疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 眼科 · 疾患

サイトメガロウイルス網膜炎

Cytomegalovirus retinitis

別名
CMV網膜炎CMVR
臓器系
眼科感染症
科目
Medical MicrobiologyInternal MedicinePharmacology
トピック
微生物学 3/15:ヘルペスウイルス:サイトメガロウイルス内科学 S-56:HIV感染症の内科的管理薬理学 C5:抗ヘルペス・抗水痘帯状疱疹・抗サイトメガロウイルス薬・抗インフルエンザ薬・抗コロナその他ウイルス薬
鑑別疾患
トキソプラズマ症急性網膜壊死進行性外層網膜壊死
合併症
網膜剥離
関連疾患
免疫再構築炎症症候群
治療薬
(バル)ガンシクロビルフォスカルネットシドフォビル
原因微生物
サイトメガロウイルス
症状
飛蚊症視力低下
画像所見
嚢胞様黄斑浮腫
原因となる疾患
HIV感染症・AIDS
適応薬
シドフォビル

🧠 全体像:は⭐ 「免疫が落ちきったときに発症し、免疫が戻るときに二度目の危機が来る」という二相の病気として読む。CD4陽性T細胞が50/µL未満まで下がった感染症・で発症し、無治療なら失明に至る1。⚠️ の導入後、米国での発症率は90%減った2。⭐⭐ ところが免疫が回復すると、眼に残ったウイルス抗原に対して炎症が立ち上がる——これがの眼型であるで、網膜炎そのものが鎮まったあとの新たなの主因になる3。💡 「炎症が乏しいこと」が診断の手掛かりになるのも同じ理屈——免疫が無いから炎症が起こせないのであって、が目立つなら別の病気を考える1。

誰に起きるか

  • 感染症・:CD4陽性T細胞数が50/µL未満に落ちた段階の日和見感染である1。
  • 移植後・・:の普及で相対的にこちらの比重が増している。非例では・・といったが目立ちやすく、その程度は免疫抑制の深さと相関する1。

⭐ 同じ病名でも背景で像が変わる。 例は男性優位で若年、が乏しい。非例はの回数が多く再発率も高い一方、生存期間は例のほうが長いと報告されている1。

眼底所見

初期症状は・・と非特異的で、⚠️ 無症状のこともある1。病変は一般にから始まりへ向かって進む1。

⚠️ ただし「必ず周辺から」ではない——起始部位は型で異なる。 同じ出典が、出血型はに多く型はに多いと述べている1。との鑑別を扱う出典も、網膜炎の特徴として「・の早期侵襲」と「型での周辺の早期侵襲」を並べて挙げている4。「周辺から始まる」を鑑別の決め手に使わない。

SUN基準による型 所見
がを向く楔形の網膜炎1
出血性 に多い。と壊死の範囲が広く、と境界部の「」を伴う1
に多く、出血を伴わない1

⭐ 「」眼底は、中心の壊死にが加わったときの表現である(「ケチャップとチーズ」とも呼ばれる)1。⚠️ いずれの型でもは無いか軽度にとどまる1。

Zoneで危険度を測る

Zone 範囲 意味
Zone 1 から1500 µm以内、かつから3000 µm以内 ⚠️ 視機能を直接脅かす。 観察が難しく、注射回数とが増える1
Zone 2 Zone 1の外縁からまで 1
Zone 3 からまで 1

鑑別

⭐ 決め手は「免疫状態」と「の強さ」の2軸である。

疾患 分けるポイント
との炎症が著明。免疫正常者にも起こる1
の境界明瞭な白色が多発し、視神経を巻き込む。浸潤は最小1
色の表層網膜沈着物と胎盤様。全身検索で確定する1
灰白色と限局性、1
境界不明瞭な巣がに隣接し、を伴う1

診断

診断はが主で、必要に応じてので活動性のを確かめる1。⚠️ 血液・尿の検査が陰性でもは除外できない——全身の所見と合わせて解釈する1。

⭐ CD4陽性T細胞数が50/µL未満の患者では、症状が出る前から定期的な眼底評価を行う1。資源の限られた地域ではとによるスクリーニングが現実的な選択肢になる1。

治療

⭐ 本体は抗ウイルス薬によると、原疾患の免疫不全そのものへの介入である。

位置づけ 薬剤
導入・維持の主軸 経口(バル)。900 mgを1日2回とするが静注と同等の有効性・安全性を示している13
代替 静注、静注1
Zone 1病変・の不応 等のまたは1
(患者でによる復位効果56〜94%)1

💡 の違いが耐性の意味を決める。 ・・・はいずれもUL54を阻害するが、だけはに直接結合する1。

⚠️ とを網膜炎の第一選択に据えない。 は現時点で予防投与にのみ承認されておりウイルス量が多いと効果が減弱する。は網膜への移行が乏しく、/血漿比は最大0.28にとどまる1。

⚠️ は時間とともに崩れる。 後の復位率は1か月87.2%・3か月82.1%・6か月71.8%と低下し、50/µL未満の患者で予後が悪かった1。

⚠️⚠️ 免疫再構築ぶどう膜炎——治ったあとに来る視力低下

⭐ で免疫が戻ると、眼に残った抗原に対してな炎症が起こる。 これがで、患者に生じるの最も多い型である3。

flowchart TD
    A["CD4が50/µL未満まで低下"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytomegalovirus retinitis'>サイトメガロウイルス網膜炎</span>の発症<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitritis'>硝子体炎</span>は乏しい)"]
    B --> C["抗<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytomegalovirus, CMV'>サイトメガロウイルス</span>薬と<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='antiretroviral therapy, ART'>抗レトロウイルス療法</span>を開始"]
    C --> D["CD4が上昇し免疫が回復する"]
    D --> E["眼内に残ったウイルス抗原に対し<br>炎症が立ち上がる"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immune recovery uveitis'>免疫再構築ぶどう膜炎</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anterior chamber inflammation'>前房内炎症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vitreous opacity'>硝子体混濁</span>)"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cystoid macular edema (CME)'>嚢胞様黄斑浮腫</span><br>=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased visual acuity'>視力低下</span>の主因"]
    C --> H["網膜炎そのものは鎮静化する"]
  • ⚠️ 典型症状はと中等度の(多くは20/40より悪く20/200よりは良い)で、開始から数週間後にとが現れる。⚠️ この段階は一過性で見逃されやすい3。
  • ⭐ 多くの症例では活動性の網膜炎を伴わない。 炎症を起こせる免疫が、同時に網膜炎も抑えているためである3。
  • ⚠️ がの主因で、の患者ではそのリスクが20倍高い3。

頻度は時代とともに下がった

集団・時期 頻度
初期の時代 網膜炎患者の10%3
ある 17.4%3
現代の前向き多施設観察研究 100人年あたり1.7〜2.2件3
LSOCA(群268例、1996年以降の診断) 100人年あたり2.2件(95%信頼区間1.7〜3.0)2

💡 下がった理由として、の前後により積極的な抗治療を行うようになったこと(期の眼内ウイルス抗原量が減る)と、危険因子であるが使われなくなったことが挙げられている3。

危険因子

上げる 下げる
CD4数の急速な上昇(100〜199/µLへの到達、21.8)3 の病変(0.43)3
(19.1)3 男性(0.23)3
網膜炎の範囲が25%以上(2.52)3 量400コピー/mL超(0.26)3

⚠️⚠️ が見込まれる患者にを使わない。 危険因子として明示されている3。

治療

  • には局所ステロイド。を伴わない軽度のは経過観察でよい3。
  • 高度のやには短期の、・眼周囲の。⚠️ ただし効果は限定的である3。
  • は難治例で検討しうるが、⚠️ ・・網膜炎のに注意する(は抗薬の再開で防げる)3。
  • ⚠️⚠️ は中止しない。 CD4数が下がって日和見感染の危険が増すためである3。
  • ⭐ 抗薬の維持療法は、が消退し、CD4陽性T細胞が100/µL以上で3〜6か月持続するが得られるまで続ける。 中止後も3か月ごとに再発を見張る3。
  • の開始時期については、国際的な指針は抗薬開始から2週間以内の開始を推奨しているが、⚠️ これはの意見に基づくもので実証的な根拠ではないと明記されている3。

予後——免疫が戻るかどうかがすべてを決める

LSOCAコホート(1996年以降に診断された479例)では、(CD4が100/µL超で3か月以上持続)の有無で転帰が劇的に分かれた2。

あり なし
死亡率 100人年あたり2.7件 100人年あたり44.4件
生存期間中央値 推定27.0年 13.5か月

コホート全体では両眼性の視力障害が100人年あたり0.9件、失明が0.4件で、10年は視力障害11.2%・失明5.7%であった2。

まとめ

  • ⭐ CD4陽性T細胞50/µL未満で発症する日和見感染で、一般にはからへ進む。⚠️ ただし起始部位は型で異なり、出血型はに多い。中心の壊死に出血が加わると「」眼底になる。
  • ⚠️ が乏しいことが特徴であり、炎症が強ければなど別の病態を考える。
  • Zone 1(から1500 µm以内・から3000 µm以内)の病変は視機能を直接脅かす。
  • 治療の主軸は経口(バル)(導入900 mg 1日2回)で、代替は・。⚠️ は予防適応のみ、は網膜移行が乏しい。
  • ⚠️ の普及で米国の発症率は90%減ったが、免疫が戻らない患者の予後は依然として厳しい(生存期間中央値13.5か月)。
  • ⭐⭐ 免疫が戻る局面でが起こる。 がの主因で、リスクは20倍。⚠️ は中止せず、抗薬の維持療法をが固まるまで続ける。
  • ⚠️ が見込まれる患者にはを使わない(の19.1)。

出典

  1. 1.Cytomegalovirus Retinitis: Clinical Manifestations, Diagnosis and Treatment(Viruses・2024)Europe PMCのPMC11437412で全文を取得して確認した。本症が免疫不全者におけるサイトメガロウイルス感染の最も多い眼病変であること、発症時に硝子体炎が乏しいことがHIV患者で他疾患との重要な鑑別点になること、病変が周辺網膜から始まり後極へ進むこと、SUN基準による特徴が楔状の網膜炎・出血性網膜炎・顆粒状網膜炎であり硝子体炎は無いか軽度にとどまること、出血型は後極に多く網膜浮腫と壊死の範囲が広いこと、顆粒型は周辺網膜に多いこと、中心の壊死に網膜内出血が伴うと「ピザパイ様」あるいは「ケチャップとチーズ」と形容される眼底になること、Zone 1が視神経乳頭から1500 µm以内かつ中心窩から3000 µm以内と定義されZone 2が赤道部まで・Zone 3が鋸状縁までであること、Zone 1病変は視機能への影響が大きく観察が難しく注射回数と合併症率が増えること、HIV患者ではCD4陽性T細胞数50/µL未満が早期診断を促す危険因子となること、前房水PCRが活動性のウイルス複製の検出に用いられ血液・尿の検査が陰性でも除外にならないこと、鑑別として進行性外層網膜壊死・急性網膜壊死・梅毒性網膜炎・結核性網膜炎・トキソプラズマ症が挙がること、ガンシクロビル・バルガンシクロビル・シドフォビル・フォスカルネットがいずれもウイルスDNAポリメラーゼUL54を阻害しフォスカルネットのみピロリン酸結合部位に直接結合すること、経口バルガンシクロビル900 mgを1日2回投与する導入療法が静注ガンシクロビルと同等の有効性と安全性を示したこと、Zone 1病変では硝子体内注射または徐放性眼内インプラントが検討されること、レテルモビルがターミナーゼ阻害薬で現時点では予防投与にのみ承認されウイルス量が多いと効果が減弱すること、マリバビルがUL97キナーゼ阻害薬で網膜移行が乏しく硝子体/血漿比が最大0.28にとどまること、網膜剥離に対する硝子体切除術がAIDS患者でシリコーンオイルにより56〜94%の復位効果を示すこと、2021年の研究で網膜復位率が術後1か月87.2%・3か月82.1%・6か月71.8%と経時的に低下しCD4陽性細胞数50/µL未満の患者で復位の予後が悪かったことを確認した。⚠️ 本総説には病変の進行速度を「1日平均24 mm」とする明らかな誤植(原著は µm)があり、この数値は採用していない。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Long-term Outcomes of Cytomegalovirus Retinitis in the Era of Modern Antiretroviral Therapy: Results from a United States Cohort(Ophthalmology・2015)PMC4485590で本文を確認した(Jabs DAほか、Ophthalmology 2015年122巻7号1452〜1463頁)。米国の前向き観察コホートLSOCAのうち1996年以降にサイトメガロウイルス網膜炎と診断された479例(免疫回復あり296例・なし183例)を対象としたこと、免疫回復を「追跡中のいずれかの時点でCD4陽性T細胞が100個/µLを超える状態が3か月以上持続したこと(連続2回の受診)」と定義したこと、免疫再構築ぶどう膜炎の発症率が免疫回復群(リスク集団268例)で100人年あたり2.2件(95%信頼区間1.7〜3.0)であったこと、両眼性の視力障害と失明の発症率がコホート全体で100人年あたりそれぞれ0.9件と0.4件であり10年累積発症率が視力障害11.2%(95%信頼区間7.7〜16.2%)・失明5.7%(95%信頼区間3.3〜9.7%)であったこと、死亡率が免疫回復群で100人年あたり2.7件(推定生存期間中央値27.0年)・免疫回復なし群で100人年あたり44.4件(生存期間中央値13.5か月)であったこと、1990年代半ばの多剤併用抗レトロウイルス療法の導入後に米国でサイトメガロウイルス網膜炎の発症率が90%減少したと本論文が記していることを確認した。閲覧 2026-09-03
  3. 3.Immune recovery uveitis: a focus review(Graefe's Archive for Clinical and Experimental Ophthalmology・2024)Europe PMCのPMC11271330で全文を取得して確認した。免疫再構築ぶどう膜炎が眼における免疫再構築炎症症候群であり抗レトロウイルス療法を受けるHIV患者でサイトメガロウイルス網膜炎に伴って生じる同症候群の最も多い型であること、免疫回復が「CD4陽性T細胞数の50個/µL以上の上昇(目標は100個/µL以上)」と定義されること、AIDS患者での免疫再構築炎症症候群の発症率が10〜32%で大半が抗レトロウイルス療法開始から3か月以内に生じ通常は3〜12か月の間に現れうること、免疫再構築ぶどう膜炎の頻度が初期の抗レトロウイルス療法時代の報告でサイトメガロウイルス網膜炎患者の10%・ある後方視的研究で17.4%であったのに対し現代の前向き多施設観察研究では100人年あたり1.7〜2.2件であること、典型的な症状が飛蚊症と中等度の視力低下(多くは20/40より悪く20/200よりは良い)であること、抗レトロウイルス療法開始とCD4数上昇の数週間後に前房内炎症と硝子体混濁が現れうるが一過性で見逃されやすいこと、多くの症例では活動性のサイトメガロウイルス網膜炎を伴わないこと、嚢胞様黄斑浮腫が視力低下の主因であり免疫再構築ぶどう膜炎の患者ではそのリスクが20倍高いこと、危険因子がCD4数の急速な上昇(100〜199個/µLへの到達、オッズ比21.8)・硝子体内シドフォビル(オッズ比19.1)・網膜炎の範囲が25%以上(オッズ比2.52)であり、後極の病変(オッズ比0.43)・男性(オッズ比0.23)・HIV量400コピー/mL超(オッズ比0.26)がリスク低下と関連したこと、治療が前房内炎症には局所ステロイド・黄斑浮腫を伴わない軽度の硝子体炎には経過観察・高度の硝子体炎や嚢胞様黄斑浮腫には短期の経口ステロイドやTenon嚢下・眼周囲ステロイド(ただし効果は限定的)であること、硝子体内ステロイドは難治例で検討しうるが眼圧上昇・白内障・サイトメガロウイルス網膜炎の再燃に注意し抗サイトメガロウイルス薬の再開で再燃を防げること、抗レトロウイルス療法の中止は推奨されないこと、サイトメガロウイルス網膜炎の維持療法を免疫再構築ぶどう膜炎が消退しCD4陽性T細胞が100個/µL以上で3〜6か月持続する免疫回復が得られるまで継続すべきこと、中止後も3か月ごとの経過観察を要すること、国際的な指針が抗サイトメガロウイルス薬開始から2週間以内の抗レトロウイルス療法開始を推奨しているがこれは専門家の意見に基づき実証的根拠ではないこと、免疫回復が見込まれる場合にはシドフォビルを用いるべきでないこと、HIV陰性の免疫抑制解除例でも同様の病態が生じうることを確認した。閲覧 2026-09-03
  4. 4.Acute Retinal Necrosis(StatPearls(NCBI Bookshelf)(Tripathy K, Datta S)・2026)Differential Diagnosis節でCMV網膜炎の特徴として免疫不全者であること・媒質が透明(硝子体炎は最小か無し)であること・出血が目立つこと、および「後極/血管アーケードの早期侵襲と、顆粒状CMV網膜炎における周辺の早期侵襲」("Early involvement of the posterior pole/arcades, and early involvement of the periphery in granular CMV retinitis")が並べて挙げられていること、媒質の混濁と硝子体炎が免疫正常宿主に生じる急性網膜壊死に典型的でありCMV網膜炎・進行性外層網膜壊死との鑑別点になることを確認した。2026年3月10日最終更新。本ノートではこの出典を起始部位の型依存性の裏づけとしてのみ用いている。閲覧 2026-09-04