症状ノート一覧へ

Symptoms · Published

失禁

Incontinence

臓器系
腎・泌尿器神経消化器
科目
UrologyGynecologyNeurology
トピック
泌尿器科学 U-09:尿失禁と尿流動態検査婦人科 30:尿失禁神経内科 G3-21:脊髄障害の症候神経学 G1-25:脊柱管・脊髄の占拠性病変
関連疾患
横断性脊髄炎神経因性膀胱水頭症脊髄係留症候群尿失禁馬尾症候群
スコア
iNPH grading scale

🧠 全体像:失禁の診療は、型を当てにいく前に一過性・可逆性の原因を外すところから始まる。せん妄、感染、薬剤、のように数日で取り除けるものを飛ばして型分類へ進むと、治るはずの失禁を慢性疾患として長期治療してしまう。可逆性の原因を外したあとの型分類は、「どんなときに漏れるか」と「膀胱を空にできているか」の2つでほぼ決まり、は初期評価では多くの場合いらない。もう一つ、失禁は脊髄・の初発症状にもなる。頻度で並べると必ず後回しになるので、危険度の側から先に拾う。診断・治療の各論は尿失禁にある。

まず一過性・可逆性の原因を外す

原因 気づき方 外し方
せん妄・急性の意識変容 失禁が急に始まり、する。他の急性疾患を伴う せん妄の原因を治療する。失禁は付随症状
尿路感染症 。既存の失禁の急な悪化としても現れる 尿検査。治療後に失禁が残るかを再評価する
・尿道炎) 腟の乾燥感やを伴う。腟壁が薄く蒼白 局所腟エストロゲン
薬剤 開始・増量の時期と一致する 利尿薬、鎮静薬・(尿閉から溢流へ)、(尿道抵抗の低下)、ACE阻害薬(を介して腹圧性を悪化)
多尿 1日尿量そのものが多い 高血糖、、水分過剰。多尿として評価する
便秘・ で硬便を触れる 直腸を空にすると膀胱症状も改善することがある
運動制限・環境 尿意は正常だが間に合わない 移動能力、脱衣動作、トイレまでの距離、夜間の照明

⭐ 高齢者の新規の失禁は、膀胱そのものより膀胱の外の事情で起きていることが多い。なかでも便秘と薬剤は、見落としやすい割に外すだけで消える失禁を作る。とくにを持つ薬はを増やし、を新たに生じさせうる。

尿失禁の型を分ける

⭐ 型は病名ではなく訴え方との組み合わせである。

訴え方 誘因 治療の方向
切迫性 強い尿意が来て、トイレまで間に合わない 急な尿意。水の音、帰宅して鍵を開けるとき 少ない 行動療法・を基盤に薬物 →
腹圧性 尿意がないのに漏れる 咳・くしゃみ・笑い・運動・重量物挙上 少ない と体重管理、次に手術 →
少量がだらだら漏れる。出しきれない感じ 特定の誘因がない。・排尿後を伴う。しばしばで出そうとする 多い まず排出障害を解除し、かを分ける
機能性 尿路は保たれているが間に合わない 移動・脱衣・認知・環境の障害 少ない 時間排尿、環境調整、介助。膀胱の薬では治らない
上の型が併存する。実地では最も多い 患者がより困っている型から治療する

⚠️ を切迫性と読み違えない。 でも頻尿を訴えるため、症状だけでは切迫性と区別できない。ここでを出せば尿閉に至る。を防ぐ唯一の手段である。

神経の病変を見落とさない

⚠️ 失禁は膀胱の問題として扱われやすいが、脊髄・の病変では最初に現れる症状になりうる。次の所見は緊急の画像評価につながる。

所見 意味
急性・亜急性の発症、強い腰 圧迫性病変。慢性の失禁とは経過が違う。悪性腫瘍の既往があれば
下肢の筋力低下・ 脊髄・の障害
(会陰・肛門周囲)のの低下 レベルの障害。に特徴的
の合併 尿と便が同時に障害されるのは膀胱直腸障害。局所の泌尿器疾患では説明できない

⚠️ は圧迫性病変のである。の形で現れるため「漏れている」という訴えに引きずられると尿閉を見逃す。または超音波で膀胱が張っていないことを確認する。

と直腸感覚という別の系統の問題だが、上のとおり評価は尿失禁と重なり、原因も重なる(、脊髄病変)。詳細はへ。

評価の順序

flowchart TD
    A["失禁の訴え"] --> B{"急性発症か<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurological'>神経学的</span>所見があるか"}
    B -->|"あり"| C["脊髄・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cauda equina lesion'>馬尾病変</span>として緊急評価<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='saddle area'>鞍状部</span>感覚・括約筋<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tone (tonus)'>トーヌス</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='residual urine (post-void residual)'>残尿</span>を確認"]
    B -->|"なし"| D["一過性・可逆性の原因を外す<br>せん妄・感染・薬剤・多尿・便秘・環境"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bladder diary'>排尿日誌</span>(3日)と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='post-void residual measurement'>残尿測定</span>"]
    E --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='residual urine (post-void residual)'>残尿</span>が多いか"}
    F -->|"多い"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='overflow'>溢流性</span>:まず排出障害を解除"]
    F -->|"少ない"| H{"どんなときに漏れるか"}
    H -->|"強い尿意とともに"| I["切迫性(両方あれば<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mixed'>混合性</span>)"]
    H -->|"咳・運動で尿意なく"| J["腹圧性(両方あれば<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mixed'>混合性</span>)"]
    H -->|"間に合わないだけ"| L["機能性:環境と介助を調整"]

まとめ

  • 型分類より先に、せん妄・感染・萎縮性変化・薬剤・多尿・便秘・運動制限という可逆性の原因を外す。
  • 型は「どんなときに漏れるか」と「があるか」で決まる。切迫性・腹圧性・・機能性、そして実地で最も多いは切迫性と症状が似るので、を測らずにを出すと尿閉を招く。
  • 急性発症、下肢の神経症状、の合併は脊髄・を示唆し、緊急評価につながる。はそのである。
  • 機能性失禁は膀胱の薬では治らない。動線と介助を変えることが治療になる。