疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 生殖・産婦人科 · 先天性疾患

横腟中隔

Transverse vaginal septum

別名
腟横中隔先天性横腟中隔
臓器系
生殖・産婦人科小児
科目
Obstetrics and Gynecology (Gynecology)Pediatrics
トピック
婦人科 01:原発性無月経小児科 2-15:小児の外性器・内性器救急
鑑別疾患
ミュラー管無形成処女膜閉鎖
合併症
子宮内膜症・子宮腺筋症
症状
無月経腹痛

🧠 全体像:は、と同じ「流出路は塞がっているが子宮・卵巣は正常」という枠組みに入る疾患だが、塞がっている場所がそのものではなく、腟の途中である点が違う。⭐ 腟は上部(由来)と下部(由来)が癒合してできる管で、はこの癒合が完了しなかった状態である1。だから診察の一手目がとまったく逆になる——⚠️ ではそのものは正常に開口している。 見えるのは膨隆したではなく、正常なの奥にある閉塞である。

発生学——癒合の失敗が「途中」に残る

腟は妊娠初期に由来の上部と由来の下部が向かい合って伸び、両者が癒合することで一続きの管になる。は、この接合部(と腟板の接合部)が退縮しきれずに残ったことで生じる1。

💡 との発生学的な違いはここにある。 は腟の最下端(由来の組織そのもの)が開通しないのに対し、は上部と下部の継ぎ目がうまく癒合しない病態であり、位置も由来組織も異なる。だからでは、中隔より下の腟(由来の部分と)は正常に形成され、正常に開口する。

臨床像——処女膜閉鎖と重なるが、見え方が違う

⭐ 典型像はと同じ「+」である。 が正常であるにもかかわらず、周期性のを呈することが流出路閉塞に共通する臨床像とされる1。は中隔より上方(子宮・中隔上方の腟)に貯留し、と同様に・を来す2。

💡 中隔の位置によって、たまる血液の量と症状の出方が変わる。 中隔が腟の上寄りにあるほど、中隔より上方に子宮に加えて腟の大部分までもが含まれるため、貯留する血液量が多くなり、下腹部の腫瘤として触れやすくなる。逆に中隔が下寄り(に近い位置)にあれば、貯留腔は小さく、・診察の所見もに近い膨隆として触れることがある——ただし、⚠️ 膨隆して見えるのはあくまで中隔より下の正常な腟壁であり、自体は正常に開口していることに変わりはない。

診断——処女膜閉鎖との鑑別点は「視診」

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary amenorrhea'>原発性無月経</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cyclic abdominal pain'>周期性腹痛</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary sex characteristics'>二次性徴</span>は正常"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inspection'>視診</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hymen'>処女膜</span>の性状を確認"]
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hymen'>処女膜</span>が閉鎖し膨隆している"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='imperforate hymen'>処女膜閉鎖</span>を疑う"]
    B -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hymen'>処女膜</span>は正常に開口している"| D["経<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vaginal examination'>腟診</span>察・超音波でさらに奥を評価"]
    D --> E["腟の途中で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blind end'>盲端</span>になっている<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hematometra'>子宮留血症</span>を認める"]
    E --> F["骨盤<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>で中隔の位置・厚さを確認"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transverse vaginal septum'>横腟中隔</span>と診断"]
  • ⭐⚠️ 診察の一手目はである。 では自体が閉鎖し膨隆しているのに対し、では腟入口=は正常に開口している——腟が開存し頸部が正常であれば、・・・といった流出路閉塞性の原因を除外する根拠になる、という原則を逆に使う(腟入口だけを見て「開存=閉塞なし」と即断しない)1。
  • 超音波:(内部に不均一な内容物を伴い拡張した子宮)を検出する。超音波所見が非決定的なら骨盤を追加する1。
  • MRIは・との鑑別のgold standardとされる——中隔の位置・厚さをし、術式の計画に直結する2。

合併症

⚠️ と同じ機序の合併症を負う。 貯留した経血による機械的な尿路圧迫、逆行性月経による・不妊のリスクである2。

治療——外科的切除

⭐ 治療の中心は中隔の外科的切除である。 21歳以下のTVS患者152例を対象にしたスコーピングレビューでは、最も多い治療法が単純な腟切除術であった3。

  • ⚠️ 術後合併症として腟狭窄が多い。 同レビューでは21例に術後腟狭窄が生じ、そのうち半数(11/21)は術後拡張を行わなかった症例だった3。⭐ 中隔を切除して終わりではなく、術後の腟拡張が狭窄を防ぐ鍵になりうる。
  • ⚠️ エビデンス自体が乏しい。 術前・術後の腟拡張はしばしば推奨されるが、その転帰の記載は乏しく(5研究が術前拡張、11研究が術後拡張の転帰を報告したにとどまる)、著者らも文献の乏しさを認めている3。
  • 💡 著者らのは「急がば回れ」である。 での管理と、患者が腟拡張に取り組める時期まで手術を遅らせることが転帰を改善しうるとされている3。⚠️ で「緊急合併症が無ければ思春期・後までできる」とされるのと方向性は同じだが、ではが多いぶん、の理由に「腟拡張へ取り組める発達段階まで待つ」という要素が加わる。

まとめ

  • は由来の腟上部と由来の腟下部の癒合が失敗したことで生じる流出路閉塞。と同じ「子宮・卵巣は正常、流出路だけが塞がる」臨床像を作る。
  • ⚠️⭐ との鑑別点は。 では自体は正常に開口している——のようにが閉鎖し膨隆しているわけではない。
  • 臨床像は+でと重なるが、💡 中隔の位置が上方であるほど貯留する血液量が多くなり、下腹部腫瘤として触れやすくなる。
  • 診断は超音波でを確認し、非決定的なら。は・との鑑別のgold standard。
  • 治療は外科的切除(単純な腟切除術が最多)。⚠️ 術後腟狭窄が少なくなく(21/152例)、その半数は術後拡張をしなかった症例だった。 患者が腟拡張に取り組める時期まで手術を遅らせる方針が転帰を改善しうるとされるが、エビデンスの水準自体は高くない。

出典

  1. 1.Primary Amenorrhea(StatPearls Publishing・2023)NCBI Bookshelfのライブページ(末尾に「Last Update December 20, 2023」の更新表示)で確認した。横腟中隔が「ミュラー管と腟板の接合部が退縮できなかったこと」により生じる流出路閉塞であること、この種の流出路閉塞が「二次性徴が正常であるにもかかわらず周期性の骨盤痛を呈する」ことを典型像とすること、超音波で子宮留血症(内部に不均一な内容物を伴い拡張した子宮)が検出されること、超音波所見が非決定的なときには骨盤MRIが推奨されること、⭐ **腟が開存し頸部が正常であれば、腟無形成・完全型アンドロゲン不応症・処女膜閉鎖や横腟中隔といった流出路閉塞性の原因を除外できる**とされており、これが横腟中隔と処女膜閉鎖を診察で見分ける根拠(横腟中隔では腟入口=処女膜そのものは正常に開口している)になること、処女膜閉鎖や頸管狭窄など一部の流出路閉塞は外科的矯正で治療しうることを確認した。閲覧 2026-09-06
  2. 2.Imperforate Hymen(StatPearls Publishing・2023)NCBI Bookshelfのライブページ(末尾のRevision History「Last Update November 12, 2023」)で確認した。処女膜閉鎖の鑑別診断として横腟中隔(尿生殖洞とミュラー管の間の癒合不全による)と腟無形成(腟上部の先天的欠損)が挙げられ、MRIがこれらを鑑別するgold standardであること、月経血が腟腔・子宮腔に貯留する血腫症(hematocolpos)・子宮留血症(hematometra)が閉塞性の流出路異常に共通する所見であり、貯留した経血が機械的な尿路閉塞や、逆行性月経による子宮内膜症・不妊のリスクを来しうること、確定的な外科治療の前に外来での切開排膿により一時的に減圧してはならず医原性の骨盤内炎症性疾患のリスクを伴うことを確認した。閲覧 2026-09-06
  3. 3.Transverse Vaginal Septum Resection: Technique, Timing, and the Utility of Dilation. A Scoping Review of the Literature(Journal of Pediatric and Adolescent Gynecology・2021)抄録のみを閲覧しており全文は未取得(Elsevier誌でPMC等の無料全文が見つからず、Unpaywallでもoa_status closedと確認した)。横腟中隔が腟の先天的な閉塞性異常であり典型的には腹痛と無月経で発症すること、外科的管理に関する文献は乏しく術後合併症が多いこと、術前または術後の腟拡張がしばしば推奨されるがその転帰の記載は乏しいこと、21歳以下のTVS患者を対象にJoanna Briggs Instituteの枠組みに沿ったスコーピングレビューを行い1441篇をスクリーニングして41篇・152例のTVS症例を同定したこと、最も多い治療法が単純な腟切除術(simple vaginal excision)であったこと、5研究が術前拡張の転帰を、11研究が術後拡張の転帰を報告していたこと、術後腟狭窄が21例に生じ、そのうち半数(11/21)が術後拡張を行わなかった症例であったこと、文献が乏しいながらも三次医療機関での管理と腟拡張に患者が取り組める時期まで手術を遅らせることが転帰を改善しうると著者らが考察していることを確認した。閲覧 2026-09-06