組織病理学

組織病理学 · H2-015

胃MALTリンパ腫(節外性辺縁帯リンパ腫)

Non-Hodgkin lymphoma (extranodal) - STOMACH

描出疾患
非ホジキンリンパ腫
疾患
MALTリンパ腫(節外性辺縁帯リンパ腫)

🧠 全体像:胃MALTリンパ腫(gastric MALT lymphoma)は、に生じるリンパ腫(extranodal marginal zone B-cell lymphoma)である。多くは感染に伴うを背景とし、小型の増殖とを示す。

胃壁での広がり

部位・所見 読み方
腺管周囲へ小型が浸潤
腫瘍B細胞が腺上皮へ侵入し破壊
反応性濾胞 腫瘍内に残存しうる
による
潰瘍 上皮破壊が強い病変で生じうる
進展例では浸潤する

胃の腹膜被覆部の最は漿膜であり、一般的な胃壁を一律に「外膜」としない。肉眼的なだけで浸潤深度を決めず、粘膜から深部へのを組織学的に確認する。

発症機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Helicobacter pylori'>ヘリコバクター・ピロリ</span>感染"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic active gastritis'>慢性活動性胃炎</span>"]
    B --> C["後天的MALTが形成"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='T-cell dependent'>T細胞依存性</span>にB細胞が持続刺激"]
    D --> E["遺伝子異常を獲得"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extranodal'>節外性</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='marginal zone B cell'>辺縁帯B細胞</span>リンパ腫"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lymphoepithelial lesion'>リンパ上皮病変</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='submucosal'>粘膜下</span>浸潤"]

は単純に「胃炎が萎縮して癌化する」という直線ではなく、下で増殖するが遺伝子異常を獲得して自律化する過程として理解する。

細胞像と免疫表現型

項目 典型的所見
腫瘍細胞 小型〜中型の・
形質細胞分化 伴うことがある
CD20・PAX5 陽性
CD5 通常陰性
CD10・BCL6 通常陰性
cyclin D1 通常陰性
軽鎖 形質細胞分化部で単クローン性を示しうる

大型細胞がに増殖する場合は、DLBCLへの形質転換または併存を評価する。

関連する慢性刺激

部位 関連背景
胃 感染
唾液腺 シェーグレン症候群
甲状腺
眼付属器 Chlamydia psittaci との関連が報告されるが地域差が大きい
皮膚 Borrelia burgdorferi との関連が報告される地域がある

感染との関連は部位・地域で異なり、眼・皮膚MALTリンパ腫を特定病原体だけで説明しない。6地域の眼付属器MALTリンパ腫142例を調べた検討では、Chlamydia psittaci の検出率は全体で22%(非10%、非9%より有意に高い)だったが、ドイツ47%・米国東海岸35%・オランダ29%に対し、イタリア13%・英国12%・中国南部11%と地域差が大きく、イタリアからの当初報告の87%とは一致しなかった1。

治療の安全性

限局したでは、を検査し、陽性ならを第一に行う。病理学的消退には数か月以上かかる場合があり、早すぎる判定でとしない。

早期1408例(32研究)の系統的レビューでは、除菌単独での寛解率は77.5%(95%信頼区間75.3〜79.7)であった。ただし内訳は一様ではなく、病期I 78.4%に対し病期II1は55.6%、までにとどまる病変82.2%に対しより深部へ浸潤した病変54.5%、遠位胃91.8%に対し近位胃75.7%と分かれる2。「陽性なら除菌が第一」は限局例の話であって、と病期の評価を省いてよいという意味ではない。 除菌後も追跡3253で7.2%(年率2.2%)が再発したため、寛解後も内視鏡・生検による長期追跡を続ける2。

状況 主な方針
H. pylori陽性・限局 除菌後に内視鏡・生検で追跡
除菌不応 放射線治療、を含む治療など
t(11;18)/BIRC3::MALT1 除菌抵抗性を示唆する
播種性・症候性 病期・に応じた全身治療
大細胞形質転換 DLBCLとして評価・治療

⚠️ t(11;18) は「除菌が効かない側」の目印である。 H. pylori陽性の20〜30%は抗菌薬治療で退縮しない。除菌無効12例では9例(75%)に API2::MLT(現在の BIRC3::MALT1、t(11;18)(q21;q21))が検出された一方、除菌有効10例では1例も検出されなかった3。系統的レビューでも、この転座を欠く例の寛解率78%に対し、持つ例は22.2%にとどまる2。

胃切除は診断・治療の一律な第一選択ではなく、治療が基本である。

まとめ

  • 胃MALTリンパ腫はリンパ腫である。
  • B細胞、、反応性濾胞を確認する。
  • H. pyloriによるが重要だが、遺伝子異常による自律化も起こる。
  • 限局H. pylori陽性例は除菌を第一に行い、手術を一律な初回治療としない。

出典

  1. 1.Chlamydia psittaci is variably associated with ocular adnexal MALT lymphoma in different geographical regions(The Journal of Pathology・2006)6地域の眼付属器MALTリンパ腫142例でChlamydia psittaciの検出率は22%で、非リンパ増殖性病変10%・非辺縁帯リンパ腫9%より有意に高かったが、地域差が大きくドイツ47%、米国東海岸35%、オランダ29%に対しイタリア13%、英国12%、中国南部11%であり、イタリアからの当初報告の87%とは一致しなかったこと。C. pneumoniae、C. trachomatis、HSV1、HSV2、アデノウイルス8・19では腫瘍群と対照群に有意差がなかったこと閲覧 2026-08-24
  2. 2.Effects of Helicobacter pylori eradication on early stage gastric mucosa-associated lymphoid tissue lymphoma(Clinical Gastroenterology and Hepatology・2010)32研究1408例の系統的レビューで、早期胃MALTリンパ腫のヘリコバクター・ピロリ除菌単独による寛解率は77.5%(95%信頼区間75.3〜79.7)であったこと。病期I 78.4%に対し病期II1 55.6%、アジア84.1%に対し欧米73.8%、粘膜下層までの病変82.2%に対しより深部へ浸潤した病変54.5%、遠位胃91.8%に対し近位胃75.7%、API2-MALT1転座陰性78%に対し陽性22.2%と成績が分かれたこと。追跡3253患者年で再発は7.2%(年率2.2%)、初回治癒例の0.05%が6〜25か月で高悪性度リンパ腫へ進展したこと閲覧 2026-08-24
  3. 3.Resistance of t(11;18) positive gastric mucosa-associated lymphoid tissue lymphoma to Helicobacter pylori eradication therapy(The Lancet・2001)ヘリコバクター・ピロリ関連胃MALTリンパ腫の20〜30%が抗菌薬治療で退縮しないこと。RT-PCRでAPI2-MLT(t(11;18)(q21;q21))融合転写産物を調べると、除菌無効12例中9例(75%)で検出された一方、除菌有効10例では1例も検出されなかったこと閲覧 2026-08-24