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Symptoms · Published

解離性感覚障害

Dissociated sensory loss

別名
解離性感覚脱失
臓器系
神経
科目
Neurology
トピック
神経内科 G2-08:感覚障害の神経解剖学的基盤神経内科 G1-13:脊髄損傷の症候神経内科 G2-04:延髄障害の症候群
関連疾患
延髄外側症候群脊髄空洞症

🧠 全体像:解離性感覚障害は「感覚が部分的にしか障害されない」という不思議な現象ではなく、痛覚・温度覚(脊髄視床路)と触覚・(後索)が脊髄内で別々の経路を通るという解剖がそのまま臨床像になったものである。両者は同じ末梢神経から出発しても脊髄に入った直後に道を分ける——後索は交叉せず同側を上行し、脊髄視床路は後角でシナプスした後にで対側へ交叉して上行する。一方の経路だけを侵す病変(脊髄中心部の空洞、の損傷、延側の梗塞、脊髄前方の虚血)に当たると、片方の感覚だけがし他方が保たれる「解離」が生じる。パターン(どちらがし、どちらが保たれ、左右どちらに出るか)を読めば、病変の位置がほぼ一意に決まる。

解剖:二つの経路が脊髄内で分かれる

後索-(振動覚・)は後根から入ると交叉せず同側の後索を上行し、延髄ので初めて交叉する。一方、・脊髄視床路(痛覚・温度覚・)は後角でシナプスした後、1〜2以内にを通って対側へ交叉してから上行する。この「交叉する場所とタイミングの違い」が、脊髄病変での解離性感覚障害の型を決める。

flowchart TD
    A["末梢受容器・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dorsal root ganglion (DRG)'>後根神経節</span>"] --> B{"感覚<span class='jp-term jp-term-diagram' title='modality'>モダリティ</span>"}
    B -->|"振動覚・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='position sense (proprioception)'>位置覚</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='discriminative touch'>識別性触覚</span>"| C["同側後索を上行"]
    C --> D["延髄で交叉<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gracile nucleus'>薄束核</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cuneate nucleus'>楔状束核</span>)"]
    B -->|"痛覚・温度覚"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dorsal horn'>脊髄後角</span>でシナプス"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior white commissure'>前白交連</span>で交叉<br>(1〜2<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spinal segment'>髄節</span>以内)"]
    F --> G["対側脊髄視床路を上行"]

代表的パターン

病変 する感覚 保たれる感覚 分布
病変の両側の痛覚・温度覚 触覚・振動覚(初期) 上肢優位の「宙吊り型()」1
Brown-Séquard症候群(損傷) 対側の痛覚・温度覚(病変の2〜3下方から) 同側の触覚・振動覚は保たれるが同側を伴う 左右非対称・2
同側顔面+対側体幹四肢の痛覚・温度覚 同側体幹四肢の触覚・振動覚 顔面と体幹で左右が入れ替わる3
両側の痛覚・温度覚(+両側 両側の・振動覚 病変以下の両側性4

💡 Brown-Séquard症候群で対側痛障害が病変より下方から始まる理由は、交叉の位置にある。 脊髄視床路線維は後根から入ったそのものではなく、そこから1〜2ほど上行してからで交叉する。そのため病変のすぐ下1〜数は「まだ交叉していない」ため患側で温存され、実際の対側痛は病変よりいくらか下方から始まる2

💡 「両側か片側か」「顔と体幹で左右が揃うか入れ替わるか」を先に見る。 は両側性、Brown-Séquard症候群は左右非対称、だけが「顔は同側・体幹は対側」という顔と体幹で左右の食い違うパターンを示す。この一点で延髄病変を他と区別できる。

の「宙吊り型」は、病変だけが抜け落ちる。 空洞が及ぶでのみ痛し、それよりでは保たれるため、体幹・上肢に限局したの分布になる1。これは末梢神経障害(末梢神経支配領域に一致)や後索障害(病変以下すべてが障害される)とは異なる局在の取り方である。

評価の進め方

flowchart TD
    A["痛覚・温度覚と触覚・振動覚を別々に検査"] --> B{"解離があるか"}
    B -->|"なし"| C["末梢神経障害・視床/皮質病変など<br>他の局在パターンを検討"]
    B -->|"あり・両側性"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='syringomyelia'>脊髄空洞症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior spinal artery syndrome'>前脊髄動脈症候群</span>を検討"]
    B -->|"あり・左右非対称"| E["Brown-Séquard症候群を検討"]
    B -->|"あり・顔と体幹で左右が逆"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lateral medullary / Wallenberg syndrome'>延髄外側症候群</span>を検討"]
    D --> G["脊椎/頭部MRIで確定"]
    E --> G
    F --> G

まとめ

  • 解離性感覚障害は、痛(脊髄視床路)と触覚・(後索)が脊髄内で異なる経路・異なる交叉様式を取ることの帰結である。
  • は病変に限局した両側性の宙吊り型、Brown-Séquard症候群は左右非対称、)は顔と体幹で左右が入れ替わるは両側性で後索が保たれる。
  • 「両側か片側か」「顔と体幹の左右が揃うか」を見れば、病変の位置をほぼ一意に絞り込める。

出典

  1. 1.Syringomyelia(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)拡大するCSF充満性の空洞(syrinx)が前白交連で交叉する脊髄視床路のニューロンを圧迫し温痛覚脱失+触覚・振動覚保持の分節性解離性感覚障害を来すこと、感覚障害は病変髄節に一致した上肢優位の「マント状(cape-like)」分布を取ることを確認した(Pathophysiology節・History and Physical節)。閲覧 2026-08-11
  2. 2.Traumatic Brown-Séquard syndrome: modern reminder of a neurological injury(BMJ Case Reports・2020)Brown-Séquard症候群(脊髄半側切断)で同側の運動・深部感覚障害(皮質脊髄路・後索)と対側の痛覚・温度覚障害を来すこと("an ipsilateral loss of motor function, proprioception, vibration and light touch sensation...classically accompanied by contralateral loss of pain and temperature sensation")、対側の痛温覚脱失が病変高位より**2〜3髄節下方**から始まること("the lateral spinothalamic tracts that decussate two to three levels below the injury")を確認した。なお別途参照したStatPearls「Brown Sequard Syndrome」(NBK538135、2024)は上下方向を「1 to 3 levels above」と記載しており本資料と矛盾するため、上下方向の根拠には本資料のみを採用し、StatPearls側の当該記載は採用していない。閲覧 2026-08-11
  3. 3.Lateral Medullary Syndrome (Wallenberg Syndrome)(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)延髄外側症候群(Wallenberg症候群)が同側の顔面痛温覚障害(三叉神経脊髄路)と対側の体幹四肢痛温覚障害(脊髄視床路)という交叉性の解離性感覚障害を来すこと、後下小脳動脈または椎骨動脈の閉塞で生じることを確認した。閲覧 2026-08-11
  4. 4.Anterior Spinal Artery Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)前脊髄動脈閉塞が脊髄前2/3(皮質脊髄路・脊髄視床路)を梗塞させ両側性の運動麻痺と痛覚・温度覚障害を来す一方、後索(固有感覚・振動覚)は別系統の後脊髄動脈支配のため温存されることを確認した。閲覧 2026-08-11