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Disease Atlas · 神経 · 症候群

Brown-Séquard症候群

Brown-Séquard syndrome

別名
ブラウン・セカール症候群脊髄半側切断症候群脊髄半切症候群
臓器系
神経
科目
Neurology
トピック
神経内科 G1-13:脊髄損傷の症候神経内科 G2-08:感覚障害の神経解剖学的基盤
鑑別疾患
圧迫性脊髄症横断性脊髄炎脊髄空洞症前脊髄動脈症候群
症状
解離性感覚障害片麻痺筋力低下痙性麻痺Babinski徴候Horner症候群
元疾患
外傷性脊椎・脊髄損傷

🧠 全体像:は脊髄の半側が断たれた状態である1。覚えるべきは症状の一覧ではなく、「交叉がどこで起きるか」という一点——後索は同側を上行して延髄で初めて交叉し、脊髄視床路は入ったより上方で脊髄内を交叉する。だから半側切断では同側のと、対側の痛覚・温度覚という食い違いが生じる2。この「左右がねじれる」パターンは、両側性に出るやとただちに区別できる。ただし教科書どおりの純粋型はまれで、実際に出会うのは大半が Brown-Séquard-plus である。

交叉の位置がすべてを決める

3つの伝導路の走り方が違うことが、そのまま所見の左右になる。

伝導路 運ぶもの どこで交叉するか 半側切断で障害される側
すでにで交叉済み 同側1
後索(・) 触覚・振動覚・・意識的 同側を上行し延髄で交叉 同側1
痛覚・温度覚 入ったから脊髄内で上行し、損傷の2〜3下方でを渡る2 対側
flowchart TD
    A["脊髄の片側だけが断たれる(半側切断)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lateral corticospinal tract'>皮質脊髄側索路</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='avulsion'>離断</span><br>(交叉は延髄で済んでいる)"]
    A --> C["後索の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='avulsion'>離断</span><br>(交叉はまだ延髄で起きていない)"]
    A --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lateral spinothalamic tract'>外側脊髄視床路</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='avulsion'>離断</span><br>(交叉は既に脊髄内で済んでいる)"]
    B --> E["同側・病変以下の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper motor neuron, UMN'>上位運動ニューロン</span>性麻痺"]
    C --> F["同側・病変以下の振動覚・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='position sense (proprioception)'>位置覚</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='two-point discrimination'>2点識別覚</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='loss (of neurological function)'>脱失</span>"]
    D --> G["対側・病変の数<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spinal segment'>髄節</span>下方からの痛覚・温度覚<span class='jp-term jp-term-diagram' title='loss (of neurological function)'>脱失</span>"]
    E --> H["「動かないほうと、痛みが分からないほうが逆」"]
    F --> H
    G --> H

💡 対側のが病変より「下」から始まる理由。 資料が述べているのは交叉の高さである——は損傷の2〜3下方で交叉する2。ここから感覚所見が導ける。脊髄視床路の線維は後根から入ったでそのまま交叉するのではなく、いったん上行してからを渡るので、病変のすぐ下の数ぶんの線維はまだ交叉しておらず患側にあるため切断を免れる。結果として、対側のの上縁は病変より2〜3下方に来る。

⚠️ 上下方向は資料によって記載が食い違う。 StatPearlsは対側のを損傷の「1〜3上方」としているが、これは脊髄視床路が脊髄内を上行してから交叉するという走行と整合しない1。本ノートは走行と一致する「下方」の記載を採る2。試験でも臨床でも、暗記した数字ではなく交叉の位置から導くのが安全である。

所見のまとめ方

部位 同側 対側
病変より下 性の(・)、振動覚・・の1 数下方からの痛覚・温度覚2
病変の高さ (筋力低下・)と全感覚の帯状1 —

⭐ ・の病変では(・無汗・)を確認する1。交感神経のが同じを通るためで、病変を教えてくれる。

純粋型はまれ

⚠️ 実地で出会うのは大半が Brown-Séquard-plus 症候群である。 眼()・腸管・膀胱のを伴うものをこう呼び、純粋な半側切断像と区別する1。刃物や銃弾が脊髄をきれいに半分だけ切ることは実際には少なく、対側にも部分的な障害が及ぶためである。

したがって、「対側にも少しがある」ことはこの診断を否定しない。 左右差の向きが交叉のパターンに合っているかで判断する。

原因

分類 具体例
外傷(主体) ・といった、交通事故・、による1
圧迫性 、、嚢胞、1
脱髄性 1
血管性 出血、虚血1
感染・炎症 結核、1
その他 放射線、1

のうち本症が占める割合は1〜4%で、またはに最も多い1。は空洞が非対称に広がると半側切断に近い像を作りうるが、典型的には両側性のを示す点で分かれる。

診断

診察で得た左右のパターンから病変の高さと側を決め、画像で裏づける。

  • 造影を用いない損傷の脊髄が最も詳細な情報を与える1。
  • は外傷の範囲(骨折・・異物)を判断するのに用いる1。

治療

⚠️ に対する高用量静注は議論がある。 感染などの合併症の危険が高い一方で、の有意な改善が得られないためである1。

機械的な・脊髄圧迫がある患者ではを検討する1。では創部管理・異物の評価を並行し、非では原因(脱髄・腫瘍・感染)そのものの治療が中心になる。リハビリテーションがを左右する。

鑑別

疾患 決め手
両側性。とが両側に出る一方、後索は別系統のに養われるため振動覚・が保たれる3
病変に限局した両側性・の。緩徐進行
断面全体が侵されるため左右差が乏しく、明確なを示す。数時間〜数日で進行し髄液に炎症所見
圧迫が偏在すれば本症様になりうる。でのを見る。緩徐進行ならも考える
「顔は同側・体幹は対側」の障害。顔面が入る時点で脊髄病変ではない

💡 「」という語だけでは足りない。 とが別々に侵される点は・と共通で、本症を決めるのは左右が食い違うことである。診察では必ず左右を分けて痛覚・温度覚と振動覚・を取る。

予後

⭐ のなかで予後が最も良い群である。 半数超が良好に回復し、外傷後の大半がを回復する1。リハビリテーション後には最大90%が補助具なしで歩行できる1。回復は2年まで続きうるので、早期の見込みで打ち切らない1。の障害は一般にを損なわない1。

まとめ

  • 脊髄の半側切断。同側の・+対側のという交叉が本体である。
  • 交叉の位置が理由のすべて。後索は延髄で交叉するので同側、脊髄視床路は脊髄内で交叉済みなので対側。は損傷の2〜3下方で交叉し、そこから対側のの上縁が病変の2〜3下方に来ることが導かれる(StatPearlsの「1〜3上方」は走行と整合しない)。
  • ・ではを確認する。
  • 純粋型はまれで、大半は眼・腸管・膀胱の障害を伴う Brown-Séquard-plus である。対側の軽い所見は診断を否定しない。
  • 原因は外傷(が代表)が主体で、の1〜4%。ほかに・腫瘍・・血管性・感染。
  • で裏づけ、圧迫があれば。高用量ステロイドは議論がある。
  • のなかで予後が最も良く、リハビリテーション後に最大90%が補助具なしで歩ける。

出典

  1. 1.Brown Sequard Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)全文を閲覧した(2024年2月27日最終改訂、Shams S・Farrell CL・Arain A)。Brown-Séquard症候群が脊髄の半側切断により生じ、病変と同側の筋力低下・麻痺と固有感覚障害、対側の痛覚・温度覚脱失を来すこと、原因が銃創・刺創・交通事故・鈍的外傷・転落による椎体骨折といった外傷性のものを主とし、非外傷性には椎間板ヘルニア・嚢胞・頸椎症・腫瘍・多発性硬化症・放射線・減圧症・出血や虚血といった血管性・結核や横断性脊髄炎といった感染性/炎症性があること、全脊髄損傷のうち外傷性損傷の1〜4%を占め頸髄または胸髄に最も多いこと、皮質脊髄路の半側切断が病変高位から遠位の同側片麻痺を生じ病変以下では上位運動ニューロン徴候・病変高位では下位運動ニューロン徴候を示すこと、後索の障害で同側の触覚・振動覚・2点識別覚・意識的固有感覚が侵されること、病変高位で同側の弛緩性麻痺と圧覚・振動覚・位置覚の脱失、それ以下で痙性不全対麻痺を示すこと、頸髄・上位胸髄病変ではHorner症候群(縮瞳・無汗・眼瞼下垂)の評価を要すること、眼・腸管・膀胱の神経学的欠損を伴うものをBrown-Séquard-plus症候群として区別すること、造影を用いない損傷高位の脊髄MRIが最も詳細な情報を与えCTが外傷の範囲を判断すること、外傷性脊髄損傷における高用量メチルプレドニゾロン静注は感染などの合併症リスクが高い一方で神経学的転帰の有意な改善が無く議論があること、機械的な脊柱管狭窄・圧迫がある患者では除圧手術が検討されること、半数超が良好に回復し外傷後の大半が運動機能を回復すること・回復は2年まで続きうること・リハビリテーション後に最大90%が補助具なしで歩行できること、自律神経線維の障害が一般に括約筋機能を損なわないことを確認した。なお本章は対側の痛温覚脱失の高さを損傷高位より「1〜3髄節上方(1 to 3 levels above)」と記載しているが、脊髄視床路が脊髄内で上行してから交叉する走行と整合しないため、上下方向の根拠には採用していない閲覧 2026-09-02
  2. 2.Traumatic Brown-Séquard syndrome: modern reminder of a neurological injury(BMJ Case Reports・2020)Brown-Séquard症候群(脊髄半側切断)で同側の運動・深部感覚障害(皮質脊髄路・後索)と対側の痛覚・温度覚障害を来すこと("an ipsilateral loss of motor function, proprioception, vibration and light touch sensation...classically accompanied by contralateral loss of pain and temperature sensation")、外側脊髄視床路が損傷高位の2〜3髄節下方で交叉すること("the lateral spinothalamic tracts that decussate two to three levels below the injury")を確認した。対側の痛温覚脱失の上縁が病変より下方に来ることは、この交叉高位から導いた帰結であって本資料の記述ではない。閲覧 2026-09-02
  3. 3.Anterior Spinal Artery Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)前脊髄動脈が正中に1本で脊髄前2/3を灌流し、後索は2本の後脊髄動脈が別に灌流すること、前脊髄動脈症候群では両側の運動麻痺と痛覚・温度覚脱失を来す一方で固有感覚・振動覚・識別性触覚は後索を通るため通常保たれることを確認した閲覧 2026-09-02