脳神経内科・脳神経外科

脳神経内科・脳神経外科 · 06

感覚系の診察(Sensory system examination)

Neurological examination: sensory system

前提:正常
感覚系(求心性・上行性伝導路)原始感覚の伝導路(前外側系)識別性感覚の伝導路(後索・内側毛帯系)
疾患
感覚性ニューロノパチー慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー
症状
感覚性運動失調皮質性感覚障害

🧠 全体像:感覚診察では、に確認できる所見と患者にしか分からない症状(・など)の両方を評価し、が(を示唆)か、片側性・か(中枢性・神経根性を示唆)を判定することが目的となる。分布の判定に加えて、どの(=どの線維・どの伝導路)が落ちているかと、感覚が「減っている」のか「増えている」のか(・・過痛覚といった陽性徴候)の2軸も同時に見ていく。

このノートは「」PDFを7回に分けたシリーズの第6回。反射の診察は前のノート、小脳機能の診察は次のノートを参照。

感覚診察の考え方

  • ()所見:で検者が判定できる。ただし「」といっても患者の応答を介する検査なので、実際には再現性に限界がある(下記⚠️)。
  • 症状:患者の訴えのみで分かる。やが代表例で、これらは「陽性」に分類される(などの「陰性」症状と対比される)。は訴えを聞くだけで終わらせず、痛みの誘発される範囲を実際に触って地図にし、(本来痛くない刺激で痛い)・過痛覚(痛み刺激が過剰に痛い)として記録する。の研究では、が80%に対し陽性徴候も35%で見つかっており、陰性所見だけを追うと3割を取りこぼす1。
  • 診察の目的は、の分布の有無と、の側性(片側性/両側性)を明らかにすることである。実際の絞り込みでは、これに加えて「(痛覚・温度覚)か(振動覚・)か」「かか」「対称性か非対称性か」を組み合わせて病型を決める。

⚠️ 感覚検査の検者間一致は思ったより低い。 のベッドサイド検査を集めたでは、検者間一致(Cohenのκ)は0.61・0.60・4部位法0.61に対し、は0.45、128 Hzによる振動覚は0.42と弱く、128 Hzは同一検者が繰り返しても0.54だった2。を1回の診察で決め打ちせず、左右差・反復・他のとの整合で判断する。

💡 ()の位置づけ。 や試験管による方法は簡便だが定量性が低い。標準化した刺激で閾値を測るは小径・障害のスクリーニングと経過観察に推奨されるが、の診断を単独で確定する検査ではなく、部位・年齢・性で補正したと臨床像とあわせて解釈する必要がある3。

検査項目

検査法
軽触覚 (末梢神経障害のスクリーニングではの4部位法も用いる)
痛覚 ディスポーザブル針
温度覚 温水・冷水を入れた試験管(簡便法。定量性・再現性は限られる)
振動覚 骨突起上に置いた128 Hz
で手指・をわずかに動かし方向を答えさせる(先にで「上」「下」を示して課題を理解させ、検者はの側面を保持し、ゆっくり動かす)
皮膚上にアラビア数字を描きで判読させる(協力が難しい場合は直線と円の識別のみでもよい)
コンパスの2点間距離を変えて識別できる最小距離を求める
で日用品(鍵・ペン等)を触知させ名前を答えさせる

正常所見の記載例:痛覚・触覚・温度覚は正常。皮膚に描いた数字を認識できる。四肢すべてでは正常(振動覚も併せて記載する)。

💡 と振動覚は「どちらか」ではなく両方。 両者は脊髄・脳幹では同じ後索・を通るが、受容器が異なり、視床・大脳皮質での終末分布も別なので、片方が正常でももう片方が落ちていることがある4。なおの先端を上下からつまむとの手がかりを与えてしまうため、側面を持つ手技が守られていないとを過大評価する。

⚠️ は一次感覚が保たれて初めて評価できる。 ・・は「が触覚情報を統合できているか」を見る検査なので、軽触覚や痛覚がすでに落ちている部位で異常が出ても、それは皮質病変の証拠にならない。必ず一次感覚(触覚・痛覚・温度覚)を先に確認してから解釈する。の距離のような数値も、が大きいので単独の絶対値を過信しない。

💡 どの検査から始めるか。 全を網羅する時間が無いときは痛覚と軽触覚を優先する。による51例では、標準感覚診察(軽触覚・痛覚・振動覚・温)が88%(45/51)に異常を検出したが、痛覚+軽触覚の2つだけで、その異常例をすべて拾えた1。

まとめ

  • は所見と症状(・などの)に分けて評価する。
  • 痛覚・温度覚(脊髄視床路系)と振動覚・(後索系)を別々に検査することで、どのが障害されているかを推定できる。と振動覚は受容器も皮質投射も違うので両方調べる4。
  • ⚠️ 軽触覚だけは例外で、どちらか一方の伝導路の代表にはならない。触覚は両系にまたがって上行しの重なりも大きいので、脊髄レベルの高さを絞るには痛覚の方が鋭い。
  • のはを示唆し、片側性・の分布は中枢性病変やを示唆する。糖尿病では患者の最大半数が神経障害を起こし、その典型が(うち30〜40%は疼痛を伴う)だが、単一の検査は無く、早期例では典型的な分布がはっきりしないこともある5。
  • ⚠️ で区切られる片側性のはまず中枢神経病変を考える——末梢神経障害では例外的である。ただし末梢でもやLewis-Sumner症候群(CIDP)は非対称になり、真に片側性の末梢神経障害もまれに存在する6。
  • 続く小脳機能の診察は次のノートを参照。

出典

  1. 1.Pinprick and Light Touch Are Adequate to Establish Sensory Dysfunction in Patients with Lumbar Radicular Pain and Disc Herniation(Clinical Orthopaedics and Related Research・2021)腰椎椎間板ヘルニアによる神経根痛51例で、標準感覚診察は88%(45/51)に異常を検出し、感覚低下80%(41例)・感覚過敏など陽性徴候35%(18例)。痛覚と軽触覚の2つだけで、標準診察が拾った異常例をすべて拾えた閲覧 2026-08-22
  2. 2.Reliability of recommended non-invasive chairside screening tests for diabetes-related peripheral neuropathy: a systematic review with meta-analyses(BMJ Open Diabetes Research & Care・2021)17研究のメタ解析で、ベッドサイド感覚検査の検者間一致(Cohenのκ)は振動覚閾値0.61(95%CI 0.50-0.73)、アキレス腱反射0.60(0.55-0.64)、モノフィラメント4部位法0.61(0.45-0.77)に対し、痛覚(pinprick)0.45(0.22-0.69)、128 Hz音叉0.42(0.15-0.70)と弱い。128 Hz音叉は同一検者内でもκ=0.54にとどまる閲覧 2026-08-22
  3. 3.Value of quantitative sensory testing in neurological and pain disorders: NeuPSIG consensus(Pain (International Association for the Study of Pain)・2013)定量的感覚検査(QST)は小径・大径線維障害のスクリーニングと感覚障害・誘発痛の経過観察に推奨されるが、神経障害性疼痛の診断を単独で確定する検査としては推奨されない。実施には標準化された刺激・検査アルゴリズムと、部位・年齢・性で補正した基準値が要る閲覧 2026-08-22
  4. 4.Joint position sense and vibration sense: anatomical organisation and assessment(Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry・2002)関節位置覚と振動覚は脊髄・脳幹の経路を共有するが、受容器が異なり視床・大脳皮質での終末分布も別なので、両方を検査する必要がある。いずれの検査も触覚受容器の同時刺激を伴う閲覧 2026-08-22
  5. 5.Painful and non-painful diabetic neuropathy, diagnostic challenges and implications for future management(Brain (Oxford University Press)・2021)糖尿病患者の最大半数が経過中に神経障害を発症し、うち30〜40%に神経障害性疼痛を伴う。最も多い遠位対称性多発神経障害は手袋靴下型の遠位感覚・運動障害を呈するが、単一のゴールドスタンダード検査は無く、症状・徴候・確認検査を組み合わせた階層的診断が用いられる閲覧 2026-08-22
  6. 6.A Case Series of Unilateral Peripheral Neuropathy(Journal of the Peripheral Nervous System・2025)正中線で区切られる片側性の筋力低下・感覚脱失は主に中枢神経病変によるもので、末梢神経障害では例外的。末梢での非対称・片側性は多発単神経炎やLewis-Sumner症候群(限局型CIDP)が主で、真の片側性末梢神経障害はきわめてまれ閲覧 2026-08-22