覚・が落ちる。その結果として現れるのがで、では視覚が代償するため立てるのに、で崩れる(陽性)。は早期から消失する。

⭐ を見たらの完全を疑う。 上肢を挙上させてさせると、指がゆっくりと不規則にうねる——本人はまっすぐ保っているつもりでも、位置の情報が中枢に届かないため姿勢が保てない。錐体外路性のと違い、させると止まることが決定的な違いになる。

💡 運動は保たれるのが原則だが、例外がある。 病変はにあるので筋力は保たれるが、根や末梢神経に障害が及ぶ例もある。その場合は「」「」と呼び分けるべきで2、⚠️ 運動症状の合併と髄液の炎症所見は、傍腫瘍性を強く疑わせる手掛かりになる2。

原因を群で押さえる

群 代表 手掛かり
傍腫瘍性 (ANNA-1)+。次いでCV2/CRMP5・2 、髄液炎症所見、運動症状の合併。神経症状が癌の診断に先行することが多い
自己免疫 、抗SSA/SSB抗体、
薬剤・中毒 シスプラチンなどの、ビタミンB6の大量摂取 曝露歴。シスプラチンは中止後もしばらく進行しうる
感染 危険因子の聴取
特発性 精査で原因不明のまま残る群 研究集団78例中22例が特発性だった1

⚠️ ビタミンB6は「補うと良い」ものではない。 大量摂取は感覚神経を傷害する。ただしそのものの障害の証明はに依存しており、ヒトでの病理学的証明とは水準が違う1。の服用歴は自己申告されないことが多いので、能動的に聞く。

⚠️ シスプラチンは細胞体を直接狙う。 感覚神経細胞体そのものが標的であることが認識されており1、これが「後も症状が進む(coasting)」という他の化学療法性と違う挙動の理由になる。

診断——スコアとその使いどころ

臨床的に純粋なの患者に対し、次の5項目を合計して6.5点を超えればの可能性ありと判定する1。

項目 点
発症時または極期の、下肢または上肢の 3.1
発症時または極期の、の左右非対称 1.7
極期のが下肢に限局しない 2.0
上肢でが1本以上消失、または3本以上がの30%未満(で説明できないもの) 2.8
下肢でが異常な神経が2本未満 3.1

前向きの検証集団37例で感度0.92・特異度1.00であった1。さらに、初期検索でを否定する所見が無く、かつなどの腫瘍関連抗体または5年以内の癌・シスプラチン投与・のいずれかがあれば「ほぼ確実」に格上げされる1。

💡 項目の構成を読むと、この病態の輪郭が分かる。 5項目のうち3つは「」の言い換え(・非対称・下肢に限局しない)であり、残る2つは「感覚は上肢で強く落ちているのに、下肢のは無事」というのパターンを見ている。下肢のでは両群を区別できる閾値が定まらなかった——だから基準は上肢のを見る1。

悪性腫瘍検索が仕事の中心になる

⚠️ は、の「癌」に指定されている6つの表現型の1つである2。診断がついた時点で腫瘍検索を始める。

  • かつ高リスク抗体をもつ患者では、初回の腫瘍検索が陰性でも4〜6か月ごとに2年間、検索を繰り返す2。根拠は、腫瘍の大多数が神経症状の発症から2年以内に診断されるという文献である2。
  • ⚠️ 1回の画像陰性で打ち切らない。 陽性例における腫瘍検索の具体的な戦略(初回の検出率、の位置づけ、追跡期間の延長)はで扱う。
  • 抗体検査は血清と髄液の両方で行うことが推奨される2。
flowchart TD
    A["感覚障害の訴え"] --> B{"分布は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gloves and stockings pattern'>手袋靴下型</span>・<br>左右対称か"}
    B -->|"はい"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='length-dependent'>長さ依存性</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuropathy'>ニューロパチー</span><br>糖尿病・アルコール・薬剤を検索"]
    B -->|"いいえ(上肢優位・顔面や体幹・非対称)"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sensory neuronopathy'>感覚性ニューロノパチー</span>を疑う"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nerve conduction study (NCS)'>神経伝導検査</span><br>上肢の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sensory nerve action potential'>感覚神経活動電位</span>と<br>下肢の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='motor nerve conduction'>運動神経伝導</span>を見る"]
    E --> F["診断スコアで6.5点超なら<br>可能性ありと判定"]
    F --> G["原因検索を並行させる"]
    G --> H["腫瘍関連抗体を血清と髄液で測定<br>髄液の炎症所見を確認"]
    G --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sicca symptoms'>乾燥症状</span>と抗SSA/SSB抗体<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='platinum agent'>プラチナ製剤</span>・ビタミンB6の曝露歴"]
    H --> J{"高リスク抗体または<br>運動症状・髄液炎症所見"}
    J -->|"あり"| K["腫瘍検索を4〜6か月ごとに2年継続"]
    J -->|"なし"| L["初回の包括的な腫瘍検索で足りる"]

鑑別

治療と経過

⚠️ 一度死んだニューロンは再生しない。 と違って細胞体そのものが失われるため、回復は望みにくく、早期に進行を止めることが目標になる。だから治療の中心は原因への介入である。

  • 傍腫瘍性:腫瘍そのものの治療が最も重要な介入になる。免疫療法の効果は限定的なことが多い。
  • :免疫抑制療法が試みられる(を参照)。
  • 薬剤性:原因薬の中止。ただしシスプラチンでは中止後も進行しうる。ビタミンB6は摂取の中止で改善が期待できる。
  • 対症:は戻らないことが多いため、を前提としたリハビリテーションとが生活を支える。疼痛にはとしての薬物療法を用いる。

まとめ

  • はの細胞体が変性する病態で、軸索の長さとに障害が起こる。
  • 核は——上肢から始まりうる、顔面・体幹に及ぶ、左右非対称。顔面の感覚障害はとの対比で特に特異度が高い。
  • が落ちて・陽性・が出る。運動は原則保たれるが、運動症状の合併と髄液炎症所見は傍腫瘍性を示唆する。
  • 原因は傍腫瘍性(・が筆頭)、、、ビタミンB6大量摂取、、特発性に群分けする。
  • 診断は・非対称・下肢に限局しない・上肢の低下/消失・下肢のがほぼ正常、の5項目を合計して6.5点超で判定する(検証集団で感度0.92・特異度1.00)。
  • 癌であり、初回の腫瘍検索が陰性でも高リスク抗体があれば4〜6か月ごとに2年間繰り返す。
  • 細胞体は再生しないため回復は乏しい。原因治療を早く始めることと、を前提としたが対応の柱になる。

出典

  1. 1.The pattern and diagnostic criteria of sensory neuronopathy: a case-control study(Brain・2009)感覚性ニューロノパチー78例と他の感覚性ニューロパチー56例を比較した症例対照研究で、①下肢または上肢の運動失調、②感覚脱失の左右非対称、③感覚脱失が下肢に限局しない、④上肢で1本以上の感覚神経活動電位消失または3本以上が正常下限の30%未満、⑤下肢で運動神経伝導異常が2本未満、の5項目に重みづけ(3.1/1.7/2.0/2.8/3.1点)を与え合計6.5点超で「可能性あり」とする診断基準(Model 6)を構築し、前向き検証集団37例で感度0.92・特異度1.00を得たこと、感覚性ニューロノパチー群では非長さ依存性分布82%・四肢遠位の感覚異常90%・上肢を含む障害93.6%・運動失調71%・感覚脱失の非対称46%であり、顔面の感覚障害は10%に認められた一方で対照群では0%だったこと、対照群では逆に下肢限局48%・進行性発症66%が多かったこと、確実例44例の内訳がシスプラチン11例と傍腫瘍性33例(抗Hu 30例・抗amphiphysin 1例)であったこと、シスプラチンでは感覚神経細胞体そのものが標的であると認識されている一方でビタミンB6中毒による後根神経節障害の証明は動物モデルに依存すること、上位分類として抗Hu抗体または5年以内の癌・シスプラチン投与・Sjögren症候群のいずれかがあれば「ほぼ確実」とすることを、Results節・Table 2・Table 3・診断スコア表・Discussion節で確認した。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Updated Diagnostic Criteria for Paraneoplastic Neurologic Syndromes(Neurology Neuroimmunology & Neuroinflammation・2021)感覚性ニューロノパチーが癌高リスク表現型の6項目(脳脊髄炎・辺縁系脳炎・急速進行性小脳症候群・オプソクローヌス・ミオクローヌス・感覚性ニューロノパチー・消化管偽性閉塞・Lambert-Eaton筋無力症候群)の1つとして維持されたこと、感覚性ニューロノパチーの診断は病因を問わず既報の基準に従うべきとしCamdessanchéらの基準を参照していること、原因はSjögren症候群やプラチナ製剤化学療法など多様だが、髄液に炎症所見があるか運動症状を伴う場合はとくに傍腫瘍性を考慮すべきとすること、感覚性ニューロノパチーで最も多い抗体がHu(ANNA-1)で次いでCV2/CRMP5・amphiphysinであること、末梢神経・神経根の障害が加わる場合は感覚運動性ニューロパチー/多発神経根ニューロパチーという語を使い分けるべきとすること、初回の腫瘍検索が陰性でも高リスク表現型かつ高リスク抗体の患者では4〜6か月ごとに2年間再検索すべきで、その根拠が腫瘍の大多数が神経症状発症から2年以内に診断されるという文献であることを、High-Risk Phenotypes節・Sensory Neuronopathy節・Screening for Cancer節で確認した。閲覧 2026-09-03