微生物学

微生物学 · 2/37

マイコプラズマ・ウレアプラズマ属

Mycoplasma and Ureaplasma genus

応用トピック
クラミジア陰性非淋菌性尿道炎市中肺炎小児肺炎と年齢別主要病原体
微生物
Mycoplasma genitaliumMycoplasma hominisMycoplasma pneumoniaeUreaplasma urealyticum
疾患
マイコプラズマ肺炎(非定型肺炎)

🧠 Mycoplasma・Ureaplasma属は「細胞壁を完全に持たない」という一点で、これまでの菌と根本的に違う土俵に立つ。 Rickettsia/Coxiellaは細胞壁はあるが小さすぎてグラム染色できず、Chlamydiaはペプチドグリカンだけを欠くが、Mycoplasma属は細胞壁そのものが存在しない——地球上最小の自己増殖可能な生物であり、細胞膜を守る壁がない代わりに宿主由来のコレステロールを膜に組み込んで強度を保つ。この「壁なし」という一点から、グラム染色不可・βラクタム系無効・寒天培地でも「」の特異なという全ての特徴が導かれる。

Mycoplasma pneumoniae

形態・生化学的性状

項目 内容
大きさ 最小の自己増殖可能な細菌
細胞壁 を持たない=グラム染色不可
正常フローラの一員ではないが、無症候性に呼吸器へ保菌されることがある
細胞膜 ステロール(コレステロール)を細胞膜に組み込み、壁を持たない膜の安定性と柔軟性を確保する
酸素要求性

💡 細胞壁がない=βラクタム系が構造的に無効。 ペニシリンやセファロスポリンなどのは細胞壁(ペプチドグリカン)合成を阻害する薬剤だが、Mycoplasmaにはそもそも標的となる細胞壁が存在しない——理屈の上で最初から効くはずがない。培養にステロールを要求するのも、細胞壁の代わりに膜自体の強度をステロールで補っているためである。

病原性因子

  • 伝播経路:飛沫感染(吸入)
  • 好発環境:軍隊の訓練施設など集団生活環境、30歳未満の若年成人に多い
  • ——組織侵入性はない(多くのを欠くため寄生的な生活様式をとる)

(ステップ):

  1. を介して呼吸器上皮に接着する
  2. ・・細胞傷害性酵素を産生しを阻害、呼吸器上皮を傷害する
  3. 上皮の壊死とひどい(非定型肺炎)を引き起こす

さらにM. pneumoniaeはとして働き、1(IL-1)・6(IL-6)・α()の産生を誘導する。

flowchart TD
  A["M. pneumoniae 吸入感染"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='P1 adhesin protein'>P1蛋白</span>で呼吸器上皮に接着"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hydrogen peroxide'>過酸化水素</span>・細胞傷害性酵素産生<br>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucociliary clearance'>線毛運動</span>阻害"]
  C --> D["上皮壊死・非定型肺炎<br>(ひどい<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dry cough'>乾性咳嗽</span>)"]
  B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='superantigen'>スーパー抗原</span>として作用<br>IL-1・IL-6・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor necrosis factor-alpha'>TNF-α</span>誘導"]

臨床像:非定型(“歩く”)肺炎

Chlamydophila pneumoniaeやLegionella pneumophilaと並ぶ非定型肺炎の代表的原因菌。

  • 胸部X線像は斑状浸潤影を示すが、画像所見のわりには軽い(「見た目ほど重くない」)
  • 症状は通常の肺炎より軽度
  • その他の病態:・、慢性の乾性(ひどい)咳嗽、発熱などの全身症状(ただし患者本人は症状のわりに元気そうに見える)

診断

検査 内容
検体 血清、尿、
ステロールを含む培地で、「」コロニーを形成する
IgM型のが低温(約4℃)で赤血球を凝集させる現象を利用——感度・特異度が低く現在はほぼ用いられない
血清学 による
PCR 現行の。高感度・高特異度(培養より迅速)。ただしでも陽性となりうるため臨床像と併せて解釈する

治療

  • に対して本質的に耐性(そもそも細胞壁を持たないため理にかなっている)——βラクタム系は無効
  • マクロライド系(、azithromycin)——第一選択
  • テトラサイクリン系(doxycycline)——約2週間投与
  • (など)

⚠️ 「マクロライド系が第一選択」は地域によって成り立たない。 23S rRNAの点突然変異による高度が15年かけて世界に拡がり、は欧州・米国で0〜15%、イスラエルで約30%、アジアでは90〜100%に達する1。耐性株では発熱・咳嗽の遷延と入院期間の延長が起こるため、反応が乏しければテトラサイクリン系またはへ切り替える(小児での年齢制限に配慮する)。テトラサイクリン系・へのはでは報告がない。

Mycoplasmatales目の全体像

  • 最小の自己増殖可能な細菌からなるグループ
  • Mycoplasmatales目は4属に分かれる:Eperythrozoon、Haemobartonella、Mycoplasma、Ureaplasma
  • 臨床的に重要なのはMycoplasma属(125菌種)とUreaplasma属(7菌種)
  • 最重要菌種はMycoplasma pneumoniae(発見者にちなみEaton agentとも呼ばれる)
  • その他の臨床的に重要な菌種:M. genitalium、M. hominis、Ureaplasma urealyticum

💡 Eperythrozoon属・Haemobartonella属という2つの属名は、現在は独立した属として使われない。 これらの赤血球の菌(血球)はMycoplasma属へ移され、そのぶんも含めてMycoplasma属は約120菌種を擁する2。さらに2018年には、でMycoplasma属が多系統群であることを根拠にMycoplasmoidales目・Mycoplasmoides属などへの再編(Mycoplasmoides pneumoniae・Mycoplasmoides genitalium)が提案されたが、国際原核生物分類委員会のモリクテス小委員会はこれを規約違反として拒否を勧告しており、属名の帰趨は決着していない3。試験では従来どおりMycoplasma pneumoniaeで足りるが、新旧2つの呼び方が並存していることは知っておく。

属全体の一般的特徴:

  • M. pneumoniae以外は(M. pneumoniaeのみ)
  • 発育は緩徐で、動物血清由来の外因性ステロールを培地に添加する必要がある
  • 小さなコロニーしか形成せず、長時間培養しないと検出が難しい
  • 細胞壁を持たない
  • 主要は膜・膜蛋白だが、ヒト組織や他菌種とするため検出時の特異性が低下する

泌尿生殖器系Mycoplasma・Ureaplasma

菌種 生息部位 伝播経路 疾患 培養・治療の特記事項
Mycoplasma genitalium 泌尿生殖器 、 培養は数か月を要し実務上できない——()が唯一実用的な診断法。・腟などを検体とし、同時に23S rRNAの変異を調べて薬剤を選ぶが推奨される4
Mycoplasma hominis 泌尿生殖器・呼吸器(女性の一員) 常在菌としての側面が強く、性行為でも伝播する 腎盂腎炎、、婦人科術後感染、免疫不全患者での全身感染。⚠️ 尿道炎の原因としては確立していない5 を代謝、培養に1〜4日。14員環・15員環マクロライド(・・アジスロマイシン)にで6、薬剤選択の中心はクリンダマイシン。テトラサイクリンへの耐性は*tet(M)*獲得による後天的なもので全株の性質ではなく、フランスの2020〜21年90株では11.1%、クリンダマイシン耐性は0%だった7
Ureaplasma urealyticum 呼吸器・泌尿生殖器 性行為でも伝播する 腎盂腎炎、、早産、早産児の。⚠️ 尿道炎での意義は症例ごとに判断する——検出だけでは原因と決まらない5 ウレアーゼ陽性——で培養。マクロライド系(アジスロマイシン・)が有効。はtet(M)獲得による後天的耐性で、フランスの2020〜21年ではU. urealyticum 11.8%・U. parvum 1.2%にとどまり、は認められなかった7

⚠️ 「3種そろっての原因」とまとめない。 ドイツ学会ほかの2025年の陰茎尿道炎ガイドラインは、M. genitaliumについては複数の疫学研究で尿道炎症状との関連が示されているとする一方、M. hominisはの大多数が関連を見いださなかったとし、U. parvumとともに通常は常在菌として扱うべきと評価している。U. urealyticum はの層別化の仕方で研究結果が一致せず、高い菌量・若年・性交渉相手の少なさが症候性尿道炎と関連するとして、意義は症例ごとに判断するという位置づけである5。検出は原因の証明ではない。

💡 M. hominis の「マクロライドが効かない」は14員環・15員環に限った話である。 の対象は・・アジスロマイシンで、機序は能動的な排出による菌体内への取り込み低下と、23S rRNAのG2057A変異によるリボソームへの親和性の著しい低下である。(ジョサマイシンなど)はの対象ではなく、これに対する耐性はがA2059G・C2611U変異で別に獲得する。2611位の変異はマクロライド・・に及ぶ耐性として報告されており、クリンダマイシンも「必ず効く」とは言えない6。

⚠️ 「U. urealyticum は」「M. hominis はテトラサイクリンに」を属の固有性質として覚えない。 これらはtet(M)遺伝子の獲得による後天的耐性で、地域と時期によって頻度が変わる(フランスではU. urealyticum 11.8%、M. hominis 11.1%)7。細胞壁がないことに由来する本来的な耐性(βラクタム系・)とは性質がまったく違うので、区別して整理する。

⭐ Mycoplasma genitalium は「培養できない菌」から「耐性検査つきで治療する性感染症」へ位置づけが変わった。 の普及で淋菌・クラミジア陰性のの主要原因と分かり、欧州ガイドラインは診断時に23S rRNAの変異を同時に調べることを求める4。治療はドキシサイクリンを前投与したうえで、には高用量アジスロマイシン、耐性株にはを選ぶ逐次治療で、アジスロマイシン1 g単回投与はもはや標準治療ではない8。

まとめ

  • Mycoplasma・Ureaplasma属は最小の自己増殖可能な細菌で、細胞壁を完全に欠くためグラム染色不可・は本質的に無効。細胞膜はステロール(コレステロール)で安定化する。
  • M. pneumoniaeはで呼吸器上皮に接着し線毛機能を障害、非定型(“歩く”)肺炎を起こす。としてもIL-1・IL-6・を誘導する。
  • 診断はでの「」コロニー、血清学、を用いる。は感度・特異度が低く現在はほぼ用いられない。
  • 治療はマクロライド系またはテトラサイクリン系が中心だが、M. pneumoniaeのはアジアで90〜100%に達し、地域によって第一選択が変わる。
  • の3種は尿道炎での位置づけが同じではない。の原因として確立しているのはM. genitaliumで、M. hominisは通常は常在菌として扱われ、U. urealyticumは症例ごとに判断する5。M. hominisは他に腎盂腎炎・・婦人科術後感染・免疫不全患者の全身感染を起こし、U. urealyticumは・早産・早産児のに関与する。
  • M. hominisは14員環・15員環マクロライドに(16員環は対象外)でクリンダマイシンを中心に選ぶ点が例外的、Ureaplasmaにはマクロライド系が有効6。両者のは*tet(M)*獲得による後天的耐性で頻度は約1割にとどまる。M. genitaliumは培養できずで診断し、変異に基づくを行う。

出典

  1. 1.Mycoplasma pneumoniae: Current Knowledge on Macrolide Resistance and Treatment(Frontiers in Microbiology・2016)マクロライド耐性 Mycoplasma pneumoniae は15年かけて世界的に拡大し、有病率は欧州・米国で0〜15%、イスラエルで約30%、アジアでは90〜100%に達する。耐性は23S rRNAのペプチジル転移酵素ループの点突然変異による高度耐性で、発熱・咳嗽の遷延や入院期間の延長という臨床転帰を伴うため、テトラサイクリン系(ドキシサイクリン・ミノサイクリン)やレボフロキサシンへの変更を要する。テトラサイクリン系・フルオロキノロン系への獲得耐性は臨床分離株では報告がない。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Phylogenetic framework for the phylum Tenericutes based on genome sequence data: proposal for the creation of a new order Mycoplasmoidales ord. nov., containing two new families Mycoplasmoidaceae fam. nov. and Metamycoplasmataceae fam. nov. harbouring Eperythrozoon, Ureaplasma and five novel genera(Antonie van Leeuwenhoek・2018)Mycoplasma属はEperythrozoon属・Haemobartonella属に分類されていた菌種を取り込んで約120菌種を擁するが、140株のゲノム解析では3つの系統群にまたがる多系統群であり、Mycoplasmoidales目・Mycoplasmoides属などへの再編が提案された。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Recommended rejection of the names Malacoplasma gen. nov., Mesomycoplasma gen. nov., Metamycoplasma gen. nov., Metamycoplasmataceae fam. nov., Mycoplasmoidaceae fam. nov., Mycoplasmoidales ord. nov., Mycoplasmoides gen. nov., Mycoplasmopsis gen. nov. [Gupta, Sawnani, Adeolu, Alnajar and Oren 2018] and all proposed species comb. nov. placed therein(International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology・2019)国際原核生物分類委員会モリクテス小委員会は、2018年に提案されたMycoplasmoides属・Mycoplasmoidales目などの一連の新名称を、原核生物命名規約に反するとして拒否すべきという合意を表明した。属名の再編は決着していない。閲覧 2026-08-26
  4. 4.2021 European guideline on the management of Mycoplasma genitalium infections(2022)Mycoplasma genitalium は非淋菌性尿道炎・子宮頸管炎・骨盤内炎症性疾患の起因菌として確立しており、診断は核酸増幅検査で行い、同時にマクロライド耐性変異(23S rRNA)を検査して薬剤を選ぶ耐性ガイド治療を行う。閲覧 2026-08-26
  5. 5.German evidence- and consensus-based guideline on the management of penile urethritis(Journal der Deutschen Dermatologischen Gesellschaft(ドイツ皮膚科学会ほかによる合同ガイドライン)・2025)Europe PMC(PMC11803366)の全文で確認した。Mycoplasma genitaliumと尿道炎症状の関連は複数の疫学研究で示されている一方、症例対照研究の大多数はUreaplasma parvumとMycoplasma hominisに尿道炎症状との関連を見いださなかったとし、ガイドライングループの評価としてこの2菌種は通常は常在菌として扱うべきとしている。Ureaplasma urealyticumについては交絡因子の層別化の仕方によって研究結果が一致せず、高い菌量・若年・性交渉相手の少なさが症候性尿道炎と関連するとし、意義は症例ごとに判断するとしている。閲覧 2026-09-28
  6. 6.Mutations in 23S rRNA account for intrinsic resistance to macrolides in Mycoplasma hominis and Mycoplasma fermentans and for acquired resistance to macrolides in M. hominis(Antimicrobial Agents and Chemotherapy・2002)Europe PMCの抄録で確認した(全文は未取得)。自然耐性の対象は14員環・15員環マクロライドであり、機序は能動的な排出による取り込み低下と、23S rRNAのG2057A変異(加えてC2610U変異)を伴うリボソームへの親和性の著しい低下である。16員環マクロライドへの耐性はこれとは別に臨床分離株がA2059G・C2611U変異で獲得するもので、2611位の変異はマクロライド・リンコサミド・ストレプトグラミンに及ぶ耐性として初めて記述された。閲覧 2026-09-28
  7. 7.Evaluation of commercial, customized microdilution plates for Ureaplasma parvum, Ureaplasma urealyticum, and Mycoplasma hominis antimicrobial susceptibility testing and determination of antimicrobial resistance prevalence in France(Journal of Clinical Microbiology・2024)フランス2020〜2021年の臨床分離株で、Mycoplasma hominis 90株のテトラサイクリン耐性は11.1%・レボフロキサシン2.2%・モキシフロキサシン2.2%でクリンダマイシン耐性は0%。Ureaplasma urealyticum 68株のテトラサイクリン耐性は11.8%でUreaplasma parvum 248株の1.2%より有意に高かった(P<0.001)。いずれの菌種でもマクロライド耐性は認められなかった。テトラサイクリン耐性はtet(M)遺伝子の獲得による。閲覧 2026-08-26
  8. 8.Resistance-Guided Antimicrobial Therapy Using Doxycycline-Moxifloxacin and Doxycycline-2.5 g Azithromycin for the Treatment of Mycoplasma genitalium Infection: Efficacy and Tolerability(2020)ドキシサイクリンを前投与したうえで、マクロライド感受性株には高用量アジスロマイシン、耐性株にはモキシフロキサシンを選ぶ逐次(耐性ガイド)治療が高い微生物学的治癒率を示した。アジスロマイシン単回投与は標準治療ではない。閲覧 2026-08-26