微生物学

微生物学 · 2/36

クラミジア・トラコマチスとクラミジアによる呼吸器感染症

Chlamydia trachomatis and respiratory tract infections caused by Chlamydia

応用トピック
クラミジア性子宮頸管炎・尿道炎と合併症鼠径リンパ肉芽腫症・鼠径肉芽腫・軟性下疳膀胱炎と尿道炎前立腺と男性生殖器の炎症性疾患
微生物
Chlamydia psittaciChlamydia trachomatis A, B, CChlamydia trachomatis D–KChlamydia trachomatis L1–3Chlamydophila pneumoniae
疾患
クラミジア性器感染症トラコーマ結膜炎新生児眼炎反応性関節炎
症状
スタッカート様咳嗽睫毛乱生

🧠 Chlamydia属3菌種はすべて「細胞外の感染型(EB)と細胞内の増殖型(RB)を行き来する」を共有し、細胞壁にペプチドグリカンを持たないためが効かない。 この土台の上に、3菌種は住み分けで区別する:C. trachomatisは血清型ごとに異なる臨床像(A-C=、D-K=性感染症、L1-L3=)を示すヒト特異的な菌、Chlamydophila pneumoniaeはヒト呼吸器に住み着く原発性の呼吸器病原体、Chlamydia psittaciは由来の人獣共通感染症——「同じ・異なる住処」という構図で覚える。

Chlamydia属に共通する性質

項目 内容
染色性 グラム陰性だが染色性に乏しい
形態 (卵形, ovoid)
——自前でATPを産生できない
細胞壁 を欠く(ペプチドグリカンを持たない)が、は保有する

:

相 形態 性質
1. 細胞外 感染型(代謝不活性)
2. 網様体 細胞内 増殖型(代謝活性)——で増殖し、再びEBとして放出されサイクルが繰り返される
flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='elementary body, EB'>基本小体</span>(EB)<br>細胞外・感染性・代謝不活性"] --> B["宿主細胞へ侵入"]
  B --> C["網様体(RB)に変換<br>細胞内・増殖型"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='binary fission'>二分裂</span>で増殖"]
  D --> E["EBとして細胞外へ放出"]
  E --> A

💡 ペプチドグリカンがない=βラクタム系が無効。 Chlamydia属は細胞壁にペプチドグリカンを持たないため、を標的とするペニシリン・セファロスポリンなどのは効かない——Mycoplasma属(細胞壁自体を持たない)と同じ理屈で、治療薬選択(マクロライド系・テトラサイクリン系)が共通する。

⚠️ 本ノートに出てくる Chlamydophila という属名は、現在は使われていない。 1999年にChlamydia属をChlamydiaとChlamydophilaの2属に分ける提案がなされたが、2015年に「16S rRNAの相同性でもゲノム類似度でも2属を一貫して分けられず、宿主嗜好性のような表現型上の区別も無い」として撤回され、Chlamydiaceae科の全菌種が単一属 Chlamydia に戻された1。したがって現行名はChlamydia pneumoniae・Chlamydia psittaciである。旧名(Chlamydophila pneumoniae・Chlamydophila psittaci)は教科書・実習・試験に残っているので、両方を対で覚える。

Chlamydia trachomatis

  • :ヒトの生殖器・眼
  • 伝播経路:性行為、出産時の、汚染された手から眼への
血清型 疾患 臨床像
A・B・Ba・C ・ 感染症としては世界最大の失明原因(失明原因全体の第1位はであり、「失明原因の第1位」と言い切らない)。による慢性結膜炎が・角膜をさせ、から角膜の不可逆的損傷に至る2
D〜K 性感染症としての 水様性の分泌物(N. gonorrhoeaeのと対照的)。未治療ではに進展し不妊の原因となる。女性:・・。男性:尿道炎・前立腺炎。母子感染児:結膜炎とを伴う肺炎(結膜炎の発症は感染後約1週間——N. gonorrhoeaeの2-4日より遅い)
L1・L2・L3 ①接触部位の無痛性潰瘍で始まり、②の腫脹・有痛性リンパ節腫脹(リンパ節症)に進行し、③晩期()病変として潰瘍・瘻孔・に至る

⚠️ =。 に対する自己免疫的な(菌への抗体が自己組織を誤って攻撃する)により、(多くは膝)・尿道炎・ぶどう膜炎の3徴を呈する。

  • 診断:()が標準——男性は、女性は腟が最も感度が高く、培養は日常診断には不要である。または(IF)で細胞質内の(網様体)を確認する古典的手法、(尿・滲出液からの抗原検出または)は感度で劣る3
  • 治療:合併症のないはdoxycycline 100 mgを1日2回7日間が第一選択で、azithromycin 1 g単回は代替に降格した(男性の泌尿生殖器感染で微生物学的がドキシサイクリンより多いため)。妊娠中はアジスロマイシン1 g単回3。は同じドキシサイクリンでも21日間を要する3。経口マクロライド系(アジスロマイシン単回投与)はのに用いる。N. gonorrhoeaeとのが疑われる場合はceftriaxoneで両者を経験的にカバーする

⚠️ 「クラミジアはアジスロマイシン単回」は2021年に置き換わった。 米国の2021年ガイドラインで第一選択がドキシサイクリン7日間に移り、欧州の尿道炎ガイドラインも同じ方向に動いている——単回投与の利便性よりの低さを取った変更である3。の型は欧米ので発生が続いており、遺伝子型別の結果を待たずドキシサイクリン21日間を開始する3。

Chlamydophila pneumoniae

  • 特徴:との関連が示唆されている
  • :ヒトの呼吸器——
  • 伝播経路:飛沫感染(学童期の小児に多い)
  • 増殖部位:平滑筋、(冠動脈の)、マクロファージ内で増殖。は数週間

臨床像:非定型(“歩く”=walking)肺炎——単一に限局。喀痰は少なく、が目立ち、嗄声を伴う。気管支炎・副鼻腔炎・咽頭炎に進展しうる。

  • 診断:生での培養、血清学(最も重要)——、(MIF)または。は10〜100個の(EB)まで検出可能(検体:・咽頭、, broncho-alveolar lavage, )
  • 治療:マクロライド系()またはドキシサイクリン

Chlamydia psittaci

  • 特徴:内にグリコーゲンを含まない
  • :人獣共通感染症——(オウム、七面鳥など)
  • 伝播経路:乾燥した鳥の分泌物・糞便由来の吸入
  • :細胞内増殖

臨床像:(psittacosis/ornithosis/parrot fever)——肝炎を伴う非定型肺炎。咳嗽を欠くこともあり、出現しても当初はでその後わずかなとなる。中枢神経系・消化器症状を伴うこともあり、・心筋炎を合併しうる。

  • 診断:生での培養、血清学(最重要)——(4倍以上の上昇)、または、
  • 治療:マクロライド系()またはドキシサイクリン
  • 予防:輸入へのテトラサイクリン、獣医学的管理・動物用ワクチン・時の呼吸防護具

3菌種の比較

項目 C. trachomatis Chlamydophila pneumoniae C. psittaci
ヒト生殖器・眼 ヒト呼吸器 (人獣共通感染症)
伝播経路 性行為・産道・接触 鳥の分泌物・糞便の
代表疾患 // 非定型肺炎(動脈硬化との関連) (肝炎を伴う肺炎)
治療 マクロライド系/ドキシサイクリン マクロライド系/ドキシサイクリン マクロライド系/ドキシサイクリン

まとめ

  • Chlamydia属3菌種は(EB、感染型)↔網様体(RB、増殖型)のと、ペプチドグリカンを欠く細胞壁(βラクタム系無効)を共有する。
  • C. trachomatis A-Cは(世界的な失明原因の第1位)、D-Kは性感染症(、PID→不妊のリスク)、L1-L3は(無痛性潰瘍→鼠径リンパ節腫脹→晩期は瘻孔・)を起こす。
  • (SARA/)は・尿道炎・ぶどう膜炎の3徴を呈する自己免疫性合併症。
  • Chlamydophila pneumoniaeは学童に多い非定型肺炎の原因菌でとの関連が示唆され、C. psittaciは由来の(肝炎を伴う非定型肺炎)を起こす。
  • 治療はテトラサイクリン系(ドキシサイクリン)またはマクロライド系が中心で、の第一選択は2021年にアジスロマイシン単回からドキシサイクリン7日間へ移った(は21日間)。診断はC. trachomatisではが標準、呼吸器のクラミジアでは血清学とが主体。

出典

  1. 1.Emendation of the family Chlamydiaceae: proposal of a single genus, Chlamydia, to include all currently recognized species(Systematic and Applied Microbiology・2015)16S rRNAの相同性カットオフでもゲノム類似度でもChlamydiaとChlamydophilaの2属を一貫して分けられず、宿主嗜好性・組織指向性のような表現型上の区別も無いため、Chlamydiaceae科の当時11菌種すべてを単一属Chlamydiaに戻すことが提案された。Chlamydophila属は分野の多数派に採用されていなかった。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Trachoma(World Health Organization・2026)トラコーマが世界の失明の主要な感染性原因であること、2026年3月時点で約9200万人が流行地に居住し失明のリスクにさらされていること、反復感染により睫毛が眼球側へ内反し角膜を不可逆的に損傷すること、対策の骨格がWHOのSAFE戦略であることを確認した。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021(Centers for Disease Control and Prevention(MMWR Recommendations and Reports)・2021)PMC全文(PMC8344968)の「Chlamydial Infections」の節で、思春期・成人の合併症のないクラミジア感染症の推奨レジメンはドキシサイクリン100 mg 1日2回7日間で、アジスロマイシン1 g単回とレボフロキサシン500 mg 1日1回7日間は代替に降格した。男性の泌尿生殖器感染ではアジスロマイシンの微生物学的治療失敗がドキシサイクリンより多い。妊娠中はアジスロマイシン1 g単回が推奨。同じPMC全文の「Lymphogranuloma Venereum」の節で、LGVの推奨治療はドキシサイクリン100 mg 1日2回21日間(治癒率98.5%超)であり、性器クラミジア感染の7日間より長期を要すること、MSMでは直腸炎型のアウトブレイクが報告されており、臨床的にLGVに合う症候群では検査結果を待たず推定治療を開始することを確認した(2026-09-27)。閲覧 2026-08-26