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Disease Atlas · 循環器 · 病態

神経原性ショック

Neurogenic shock

別名
神経性ショック
臓器系
循環器神経
科目
PathologyIntensive Therapy and AnesthesiologyNeurologyMedical Rehabilitation
トピック
病理学 A/26:ショック(循環不全)麻酔科学 A-03:ショックの病態・分類・診断・治療神経内科 G1-13:脊髄損傷の症候神経内科 G3-21:脊髄障害の症候リハビリテーション 04:脊髄損傷のリハビリテーション
上位概念
循環性ショック
関連疾患
自律神経過反射
治療薬
ノルアドレナリンフェニレフリンエピネフリンアトロピングリコピロニウム
症状
低血圧徐脈四肢麻痺
検査値
乳酸
元疾患
外傷性脊椎・脊髄損傷

🧠 全体像:は「血管の張りを作る交感神経のが断たれた」ことによるである。ほかの(敗血症性・アナフィラキシー性)と決定的に違うのは、心臓へのも同時に失われるため、低血圧が頻脈ではなく徐脈を伴うことで、これが唯一にして最大の入口になる。名前の似たとはまったく別物で、あちらは損傷以下の脊髄機能が一過性に失われる状態、こちらは循環の問題である。そして最も重要な落とし穴は、外傷患者ではであること——徐脈があるからと出血の検索を止めた瞬間に、患者は別の理由で死ぬ。

脊髄ショックとは別物である

同じから生じ、名前も似ているが、指しているものが違う。原著は「をと区別することが重要である」と明言している1。

何の異常か 循環() 神経(脊髄機能の一過性喪失)
定義 に対するの途絶による1 急性部位以下の全脊髄機能の一過性喪失1
主な所見 低血圧、徐脈、温かくの皮膚 、、の喪失
治療の軸 輸液とによるの維持 それ自体を戻す治療は無く、経過とともにへ移行する

⚠️ 両者は同じ患者に同時に存在しうる。 の急性期には、・反射消失()と低血圧・徐脈()が並んで現れる。「だから様子を見る」という判断は、循環の問題を放置することになる。

💡 とも混同しない。 あちらは損傷から時間が経った慢性期に、T6以上の損傷でを誘因として起こる発作性の高血圧である。徐脈を伴う点だけが共通していて、血圧の向きが逆になる。

病態——下行性交感神経路の途絶

・、とくにT6よりの損傷で頻度が高い1。これらのでは椎体の骨折・によってが断たれ、・・の軸索とが傷害されてが失われる。

💡 外傷だけが原因ではない。 まれではあるが、()、、を侵す毒素、、・にかかわるもとして挙げられている1。外傷歴が無いことは、この病態を除外する根拠にならない。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cervical spinal cord'>頸髄</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper thoracic spinal cord'>上位胸髄</span>(とくにT6以上)の損傷"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='descending sympathetic pathway'>下行性交感神経路</span>の途絶"]
    B --> C["血管への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sympathetic tone'>交感神経緊張</span>の低下"]
    B --> D["心臓への<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sympathetic innervation'>交感神経支配</span>の減弱"]
    C --> E["下肢の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capacitance vessel'>容量血管</span>が拡張"]
    E --> F["心充満(前負荷)の低下"]
    D --> G["拮抗されない迷走神経の作用"]
    G --> H["徐脈"]
    F --> I["低血圧・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue hypoperfusion'>組織低灌流</span>"]
    H --> I
    C --> J["皮下血管の拡張<br>皮膚は温かく<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pink'>ピンク色</span>"]

⭐ の中で、この型だけは心拍出量が上がらない。 の初期像として教わる「心拍出量は上昇しうる/は低下」という組み合わせをにそのまま当てはめない。原著はを特徴づける血行動態として、心拍出量・・のいずれもが低下することを挙げている1。心臓へのが同時に失われているためで、ここが同じの中での分かれ目になる。

⚠️ ただしこの一覧は、出典自身の中で整合していない。 同じ節はについても「心拍出量との低下・の上昇」と記しており1、高心拍出・低血管抵抗という一般的な記述と向きが逆である。の行だけを切り出して確立した血行動態の事実として扱わず、次の⚠️と併せて読む。

⚠️ ただし「必ず心拍出量が低下する」と読み替えない。 の9例の血行動態を解析した研究では、低血圧のがの低下3例(33%)・血管容量の増大2例(22%)・両者の混合3例(33%)・純粋に心性1例(11%)と分かれ、著者らは「の低血圧は複数の機序をとりうるものであり、血行動態プロファイルのスペクトラムを成す」としている2。⭐ 実務上の読み方は「上がらない」であって「必ず下がる」ではない——のようなの像を期待してはならない、という向きで使う。

💡 による低血圧は、それ自体がの重症度を悪化させると示唆されている1。血圧の維持は「ショックの治療」であると同時に「脊髄の治療」でもある——後述のの目標値が、通常の蘇生よりも高く設定されている理由がここにある。

頻度と診断の基準値

  • 米国では年間8,000〜10,000人がを経験する1。
  • 頻度の報告は集団によって大きく開く。孤立性490例の外傷登録データの解析では、典型的なは19.3%にとどまった。一方、より症例数の多いlevel 1外傷センターのでは、C1〜C5の62例中19例(31%)がを呈した1。⚠️ 後者は「全体の31%」ではなく「の31%」である。
  • 普遍的に定義された血行動態は存在しない。 多くの研究が90 mmHg未満・心拍数80 bpm未満という基準を採用している1。

💡 心拍数80 bpm未満という基準は、一般的な徐脈の定義(60 bpm未満)より緩い。 「脈が60を切っていないからではない」とは言えず、出血していれば当然上がっているはずの脈が上がっていないという読み方が要る。

認識と鑑別——除外診断であることを崩さない

⚠️ は外傷患者ではである。 急性の出血、気胸、直接的な心損傷、副腎不全を速やかに検索しなければならない1。の患者が同時に出血していることは珍しくなく、この場合はの要素がの要素に重なる。

・
心拍数 低血圧に徐脈を伴う1 低血圧に頻脈を伴う1
皮膚 温かく1 冷たく蒼白1
初期対応 輸液で戻らなければ 出血源の制御と輸血

⚠️ 「徐脈だから出血はない」と読み替えない。 上の対比は典型像であって、除外の根拠ではない。損傷では出血していても脈が上がらないことがあり、徐脈は出血を除外する所見ではなく、頻脈という手がかりを奪う所見である。原著がの検索を最初に挙げているのはこのためである1。

治療

輸液から昇圧薬へ

低血圧の治療はで行い、血行動態と心機能を注意深くモニターする1。第一選択はである。正常血液量にしてもなお低血圧が続く場合にを用いるが、全患者に推奨される薬剤は存在しない1。

⚠️ 輸液は「第一選択」だが、過剰に走らない。 原著はを第一選択に挙げると同時に、過度に積極的な輸液は合併症を招くため避けるべきだと明記している1。血管が拡張して「容れ物」が大きくなっている病態なので、量で埋めようとすると容易にへ倒れる。

薬剤 位置づけ 注意
ノルアドレナリン α作用とβ作用の両方をもつため好まれ、低血圧と徐脈の双方に対応できる1。とへの釣り合いのとれた作用のために一般に選ばれる3 —
純粋なとして末梢血管を収縮させ、失われたを補うためによく用いられる1 ⚠️ β作用を欠くためを起こし、・損傷でもともと拮抗されていないをさらに強めうる1
積極的には選ばれない の上昇との低下に関連し、とくに高齢者で不整脈が多く、を含めてが高い3
エピネフリン 難治性の持続する低血圧にまれに考慮する(必要になることは少ない)1 —

⚠️ そのものが害を出す。 重症患者でを85 mmHg超に維持したとき、74〜94%が頻脈・徐脈・心房細動・・上昇のいずれかを経験したと報告されている3。使用は肺炎・・予定外手術・の増加とも独立して関連すると示唆されている3。一方で、85 mmHg超の維持を3〜7日という短い期間にとどめれば重篤な有害事象は有意には増えないとする研究もある3。

平均動脈圧の目標値——版が変わっている

⚠️ 「MAP 85〜90 mmHgを7日間」は2013年のガイドラインの数字であり、2024年に改訂されている。

2013年 AANS/CNS 2024年の臨床実践ガイドライン
目標 85〜90 mmHg3 少なくとも75〜80 mmHgまで、ただし90〜95 mmHgを超えない4
期間 受傷後7日間3 3〜7日間4
推奨の強さ level III3 弱い推奨・根拠の質は非常に低い4
の選択 言及なし3 根拠が乏しいため推奨を出さないと判断4

💡 2024年版は目標を「一点」から「幅」へ変えた。 85〜90 mmHgという狭い範囲は従来のでは維持が難しかった3。新しい形は下限と上限を離し、上限を設けることでの過剰投与そのものを害とみなす姿勢を明示している。⚠️ ただし根拠の質は「非常に低い」と自ら明示されている4。この数字を確立した閾値として扱わない。

モニタリングについては、心血管・血行動態・呼吸のモニタリング機器を用いて循環不全と呼吸不全を検出することが推奨され、2024年のガイドライン作成グループの89%がこの2013年の項目を支持している4。

徐脈への対応

とを用いて過剰なに拮抗する。吸引などのを誘発しうる手技の前がとくに問題になる1。難治性の徐脈には(純粋なを狙う)や(・)が挙げられている1。

⚠️ 急性にステロイドを使わない。 感染をはじめとする合併症を増やすため推奨されない1。

経過

の症状は4〜5週間持続したと報告されている1。数日で終わるものと決めてかからず、離床・のたびに循環が破綻しうる期間として扱う。

まとめ

  • はの途絶によるで、・(とくにT6以上)の損傷で多い。まれに・・などの非のもある。
  • とは別物である。あちらは損傷以下の全脊髄機能の一過性喪失という状態、こちらは循環の問題であり、同じ患者に同時に存在しうる。
  • 入口は「低血圧に徐脈を伴う」こと。ただし多くの研究が採用する基準は心拍数80 bpm未満であり、一般的な徐脈の定義より緩い。
  • の中で、この型だけは心拍出量が上がらない。心臓へのが同時に失われるためで、のようなの像を期待しない。ただし「必ず低下する」とまでは言えず、9例の解析では低血圧のがの低下・血管容量の増大・両者の混合に分かれ、純粋に心性だったのは1例のみだった。
  • 外傷患者ではである。徐脈は出血を否定する所見ではなく、頻脈という手がかりを奪う所見にすぎない。
  • はノルアドレナリンが好まれる。はで状況を悪化させうる。
  • の目標は2024年に「85〜90 mmHgを7日間」から「75〜80 mmHg以上・90〜95 mmHg以下を3〜7日間」へ改まったが、根拠の質は非常に低いと明示されている。

出典

  1. 1.Neurogenic Shock(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)神経原性ショックが血管緊張に対する交感神経支配の途絶による組織低灌流であること、脊髄ショック(急性脊髄損傷部位以下の全脊髄機能の一過性喪失)とは別であり区別が重要であること、頸髄・上位胸髄とくにT6より高位で多いこと、まれではあるが外傷以外に脊髄くも膜下麻酔・Guillain-Barré症候群・自律神経系を侵す毒素・横断性脊髄炎・頸髄および上位胸髄にかかわる各種ニューロパチーも成因として挙げられていること(Etiology節)、交感神経緊張の低下が下肢の容量血管を拡張させて心充満を減らし低血圧を来し、心臓への交感神経支配の減弱により拮抗されない迷走神経の作用が徐脈を来すこと、皮下血管の拡張により皮膚が温かくピンク色となりうること、米国で年間8,000〜10,000人が外傷性脊髄損傷を経験すること、TARNの孤立性脊髄損傷490例の解析では典型的な神経原性ショックは19.3%であった一方、より症例数の多いlevel 1外傷センターの後ろ向き研究ではC1〜C5の高位頸髄損傷62例中19例(31%)が神経原性ショックを呈したこと、普遍的に定義された血行動態パラメータは無く多くの研究が収縮期血圧90 mmHg未満・心拍数80 bpm未満を基準としていること、循環血液量減少性ショックでは低血圧に頻脈が伴うのに対し神経原性ショックでは徐脈を伴い皮膚も冷たく蒼白ではなく温かくピンク色であること、血行動態上は心拍出量・全身血管抵抗・容量状態がいずれも低下すること(⚠️ ただし同じDifferential Diagnosis節は敗血症性ショックについても「心拍出量と容量状態の低下・全身血管抵抗の上昇」と記しており、高心拍出・低血管抵抗という一般的な記述と逆向きである。この一覧が内部で整合していないことも本文で確認した)、外傷患者では除外診断であり急性出血・気胸・直接的心損傷・副腎不全を速やかに検索すべきこと、低血圧の治療を集中治療室で行い血行動態と心機能をモニターすべきこと、第一選択が輸液蘇生であるが過度に積極的な輸液は合併症を招くため避けるべきこと、正常血液量にしても低血圧が続けば昇圧薬を用いるが全患者に推奨される薬剤は存在しないこと、フェニレフリンは純粋なα1作動薬でありβ作用を欠くため反射性徐脈を起こしうるのに対しノルアドレナリンはαとβの両作用をもつため好まれること、難治性低血圧にまれにエピネフリンを考慮すること、脊髄灌流の最適化のために平均動脈圧85〜90 mmHgを最初の7日間維持することが推奨されること、徐脈にはアトロピンとグリコピロレートを用い吸引などの迷走神経刺激手技の前がとくに問題になること、難治性徐脈にイソプロテレノールやメチルキサンチンが挙げられていること、脊髄損傷に対するステロイド投与は感染などの合併症を増やすため推奨されないこと、神経原性ショックの症状が4〜5週間持続したと報告されていることを、Introduction・Epidemiology・Pathophysiology・History and Physical・Treatment / Management・Differential Diagnosis の各節で確認した。2023年10月29日最終更新(NCBI Bookshelf のライブページで再取得)。閲覧 2026-09-06
  2. 2.Characterization of the spectrum of hemodynamic profiles in trauma patients with acute neurogenic shock(Journal of Critical Care(Summers RL, Baker SD, Sterling SA, Porter JM, Jones AE)・2013)脊髄損傷に伴う神経原性ショックと判断された外傷患者9例の血行動態を統合生理モデルで解析し、ショックの成因が末梢血管抵抗の低下3例(33%、95%信頼区間12〜65%)・血管容量の増大2例(22%、6〜55%)・末梢血管抵抗と血管容量の混合3例(33%、12〜65%)・純粋に心性1例(11%、3〜48%)に分かれたこと、交感神経流出の指標が血行動態プロファイルのどの要素とも相関しなかったこと、著者らが「神経原性ショックの低血圧は複数の機序的成因をとりうるものであり、血行動態プロファイルのスペクトラムを成す」と結論していることを確認した(Europe PMCで書誌情報と抄録を取得。⚠️ 本文はオープンアクセスではなく未取得で、抄録のみを閲覧している)。閲覧 2026-09-06
  3. 3.Vasopressor Use in Acute Spinal Cord Injury: Current Evidence and Clinical Implications(Journal of Clinical Medicine・2025)2013年のAANS/CNS合同委員会ガイドラインが「重症治療環境でのモニタリング機器の使用」「収縮期血圧90 mmHg未満の低血圧の速やかな是正」「受傷後7日間の平均動脈圧85〜90 mmHgの維持」という3つのlevel III推奨を出していたこと、85〜90 mmHgという狭い範囲は従来の昇圧薬では維持が難しかったこと、ノルアドレナリンが末梢血管抵抗と脊髄灌流圧の双方への釣り合いのとれた作用のために一般に好まれること、ドパミンが髄腔内圧の上昇と脊髄灌流圧の低下に関連し、とくに高齢者で不整脈の頻度が高く、心筋傷害と不整脈のリスクを含めて合併症率が高いために好まれないこと、重症患者で平均動脈圧を85 mmHg超に維持したときに74〜94%が頻脈・徐脈・心房細動・心室頻拍・トロポニン上昇のいずれかを経験したと報告されていること、昇圧薬使用が肺炎・深部静脈血栓症・予定外手術・手術部位感染などの感染性および手技関連合併症の増加と独立して関連すると示唆されていること、一方で平均動脈圧85 mmHg超の維持を3〜7日という短い期間にとどめれば重篤な有害事象は有意には増えないとする研究もあることを、Introduction・AANS/CNS Joint Committee Guidelines・Vasopressors in Acute SCI・Additional Considerations の各節で確認した。閲覧 2026-09-03
  4. 4.A Clinical Practice Guideline for the Management of Patients With Acute Spinal Cord Injury: Recommendations on Hemodynamic Management(Global Spine Journal・2024)急性外傷性脊髄損傷における脊髄灌流の最適化のために、平均動脈圧を「少なくとも75〜80 mmHgまで、ただし90〜95 mmHgを超えない」範囲へ昇圧することを提案していること、その昇圧を3〜7日間続けることを提案していること、いずれも推奨の強さが弱く(weak recommendation)根拠の質が非常に低い(very low quality evidence)と明示されていること、昇圧薬の選択とSCPP目標については利用できる根拠が乏しいため推奨を出さないと判断したこと、心血管・血行動態・呼吸のモニタリング機器を用いて循環不全と呼吸不全を検出することを推奨する2013年ガイドラインの項目をガイドライン作成グループの89%が支持したことを確認した。閲覧 2026-09-03