脳神経内科学

脳神経内科学 · G3-21

脊髄障害の症候

G3-21: Symptoms of spinal cord damage

前提:正常
脊髄の微細構造(顕微鏡解剖)原始感覚の伝導路(前外側系)識別性感覚の伝導路(後索・内側毛帯系)皮質脊髄路(錐体路)
疾患
HTLV-1関連脊髄症圧迫性脊髄症後縦靱帯骨化症自律神経過反射神経原性ショック頸髄症
症状
感覚性運動失調失禁
スコア
mJOAスコア

🧠 全体像:脊髄障害では、病変の徴候と、そのの徴候が組み合わさる。運動・感覚・膀胱直腸・自律神経・呼吸を同時に評価し、急性圧迫、外傷、血管障害、炎症を緊急に見分ける。

基本症候

系統 主な症候 局在の要点
運動 麻痺、、、 病変では、病変以下では
感覚 、、、・振動覚・障害 障害と左右差から脊髄路を推定
自律神経 尿閉・失禁、便秘・失禁、、発汗・ はのとなる
呼吸 換気不全、低下、分泌物貯留 C3〜C5の・障害で重篤
疼痛 、、 は脊髄・神経根の手掛かり

急性期のでは病変以下が一時的に弛緩性・となり、後に・へ移行する経過が4相モデルとして整理されている1。これは交感神経遮断による低血圧・徐脈を特徴とするとは別である。

高位別の特徴

  • :、体幹・四肢感覚障害。C3〜C5障害で、病変で徐脈・低血圧を来しうる。
  • :、体幹の、膀胱直腸障害。
  • :下肢にと病変以下のが混在しうる。
  • :比較的対称性の会陰部感覚障害、早期の膀胱直腸・。
  • :非対称性の、、。は末梢神経根であり脊髄そのものではない。

成人脊髄は通常L1〜L2椎体付近で終わるため、病変を一律に「損傷」と呼ばず、円錐・・神経根を区別する。

不完全脊髄症候群

症候群 主な障害 比較的保たれる機能
運動、、自律神経 後索性の振動・
振動覚・、失調 運動・が比較的保たれることがある
上肢優位の運動障害、、感覚障害 下肢機能が相対的に良いことが多い
Brown–Séquard症候群 同側の運動・後索、反対側の 完全なは稀

自律神経過反射

T6以上の者では、、、皮膚刺激などを契機に、急激な高血圧、、病変より上の発汗・、徐脈を来しうる23。誘因の約85%は尿路系(特に)に由来し、T6以上の損傷者では最大90%が経験しうる一方T10以下ではまれである3。これは救急病態である。

flowchart TD
    A["T6以上の損傷者で急な頭痛・高血圧"] --> B["座位にして締め付けを解除"]
    B --> C["血圧を反復測定"]
    C --> D["尿カテーテル閉塞・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bladder distension'>膀胱充満</span>を確認"]
    D --> E["便・皮膚・骨折など刺激を検索"]
    E --> F["高血圧持続なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fast-acting (rapid-onset)'>即効性</span>薬を施設手順で使用"]

診断と急性管理

外傷では脊柱を保護しながら気道・呼吸・循環を安定化し、詳細な運動・感覚・を記録する。は骨折・配列、は脊髄圧迫、、血腫、浮腫、炎症に優れる。脊髄障害の局在評価にを第一選択とはせず、末梢神経・根障害が鑑別となる場合に用いる。

💡 緩徐進行するでは脊髄(SDAF)を鑑別に入れる。 進行性のにが加わる中年男性でSDAFの頻度が高いが、初発症状は・・など非特異的で、診断までのは15か月(範囲7日〜197か月)と長く、変性疾患や他のとして長期間見逃されやすい4。

圧迫があれば迅速な外科評価を行い、低酸素と低血圧を避ける。急性に高用量を一律投与することは標準治療ではない56。安定後は呼吸、、血栓塞栓、、排泄、疼痛、心理社会面を多職種で管理する。

まとめ

  • 病変の分節徴候と、その下の徴候を組み合わせて局在する。
  • 成人の病変では・・神経根を区別する。
  • T6以上の損傷で急な高血圧と頭痛があればとして直ちに対応する。
  • 急性期は脊柱保護、呼吸循環、画像、必要な減圧を優先し、ステロイドを一律投与しない。

出典

  1. 1.Spinal shock revisited: a four-phase model(Spinal Cord・2004)脊髄損傷・脊髄離断の急性期には脊髄反射が消失・減弱する脊髄ショックを呈し、時間経過とともに反射亢進・痙性へ移行する経過を4つの相に整理した総説モデル閲覧 2026-08-27
  2. 2.Evaluation and Management of Autonomic Dysreflexia and Other Autonomic Dysfunctions: Preventing the Highs and Lows(Paralyzed Veterans of America / Consortium for Spinal Cord Medicine・2020)T6以上の脊髄損傷者では成人で平常時収縮期血圧より20 mmHg超の上昇を自律神経過反射の徴候として認識すること、血圧上昇を認めたら直ちに坐位にして下肢を下げ衣類・締め付け器具を緩め、誘因を尿路系(膀胱充満)から順に検索し、収縮期血圧150 mmHg以上が持続する場合は速効性・短時間作用型の降圧薬を検討すること、未治療のエピソードは頭蓋内出血・網膜剥離・痙攣・心不整脈・死亡を含む重篤な結果を来しうること閲覧 2026-08-27
  3. 3.Autonomic Dysreflexia(StatPearls Publishing(NCBI Bookshelf)・2025)自律神経過反射の誘因の約85%は膀胱を中心とした尿路系に由来すること、T6以上の頸髄・高位胸髄損傷者では最大90%が自律神経過反射を来しうる一方T10以下の損傷ではまれであること閲覧 2026-08-27
  4. 4.Spinal dural arteriovenous fistulas: clinical features in 80 patients(Journal of Neurology, Neurosurgery and Psychiatry・2003)6施設15年間で診断された脊髄硬膜動静脈瘻患者80例の後方視的検討で、診断までの期間中央値が15か月(範囲7日〜197か月)と長く、初発症状は歩行障害34%・しびれ24%・錯感覚21%だったのに対し診断時には排尿障害80%・下肢筋力低下78%・下肢/殿部のしびれ69%が最多となっており、進行性の歩行障害と括約筋障害を呈する中年男性ではSDAFを鑑別の第一に挙げるべきと結論づけたこと閲覧 2026-08-27
  5. 5.Administration of methylprednisolone for 24 or 48 hours or tirilazad mesylate for 48 hours in the treatment of acute spinal cord injury. Results of the Third National Acute Spinal Cord Injury Randomized Controlled Trial(JAMA・1997)受傷後8時間以内の急性脊髄損傷患者499例を対象としたNASCIS III試験で、受傷後3時間以内に治療開始した群は24時間投与、3〜8時間以内に開始した群は48時間投与のメチルプレドニゾロン大量静注が運動機能回復に有利だったと報告され、この結果が急性期の大量メチルプレドニゾロン投与が広く行われる根拠となったこと閲覧 2026-08-27
  6. 6.Methylprednisolone for acute spinal cord injury: an inappropriate standard of care(Journal of Neurosurgery (Spine)・2000)NASCIS II・III試験結果を主要評価項目に立ち返って再解析したところ、いずれの試験も主要な転帰指標の改善を示せておらず、事後解析の結果だけでは新たな治療標準を正当化する根拠にならないと結論づけられ、24時間投与は臨床的にはなお実験的とみなすべきで48時間投与は推奨されないとされたこと閲覧 2026-08-27