婦人科学

婦人科学 · 01

原発性無月経

Primary amenorrhea

前提:正常
泌尿生殖器系:生殖器系泌尿生殖器系:臨床女性性内分泌学染色体異常
疾患
ミュラー管無形成横腟中隔処女膜閉鎖
症状
子宮腟留水腫無月経

🧠 全体像:は、月経成立に必要な「視床下部・下垂体」「卵巣」「子宮・流出路」のどこに障害があるかを、の有無と子宮の有無から切り分ける。妊娠可能性はでも除外し、15歳でがない、から3年経ってもがない、または13歳でがなければ評価する。

定義と評価開始の目安

  • が発達し発育も正常なのに、15歳までにがない場合
  • から3年経ってもがない場合(が10歳未満で始まっていたなら5年を目安にする)
  • 13歳までにがない(思春期発来の徴候がない)場合
  • 周期性下腹部痛、腟口の膨隆、急速な男性化などがあれば年齢を待たず評価する。

⚠️ 「16歳まで待つ」という基準は古い。は通常に約2年先行するため「思春期開始2年後」と説明されることもあるが、現在はから3年(例では5年)を優先し、上記の目安で早めに評価する。1

月経成立に必要な条件

flowchart TD
    A["視床下部から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gonadotropin-releasing hormone'>GnRH</span>が律動的に分泌"] --> B["下垂体から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicle-stimulating hormone'>FSH</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='luteinizing hormone'>LH</span>を分泌"]
    B --> C["卵巣で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular development'>卵胞発育</span>・エストラジオール産生"]
    C --> D["子宮内膜が増殖・周期的に変化"]
    D --> E["子宮・頸管・腟の流出路が開通"]
    E --> F["月経が成立"]

乳房発育と子宮で考える原因

子宮 主な原因 鑑別の要点
あり あり 妊娠、、、、内分泌疾患 妊娠検査、、流出路、・プロラクチンを確認
あり なし 形成不全(Müllerian agenesis/)、完全型 核型・ホルモン評価に加え、画像で構造と性腺の位置を確認する。CAISは遺伝子の解析で確定できる2
なし あり 、 ・エストラジオールで中枢性か性腺性かを判定
なし なし 思春期前で子宮が小さく描出困難、まれな発生異常 画像所見だけで即断せず再評価する

子宮がない場合

ミュラー管形成不全

  • 核型は通常46,XXで、卵巣機能は保たれる。
  • 子宮・子宮頸部・上部腟が欠損または低形成となる。
  • 卵巣由来エストロゲンにより乳房は発育し、外性器も女性型である。
  • テストステロンは女性である。
  • 腎・やを合併しうるため、関連臓器も評価する。

完全型アンドロゲン不応症

  • 核型は46,XYで、精巣から(anti-Müllerian hormone:)が分泌されるため子宮・卵管を欠く。
  • が機能せず、外性器は女性型となる。テストステロンので乳房は発育するが、・は乏しい。
  • 精巣は腹腔内またはに存在しうる。性腺摘出の時期は、自然な思春期発達、本人の意思を踏まえて専門チームで決める。

💡 CAISでは思春期前の悪性化リスクがきわめて低い。 性腺摘出または生検を受けた456例の系統的レビューでは、が6.14%(うち82.14%が思春期後)、は1.3%でいずれも思春期後だった。自然な思春期発来を保証するため、思春期が完了するまで摘出を延期する方針が広く支持されている。32

⚠️ ただし思春期後の摘出については今も議論が分かれている。早期の(前)悪性変化を検出できる信頼できるスクリーニング指標が無く、個々のな悪性化リスクの推定も不確実だからである。性腺を温存する場合は定期的な経過観察が要る。摘出後はホルモン補充が必要になる。4

⚠️ CAISでテストステロンが「エストロゲンとプロゲステロンに変換される」とする説明は誤りである。されるのは主にエストロゲンであり、CAISに卵巣はない。

乳房発育がなく子宮がある場合

⚠️ このフローは切り分けの見取り図であってではない。テストステロン値だけでMRKHとCAISを二分せず、画像所見・核型・ホルモン・必要に応じた遺伝学的検査を組み合わせて確定する。2

病変部位 代表疾患 特徴
低値または 視床下部・下垂体 、、 低エストラジオール。ならを示唆
高値 卵巣・性腺 、46,XY完全型 性腺がエストロゲンを産生できず、負のフィードバック低下で上昇

ターナー症候群

  • 代表核型は45,Xだが、モザイクもある。
  • 、、、、短い第4、を認めうる。
  • ・・などの心血管病変を評価する。
  • 卵巣はとなりやすく、高値・エストラジオール低値を示す。

46,XY完全型性腺形成不全

  • とテストステロンが産生されないため、子宮・卵管が存在し、外性器は女性型となる。
  • による性腺芽細胞腫の危険が高いため、診断時の予防的性腺摘出が原則として推奨される。CAISで摘出を思春期後まで延期しうるのとは対照的で、両者を混同しない。1

診断の流れ

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary amenorrhea'>原発性無月経</span>"] --> B["妊娠検査・病歴・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='physical examination'>身体診察</span>"]
    B --> C{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thelarche'>乳房発育</span>はあるか"}
    C -->|"ある"| D{"子宮はあるか"}
    D -->|"ある"| E["流出路・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>・プロラクチン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ovulatory dysfunction'>排卵障害</span>を評価"]
    D -->|"ない"| F["核型・テストステロン"]
    F --> G["46,XX・女性域T:MRKH<br>画像で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='congenital anomalies of the kidney and urinary tract'>腎尿路奇形</span>も評価"]
    F --> H["46,XY・男性域T:CAIS<br>画像で性腺位置・AR遺伝子で確定"]
    C -->|"ない"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicle-stimulating hormone'>FSH</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='luteinizing hormone'>LH</span>・エストラジオール"]
    I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicle-stimulating hormone'>FSH</span>低値:視床下部・下垂体を評価"]
    I --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicle-stimulating hormone'>FSH</span>高値:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gonadal dysgenesis'>性腺形成不全</span>を評価"]

治療原則

  • 流出路閉塞は解剖に応じて外科的に解除する。
  • では、骨・子宮の発育を考慮して低用量エストロゲンから段階的に補充し、子宮がある場合は適切な時期にを追加する。
  • 中枢腫瘍、摂食障害、慢性疾患は原因治療を行う。
  • 妊孕性、性機能、性分化に関する説明は、本心のとする。

まとめ

  • は、15歳でがない、から3年経過(10歳未満でのなら5年)、または13歳でがない場合に評価する。
  • 最初の分岐はと子宮の有無で、子宮欠損ではMRKHとCAISを核型・ホルモン・画像・必要に応じた遺伝学的検査で区別する。
  • 子宮がありがなければで中枢性と性腺性を分ける。46,XY完全型では診断時の予防的性腺摘出が原則だが、CAISでは思春期前の悪性化リスクが低いため思春期完了まで延期しうる——この差を取り違えない。

出典

  1. 1.MANAGEMENT OF ENDOCRINE DISEASE: Diagnosis and management of primary amenorrhea and female delayed puberty(European Journal of Endocrinology・2021)原発性無月経が「二次性徴が発達し発育も正常な15歳以上での初経の欠如」または「思春期発来の徴候が無い13歳以上」と定義されること。さらに**乳房発育(thelarche)から3年経っても初経が無い場合**、あるいは乳房発育が**10歳未満で始まったなら5年経っても初経が無い場合**に評価を考慮すべきこと閲覧 2026-08-21
  2. 2.Different Clinical Presentations and Management in Complete Androgen Insensitivity Syndrome (CAIS)(International Journal of Environmental Research and Public Health・2019)完全型アンドロゲン不応症の診断が、46,XYで女性型外性器・正常に発達した停留精巣・標的組織のアンドロゲン完全不応に基づくこと。骨盤超音波またはMRIがミュラー管構造の欠如の確認、盲端腟の描出、精巣の同定に有用であること。精巣胚細胞腫瘍のリスクは上昇するが他の性分化疾患より頻度が低く、検出される腫瘍性病変の大半は非浸潤性で進行の可能性が低いため、自然な思春期発来を保証する目的で思春期後まで性腺摘出を延期できること。摘出後はホルモン補充が必要になること閲覧 2026-08-21
  3. 3.Complete androgen insensitivity syndrome and risk of gonadal malignancy: systematic review(Annals of Pediatric Endocrinology & Metabolism・2021)完全型アンドロゲン不応症で性腺摘出または性腺生検を受けた456例の系統的レビューで、前癌病変が6.14%(うち82.14%が思春期後)、悪性病変が1.3%(すべて思春期後)であったこと。**思春期前の悪性化リスクはきわめて低く**、思春期が自然に完了するまで性腺摘出を延期しうるが、その間の綿密な経過観察が必要であること閲覧 2026-08-21
  4. 4.Gonadectomy in Complete Androgen Insensitivity Syndrome: Why and When?(Sexual Development・2017)完全型アンドロゲン不応症では早期の(前)悪性変化を検出できる信頼できるスクリーニング指標が無いこと。思春期前の腫瘍リスクがきわめて低いため、自然な思春期発来と本人の意思決定への参加を可能にする目的で性腺摘出の時期が後ろ倒しにされてきたこと。**思春期後の性腺摘出については今も議論が分かれており**、個々の絶対的な悪性化リスクの推定、ホルモン補充、プロトコルを支持する研究のいずれにも難しさが残ること閲覧 2026-08-21