脳神経内科学

脳神経内科学 · G2-08

感覚障害の神経解剖学的基盤

G2-08: Neuroanatomical basis of sensory disturbances

前提:正常
原始感覚の伝導路(前外側系)識別性感覚の伝導路(後索・内側毛帯系)
疾患
Brown-Séquard症候群脊髄空洞症
症状
しびれ解離性感覚障害皮質性感覚障害

🧠 全体像:感覚障害は分布と感覚から局在する。は神経根、末梢神経領域は単神経、は、は脊髄内の経路選択性を示す。

主要上行路

経路 運ぶ感覚 交叉 脊髄病変での欠損
後索‐(DCML) 振動覚、、 同側後索を上行し延髄で交叉 病変以下の同側で低下
/脊髄視床路 痛覚、温度覚、 後角で、1〜2内に交叉1 病変の約1〜2下から対側で低下
flowchart TD
    A["末梢受容器・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dorsal root ganglion (DRG)'>後根神経節</span>"] --> B{"感覚<span class='jp-term jp-term-diagram' title='modality'>モダリティ</span>"}
    B -->|"振動・位置・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='discriminative touch'>識別性触覚</span>"| C["同側後索を上行"]
    C --> D["延髄<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gracile nucleus'>薄束核</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cuneate nucleus'>楔状束核</span>で交叉"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medial lemniscus'>内側毛帯</span>→視床VPL→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary somatosensory cortex'>一次体性感覚野</span>"]
    B -->|"痛・温度・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='crude touch'>粗大触覚</span>"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dorsal horn'>脊髄後角</span>でシナプス"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior white commissure'>前白交連</span>で交叉"]
    G --> H["対側<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterolateral system'>前外側系</span>→視床VPL→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary somatosensory cortex'>一次体性感覚野</span>"]

顔面感覚はを通り、体幹四肢とは異なって主に視床VPMへ投射する。では同側顔面と対側身体の感覚障害が交差して現れうる。

💡 の交叉・は、表ほど截然とはしていない。 ヒト術63例の解析では侵入から1〜2ほど頭側で交叉する例が典型的だが1、ヒト剖検18例に基づく別の報告では交叉までの幅が1〜6に及ぶが確認されている。同じレビューでは、ヒトの術での知覚マッピングにより、前外側索内の線維配置はであるものの「=、=痛覚」という教科書的な層構造ほど明確には分離されていないことも示されている2。

💡 後索はだけを運ぶわけではない。 後索正中部にはヒトの痛を伝える上行性の経路が存在し、限局した後索正中切截術でヒトの難治性骨盤がほぼ消失する一方、体表の刺痛に対するは生じない3。「後索=、=痛覚」という上表の図式は、この内臓痛の後索路によって補われる。

分布による局在

分布 局在の手掛かり
単一末梢神経領域 。性ではない。
性+
左右対称の
明瞭な 脊髄病変
同側顔面+対側身体
対側半身、全 視床・・大脳皮質
立体認知、覚、、の障害

代表的脊髄・中枢パターン

  • Brown–Séquard症候群:病変以下の同側・振動低下と、少しからの対側低下。
  • :障害により病変の両側が低下し、後索感覚は比較的保たれる。
  • :同側顔面と対側身体の低下。
  • 視床病変:対側半身の後に中枢性卒中後疼痛を生じることがある。脳卒中267例の前向き研究では、6か月時点でこの中枢性卒中後疼痛(CPSP)は16例(8%)にみられた4。
  • 病変:一次感覚の軽度低下に加え、立体認知不能や消去、を示しうる。

まとめ

  • 「どこに」「どの感覚が」障害されたかを組み合わせて局在する。
  • 末梢神経領域とを混同しない。
  • 後索は脊髄内で同側、路は早期交叉後に対側を上行する(ただし交叉・の層構造にはがあり、教科書ほど截然とはしていない)。

出典

  1. 1.The crossing of the spinothalamic tract(Brain・2001)ヒトの前外側索切截術63例および前脊髄動脈血栓症1例の解析に基づき、脊髄視床路・脊髄網様体路の線維は脊髄を対角線状ではなく横断的(transverse)に交叉すること、切截部位の頭側・尾側それぞれ1〜2髄節にわたり部分的な感覚脱失が生じるのは、ちょうどその高さで交叉している途中の線維が切断されるためであることを確認した閲覧 2026-08-27
  2. 2.The human spinothalamic tract: lessons from cordotomy(Brain Communications・2025)レビュー全文で、ヒトの剖検研究(White, Richardson, Sweet 1956年、18例)を引用し脊髄視床路の交叉部位には個体差があり前白交連での交叉までに1〜6髄節分の幅があること、ヒトの除痛術での知覚マッピングでは痛覚・温度覚・粗大触覚/圧覚の線維は前外側索内で体部位局在的に配置されるものの前脊髄視床路(粗大触覚)・外側脊髄視床路(痛覚)という古典的な区分ほど明確には分離されていないことを確認した閲覧 2026-08-27
  3. 3.Is there a pathway in the posterior funiculus that signals visceral pain?(Pain・1996)抄録で、ヒトの外科症例(限局した後索正中切截術)とその一例の組織学的検証、およびラットでの神経解剖学的・電気生理学的知見に基づき、後索正中部に骨盤内臓の侵害情報を伝える上行性の経路が存在すること、この限局した切截でヒトの骨盤癌性疼痛がほぼ消失する一方で体表への刺痛刺激に対する痛覚脱失は生じないことを確認した閲覧 2026-08-27
  4. 4.Incidence of central post-stroke pain(Pain・1995)脳卒中後267例を発症後1週・1・6・12か月で前向きに追跡した研究で、6か月時点で生存し評価可能であった207例のうち中枢性卒中後疼痛(CPSP)は16例(8%)にみられ、うち15例(94%)で温度覚・触覚・痛覚の低下を伴い、9例(56%)で冷刺激に対するアロディニアを認めたこと、単発病変例では病変の大きさ・部位とCPSPの有無に関連が無かったことを確認した閲覧 2026-08-27