脳神経内科・脳神経外科

脳神経内科・脳神経外科 · 07

小脳機能の診察(Cerebellar function examination)

Neurological examination: cerebellar function

前提:正常
小脳の微細構造(顕微鏡解剖)小脳の求心路と遠心路運動機能における小脳と大脳基底核の役割。
症状
Romberg徴候頭部動揺

🧠 全体像:小脳は(平衡)・脊髄小脳(体幹・歩行)・(四肢の)という機能的に異なる3部位からなり、それぞれ障害されたときの所見(歩行、、四肢の・)と対応する検査(Romberg試験、、反復拮抗運動試験など)が決まっているため、所見のパターンから障害部位を推定できる。

このノートは「」PDFを7回に分けたシリーズの第7回(最終回)。の診察は前のノートを参照。

小脳の機能的区分

部位 解剖学的構成 機能 代表的な検査
(=+。を機能的に含める整理もある) 姿勢保持・平衡、 立位・歩行時の平衡、歩行の有無、眼球運動(眼振・・)
脊髄小脳 前葉(を除く)、錐体、垂 体幹・近位筋のと歩行の協調(のよりも体軸寄り) 立位・歩行、継ぎ足歩行、Babinski、試験
(錐体・垂を除く) 熟練を要する精密なの協調(外側は認知・情動にも関与) 、、反復拮抗運動、Bárány試験、効果

⚠️ は側。 はとともにと結合しをなす——脊髄小脳に数えない。脊髄小脳は前葉との大部分、(=)はとの一部にあたる1。

⚠️ 3区分は「だいたいの地図」であってではない。 実際の小脳疾患は複数領域にまたがることが多く、限局症候群の方がまれである1。所見から部位を推定はできるが、断定はできない。

💡 どの症候がどこか、は画像で裏が取れている。 による病変-症候マッピングでは、立位・は内側()と、は、は、四肢失調はとの萎縮と相関した2。四肢失調がではなく・に対応する点が、上の表の「脊髄小脳=体軸寄り/=四肢」という分担の根拠になる。

脊髄小脳の障害

体幹・(・いずれでも前後にし、よろめく)、性・性の歩行(継ぎ足歩行tandem gaitが不能)、保持困難を呈する。上肢や筋緊張・深部反射・構音は保たれることが多い。

  • Babinski:立位で後方に反らせたとき、ながなければ後方へ転倒する。
  • 試験:で・を比較し、患側へのがあれば陽性。判定困難例ではの足を前に出した立位で行う。

⚠️ 試験は小脳障害の中核検査ではない。 本来は後索性()失調を拾う検査で、の中核として挙げられるのは眼球運動・構音・四肢失調・振戦・姿勢と歩行である3。しかも「で悪化するから後索性」とも言えない——小脳疾患の患者はでもでも健常者よりが大きく、Romberg商(/の比)はむしろ高かった4。と後索性を分けるのは増悪の有無ではなく、時点ですでにしているかと、他の(眼振・・四肢失調)を伴うかである。

  • 歩行:・で歩かせ、・よろめき・リズム変化を観察する。障害では、よろめき、を呈する。

大脳小脳の障害

検査 手技 片側障害での所見
・でを鼻先へ 鼻への接近時にためらい・振戦()
自分の鼻→検者の指をに触れる 同上
片脚を挙上し踵を対側膝に置き脛を滑らせる 足の、脛上に保持できない
指々試験 両上肢を外転位から正中で合わせる 患側上肢が正中に届かず、は行き過ぎる(lagging behind)
Bárány試験 座位で両上肢挙上→で膝まで下げ再挙上 患側への
前腕の外を素早くに ・非対称
効果 位で抵抗をかけ急に解除 患側の手が肩を打つ(正常では素早い屈曲停止で防止される)
で直線上を往復 患側へ偏位を繰り返し星形のを描く

そのほか、患側の(deep tendon reflexの低下を伴う)、(患側で軽く感じる)、(scanning speech:不明瞭・緩徐・異常)も障害でみられる所見である。はに含まれるものの判定しにくく、急性・広範な病変や術後で目立ちやすい。の背景には、小脳が能動運動中の力の知覚とに関与していることがある。一方、()はを強く示唆する所見で、拾えたときの価値が高い3。

💡 中核となる手技と、古典的な補助手技を分けて覚える。 現在の総説がの診察として挙げるのは眼球運動・構音・四肢失調(・)・・振戦・姿勢と歩行である3。表のBárány試験・指々試験・効果・は古典的な所見として有用だが、これらと同格の中核検査として扱われているわけではない。いずれのベッドサイド検査も判定はで熟練に依存するため、単一の手技で局在を決めない。

💡 小脳は運動だけの器官ではない。 外側(Crus I・II、小葉VII-VIII)の病変では、を伴わずに・・言語・の障害だけが出ることがある——認知情動症候群(CCAS、Schmahmann症候群)である3。18例の病変-症候マッピングでも、失調は前葉(小葉III-VI)、CCASはと、前後の軸できれいに分かれた5。

前庭小脳の障害

の要素:

  • 立位・歩行時のバランス低下
  • ・
  • 協調運動の破綻(dyssynergia:歩行時の・修正動作の消失)
  • 側への眼振

⭐ では眼球運動所見が主役。 歩行と平衡だけを見て終わらせない。眼球・眼振に加えて、眼球運動の割り込み(saccadic intrusion)・の障害(滑らかに追えず状になる)・の障害・のずれが〜小脳眼球運動系の障害の中核所見である3。の孤立性障害ではと眼振が前面に出て、四肢失調は目立たない1。

正常所見の記載例:なし、企図運動・協調運動は正常。試験陰性、失調なし、歩行時のなし、Babinski協働は正常。

まとめ

  • 小脳は(平衡)・脊髄小脳(体幹・歩行)・(四肢の)に機能分担され、それぞれ特徴的な障害パターンと検査法を持つ。ただし境界は厳密ではなく、多くの病変は複数領域にまたがるので限局症候群の方がまれである1。
  • 脊髄小脳障害は体幹・が主体で上肢は保たれやすく、障害は・反復拮抗運動などで検出される四肢の・が主体である。病変-症候マッピングでも、立位・は内側()と、四肢失調はとに対応した2。
  • 障害()は歩行・・眼振を特徴とする。眼振だけでなく障害・障害・ずれまで含めて眼球運動を診る3。
  • ⚠️ 試験は本来の検査であり、の中核ではない。小脳障害でもでは増える(Romberg商はむしろ高い)ので、増悪だけで後索性と決めない4。
  • 小脳は運動だけの器官ではない。の病変では失調を伴わずに・・言語・が障害される(CCAS/Schmahmann症候群)5。
  • 本シリーズは・・頭蓋/脊椎の診察に始まり、・脳神経・運動・反射・感覚・小脳の診察までを扱った。原資料に記載のあった・脳機能の診察は含まれていないため、必要に応じて他の資料で補うこと。

出典

  1. 1.Clinical manifestation of focal cerebellar disease as related to the organization of neural pathways(Acta Neurologica Scandinavica Supplementum・2008)小節と片葉が前庭核と結合して前庭小脳をなし、前葉と後葉虫部の大部分が脊髄小脳、小脳半球と後葉虫部の一部が橋小脳(大脳小脳)にあたる。多くの小脳疾患は複数領域にまたがるため限局症候群はまれで、脊髄小脳の孤立性障害は歩行失調、前庭小脳障害は体幹失調と眼振、橋小脳病変は同側の四肢失調(虫部に及べば構音障害・眼球運動障害)を生じる閲覧 2026-08-22
  2. 2.Lesion-symptom mapping of the human cerebellum(Cerebellum・2008)MRIによる病変-症候マッピングで、立位・歩行失調は内側(と中間部)小脳、眼球運動障害は内側部、構音障害は中間部、四肢失調は中間部と外側部の萎縮と相関した。四肢失調は内側(虫部)ではなく中間部・外側部に対応する閲覧 2026-08-22
  3. 3.Consensus Paper: Revisiting the Symptoms and Signs of Cerebellar Syndrome(Cerebellum・2016)小脳症候の中核は、眼球運動障害(眼球動揺・眼振・衝動性眼球運動の割り込み・追従眼球運動障害・前庭動眼反射障害・眼位ずれ)、失調性構音障害(小脳病変を強く示唆する)、四肢の筋緊張低下・反復拮抗運動障害・測定障害・振戦、広基性のよろめき歩行と継ぎ足歩行障害である。小脳は能動運動時の力の知覚と固有感覚にも関与する。後葉病変では実行機能・視空間認知・言語・情動調節の障害(Schmahmann症候群)を生じる閲覧 2026-08-22
  4. 4.Visual control of balance in cerebellar and parkinsonian syndromes(Brain・1990)小脳疾患の患者は開眼でも閉眼でも健常者より体幹動揺が大きく、Romberg商(閉眼/開眼の動揺比)はむしろ高い。すなわち小脳障害でも閉眼で悪化するため、閉眼増悪だけを後索性(感覚性)失調の根拠にはできない閲覧 2026-08-22
  5. 5.Location of lesion determines motor vs. cognitive consequences in patients with cerebellar stroke(NeuroImage: Clinical・2016)小脳梗塞18例のvoxel-based病変-症候マッピングで、失調スコアの悪化は前葉の小葉III-VI病変と対応し、運動症候を欠いて認知・情動症候(CCAS)のみを示した例は後葉(Crus I・II、小葉VII-VIII)の病変だった。前後の軸で運動と認知が分かれる閲覧 2026-08-22