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Lab values · Published

横隔神経伝導検査

Phrenic nerve conduction study

別名
横隔神経伝導速度横隔膜複合筋活動電位
臓器系
神経呼吸器
科目
AnatomyNeurology
トピック
解剖学 8.3:頸部:血管と神経神経内科 G2-23:臨床神経生理検査:EEG・EMG・ENG・TMS・誘発電位
関連疾患
筋萎縮性側索硬化症

🧠 全体像MIP・MEPが「呼吸筋力が全体としてどれだけ落ちているか」を圧の大きさで測るのに対し、は「なぜ落ちているのか」——神経そのものの障害か、筋の障害か、の障害か——を切り分ける検査である。頸部でを電気的・磁気的に刺激し、横隔膜が生み出す(CMAP)を記録することで、は伝導路の状態を、振幅は実際に興奮できている軸索・筋線維の量を映し出す。

何を測っているか

頸部、後縁でを刺激し、下部肋間や胸壁ので横隔膜のCMAPを記録する。解剖学 8.3:頸部:血管と神経で扱うの走行(C3-C5由来、前面を下行する)に沿って、頸部の浅い位置で刺激できることがこの検査を成立させている。

波形の要素 反映するもの
(刺激〜CMAPまでの時間) 伝導路の脱髄の有無、
振幅(CMAPの高さ) 実際に興奮し収縮に参加している軸索・筋線維の総量

記録用の(G1)はの上方2、正中に、(G2)はそこから約16cm離れた上に置く配置が代表的である1

基準値と単位

単位はがms、振幅がmV。目安として平均6.10±1.48 ms・平均振幅0.60±0.20 mVという報告があり1・電極間距離・体格で振幅が大きく変わるため、単一の絶対より左右差の評価が中心になる

💡 右がわずかに振幅が高い傾向がある一方、には明確な左右差がないという報告があり1、著明な左右差そのものが異常を疑う手がかりになる。と比べて振幅が著明に低下し、あるいはが著明に延長していれば異常と判断する。

手技と判定基準

刺激法 特徴
刺激点を絞りやすいが、不快感を伴うことがあり、肥満や解剖学的変異があると技術的に難しい2
(頸部アプローチ) 無痛で両側を同時に刺激しやすく再現性が高い2。ただし磁場が広がるため刺激部位の選び方に依存する——前方アプローチではによって胸郭・肩が過剰に動き、十分なが得られないと報告されており、はこれを避けるために用いられる3

両側を同一条件で刺激・記録し比較することで、片側性の障害か両側性の障害かを判定する。片側のみ振幅低下・反応消失があれば片側性、両側とも著明な異常があれば両側性を疑う。

異常所見の意味

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phrenic nerve conduction study'>横隔神経伝導検査</span>を施行"] --> B{"CMAPは記録できたか"}
    B -->|"いいえ"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-response'>無反応</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plegia'>完全麻痺</span>、または刺激不完全による偽の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-response'>無反応</span>)"]
    B -->|"はい"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Latency'>潜時</span>は延長しているか"}
    D -->|"延長のみ、振幅は保たれる"| E["脱髄性の障害を示唆"]
    D -->|"いいえ、または延長は軽度"| F{"振幅は低下しているか"}
    F -->|"はい"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='axonal injury'>軸索障害</span>、または横隔膜筋<br>自体の障害を示唆"]
    F -->|"いいえ(正常)"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuromuscular junction disorder'>神経筋接合部障害</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myopathy'>ミオパチー</span>は<br>否定できない"]
所見 示唆する病態
延長のみ、振幅は保たれる 脱髄性の障害(など)
振幅低下(は正常〜軽度延長) 、または横隔膜の筋自体の障害
を示唆するが、刺激不完全による偽のとの区別が要る
が正常 自体を障害しないため否定できない

重症筋無力症のようなの障害や、横隔膜自体の筋疾患では、神経の伝導自体は保たれたまま収縮力だけが落ちる。この場合はMIP・MEPや横隔膜のなど、別の検査で補う必要がある。

⚠️ 測定上の注意

  • 肥満・肺のは記録条件を悪化させる。 が厚いと電極と横隔膜の距離が広がり信号が減衰しやすく、肺がすると横隔膜の位置・形状が変わり電極との位置関係がずれる。いずれも見かけの振幅低下につながりうる。
  • 隣接神経の同時刺激は偽の反応を生む。 による記録では、が同時に興奮すると伝導時間が実際より短く測定され、偽陽性のCMAP反応として現れうる4でも磁場の広がりによりを同時に興奮させ、胸郭・肩の過剰な動きが横隔膜由来の反応の判読を妨げることがある3
  • 刺激が不完全だと偽の「」になる。 に達していないと、神経自体は保たれていても反応が検出できず、と誤認しうる。
  • 心電図・の原因になる。 胸壁近くで記録するため、心電図の電気的活動や体内の作動がノイズとして混入することがある。

経時変化とモニタリング

心臓手術後の損傷のように回復が期待される病態では、時間を置いて再検査し伝導の回復を追うことに意味がある。一方、など進行性の神経筋疾患の経過観察には、通常この検査を繰り返すのではなくMIP・MEPを用いる。は神経か筋かを一度切り分けるための検査であり、連続的な重症度のモニタリングには向かない。

位置づけ/次に進むべき検査

MIP・MEPSNIP(は呼吸筋の収縮力を圧という「結果」から評価するのに対し、は神経のという「経路」を直接評価する。両者は競合ではなく補完関係にあり、MIP/MEPで神経筋性の呼吸筋力低下が疑われたときに、神経が原因か筋・が原因かを切り分けるためにこの検査へ進む。

横隔膜そのものの動き・厚みを直接見る、収縮力をで定量する測定と組み合わせると、神経・筋・接合部のどこに問題があるかをより正確に特定できる。臨床で遭遇する場面は、の原因検索(心臓手術後の損傷、特発性)、損傷などの神経筋疾患、障害(など幅広い2の鑑別に加えられることもある。

日中の指標が保たれていても夜間だけ低換気になる例を拾うにはを追加する。

まとめ

  • は、頸部でを刺激し横隔膜のCMAPを記録して、(伝導路の状態)と振幅(機能している軸索・筋線維の量)を評価する検査である。
  • は刺激点を絞りやすいが不快感があり肥満患者では技術的に難しい。は無痛で両側同時刺激がしやすいが、など隣接神経も同時に興奮させやすい。
  • 延長のみは脱髄性、振幅低下はまたは筋自体の障害、を示唆する。では自体は保たれる。
  • 肥満・による信号の減衰、隣接神経の同時刺激、刺激不完全による偽の、心電図・が測定上の代表的な落とし穴である。
  • の原因検索、損傷、ALSなどの神経筋疾患、障害など幅広い場面で使われ、MIP/MEPで神経筋性が疑われたときの次の一手として位置づけられる。

出典

  1. 1.Phrenic Nerve Conduction Reference Values in Healthy Adults: An Exploratory Cross-Sectional Study in a Mexican Population(Clinics and Practice (González-López FJ, et al.)・2025)刺激部位が胸鎖乳突筋後縁の鎖骨上約3cmであること、記録電極は活性電極(G1)を剣状突起上方2横指の正中に、基準電極(G2)をそこから約16cm離れた肋骨弓上に置く配置であること、平均潜時6.10±1.48 ms・平均振幅0.60±0.20 mVという基準値、右側の振幅が左側より有意に高い一方(0.65 vs 0.55 mV、p=0.0036)潜時には明確な左右差がないことを確認した。閲覧 2026-08-04
  2. 2.Diaphragm Dysfunction: Diagnostic Approaches and Management Strategies(Journal of Clinical Medicine (Dubé BP, Dres M)・2016)経皮的電気刺激は一部の患者で不快感があり肥満患者や解剖学的変異があると技術的に困難になること、磁気刺激は無痛で頸部において両側同時に適用しやすく再現性が高いこと、横隔神経伝導検査が心臓手術後の横隔膜麻痺・頸髄損傷・ALSなどの神経筋疾患・腕神経叢障害(Parsonage-Turner症候群)の評価に用いられることを確認した。閲覧 2026-08-04
  3. 3.Effect of Brachial Plexus Co-Activation on Phrenic Nerve Conduction Time(Thorax (Luo YM, Polkey MI, Lyall RA, Moxham J)・1999)胸壁表面電極による横隔神経伝導時間の測定で腕神経叢が同時に興奮すると、興奮なしの場合(平均7.4 ms)より有意に短い値(平均4.4 ms、差3.0 ms、95%CI 2.7-3.4、p<0.0001)となり、これが偽陽性のCMAP反応を生みうることを確認した。閲覧 2026-08-04
  4. 4.Within- and Between-Day Test-Retest Reliability of Responses to Rapid Bilateral Anterolateral Magnetic Phrenic Nerve Stimulation in Healthy Humans (ReStim)(Frontiers in Physiology (Boyle KGPJM, Beglinger AA, Häusler H, Stahel A, Schwarz EI, Spengler CM)・2025)磁気による前方アプローチの横隔神経刺激法(rapid anterior magnetic stimulation)は腕神経叢を同時に興奮させてしまい、胸郭・肩の過剰な動きを生じて十分な横隔膜収縮が得られないことがあることを確認した。閲覧 2026-08-04