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Disease Atlas · 眼科 · 疾患

トラコーマ

Trachoma

別名
Trachomatous conjunctivitis
臓器系
眼科感染症
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 2/36:クラミジア・トラコマチスとクラミジアによる呼吸器感染症微生物学 5/3:眼感染を起こす細菌とウイルス(一覧)とその診断
鑑別疾患
結膜炎
続発疾患
輪部幹細胞疲弊症
治療薬
アジスロマイシン
原因微生物
Chlamydia trachomatis A, B, C
症状
睫毛乱生眼瞼内反結膜充血

🧠 全体像:を読む軸は「1回では失明しない、繰り返すから失明する」という時間軸である。Chlamydia trachomatis A・B・Ba・C血清型の単回感染は自然治癒しうるにすぎないが、乾燥・不衛生な環境でが積み重なると、の→→睫毛乱生→角膜の機械的→という一本道の連鎖が進み、最終的に失明へ至る。世界的には感染性疾患としての失明原因の第1位であり、対策ものという個人治療にとどまらない介入が骨格になる。

病態:反復感染が瘢痕を積み重ねる

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctiva'>結膜</span>への感染<br>(小児期に反復しやすい)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='follicular conjunctivitis'>濾胞性結膜炎</span><br>(急性期は自然治癒しうる)"]
    B --> C["反復・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='persistent infection'>持続感染</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctiva'>結膜</span>の慢性炎症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scarring'>瘢痕化</span>"]
    D --> E["瘢痕による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='entropion'>眼瞼内反</span>"]
    E --> F["睫毛乱生"]
    F --> G["睫毛が角膜を機械的に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stroke/scratch (stimulus)'>擦過</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal opacity'>角膜混濁</span>"]
    H --> I["失明"]

💡 1回の感染では失明しない。 症状が顕在化・重症化するのは、幼少期からのの蓄積によって瘢痕が積み上がった結果であり、成人期(特に育児で罹患児との接触が多い女性)にの合併症として現れやすい。だからこそ予防の主眼は個々のよりを断つ生活環境の改善に置かれる。

感染経路と疫学

  • との直接接触(手指・共有タオル・寝具)、ハエ(フェイスフライ)媒介という非性行為感染が中心1。
  • サハラ以南アフリカを筆頭に、中東・インド亜大陸・東南アジア・南米など乾燥・不衛生な地域に集中する2。
  • 2026年時点で約9,200万人が流行地に居住し失明のリスクにさらされている1。
  • ⭐ 感染性疾患としては世界の失明原因の第1位(全体では・緑内障に次ぐ第3位)で、約800万人が失明またはの状態にある2。女性・10歳未満の小児に不均衡に多い2。

診断:WHOの簡易グレーディング

の簡易グレーディングは、病期の進行を反映する5つの所見(TF・TI・TS・TT・CO)で評価する2。

病期 略号 所見
TF 中央部に直径0.5mm以上の濾胞が5個以上
炎症性 TI 深部血管の半分以上を覆う瀰漫性の肥厚性炎症
瘢痕性 TS 眼瞼縁に平行な線維性の
睫毛乱生 TT 睫毛が1本以上眼球に接触、または最近されたの所見
CO にかかる——失明の直接原因

流行地では(による簡易グレーディング)による診断が中心で、・は主に研究・非流行地での確認に用いる。

治療と予防:WHOのSAFE戦略

flowchart TD
    A["流行地での<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trachoma'>トラコーマ</span>対策"] --> B["S:睫毛乱生(TT)に<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='eyelid surgery'>眼瞼手術</span>"]
    A --> C["A:アジスロマイシンの<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='mass drug administration'>地域一斉投薬</span>"]
    A --> D["F:洗顔など<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='facial hygiene'>顔面衛生</span>の啓発"]
    A --> E["E:上水道・衛生設備の整備、<br>ハエの発生源対策"]
    B --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='corneal injury'>角膜損傷</span>の進行を止める"]
    C --> G["個々の感染を治療し<br>感染源を減らす"]
    D --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reinfection'>再感染</span>の機会を減らす"]
    E --> H

WHOのが対策の骨格になる21。

要素 内容
Surgery 睫毛乱生・に対する
Antibiotics によるアジスロマイシン単回投与(小児20 mg/kg・上限1g、成人1g)
Facial cleanliness 洗顔などの
Environmental improvement 上水道・衛生設備の整備、ハエの発生源対策

個人の感染例にはアジスロマイシン単回投与に加え、代替としてドキシサイクリン100 mgを1日2回・10日間投与する選択肢もある(妊婦・・小児では使用に注意する)2。

⚠️ この病型に特有なのは個人治療ではなく地域一斉治療という介入である点を押さえる。 手術・投薬だけでなく、・環境改善という感染経路そのものを断つ介入がなければを繰り返し、流行を制御できない2。

予後

に至る前の段階(TF〜TT)で介入すれば視力予後は良好だが、(CO)まで進行すると視力障害は不可逆となる。は睫毛乱生の進行を止めるが、既に生じたそのものを改善するわけではない。

⚠️ の眼瞼変形による角膜表面への慢性は、を招きうる3。失明の機序はだけでなく、上皮の再生源の枯渇でもある。

まとめ

  • はChlamydia trachomatis A・B・Ba・C血清型による、感染性疾患としては世界最多の失明原因である。
  • 病態の本体はによるの慢性で、・睫毛乱生を経て・失明に至る。
  • 診断は簡易グレーディング(TF・TI・TS・TT・CO)で病期を評価する。
  • 対策の骨格はの(手術・アジスロマイシン・・環境改善)で、個人の抗菌薬治療だけでは流行を制御できない。

出典

  1. 1.Trachoma(World Health Organization・2026)トラコーマが世界の失明の主要な感染性原因であること、2026年3月時点で約9200万人がトラコーマ流行地に居住し失明のリスクにさらされていること、感染者の眼・鼻分泌物との直接接触(手指・衣類・寝具)およびハエを介して伝播すること、反復感染により睫毛が眼球側へ内反し角膜を不可逆的に損傷すること、対策の骨格がWHOのSAFE戦略(手術・アジスロマイシンによる地域一斉投薬・洗顔などの顔面衛生・水衛生や環境改善)であることを確認した。閲覧 2026-08-19
  2. 2.Trachoma(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)トラコーマの原因が*Chlamydia trachomatis*血清型A・B・Ba・Cであること(D〜K型は成人封入体結膜炎に関連)、WHOの簡易グレーディングがTF(上眼瞼結膜中央部に直径0.5mm以上の濾胞5個以上)・TI(深部血管の半分以上を覆う瀰漫性の炎症性肥厚)・TS(眼瞼縁に平行な線維性瘢痕)・TT(睫毛が1本以上眼球に接触、または最近抜去された内反睫毛の所見)・CO(角膜混濁、最も進行した病期で失明に至りうる)の5段階からなること、反復感染が結膜の瘢痕化→眼瞼内反→睫毛乱生→角膜の機械的擦過→角膜混濁→失明という経過をたどること、世界の失明原因の第3位(白内障・緑内障に次ぐ)であり約800万人が失明または高度視覚障害の状態にあること、アフリカ・中東・インド亜大陸・東南アジア・南米に多く女性・10歳未満の小児に不均衡に多いこと、WHOのSAFE戦略(Surgery・Antibiotics・Facial cleanliness・Environmental improvement)が対策の骨格であること、地域一斉投薬におけるアジスロマイシンの用量が小児20 mg/kg(上限1g)・成人1gの単回投与であることを確認した。閲覧 2026-08-19
  3. 3.Global Consensus on Definition, Classification, Diagnosis, and Staging of Limbal Stem Cell Deficiency(Cornea(Cornea Society International Limbal Stem Cell Working Group)・2019)PMC6363877の全文で確認した。輪部幹細胞疲弊症の病因の分類として、免疫学的・炎症性の原因(移植片対宿主病・Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症・粘膜類天疱瘡・自己免疫性多腺性内分泌不全症候群1型など)、感染(トラコーマを含む重症の微生物性角膜炎)、遺伝性疾患(無虹彩症・色素性乾皮症・先天性角化異常症・EEC症候群・KID症候群・表皮水疱症など)が挙げられていることを確認した閲覧 2026-09-09