症状ノート一覧へ

Symptoms · Published

Babinski徴候

Babinski sign

別名
バビンスキー徴候伸展性足底反応
臓器系
神経
科目
NeurologyNeurology and Neurosurgery
トピック
神経内科 G1-05:上位・下位運動ニューロン障害の症候神経内科 05:反射の診察:深部腱反射・病的反射
関連疾患
Brown-Séquard症候群ビタミンE欠乏性運動失調症

🧠 全体像:は症状ではなく、足底をしたときにが反射的にするかどうかを見る診察所見であり、その意味は年齢でまったく変わる。皮質脊髄路のが終わっていない生後24か月までの乳児では正常に出現する1。それより後に出現すれば、皮質脊髄路のどこかが障害されているというになる。「陽性なら錐体路障害がほぼ確定する一方、陰性でも否定できない」という非対称な検査特性を持つ所見であり2、単独では判定がぶれやすいことも合わせて覚えておく。

定義と用語の整理

「Babinski陽性」とは、足底外縁を先の丸い器具で踵からつま先へしたときに、がし他の四趾が扇状に開くことを指す1。正常な反応(陰性)は全趾のである。

患者や家族が使う「反射が変」「足の反応がおかしい」という訴えとは違い、はできない。本人が異常を感じることはなく、診察者が誘発して初めて分かる所見である点が、患者の訴えを起点にする多くの症状ノートと違う。

⭐ 誘発した動きが「」なのか「真の」なのかを区別する。 はで毎回同じ形をとるのに対し、(くすぐったさによる引っ込め)は刺激のたびに反応が変わる1。強いを示す患者では、Chaddock(下を刺激)・Gordon(を圧迫)・Oppenheim(脛骨内側を圧迫)などの変法に切り替えると判定しやすくなる1。

病態生理

正常な皮質脊髄路は、足底刺激によるがS1以外の神経根へ広がるのを抑え込んでいる。が障害されると、この抑制が外れて興奮がL5/L4まで波及し、を介して・が収縮し、のと他趾のという発達初期の原始的なパターンが再び表に出る1。

flowchart TD
    A["足底外縁を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stroke/scratch (stimulus)'>擦過</span>する刺激"] --> B{"皮質脊髄路は<br>正常に機能しているか"}
    B -->|"正常(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myelination'>髄鞘化</span>完成後)"| C["S1筋節のみが応答<br>全趾が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plantarflexion'>底屈</span>(陰性)"]
    B -->|"障害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unmyelinated'>未髄鞘化</span>"| D["抑制が外れL5/L4前角まで波及"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extensor hallucis longus'>長母趾伸筋</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extensor digitorum longus'>長趾伸筋</span>が収縮"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hallux'>母趾</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dorsiflexion'>背屈</span>+他趾<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fanning (of the toes)'>開扇</span>(陽性)"]

💡 乳児で陽性であることと、成人で陽性であることは同じ反射でも意味が逆転する。 の皮質脊髄路がまだ抑制する力を持っていないだけの乳児と、いったん確立した抑制が病気で壊れた成人とでは、同じ「陽性」でも指すものが違う。

⚠️ 見逃してはいけないこと

⚠️ 急性発症の陽性は、脳卒中・脊髄圧迫を疑う入り口として扱う。 皮質脊髄路は大脳皮質から脳幹・脊髄まで長く走るため、その経路上のどこの病変でも陽性になりうる1。急性の片側性所見であればを、両側性で感覚障害や膀胱直腸障害を伴えば脊髄圧迫を最優先で除外する。

⚠️ の直後の陽性を、慢性疾患の新規発症と取り違えない。 後のでは一過性に片側のが陽性になりうる。発作の既往を確認せずに脳卒中として画像診断だけに走ると、経過観察で自然に消える所見を追いかけることになる。

⚠️ の陽性は、とが同時に侵される病態を疑わせる。 では、萎縮・というと陽性というが同じ筋にすら同居しうる。(ビタミンB12欠乏)でも、後索障害による低下・反射消失と、錐体路障害による陽性が同居し、末梢神経障害と誤認されやすい。

⚠️ 代謝性・の意識障害でも一過性に陽性化しうる。 低血糖・肝性脳症・では、構造的な病変が無くても皮質機能の広範な抑制でが陽性になることがある。血糖とを確認せずにの検索だけを急がない。

鑑別の進め方

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Babinski sign'>Babinski徴候</span>陽性を確認"] --> B{"24か月未満の乳児か"}
    B -->|"はい"| C["生理的所見<br>他の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurological'>神経学的</span>異常が無いか確認するのみ"]
    B -->|"いいえ"| D{"急性発症か"}
    D -->|"はい・片側性"| E["脳卒中を最優先で評価<br>頭部画像を急ぐ"]
    D -->|"はい・両側性+感覚/膀胱直腸障害"| F["脊髄圧迫を最優先で評価<br>脊髄<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>を急ぐ"]
    D -->|"いいえ・緩徐進行"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lower motor neuron sign'>下位運動ニューロン徴候</span>の<br>同居を確認"]
    G -->|"あり"| H["ALSを含む<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mixed'>混合性</span>病変を疑う"]
    G -->|"なし・感覚障害あり"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subacute combined degeneration of the spinal cord'>亜急性連合性脊髄変性症</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='multiple sclerosis'>多発性硬化症</span>などを鑑別"]
    D -->|"意識障害を伴う"| J["血糖・肝機能・薬物歴を確認"]

⭐ 1所見だけで判断を確定させない。 は特異度が高い(99%)反面、感度は50.8%にとどまり、検者間の一致もκ=0.30〜0.73と幅がある23。陰性であっても錐体路障害を除外せず、他のUMN徴候(、痙性、随伴する脱力の分布)と合わせて判断する。

所見への対応

そのものは治療対象ではない。この所見自体を消すための介入は無く、陽性という所見を手掛かりに原疾患を同定し、その疾患の治療へ進むことがすべてである。誘発の反復や記録の頻度を増やすこと自体に意味は無く、に見るのは原疾患の進行・改善を映す指標としてである。

まとめ

  • は足底外縁のに対する+他趾の反射で、生後24か月までの乳児では生理的、それ以降はである。
  • 機序は皮質脊髄路が持つ抑制の消失で、発達初期の原始的なパターンが再び表出したものと理解する。
  • 急性・片側性なら、急性・両側性で感覚/膀胱直腸障害を伴えば脊髄圧迫を最優先で除外する。発作直後の一過性陽性()、ALSのような・混合病変、、代謝性の意識障害でも陽性になりうる。
  • 感度50.8%・特異度99%と非対称で、検者間一致もκ=0.30〜0.73と幅があるため、単独の所見で判断を確定させない。
  • 所見そのものへの介入は無く、原疾患の診断・治療にすべてを委ねる。

出典

  1. 1.Babinski Reflex(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)誘発法(先の丸い器具で踵から足底外縁を通り中足骨頭部を横切って母趾の付け根まで擦過する)、正常な反応が足趾の底屈でありS1筋節の刺激によること、上位運動ニューロン障害では皮質脊髄路が持つ抑制が失われてL5/L4前角細胞まで興奮が波及し深腓骨神経を介して長母趾伸筋・長趾伸筋が収縮し母趾の背屈と他趾の開扇が生じること、皮質脊髄路の髄鞘化が未完成な生後24か月までの乳児では他の神経学的異常を伴わない限り生理的であること、Chaddock・Gordon・Oppenheim・Throckmortonなど複数の変法があり通常の刺激で強い逃避反応を示す患者に有用であること、逃避反応と真の反射性の伸展反応(定型的で再現性がある)を区別する必要があることを確認した閲覧 2026-08-28
  2. 2.Accuracy of the Babinski sign in the identification of pyramidal tract dysfunction(Journal of the Neurological Sciences・2014)神経内科医が標準化した手技で誘発したBabinski徴候は、錐体路障害の同定で感度50.8%(95%CI 41.5-60.1)・特異度99%(95%CI 97.7-100)・陽性尤度比51.8(95%CI 16.6-161.2)、観察者間一致κ=0.73であり、陽性は錐体路障害の強い証拠だが陰性では除外できないことを確認した閲覧 2026-08-28
  3. 3.Should the Babinski sign be part of the routine neurologic examination?(Neurology・2005)既知の片側上位運動ニューロン脱力例を含む10例の足底を医師10名(神経内科医5名・非専門医5名)が診察した検証研究で、Babinski徴候の評価者間一致がκ=0.30(fair)にとどまり既知の脱力所見との一致率も56%にとどまったこと、対照的に足タッピング速度の低下という所見はκ=0.73(substantial)・一致率85%と優れていたことを確認した閲覧 2026-08-28