脳神経内科・脳神経外科

脳神経内科・脳神経外科 · 05

反射の診察:深部腱反射・病的反射(Deep tendon reflexes, pyramidal signs)

Neurological examination: deep tendon reflexes and pathological (pyramidal) reflexes

前提:正常
固有受容反射皮質脊髄路(錐体路)
症状
Babinski徴候腱反射消失

🧠 全体像:の低下は末梢神経〜の病変を、の出現は錐体路(皮質脊髄路)の病変を示唆する。反射の脊髄レベルを覚えておくと、筋力低下の分布と組み合わせて障害の高さを絞り込める。ただし反射所見は単独では診断を決めない——亢進・低下が病的かどうかは左右差・上下肢間の差・四肢全体のバランスで判断し、筋力・感覚・病歴と統合して読む1。

このノートは「」PDFを7回に分けたシリーズの第5回。運動系の診察は前のノート、の診察は次のノートを参照。

深部腱反射

反射 脊髄レベル 手技 正常反応
C5-6 半屈曲位で腱上の検者指を
C7 半屈曲位で近位を 肘伸展
橈骨反射() C5-6 半屈曲位でを
反射 C8-T1 を +
(膝jerk) L2-4 膝30〜40°屈曲位でを
(足jerk) S1 位で足をややさせを 足底屈

は、検者の手でを軽くさせて腱に張力をかけた状態でする(張力が抜けていると健常者でも誘発できない)。上肢でに評価するのは・・の3つで、反射などは補助的な位置づけである。

💡 :反射が弱く判定困難なとき、患者に両手の指を鉤状に組ませ左右に引き合わせることで反射を増強させる補助手技。上肢・下肢いずれの反射も左右で必ず比較する。を試さないまま「消失」と記載しない。

💡 の機序とタイミング。 遠隔筋のによるで、γループ(の感度上昇)を介するのではなくを直接する——虚血でを遮断してもH反射の増強が残ることから示された2。効果は一過性で、経頭蓋によるMEPでは握り込みの200〜400ms後にのみ増強がみられ、300msで対照の170%に達した3。したがって「引き合わせている間に、すかさずする」のが正しい使い方になる。

⚠️ 反射所見は思ったより。 の解釈には検者側(の力・部位・患者の姿勢)と患者側(緊張・随意抑制)の要因が入り込み、客観性が落ちる。と画像の障害レベルが食い違うときは、移行椎・神経根奇形・furcal nerve(第4がと腰幹に分岐する変異)といった落とし穴も考える1。

病的反射

錐体路(皮質脊髄路)の機能障害を示す徴候。ただし診断精度が実測されているのはほぼだけで、他の変法は「Babinskiと同じことを別の刺激部位で見る代用手技」と考えるのがよい。

下肢

徴候 手技
足底外縁を踵からつま先へ → +他趾ので陽性
Chaddock徴候 下方からを前方へ → で陽性
Gordon徴候 を・圧迫
Oppenheim徴候 母指・で脛骨稜を膝下から下方へ圧迫
Schaefer徴候 を圧迫
Mendel-Bechterew徴候 をハンマーで → の速い
Rossolimo徴候 底面を下から弾く、またはハンマーで →

⚠️ は「高特異度・低感度」。 錐体路障害が確認された症例での実測は感度50.8%(95%CI 41.5-60.1)・特異度99%(95%CI 97.7-100)・51.8で、陽性なら錐体路障害をほぼ確定できるが、陰性でも除外はできない4。実際、手術を要した頚椎症性225例で陽性は33%にすぎず、軽症例(mJOA 14-16)では10%だった5。

⚠️ 判定は検者間でぶれる。 神経内科医2名が標準化された手技で行った研究でも観察者間一致はκ=0.73にとどまり4、医学生と神経内科医の比較ではκ=0.45まで下がった。同じ研究で指・足のは感度79.5%・特異度88.4%・κ=0.83と(感度49.6%・特異度85.8%)を上回っており、曖昧なときは反復など他のを併用する6。

上肢

徴候 手技・陽性所見
遠位骨の爪を上から弾く → 母指の屈曲+内転
Trömner徴候 を下から弾く → 母指屈曲+内転、他指屈曲
Mayer徴候 を → 正常では、C6-T1脊髄・末梢神経・・皮質脊髄路の障害で消失(病変では逆に亢進しを伴いうる)

💡 下肢のは2群に分かれる。 Babinski・Chaddock・Gordon・Oppenheim・Schaefer徴候は、刺激部位こそ違えどの異常な伸展運動(+)を引き出す点で共通し、正常な成人では出現しない(を除く)。一方、Mendel-Bechterew徴候とRossolimo徴候はのが陽性所見で、運動パターンが逆である——「陽性=」と一括りに覚えると取り違えるので、この2つは別枠で覚える。

💡 はと同格ではない。 頚髄症ではBabinskiより高頻度(225例中68% vs 33%)で、軽症例でも出やすい(46% vs 10%)ため早期の頚髄症を拾う感度は高いが、その裏返しで無症候例にも出うる5。変性頚髄症229例と対照807例の検討でも、Hoffmann反射は単独ではなく性・年齢・・10秒テスト(手の)と組み合わせて初めて 0.956の診断能に達した7。

まとめ

  • は上肢(C5〜T1)と下肢(L2〜S1)でそれぞれ脊髄レベルが決まっており、反射の低下・消失は病変を示唆する。ただし病的かどうかは左右差・上下肢間の差で判断し、単独では診断を決めない1。
  • は反射を増強させる補助手技であり、判定困難な場合に用いる。はへの直接による2一過性のもので3、これを試さずに「反射消失」と記載しない。
  • 下肢の(Chaddock、Gordon、Oppenheim、Schaefer、Mendel-Bechterew、Rossolimo)はの代用手技として並べられるが、診断精度が実測されているのは(感度50.8%・特異度99%・51.8)であり、他が等価と示されたわけではない4。陽性所見の向きもMendel-Bechterew・Rossolimoだけはで逆になる。
  • 上肢のHoffmann・Trömner徴候もだが、頚髄症ではBabinskiより高頻度・軽症で出やすい一方5、単独では診断を決められず、他の所見と組み合わせて使う7。
  • 続くの診察は次のノートを参照。

出典

  1. 1.The Usefulness of Deep Tendon Reflexes in the Diagnosis of Lumbar Spine Diseases: A Narrative Review(Cureus・2024)深部腱反射の亢進・低下が病的かどうかは、左右差・上下肢間の差・四肢全体のバランスで判断する。検者側と患者側の要因で客観性が落ちること、臨床所見と画像が食い違うときは腰仙椎移行椎・神経根奇形・furcal nerveを考慮すべきことを指摘している閲覧 2026-08-22
  2. 2.Mechanism of monosynaptic reflex reinforcement during Jendrassik manoeuvre in man(Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry・1978)Jendrassik法はH反射とT反射を同程度に増強し、虚血でIa線維を遮断してもH反射の増強が残る。したがって増強効果は主にγループ(筋紡錘の感度上昇)を介するのではなく、α運動ニューロンへの直接的な促通による閲覧 2026-08-22
  3. 3.Facilitation of motor evoked potentials: timing of Jendrassik maneuver effects(Muscle & Nerve・1995)両手の強い握り込み(Jendrassik法)による前脛骨筋MEPの増強は握り込みの200〜400ms後に限られ、300msで対照の170%に達する。増強効果は一過性で、増強手技と刺激(叩打)のタイミングを合わせる必要がある閲覧 2026-08-22
  4. 4.Accuracy of the Babinski sign in the identification of pyramidal tract dysfunction(Journal of the Neurological Sciences・2014)神経内科医が標準化した手技で誘発したBabinski徴候は、錐体路障害の同定で感度50.8%(95%CI 41.5-60.1)・特異度99%(95%CI 97.7-100)・陽性尤度比51.8(95%CI 16.6-161.2)、観察者間一致κ=0.73。陽性は錐体路障害の強い証拠だが、陰性では除外できない閲覧 2026-08-22
  5. 5.Clinical correlations of cervical myelopathy and the Hoffmann sign(Journal of Neurosurgery: Spine・2008)頚椎症性脊髄症で手術を受けた225例の頻度はHoffmann徴候68%・腱反射亢進60%に対しBabinski徴候33%。軽症(mJOA 14-16)ではHoffmann 46%・Babinski 10%で、Hoffmann徴候の方が高頻度かつ軽症で出やすい。腰椎症状の患者で両側Hoffmann陽性は無症候性の頚髄圧迫の高感度指標閲覧 2026-08-22
  6. 6.Accuracy and reliability of Babinski sign versus finger and foot tapping in the diagnosis of corticospinal tract lesions(Neurology India・2018)375例(錐体路病変125・非錐体路の神経疾患125・健常125)でBabinski徴候は感度49.6%・特異度85.8%、医学生と神経内科医の観察者間一致はκ=0.45にとどまった。finger/foot tapping(指・足の反復叩打)は感度79.5%・特異度88.4%、κ=0.83で上回った閲覧 2026-08-22
  7. 7.The Utility of a Prediction Model Using Neurological Examination Findings for Diagnosing Degenerative Cervical Myelopathy(The Journal of Bone and Joint Surgery (American)・2025)変性頚髄症229例と対照807例で、性・年齢・10秒テスト・膝蓋腱反射・Hoffmann反射・Babinski徴候・感覚障害を組み合わせたモデルのAUCは0.994、簡易版(性・年齢・Hoffmann反射・膝蓋腱反射・10秒テスト)でも0.956。個々の徴候ではなく組み合わせで診断精度が出る閲覧 2026-08-22