神経解剖学

神経解剖学 · 18

原始感覚の伝導路(前外側系)

Tracts of the protopathic sensibility (anterolateral system)

応用トピック
感覚系の診察(Sensory system examination)脊髄損傷の症候感覚障害の神経解剖学的基盤脊髄障害の症候脊椎・脊髄損傷の診察と手術適応

🧠 の本質は「2次ニューロンが脊髄ので、侵入したからわずか1〜2上方でほぼ即座に交叉する」ことにある。 だからこそ脊髄病変では、病変対側の痛覚・温度覚が、病変レベルの少し下から障害される——この「早く・低く交叉する」という一点さえ押さえれば、経路の細部(=・、=痛覚・温度覚)は自然に導ける。

原始感覚とは

は・・熱感・痛覚を含む。いずれも不快な感覚だが、生存に不可欠である。

部位 経路
体幹・四肢 受容器 → → → 脊髄視床路 → 視床VPL核(+・) → 皮質
頭部 受容器 → → → → 視床VPM核(+・) → 皮質

体幹・四肢からの経路:脊髄視床路

受容器:皮膚の(痛覚・温度覚)

1次ニューロン:内の

2次ニューロン:

  • 1次ニューロンの中枢枝は後根を通って脊髄白質に入り、上行枝(Lissauer路)と下行枝に分かれたのち、後角(、substantia gelatinosaを含む)の2次ニューロンとシナプスする
  • 2次ニューロンの軸索は、後角に入ったから1〜2ほど頭側へ上行したのちで交叉する——ヒトの術63例の解析で、この横断的な交叉パターンが確認されている1。交叉後は対側の前外側索を上行する
  • が延髄を上行する際、・とともにを形成する
  • 中脳でははにあり、の外側に位置する

3次ニューロン:多くの線維は視床のVPL核で終止し、3次ニューロンの軸索はのへ放線する

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='free nerve ending'>自由神経終末</span>(痛覚・温度覚の受容器)"] --> B["1次ニューロン:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dorsal root ganglion (DRG)'>後根神経節</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pseudounipolar'>偽単極</span>)"]
  B --> C["Lissauer路を上行しつつ後角(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='substantia gelatinosa'>膠様質</span>)の2次ニューロンとシナプス"]
  C --> D["2次ニューロンの軸索が1〜2<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spinal segment'>髄節</span>頭側へ上行後、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior white commissure'>前白交連</span>で交叉"]
  D --> E["対側の前外側索を上行<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lateral spinothalamic tract'>外側脊髄視床路</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior spinothalamic tract'>前脊髄視床路</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spinotectal tract'>脊髄蓋路</span>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spinal lemniscus'>脊髄毛帯</span>)"]
  E --> F["視床VPL核(+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intralaminar nuclei'>髄板内核</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='midline nuclei'>正中核</span>)"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='postcentral gyrus'>中心後回</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary somatosensory cortex'>一次体性感覚野</span>(Br 3,1,2)"]

体幹・四肢からの情報は、で処理される段階で多の弓も同時に形成する。は前外側索の中で機能的に分かれている。

脊髄視床路 白質中の位置 伝える情報
寄り ・
熱感・痛覚

⚠️ 交叉までの上行幅にはがあり、との機能分担も表ほど截然とはしていない。 ヒト術63例の解析では交叉はを横断的に通り、侵入から1〜2ほど頭側へ上行して交叉する例が典型的だが1、ヒト剖検18例に基づく別の報告では交叉までの幅が1〜6に及ぶが確認されている2。また近年のヒト術での知覚マッピングでは、痛覚・温度覚・/を伝える線維は前外側索内でに配置されるものの、「=、=痛覚」という分離ほど明確な二分ではないことが示されている2。

視床下部・網様体への側路

脊髄視床路とは別に、情報は網様体や視床下部へも投射される。

  • :線維はまず網様体で終止し、そこで多のネットワークを形成したのち視床へ向かう。と網様体視床路に分けられ、視床の・(非特異的核)で終止する
  • :のが直接視床下部へ到達する
  • として、 → 網様体()→ 視床下部(網様体視床下部路)という経路もある
  • 内臓求心性()情報も同様にに入り、(solitary nucleus、脳幹の核)を経て視床下部へ向かう

💡 はヒトの痛覚伝導の唯一の経路ではない。 の効果は数年で減弱することが知られており、この痛みのは交叉しなかった脊髄視床路線維・・多の・後索のによって説明されると考えられている2。・は実在する経路で、その軸索の多くは脊髄視床路と二重・三重に投射している2。

頭部からの経路:三叉神経系

頭部の経路は、体幹・四肢の経路とほぼ並行する構造を持つ。

対応関係 体幹・四肢 頭部
1次ニューロン所在
後角に相当する部位 (の上方への連続)
2次ニューロンの伝導路 脊髄視床路 (ventral trigeminothalamic tract=腹側)
終止する視床核 VPL VPM

視床からの投射先

は脊髄神経・脳神経を介してCNSに入り、は最終的に視床または視床下部で終止する。

  • ・(+)で終止する経路は、・・へ投射する → ・行動・気分を決定する
  • VPL・VPMで終止する経路は(Br 3,1,2)へ投射する → 刺激の局在に不可欠
  • 視床下部は内分泌・自律機能の最高中枢であり、侵害情報は視床下部を介してコルチゾール分泌・血圧・心拍数を修飾する

との詳しい比較は19のまとめで扱う。

まとめ

  • (・・熱感・痛覚)は体幹・四肢では脊髄視床路、頭部ではにより伝えられる。
  • 2次ニューロンの軸索は、そのので速やかに交叉し対側の前外側索を上行する——この「早く低い位置での交叉」が最大の特徴。
  • (・)と(熱感・痛覚)は延髄でとしてまとまり、視床VPL(頭部はVPM)で3次ニューロンにシナプスする。
  • ・は、・(・辺縁系へ→気分・)や視床下部(自律・内分泌へ→コルチゾール・血圧・心拍)へ情報を分岐させる。
  • 頭部の経路は体幹・四肢の経路とほぼ並行しており、DRG→、→、脊髄視床路→、VPL→VPMと対応する。

出典

  1. 1.The crossing of the spinothalamic tract(Brain・2001)抄録で、ヒトの前外側索切截術63例および前脊髄動脈血栓症1例の解析に基づき、脊髄視床路・脊髄網様体路の線維は脊髄を対角線状ではなく横断的(transverse)に交叉すること、切截部位の頭側・尾側それぞれ1~2髄節にわたり部分的な感覚脱失が生じるのは、ちょうどその高さで交叉している途中の線維が切断されるためであり、この所見が頸髄・胸髄・腰髄いずれのレベルでも確認されたことを確認した閲覧 2026-08-26
  2. 2.The human spinothalamic tract: lessons from cordotomy(Brain Communications・2025)レビュー全文で、ヒトの剖検研究(White, Richardson, Sweet 1956年、18例)を引用し脊髄視床路の交叉部位には個体差があり前白交連での交叉までに1~6髄節分の幅があること、前外側索切截術(cordotomy)の除痛効果は数年で減弱し、その後の疼痛再燃は交叉しなかったSTT線維・脊髄網様体路・多シナプス性経路・後索の可塑性によって説明されうること(すなわちSTT/前外側系がヒトの疼痛伝導の唯一の経路ではないこと)、脊髄網様体路・脊髄中脳路は実在し二重・三重投射するSTT軸索を含むこと、ヒトの除痛術での知覚マッピングでは痛覚・温度覚・粗大触覚/圧覚の線維は前外側索内で体部位局在的に配置されるものの前脊髄視床路(粗大触覚)・外側脊髄視床路(痛覚)という古典的な区分ほど明確には分離されていないことを確認した閲覧 2026-08-26