疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 神経 · 症候群

馬尾症候群

Cauda equina syndrome

別名
CES
臓器系
神経運動器
科目
Neurology
トピック
神経内科 G1-13:脊髄損傷の症候神経内科 G1-25:脊柱管・脊髄の占拠性病変神経内科 G1-32:排尿・排便障害
鑑別疾患
脊髄係留症候群頸椎・腰椎椎間板ヘルニアによる神経根症
合併症
排尿筋低活動
症状
膀胱膨満失禁腰痛対麻痺残尿感
検査値
残尿量
画像所見
神経根圧迫のMRI所見
原因となる疾患
外傷性脊椎・脊髄損傷

🧠 全体像外科的緊急疾患である——神経根の圧迫が、・膀胱直腸障害・下肢のという三徴を作り、放置すれば不可逆的なと下肢麻痺が残る。診療の核心は2つ。①尿閉の出現は予後の分かれ目であり、これが起きた時点ですでに末期的・不可逆的な障害を意味しうること、②緊急MRIで確定したら時間との勝負としてを急ぐこと。似た名前のとはの高さも神経徴候の型も異なり、この2つを取り違えると局在診断そのものが崩れる。

定義と解剖

(通常L1〜L2レベルで終わる)より末梢で、内を下行する腰神経根の束である。は、・腫瘍・膿瘍・血腫などによるL3〜L5神経根の圧迫で生じ、下肢と膀胱・直腸・会陰部を支配する複数の神経根が同時に障害される1。年間は100万人あたり1.5〜3.4例とまれである1

⚠️ は臨床的・画像的な診断であり、単一のだけでは確定しない。 症候の組み合わせと脊髄MRIでの圧迫所見を統合して判断する。

脊髄円錐症候群との違い

」と「」はすぐ隣り合う構造だが、障害されるニューロンの種類が異なるため、神経徴候が正反対の性格を持つ。

項目
(T12〜L2) 神経根(L3〜L5)
ニューロンの種類 混在 のみ
下肢の障害パターン 両側対称性になりやすい 非対称なことが多い
反射・筋緊張 を伴いうる 反射低下・(弛緩性)
急激(円錐は虚血に弱い) 比較的緩徐なことがある
膀胱直腸障害 早期から出現 進行してから出現することがある

⚠️ 徴候()があれば、それは単独ではなく、または両者の合併を示唆する。 反射低下だけをの根拠にすると、より病変を見落としうる1

原因

(特に中心性の大きな脱出)が最多で、そのほか脊椎腫瘍・転移、(抗凝固薬使用者や外傷後)、脊椎損傷による骨片・などが原因となる。

臨床像:三徴と分類

古典的な三徴は(会陰部・内股の)、膀胱直腸障害下肢のである。頻度としてはが最大93%、膀胱機能障害が最大92%、腸機能障害が最大72%の患者に認められる1

⭐⭐ 無痛性の尿閉が出現した時点が予後の分かれ目である。 尿閉は単独の症状としては最も価値が高い一方、これが出現する時点ではしばしば末期的で不可逆的な障害段階に達している1。この所見の分類として、尿閉・を伴うと、それを伴わないに分ける枠組みが用いられ、完全型ほどが高い2

鑑別

痛・下肢のを呈するによるの多くは片側性・単一神経根に限局し、膀胱直腸障害を伴わない。両側性の症候、、膀胱直腸障害のいずれかが加われば、単なるではなくとしてを引き上げる。

診断

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low back pain'>腰痛</span>+両側性/進行性の下肢症候を疑う"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='saddle sensory disturbance'>サドル型感覚障害</span>・膀胱直腸障害・下肢<span class='jp-term jp-term-diagram' title='flaccid paralysis'>弛緩性麻痺</span>はあるか"}
    B -->|"ある"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cauda equina syndrome'>馬尾症候群</span>として緊急対応"]
    B -->|"ない・軽微"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurological'>神経学的</span>再評価を継続、赤旗の出現を監視"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='post-void residual volume'>残尿量測定</span>:尿閉の有無を確認"]
    E --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='CES-Retention'>尿閉</span>か"}
    F -->|"はい"| G["最優先で緊急MRI・脊椎外科へ連絡"]
    F -->|"いいえ(CES-Incomplete)"| H["緊急MRIを速やかに施行"]
    G --> I["圧迫の原因を確認し早期<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decompression'>除圧</span>を検討"]
    H --> I

・身体所見で緊張、を確認し、尿閉の有無でをさらに層別化する。確定には緊急脊髄MRIを行い、のMRI所見の部位・原因(ヘルニア・腫瘍・膿瘍・血腫)を評価する。MRIが禁忌・施行不能な場合はを代替する。

⚠️ 「時間との勝負」だが、単一のな時間閾値は確立していない。 早期の手術減圧が機能予後を改善するとの報告は多いが、研究ごとに時間の起算点(症状発現・受診・受傷・画像確定のいずれか)が異なるため、統一された時間閾値をエビデンスとして確立できていない2。ただし初診から48時間以内の減圧がより良い転帰と関連することは繰り返し報告されており1確定した以上は診断から手術までを最短化するという原則そのものは揺るがない。

治療

  • 緊急手術減圧が唯一の根本治療である。 薬物療法でできる病態ではなく、確定診断後は可及的速やかに脊椎外科・へ連絡する。
  • が原因であれば、と並行して抗菌薬治療を開始する。
  • が原因であれば、抗凝固薬・の中止・拮抗を並行する。
  • 排尿機能は術後も回復しないことがあり、として長期の管理へ移行する例がある。

まとめ

  • はL3〜L5神経根の圧迫による外科的緊急疾患で、・膀胱直腸障害・下肢のの三徴を呈する。
  • (T12〜L2、両側対称性で徴候を伴いうる)とはの高さと神経徴候の型が異なり、混同しない。
  • 尿閉の出現は予後の分かれ目で、単独の症状として最も価値が高い一方、出現時点ですでに末期的・不可逆的なことが多い。
  • 診断はと緊急脊髄MRIで確定し、原因(・腫瘍・膿瘍・血腫)を評価する。
  • 単一の時間閾値は確立していないが、早期の手術減圧ほど良好な転帰と関連するため、確定後はまでの時間を最短化する。

出典

  1. 1.Cauda Equina and Conus Medullaris Syndromes(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)サドル型感覚障害が最大93%、膀胱機能障害が最大92%、腸機能障害が最大72%の患者に認められること、無痛性尿閉は単独の症状としては最も予測的価値が高い一方でこれが出現する時点ではしばしば末期的・不可逆的な障害を示すこと、発症48時間以内の手術減圧がより良い予後と関連すること、年間発生率が100万人あたり1.5〜3.4例であること、脊髄円錐症候群(T12〜L2の障害)は両側対称性で上位運動ニューロン徴候(痙縮・反射亢進)を伴いやすいのに対し、馬尾症候群(L3〜L5の神経根の障害)は下位運動ニューロン徴候(反射低下・筋緊張低下)を呈しやすいという違いを確認した。閲覧 2026-08-11
  2. 2.Definition and surgical timing in cauda equina syndrome–An updated systematic review(PLOS ONE・2023)馬尾症候群は尿閉・溢流性尿失禁を伴う完全型(CES-Retention)とそれを伴わない不全型(CES-Incomplete)に分類されること、手術タイミングの起算点(症状発現・受診・受傷・画像確定のいずれから数えるか)に統一された定義がなく、早期減圧が機能予後を改善すると報告する研究が多い一方で研究間の時間定義の不均一性のためプール解析ができず、単一の時間閾値を高いエビデンスで確立できていないことを確認した。閲覧 2026-08-11