脳神経内科学

脳神経内科学 · G3-22

筋萎縮性側索硬化症

G3-22: ALS

前提:病態
神経変性疾患・プリオン病
前提:正常
皮質脊髄路(錐体路)脊髄の微細構造(顕微鏡解剖)
疾患
Kennedy病筋萎縮性側索硬化症良性線維束攣縮症候群頸椎症性筋萎縮症
症状
偽性球麻痺筋線維束攣縮筋痙攣日中傾眠
検査値
経横隔膜圧鼻腔吸気圧

🧠 全体像:は、・が進行性に障害される疾患である。診断と同時に、、呼吸、嚥下・栄養、意思伝達、遺伝カウンセリング、を多職種で並行する。

病態と原因

多くはだが、家族歴のない患者にもが見つかる。代表的遺伝子はC9orf72、SOD1、TARDBP、FUSである。遺伝学的結果が治療・家族に影響するため、現在は全患者に検査と遺伝カウンセリングを提案する考え方が重視される。

加齢、、、蛋白凝集、代謝、、などが関与する。、、外傷、軍務などとの疫学的関連は研究されているが、個々の患者の原因と断定しない。

臨床像

障害 徴候
筋力低下、、、、
、、、、
球機能 、嚥下障害、、誤嚥、低下
呼吸 、朝の頭痛、、弱い咳、
認知・行動 前頭側頭型の遂行・言語・行動変化を伴いうる

発症は上肢・下肢の非対称性筋力低下、、または呼吸症状から始まり、隣接領域へ進展する。感覚、眼球運動、は比較的保たれるが、例外があるため「絶対に障害されない」とはしない。

診断

では、正常だったの進行性障害に加え、1領域で・が共存するか、2領域以上でを示し、他疾患を除外する1。

flowchart TD
    A["進行性の局所筋力低下"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper'>上位</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lower motor neuron sign'>下位運動ニューロン徴候</span>を検索"]
    B --> C["球・頸・胸・腰<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sacral spinal cord'>仙髄</span>領域へ広がる"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='needle electromyography'>針筋電図</span>で活動性・慢性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='denervation'>脱神経</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nerve conduction'>神経伝導</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>・血液で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mimic (differential diagnosis)'>模倣疾患</span>を除外"]
    E --> F["ALS診断"]
    F --> G["遺伝学的検査と多職種介入"]

は複数領域の活動性・慢性を示し、臨床的を補う。ではを伴うなどを鑑別する。、、重症筋無力症、、、ビタミンB12欠乏、、感染などを臨床像に応じて除外する。

💡 は2019年に旧来のEl Escorial基準に代わって提案された。 El Escorial基準の確実性区分(definite/probable/possible等)は独立した価値に乏しいうえ、UMN徴候が「不十分」と判定された患者が同程度の進行速度であってもへの組入れを妨げ、EMGへの過度な依存が診断遅延を招いていたと指摘されている1。

疾患修飾療法

治療 対象・要点
多くのALS患者で生存期間を延長する(12か月74%対58%、平均約3か月の延長)2。肝機能と相互作用を確認
発症2年以内・80%以上など狭い基準を満たす選択された患者でのみ機能低下緩和が示されている3。米国では2017年にこの試験を根拠に承認された一方、は生存・呼吸・筋力の改善が示されていないとして追加試験を要求し、は2019年にでの承認申請を撤回した45。、負担、利益を
SOD1変異ALSに対する。第3相試験では髄液SOD1・は低下させたが主要臨床評価項目(ALSFRS-R)に有意差はなく6、米国では2023年にこの代替指標を根拠にされ、承認継続には確認試験での臨床的有用性の検証が条件とされている7。適応、髄液関連有害事象、承認状況を専門施設で確認

薬剤の承認・保険適用は国と時期で異なる。だけに偏らず、支持療法を同時に開始する。

呼吸・栄養・意思伝達

  • 座位・臥位の、、、症状を反復評価する。
  • は通常、などを用いる。だけを治療するCPAPをALS低換気の標準としない。無作為化試験では、症状が軽い部分集団においてが生存期間中央値を205日延長しも維持・改善したが、重度例では生存への効果は確認されなかった8。
  • 咳介助、、分泌物管理を行う。
  • 体重減少と嚥下安全性を監視し、誤嚥と呼吸機能を踏まえてを適切な時期に相談する。
  • 、などを早期に導入する。

多職種ケアと予後

理学・はを避けながら可動域、移動、安全を支える。、、、、疼痛、うつ・不安を個別に治療する。侵襲的換気、蘇生、栄養、療養場所について本人の価値観を早期から継続的に確認し、を診断時から併用する。

生存期間には大きながあり、「診断後3〜5年」を個人の期限として提示しない。球・呼吸発症、進行速度、、年齢などが予後に影響する。

まとめ

  • ALSは進行性の・で、診断は臨床進展と、から行う。
  • 家族歴の有無にかかわらず、遺伝学的検査とを検討する。
  • 、、SOD1変異に対するを適応に応じて用いる。
  • 呼吸はCPAPではなくを中心に評価し、栄養・意思伝達・を早期から並行する。

出典

  1. 1.Diagnosing ALS: the Gold Coast criteria and the role of EMG(Practical Neurology・2022)2019年9月にゴールドコースト(オーストラリア)に国際的な神経内科医が集まりALSの診断過程を簡略化する基準を策定したこと、Gold Coast基準は進行性の運動障害に加え「1領域でUMN・LMN徴候が共存」または「2領域以上でLMN障害」のいずれかと他疾患の除外を要件とすること、旧来のEl Escorial基準の確実性区分(definite/probable/possible/laboratory-supported probable)は独立した予後予測価値に乏しく、臨床的にUMN徴候が「不十分」とされた患者が同程度の進行速度であるにもかかわらず臨床試験への組入れを拒まれていたこと、EMGへの過度な依存がUMN優位例で回避可能な診断遅延を招いていたことを確認した閲覧 2026-08-27
  2. 2.Amyotrophic Lateral Sclerosis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)リルゾールがALSで生存を改善する唯一の薬剤で12か月生存率が投与群74%・プラセボ群58%、平均で約3か月の生存期間延長効果を示すこと、C9ORF72変異が前頭側頭型認知症(FTD)の発症にも関与し同一変異保有者がALS単独・FTD単独・両者合併のいずれも来しうること、生存期間中央値がおおむね3〜5年であることをTreatment/Management節・Prognosis節・Etiology節で確認した閲覧 2026-08-27
  3. 3.Safety and efficacy of edaravone in well defined patients with amyotrophic lateral sclerosis: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial(The Lancet Neurology・2017)日本の31施設で実施された第3相試験で、発症2年以内・ALSFRS-R全12項目2点以上・努力肺活量80%以上・改訂El Escorial基準でdefinite/probable・観察期間中にALSFRS-Rが1〜4点低下という狭い基準を満たした137例のみを対象に無作為化したところ、エダラボン群のALSFRS-R低下(-5.01点)がプラセボ群(-7.50点)より有意に少なく(群間差2.49点、95%信頼区間0.99-3.98、p=0.0013)、この効果は基準を満たさないより広いALS集団に一般化できる根拠はないと考察されたこと閲覧 2026-08-27
  4. 4.RADICAVA (edaravone) injection, RADICAVA ORS (edaravone) kit — full prescribing information(U.S. Food and Drug Administration(DailyMed)・2026)米国では2017年にエダラボンがALS治療薬として初承認されたこと、承認根拠となったStudy 19試験の対象がALSFRS-R各項目2点以上・努力肺活量80%以上・改訂El Escorial基準でdefinite/probable・発症2年以内という限定された集団であったことを確認した閲覧 2026-08-27
  5. 5.Questions and answers on withdrawal of the marketing authorisation application for Radicava (edaravone)(European Medicines Agency (EMA)・2019)CHMPが治験集団が小さく群間に不均衡があったこと、生存・呼吸機能・筋力といった重要な転帰の改善が示されていないことを懸念し、承認には少なくとも12か月間の追加の生存試験が必要と判断したのに対し、申請者(田辺三菱製薬)が追加試験を実施する代わりに2019年5月にEUでの販売承認申請を撤回したこと閲覧 2026-08-27
  6. 6.Trial of Antisense Oligonucleotide Tofersen for SOD1 ALS(The New England Journal of Medicine・2022)SOD1変異ALS患者108例(速い進行が見込まれる60例が主要解析対象)を2:1でトフェルセンとプラセボに無作為割付した第3相試験(VALOR試験)で、トフェルセンは髄液SOD1濃度・血漿ニューロフィラメント軽鎖濃度を有意に低下させたが、主要評価項目である28週時のALSFRS-Rスコア変化はプラセボ群と有意差がなかった(群間差1.2点、95%信頼区間-3.2から5.5、p=0.97)こと閲覧 2026-08-27
  7. 7.QALSODY (tofersen) injection — full prescribing information(U.S. Food and Drug Administration(DailyMed)・2024)米国で2023年に迅速承認(accelerated approval)されたトフェルセンの承認根拠が血漿ニューロフィラメント軽鎖濃度の低下という代替指標であり、この適応の承認継続は確認試験での臨床的有用性の検証を条件とすることを確認した閲覧 2026-08-27
  8. 8.Effects of non-invasive ventilation on survival and quality of life in patients with amyotrophic lateral sclerosis: a randomised controlled trial(The Lancet Neurology・2006)起立性呼吸障害または症候性高炭酸ガス血症を発症したALS患者41例(非侵襲的換気22例・標準治療19例)を無作為割付した試験で、球麻痺症状が軽い部分集団(20例)では非侵襲的換気群が生存期間中央値で205日延長し(p=0.006)QOLも維持・改善したのに対し、重度球麻痺例では睡眠関連症状は改善したが生存への上乗せ効果は認められなかったこと閲覧 2026-08-27