神経解剖学

神経解剖学 · 11

小脳の微細構造(顕微鏡解剖)

Fine structure of the cerebellum

応用トピック
小脳機能の診察(Cerebellar function examination)小脳の機能系と小脳障害の徴候

🧠 は「入力2種・細胞5種・出力1種」という単純な回路で理解できる。 入力は(間接性——granule cellを経由)と(直接性——1本が1個のに巻きつく)の2系統のみ。細胞は興奮性のただ1種と、作動性で抑制性の4種(Purkinje・basket・stellate・Golgi細胞)に分かれる。そして皮質から出る出力経路はの軸索だけ——情報は必ずこの一本の「抑制性ゲート」を通ってに届く。自体は・の側枝からを常時受けているが、それが実際に出力されるのは自身が抑制されが起きたときだけ、という論理さえ押さえれば全体がつながる。

小脳の肉眼構造

小脳の表面は小葉という細かい皺で覆われ、表面積を増大させている。

小脳は大きく3つの葉に分かれる。

葉 英語 境界・特徴
前葉 anterior lobe より前方。を含む
posterior lobe との間
flocculonodular lobe より後方。+からなる

正中にはがあり、その両側にが広がる。

深部小脳核と小脳脚

小脳の断面には4つのがある。覚え方は “Don’t Eat Greasy Food”(外側→内側の順)。

核 英語 位置(外側→内側)
dentate nucleus 最外側
emboliform nucleus 外側寄り
globose nucleus 内側寄り
fastigial nucleus 最内側(直下)

💡 とは「」としてまとめて扱われることが多い。 この呼び方は12. Cerebellar afferents and efferentsで脊髄小脳の出力先として登場する。

小脳と脳幹は3本の小脳脚で結ばれる。

小脳脚 英語 接続する脳幹部位
inferior cerebellar peduncle 延髄
middle cerebellar peduncle 橋
superior cerebellar peduncle 中脳

各小脳脚が実際にどの経路(求心性・遠心性)を運ぶかは、12. Cerebellar afferents and efferentsで詳しく扱う。

機能的・系統発生的区分

小脳は的な古さと機能に応じて3つに区分される。

的区分 機能的名称 構成部位 主な入力 機能
・ 平衡・バランスの調節
脊髄小脳 ・(paravermal area、) 脊髄から直接() 運動と筋緊張の調節
外側の大部分 大脳皮質の多数領域 高度に熟練した運動の調節、運動の計画・実行、

💡 的に最も古いのは。 バランスという生存に直結する機能を担うため、進化的に最初に確立したと理解できる。この3区分それぞれの詳しい・(・脊髄・大脳皮質からの入力経路、を介した出力経路)は12. Cerebellar afferents and efferentsで扱う。

小脳皮質の3層構造

は表層から深部へ向かって3層構造をとり、皮質の内部にはがあり、皮質へ出入りする軸索が通る。

層 英語 位置 含まれる細胞
molecular layer 最 ・
() Purkinje cell layer (ganglionic layer) 中間層 プルキンエ細胞
granular layer 最 ・

皮質を構成する5種類の細胞

の細胞はすべて作動性の抑制性細胞であり、唯一の例外が・興奮性のである。

細胞 英語 主な層 伝達物質 性質
プルキンエ細胞 Purkinje cell 抑制性
granule cell グルタミン酸 興奮性(皮質内で唯一)
Golgi cell 抑制性
basket cell 抑制性
stellate cell 抑制性

プルキンエ細胞

  • CNS最大のニューロン
  • 細胞体は。は2-3本のから始まり、細かく分岐して樹を形成する。このはに限局し、の長軸に対して垂直に広がる
  • 軸索は主にへ投射するが、一部は小脳を出てに直接終止する
  • ⭐ プルキンエ細胞の軸索が、から出る情報の唯一の出口である

顆粒細胞

  • 小さな細胞体を持ち、に高密度に存在する
  • 3-4本のがあり、先端は爪状の突起を形成する
  • 細い軸索はへ伸び、そこで二分岐してfoliumに沿って並走する。このはで最大1mmにわたり伸び、プルキンエ細胞のと興奮性シナプスを形成する
  • ⭐ 1個のプルキンエ細胞は、約20万本のからシナプス入力を受ける

⚠️ 「約20万本」という値の出所はである。 とステレオロジーを用いて小脳のプルキンエ細胞を解析した研究では、1個のプルキンエ細胞あたり約17.5万本(175,000本)のシナプスと算出されている1。ヒトで同等の直接を行った実測値は確認できていない。

💡 はヒト脳内で最も数の多いニューロンである。 ヒト小脳5例(成人男性)の不偏的ステレオロジー実測では、は約1010億個、プルキンエ細胞は約3050万個と推定されている2。

バスケット細胞・星状細胞

  • ともにの介在ニューロンであり、抑制性
  • の軸索は・に分岐し、隣接する5-8個のプルキンエ細胞の細胞体をバスケット状に取り囲む
  • の軸索はプルキンエ細胞のに終止する

ゴルジ細胞

  • より大きく、に散在する
  • は内で(プルキンエ細胞のように平坦化せず)全方向に広がる
  • 軸索は内で豊富に分岐し、多数のとシナプスを作り、負のフィードバックループを形成する

小脳糸球体

には細胞体を含まない小さな島状構造であるがある。

  • の終末が、(特に、mossy fiber)のとシナプス接触を作る
  • の短い軸索もここに終止する
  • この大きなシナプス構造はに包まれる

皮質のグリア細胞

には一般的な(、astrocyte)に加え、特殊なが存在する。

  • :細胞体はプルキンエ細胞の間に位置し、長い支持線維を表面(側)へ伸ばす。プルキンエ細胞が変性・死滅する部位で増殖する

皮質内回路:2種の入力線維

にはとという2種類の終末が入力する。

  • :とその副核に由来する。1本のが枝分かれしながら単一のプルキンエ細胞のに巻きつくように終止する(1対1の対応)。軸索側枝は一部の・にも終止する
  • :脊髄小脳路・および延髄の諸核に由来する。枝分かれして小さな側枝を出し、のとシナプスしてを形成する

が興奮すると、を介して同じ列に並ぶプルキンエ細胞のを興奮させると同時に、も興奮させる。は、興奮した列から見て外側に位置する5-8個のプルキンエ細胞を抑制する。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mossy fibre'>苔状線維</span><br>脊髄小脳路・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pontocerebellar tract'>橋小脳路</span>由来"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='granule cell'>顆粒細胞</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='granular layer'>顆粒層</span>)<br>興奮性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glutamate-gated'>グルタミン酸作動性</span>"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parallel fiber'>平行線維</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='stratum moleculare'>分子層</span>をfoliumに沿って並走"]
  C --> D["同じ列のプルキンエ細胞<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dendrite'>樹状突起</span><br>興奮性シナプス(1個あたり約20万本)"]
  C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='basket cell'>バスケット細胞</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stratum moleculare'>分子層</span>)"]
  E --> F["外側に位置する5-8個の<br>プルキンエ細胞を抑制"]
  D --> G["プルキンエ細胞軸索(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gamma-aminobutyric acid'>GABA</span>、抑制性)"]
  G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deep cerebellar nuclei'>深部小脳核</span>"]
  A -.->|"側枝(興奮性、常時入力)"| H

💡 これはの一種。 興奮した列のプルキンエ細胞出力をより際立たせるため、その周囲のプルキンエ細胞をが同時に抑え込む——「主役の列」を明確にする仕組みである。

深部小脳核への出力とゲーティング

プルキンエ細胞の軸索はのニューロンに終止し、抑制性に働く。

は、・の軸索側枝からもを常時受けている。しかし、このはプルキンエ細胞による抑制性コントロールがある限り、そのまま下流へ伝わることはできない。プルキンエ細胞自身が・・といったによって抑制されたときに初めて、がから先へ伝わる。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='climbing fibre'>登上線維</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='inferior olivary nucleus'>下オリーブ核</span>由来、1本が1個のプルキンエ細胞に巻きつく"] --> B["単一のプルキンエ細胞を強力に興奮"]
  B --> C["プルキンエ細胞軸索(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gamma-aminobutyric acid'>GABA</span>)"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deep cerebellar nuclei'>深部小脳核</span>ニューロンを抑制"]
  E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mossy fibre'>苔状線維</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='climbing fibre'>登上線維</span>の側枝<br>(興奮性、常時入力)"] --> D
  F["バスケット・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stellate (star-shaped)'>星状</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Golgi cell'>ゴルジ細胞</span>が<br>プルキンエ細胞を抑制"] --> G["プルキンエ細胞の発火が止まる(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='disinhibition'>脱抑制</span>)"]
  G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deep cerebellar nuclei'>深部小脳核</span>への抑制が解除"]
  H --> I["核の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='excitatory input'>興奮性入力</span>が下流へ通過=小脳からの出力"]

⭐ の出力ロジックは「」がすべて。 は常にを受け取っているが、それを通すか止めるかを決めるのはプルキンエ細胞という一本のゲートであり、そのゲート自体は他のによってされる。

まとめ

  • 小脳は前葉・・の3葉と・からなり、深部には・・・の4核、脳幹とは下・中・(延髄・橋・中脳)で連絡する。
  • 的に()・(脊髄小脳)・()の3区分に分かれ、それぞれ平衡、運動・筋緊張、高度熟練運動の計画実行を担う(詳細は12)。
  • 皮質は外側から・・の3層構造をとり、のみが興奮性(グルタミン酸)、他4種(プルキンエ・バスケット・・ゴルジ)はすべて抑制性。
  • 入力は(→→→多数のプルキンエ細胞へ興奮性シナプス)と(由来、1対1でプルキンエ細胞を興奮)の2系統のみ。
  • プルキンエ細胞軸索が皮質から出る唯一の出力経路であり、を抑制する。核が苔状/側枝から受けるが実際に出力されるのは、プルキンエ細胞自体がされたときだけである。

出典

  1. 1.Number of parallel fiber synapses on an individual Purkinje cell in the cerebellum of the rat(The Journal of Comparative Neurology・1988)抄録で、ラット小脳分子層の電子顕微鏡・ステレオロジー解析により、1個のプルキンエ細胞の樹状突起樹には約175,000本(17.5万本)の平行線維シナプスが存在すると算出されたこと、この値はラットのデータであり、従来報告されていた値より多かったことを確認した閲覧 2026-08-26
  2. 2.A quantitative study of the human cerebellum with unbiased stereological techniques(The Journal of Comparative Neurology・1992)抄録で、ヒト死後小脳5例(成人男性)の不偏的ステレオロジー(optical disector・Cavalieri法)による実測で、小脳全体のニューロン・グリア総数は約1050億個、うち顆粒細胞が約1010億個(101,000×10⁶、CV=0.13)、プルキンエ細胞が約3050万個(30.5×10⁶、CV=0.13)と推定されたことを確認した閲覧 2026-08-26