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Microbe Atlas · 細菌

Chlamydia psittaci

オウム病クラミジア

分類
ペプチドグリカンなし / No peptidoglycanChlamydia
性状
ペプチドグリカンなし No peptidoglycan偏性細胞内 Obligate intracellular
科目
Medical Microbiology
トピック
2/36: Chlamydia trachomatis and respiratory tract infections caused by Chlamydia5/11: Zoonotic infections (list) and their prevention
自然耐性薬
ペニシリンGアモキシシリンセフトリアキソンメロペネムバンコマイシン
原因となる疾患
MALTリンパ腫(節外性辺縁帯リンパ腫)
作用する薬剤
ドキシサイクリン

🧠 全体像:C. psittaciはC. trachomatisやChlamydia pneumoniae(旧名Chlamydophila pneumoniae)と同じ属のを持ちながら、がという一点で人獣共通感染症に分類される。米国が主たる病像として挙げるのはであり、全例が肺炎になるわけではない1。それでも本菌を覚える意味は、吸入した菌が肺にとどまらず血行性に肝臓・脾臓へ播種する点にある——非定型肺炎にや脾腫が重なったときにこの菌を思い出せるかが分かれ目になる。

微生物学的な特徴

グラム陰性だが染色性に乏しいので、ペプチドグリカンが分裂面の細い輪としてしか作られず、菌体を包む典型的な細胞壁(嚢)を持たないというChlamydia属共通の性質を持つ。かつては「ペプチドグリカンを欠く」とされたが、C. trachomatisに続き本菌を含む病原性クラミジア4種で、の分裂面に限局した幅140 nm以下の輪状のペプチドグリカンが示されている2。治療はこの構造に依存しないテトラサイクリン系・マクロライド系で行う(の詳細はC. trachomatis D-Kのノートを参照)。内にグリコーゲンを含まない点が、内にグリコーゲンを蓄積するC. trachomatisとの古典的な鑑別点として知られる(による鑑別に利用された)。

病原性の仕組み

flowchart TD
  A["乾燥した鳥の分泌物・糞便由来の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dust'>粉塵</span>を吸入"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alveolar macrophages'>肺胞マクロファージ</span>に取り込まれる"]
  B --> C["気道・肺で局所増殖<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper respiratory tract infection'>上気道感染症</span>〜非定型肺炎)"]
  C --> D["血行性に播種"]
  D --> E["肝臓・脾臓で増殖"]
  E --> F["肝炎・脾腫"]
  D --> G["まれに中枢神経系へ<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='meningoencephalitis'>髄膜脳炎</span>"]
  D --> H["まれに心筋へ<br>心筋炎"]

💡 「肺の病気」ではなく「」として読む。 吸入門戸は肺だが、菌血症を経て肝臓・脾臓・時に中枢神経系・心筋にまで及ぶため、非定型肺炎にや脾腫を伴っていたらを鑑別に挙げる。

感染経路と疫学

  • (オウム・インコなどの愛玩鳥、七面鳥・鶏などの)の乾燥した分泌物・糞便由来の吸入。鳥の咬傷や嘴と口の接触による感染はより少ない1
  • ヒト-ヒト感染は記録された例がごく少数にとどまる。製品を扱ったり食べたりして感染する根拠は無い1
  • 潜伏期は通常5〜14日で、それより遅く発症することもある1
  • 高リスク群:飼育者、ペットショップ従業員、獣医、処理業者、施設・農場・動物園・研究室の従事者。一過性の接触でも感染しうる1

起こす疾患

(psittacosis/ornithosis):臨床像の幅が広く、最も多いのは全身症状を伴うである1。

頻度 所見
典型的 突然の発熱・悪寒、頭痛、筋肉痛、嗽
より少ない 消化器症状、脈拍体温解離(発熱しても脈拍が上がらない=)、発疹、脾腫
肺炎があるとき 胸部X線で明らかなことが多く、大葉性または間質性の陰影

頻度の区分はの記載による1。

⚠️ 重症化すると入院を要する。 報告されている合併症は関節炎・脳炎・心内膜炎または心筋炎・肝炎・呼吸不全・敗血症・を要するで、適切に治療された患者の死亡は1%未満である。妊娠中に感染した人で重症の転帰が報告されている1。

診断

検査法は培養・・血清学が併用される1。

検査 位置づけ
() 専門検査室で利用でき、本菌に対して高感度・高特異的。株の遺伝子型別もできる
血清学(マイクロ) 補助的な検査。より感度・特異度が高いが、他のChlamydia属とのが残る。急性期とのが解釈に必要で、1:128未満は慎重に解釈する
古い方法。マイクロに劣る
培養 生で可能だが、上の理由から日常診療ではほぼ行われない

⚠️ 「血清学が最重要」は現在の考え方ではない。 2017年の米国の合同指針は血清学を「より信頼できるの所見を補強する補助的検査と考えるべき」と明記している3。で確定するまで治療を待つのではなく、疑った時点で治療を始める。

⭐ 日本ではは四類感染症で、診断したがただちに最寄りのへ届け出る4。

治療と予防

  • 第一選択はテトラサイクリン系で、マクロライド系でのが報告されているため禁忌がない限りこちらを使う。軽症〜中等症は経口ドキシサイクリンまたはテトラサイクリン塩で治療でき、重症の病像があればを疑った時点でただちにドキシサイクリンを開始する13
  • 8歳未満の小児にはマクロライド系(アジスロマイシンなど)を用い、テトラサイクリン系は原則避ける。ただし生命を脅かす状況やマクロライド失敗が疑われるときは、利益が危険を上回るとしてテトラサイクリン系を検討しうる1
  • 患者の隔離とへの予防投与は推奨されない1

予防はヒト側と鳥側の両方で組み立てる。

対象 対策
ヒト(飼育者・従事者) 鳥・糞・内の物に触れた後の石けんと流水での手洗い。清掃前に水またはで表面とを湿らせ、乾いた状態での掃き掃除・掃除機を避ける(を舞い上げるため)。感染鳥とそのを扱うときは手袋と適切なマスクを使う5
ヒト(感染確認鳥・曝露鳥を扱う場面) N95相当の使い捨て微粒子用防護マスクを着用する3
鳥 過密との積み重ねを避け、隣接は仕切る。毎日清掃する。感染鳥は隔離してドキシサイクリンで治療する(従来は45日間、セキセイインコは30日間が推奨され、近年は21〜30日でも有効との報告がある)53

⚠️ 「輸入鳥にテトラサイクリンを予防投与する」は現在の推奨ではない。 2017年の合同指針は鳥へのな予防的抗菌薬投与を強く非推奨としている——を生じうるうえ、耐性株を生み出しかねないためである3。予防は環境管理(湿式清掃・隔離・過密回避)と発症鳥の治療で行う。

⚠️ ワクチンは無い。 ヒト用ワクチンは存在せず5、鳥(鳥クラミジア症)に対する有効なワクチンも実用化されていない3。にはしうるため、一度治っても曝露対策は続ける5。

まとめ

  • 由来の人獣共通感染症で、乾燥した分泌物・糞便由来の吸入で伝播する。潜伏期は通常5〜14日。
  • 最も多い病像は全身症状を伴うだが、血行性に肝臓・脾臓へ播種するであり、非定型肺炎に・脾腫が重なる組み合わせが鑑別の手がかりになる。
  • 脳炎・心筋炎・心内膜炎・呼吸不全・敗血症に進展しうる重症例があるが、適切に治療された患者の死亡は1%未満。
  • 診断はがより信頼でき、血清学(マイクロ)は補助的——「血清学が最重要」は古い理解である。治療はテトラサイクリン系(ドキシサイクリン)が第一選択で、8歳未満の小児ではマクロライド系。
  • 予防は湿式清掃・手洗い・防護具と、鳥側の飼育環境管理および発症鳥の治療。鳥へのな予防的抗菌薬投与は強く非推奨で、ヒト用・鳥用ともにワクチンは実用化されていない。

出典

  1. 1.Clinical Overview of Psittacosis(Centers for Disease Control and Prevention・2025)ページ自身の更新日は2025年9月18日(cdc.govは直接取得で403のため、2026年8月7日のウェブアーカイブ保存版で本文を取得した。以前この出典に付いていた「2026年8月7日更新」は保存日を更新日と取り違えたもので、年を2025へ直した)。「The predominant presentation is upper respiratory tract infection with constitutional symptoms.」と、主たる病像を上気道感染症としている。典型症状は突然の発熱・悪寒、頭痛、筋肉痛、非生産性咳嗽で、消化器症状・脈拍体温解離・発疹・脾腫は「Less frequently」。肺炎があれば胸部X線で明らかなことが多く、大葉性または間質性の陰影を示す。潜伏期は通常5〜14日。合併症として関節炎・脳炎・心内膜炎または心筋炎・肝炎・呼吸不全・敗血症・集中治療を要する重症肺炎が挙げられ、「Death occurs in less than 1% of properly treated patients.」。妊娠中の感染では重症化の報告がある。治療は「Use tetracyclines, unless contraindicated, due to reported macrolide failures. If you suspect psittacosis, treat patients with more severe presentation with doxycycline right away.」で、8歳未満の小児にはマクロライド系を使いテトラサイクリン系は避けるが、生命を脅かす状況やマクロライド失敗が疑われる場合は利益が危険を上回るときに検討しうる。診断は培養・核酸増幅法・血清学の複数の方法が用いられる。患者の隔離と接触者への予防投与は推奨されない。かつての属名がChlamydophila psittaciであったことも明記されている閲覧 2026-09-27
  2. 2.Pathogenic Chlamydia Lack a Classical Sacculus but Synthesize a Narrow, Mid-cell Peptidoglycan Ring, Regulated by MreB, for Cell Division(PLoS Pathogens(Liechti G, Kuru E, Packiam M, et al.)・2016)抄録と本文で確認した。Dアミノ酸ジペプチドの標識プローブと超解像顕微鏡により、病原性クラミジア4種(C. trachomatis・C. muridarum・C. caviae・C. psittaci)のいずれも、発育環の増殖期に分裂面に限局した幅140 nm以下のペプチドグリカンの輪を持つこと、ペプチドグリカン合成とMreBの重合は細胞内型でのみ起こり、菌体の増大・分裂・発育型の移行に必要であることを確認した。表題のとおり古典的な嚢(サキュラス)は持たない閲覧 2026-09-27
  3. 3.Compendium of Measures to Control Chlamydia psittaci Infection Among Humans (Psittacosis) and Pet Birds (Avian Chlamydiosis), 2017(National Association of State Public Health Veterinarians(Journal of Avian Medicine and Surgery 31(3):262-282)・2017)発行元の全文ページで本文を取得して確認した(Crossrefで題名・誌名・巻号頁・著者を照合)。ヒトの血清診断について「While the MIF is generally more sensitive and specific than complement fixation (CF) tests, the test still displays cross-reactivity with other Chlamydia species in some instances.」「Serology should be considered a supportive test that augments the findings of other more reliable assays, such as nucleic acid–based tests.」と述べ、リアルタイムPCRは専門検査室で利用可能でC. psittaciに対して高感度・高特異的であり株の遺伝子型別も可能とする。抗体価1:128未満は慎重に解釈し、急性期と回復期のペア血清が解釈に必要である。ヒトの治療は「Tetracycline antibiotics are the drug of choice for C psittaci infection in humans. Typically, mild to moderate illnesses can be treated with oral doxycycline or tetracycline hydrochloride.」。鳥側については「Until there is an effective vaccine to prevent avian chlamydiosis, retailers, bird producers, and veterinarians can help reduce the spread of this pathogen」と鳥用ワクチンが存在しないことを前提にし、「Routine prophylactic antibiotic treatment is highly discouraged as it may cause adverse effects and could generate resistant strains」と鳥への予防的抗菌薬投与を強く非推奨とする。感染鳥の治療にはドキシサイクリンが望ましく、期間は「Historically, a treatment period of 45 days has been recommended, except in budgerigars, where 30 days of treatment can be effective. Recent studies have shown that shorter treatment periods of 21–30 days may also be effective.」。感染が確認された鳥や曝露鳥を扱う際は「A disposable particulate respirator (ie, a preshaped mask that molds firmly around the mouth and nose like an N95 or similar mask) should be worn.」閲覧 2026-09-27
  4. 4.感染症法に基づく医師の届出のお願い(厚生労働省(令和八年四月六日施行の届出基準)・2026)全数報告対象の一覧本文を取得し、オウム病が四類感染症に掲げられていること、四類はいずれも診断した医師が「ただちに」最寄りの保健所へ届け出る区分であることを確認した閲覧 2026-09-28
  5. 5.Preventing Psittacosis(Centers for Disease Control and Prevention・2025)2025年9月18日付のページ(cdc.govは直接取得で403のためウェブアーカイブで本文を取得)で、「There's no vaccine to prevent psittacosis.」とヒト用ワクチンが存在しないこと、オウム病には再感染しうること、予防の中心が手洗いと、清掃前に水または消毒薬で表面とケージを湿らせること(乾いた状態での掃き掃除や掃除機は粉塵を舞い上げるので避ける)、感染鳥とそのケージを扱う際の手袋と適切なマスクの使用であること、鳥側の対策が過密の回避・ケージの積み重ねの回避・感染鳥の隔離と治療・毎日の清掃・隣接ケージ間の仕切りであることを確認した閲覧 2026-09-27