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Lab values · Published

神経伝導検査

Nerve conduction study

別名
NCS神経伝導速度検査
臓器系
神経
科目
Neurology
トピック
神経内科 G2-23:臨床神経生理検査:EEG・EMG・ENG・TMS・誘発電位神経内科 G1-36:多発ニューロパチーの症候と主な原因
関連疾患
Bickerstaff脳幹脳炎Miller Fisher症候群POEMS症候群感覚性ニューロノパチー急性弛緩性脊髄炎治療誘発性糖尿病性ニューロパチー小径線維ニューロパチー多巣性運動ニューロパチー糖尿病性ニューロパチー糖尿病性筋萎縮慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー有機リン誘発性遅発性多発神経障害良性線維束攣縮症候群

🧠 全体像:(NCS)は、末梢神経を電気的に刺激し、そこから得られる反応の「速さ」と「量」を測る検査である。・は伝導路そのものの状態(脱髄の有無)を、振幅は今その瞬間に伝導している軸索・筋線維の数を映す——この二軸を分けて読むことが、あらゆる派生検査(など特定の神経に絞った検査)に共通する読み方である。一方で、NCSが拾えるのは(Aα・Aβ)に限られる。伝導が遅い(Aδ・)の反応は乗らないため、では検査が正常のまま残る——「正常」が「神経に異常がない」ことを意味しない代表例である。

検査の原理と実施方法

では、上に(G1)、電気的に不活性な部位に(G2)を置き、神経を経皮的に刺激して得られる(CMAP)を記録する。CMAPの振幅は、その時点で興奮し収縮に参加している軸索の量を反映する半定量的な指標である1。では神経を一点で刺激し、より遠位(または近位)で(SNAP)を記録する。原理は同じで、振幅は伝導している感覚軸索数の半定量指標になる1。

近位の神経根・神経叢を評価するF波(を逆行性に興奮させを経て戻ってくる反応)・H波(感覚を介する)を組み合わせると、遠位だけでは見えない近位の脱髄も拾える1。

測定項目 定義 単位
刺激から反応(CMAP・SNAP)のまでの時間 ms
振幅 反応の高さ。伝導している軸索・筋線維数の半定量指標 mV(CMAP)/µV(SNAP)
2点間の距離を差で割った速さ m/s

判読の指標と基準

⚠️ 絶対値だけで判読しない。 体温・年齢・身長という3つの生理的因子が数値を大きく動かす1。

因子 影響
体温 1℃低下するごとにが1.5〜2.5 m/s遅くなり、が0.2 ms延長する。SNAP・CMAP振幅は1℃ごとに1.7%増加する。四肢は30〜36℃に保って測定する
年齢 5〜60歳では標準化されたが安定している。5歳以下・60歳超では年齢補正値を用いる
身長 身長が10 cm増えるごとにが2 m/s低下する(神経が長いほど伝導は遅い)

これらを補正しないまま測ると、単なるやを「異常」としかねない。

⭐ 代表的なのの(3、全年齢)は、49 m/s、43〜52 m/s(区間により変動)、腓骨神経38 m/s、39 m/sと報告されている2。これを下回れば脱髄性の遅延を疑う目安になる。

異常パターンの意味

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nerve conduction study (NCS)'>神経伝導検査</span>を施行"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conduction velocity'>伝導速度</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='latency'>潜時</span>は保たれているか"}
    B -->|"著明に低下・延長"| C["脱髄性パターン<br>近位のF波・H波<span class='jp-term jp-term-diagram' title='latency'>潜時</span>も延長しやすい"]
    B -->|"おおむね正常"| D{"CMAP・SNAP振幅は低下しているか"}
    D -->|"はい"| E["軸索性パターン<br>速度は保たれ振幅だけが落ちる"]
    D -->|"いいえ(すべて正常)"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='large myelinated fiber'>太い有髄線維</span>は保たれている<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='small fiber'>小径線維</span>単独障害・NMJ障害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myopathy'>ミオパチー</span>は否定できない"]
    C --> G{"近位・遠位で振幅が大きく変わるか"}
    G -->|"振幅が大きく低下、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='duration'>持続時間</span>は保たれる"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conduction block'>伝導ブロック</span>を疑う"]
    G -->|"波形の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='duration'>持続時間</span>が延長する"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='temporal dispersion'>時間的分散</span>を疑う"]
パターン 所見 示唆する病態
脱髄性 低下、延長、F波・H波延長 髄鞘の障害。のなど
軸索性 はおおむね正常、CMAP・SNAP振幅低下 軸索自体の減少・機能不全1
近位刺激で振幅・面積が大きく低下し、波形のは保たれる 軸索は連続しているが局所で伝播が失敗している状態3
近位刺激で波形のが延長する 神経内で線維ごとにがばらつき、速い線維と遅い線維の到達時間差が開いた状態3
すべて正常 — は保たれている。・・は否定できない

💡 とはどちらも「近位刺激で振幅が落ちる」形で現れるため、波形のまで見なければ区別できない。 が保たれたまま振幅・面積だけが落ちていれば、そのものが延びていれば——という区別が、の(など)と全長性のを見分ける手がかりになる3。

⭐ 数値としてどこから「異常」と呼ぶかは疾患・ガイドラインごとに操作的に定義される。例えばCIDPのでは、を近位/遠位CMAP振幅比が30%以上低下すること(を除く)、異常なを近位・遠位間のCMAPが30%を超えて延長すること(では100%以上)と定義し、そのほかにも2神経以上でのの基準値上限比50%以上の延長、の下限比30%以上の低下、F波の基準値上限比20%以上の延長のいずれかを脱髄を強く示唆する所見としている4。これはCIDPという特定の疾患のために操作化された数値であり、そのままあらゆるに適用できるわけではない。

⚠️ 実施上・判読上の注意

  • 体温・年齢・身長の補正を忘れない。 冷えた四肢では脱髄性パターンに似た偽の遅延が出うる。
  • は原理的に映らない。 Aδ・は伝導が遅すぎてNCSの反応に乗らないため、単独の障害では検査が正常になる。「NCSが正常だから神経は正常」という短絡が最も多い誤りである。
  • 局所の同定にはNCSが最も直接的である一方1、ではは正常のまま早期動員・低振幅という別の異常パターンを示す。と組み合わせないとと区別しにくい。
  • は通常のNCSでは捉えにくい。 (RNS)を初期スクリーニングとして行い、正常または境界域でも臨床的疑いが強ければ、より感度の高い(の増加・ブロック)で補うという順序が実務的である1。

次に進むべき検査/使い分け

NCSは末梢神経のを担う検査であり、特定の神経に絞った派生検査がいくつも存在する。はその代表で、原理(=伝導路、振幅=軸索量)はここで述べたものと同じだが、刺激・記録の部位と正常値がに特化している。

の障害が疑われるが太い線維のNCSでは正常という状況では、の診断アプローチに従い、皮膚生検・・へ切り替える。の疾患が疑われる場合は、まず(RNS)をスクリーニングとして行い、正常でも疑いが強ければで感度を補う。が疑われる場合はを追加する。

まとめ

  • NCSは末梢神経を電気刺激し、CMAP(運動)・SNAP(感覚)の・振幅・を測る検査で、・速度は伝導路の状態を、振幅は伝導している軸索・筋線維の量を反映する。
  • 体温・年齢・身長で数値が大きく変わるため、絶対値だけで判読しない。
  • 脱髄性パターンは低下・延長で、軸索性パターンは速度が保たれたまま振幅が低下する。とはどちらも近位刺激で振幅が落ちるが、波形のの変化で鑑別する。
  • Aδ・()は伝導が遅くNCSには映らない。検査が正常であることは障害・・を否定しない。
  • 局所の同定にはNCSが最も直接的である一方、には、の鑑別にはを要する。
  • 特定の神経に絞った派生検査(など)は、ここで述べた原理をそのまま踏襲し、対象神経に合わせて刺激・記録部位とを変えたものである。

出典

  1. 1.Nerve Conduction Studies and Electromyography(StatPearls(Ramani PK, Lui F, Arya K)・2025)運動神経伝導検査が筋腹上の活性電極(G1)と電気的に不活性な部位の基準電極(G2)で複合筋活動電位(CMAP)を記録し振幅がその時点で伝導している軸索数の半定量指標であること、感覚神経伝導検査が神経を一点で刺激し遠位で記録し感覚神経活動電位(SNAP)の振幅が伝導している感覚軸索数の半定量指標であること、潜時(ms)・振幅(mV)・伝導速度(m/s)の定義、潜時延長と伝導速度低下が脱髄性障害を示唆し多発ニューロパチーでは近位のH波・F波潜時も延長すること、軸索性ニューロパチーでは伝導速度がおおむね正常でCMAP・SNAP振幅が低下すること、体温が1℃低下するごとに伝導速度が1.5〜2.5 m/s遅くなり遠位潜時が0.2 ms延長しSNAP・CMAP振幅は1℃ごとに1.7%増加すること・上肢温度は30〜36℃に保つ必要があること、5〜60歳では標準化された基準値が安定している一方5歳以下・60歳超では年齢補正値を用いること、身長が10 cm増えるごとに伝導速度が2 m/s低下すること、局所絞扼性ニューロパチーの同定に最も直接的な手法であること、単線維筋電図が神経筋接合部疾患に最も感度が高くジッターの増加・ブロックが典型所見であること、ミオパチーでは伝導速度は正常で早期動員・低振幅を示し神経原性変化を伴わないことを確認した。閲覧 2026-08-28
  2. 2.AANEM practice topic: electrodiagnostic reference values for upper and lower limb nerve conduction studies in adults(Muscle & Nerve(American Association of Neuromuscular & Electrodiagnostic Medicine;Chen S, Andary M, Buschbacher R, Del Toro D, Smith B, So Y, Zimmermann K, Dillingham TR)・2016)運動伝導速度の正常下限(3パーセンタイル、全年齢)が正中神経で49 m/s、尺骨神経で肘下52 m/s・肘部43 m/s・肘上50 m/s、腓骨神経で足関節〜腓骨頭下38 m/s、脛骨神経で39 m/sであること(Table 4)を確認した。閲覧 2026-08-28
  3. 3.Motor Nerve Conduction Block Estimation in Demyelinating Neuropathies by Deconvolution(Bioengineering (Basel)(Mesin L, Lingua E, Cocito D)・2022)伝導ブロックが軸索自体は保たれたまま活動電位の伝播が失敗する現象であり、臨床では刺激部位を近位・遠位に変えて得たCMAPの振幅または面積を比較して評価すること、髄鞘の障害が伝導速度を遅らせ異常な時間的分散(temporal dispersion)を生むこと、伝導ブロックと時間的分散のいずれも近位・遠位間でCMAPの振幅・面積の変動として現れうるため両者の鑑別が必要であることを確認した。閲覧 2026-08-28
  4. 4.European Academy of Neurology/Peripheral Nerve Society guideline on diagnosis and treatment of chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy: Report of a joint Task Force—Second revision(European Journal of Neurology(European Academy of Neurology・Peripheral Nerve Society合同タスクフォース;Van den Bergh PYK, et al.)・2021)脱髄を強く示唆する運動神経伝導基準(Table 2)として、2神経以上での運動遠位潜時の基準値上限(ULN)比50%以上の延長、2神経以上での運動伝導速度の基準値下限(LLN)比30%以上の低下、2神経以上でのF波潜時のULN比20%以上の延長(遠位CMAP振幅がLLNの80%未満なら50%以上)のいずれかを満たせばよいこと、伝導ブロックを近位/遠位CMAP振幅比が30%以上低下すること(脛骨神経を除く)と定義すること、異常な時間的分散を近位・遠位CMAP持続時間が30%を超えて延長すること(脛骨神経では100%以上)と定義することを確認した。閲覧 2026-08-28