外科学

外科学 · S-16

大腸ポリープとポリポーシス症候群

Colorectal polyps and polyposis syndromes

前提:病態
小腸・大腸の腫瘍RB遺伝子・p53遺伝子・APC遺伝子DNA修復遺伝子(DNA修復機構)
疾患
家族性大腸腺腫症・リンチ症候群大腸癌

🧠 全体像:は「組織型・径・個数・異形成・切除法」で将来リスクが決まる。散発性ポリープは完全内視鏡切除とリスク別、遺伝性症候群は遺伝学的診断、家族支援、臓器横断、適切な時期のが柱となる。

大腸ポリープの分類

種類 特徴 癌化との関係
通常型腺腫 、絨毛、絨毛 腺腫・癌連続で
病変 、、伝統型腺腫 大きさ・部位・異形成により
炎症性ポリープ などの粘膜再生 ポリープ自体はではないが背景が癌リスク
など 症候群全体として多臓器癌リスク

「絨毛成分があれば常に最も危険」と単純化せず、径10 mm以上、、個数、病変の径・異形成、切除を統合する。米国の内視鏡コホートでは、これらを満たすは腺腫なしに比べ大腸癌が2.7倍だった一方、の基準を満たさない非は腺腫なしと有意差がなかった1。

臨床像と診断

多くは無症候で検診時に見つかる。、、排便習慣変化、による、大きな病変による稀な閉塞を来す。

は観察・組織診断・切除を同時に行える標準検査である。不完全内視鏡や実施不能時はコロノグラフィを用いるが、病変があれば内視鏡切除が必要となる。

治療

  • ⭐️ (10 mm未満)はが標準である。 ESGEは5 mm以下・6〜9 mmのいずれも冷切除を推奨し、10〜19 mmの腺腫には、20 mm以上にはを推奨する2。
  • 大型・病変は専門内視鏡医によるまたはを検討する。
  • 内視鏡的完全切除不能、深部浸潤・リンパ節転移リスク、非治癒切除、穿孔などでは外科切除を行う。
  • 大きいという理由だけで、可能性を評価せず直ちに手術としない。

切除後サーベイランス

以下は高品質内視鏡で完全切除された場合のESGE基準であり3、地域の検診制度、家族歴、、遺伝性症候群では別の計画が必要である。

⭐️ 間隔は2020年前後に緩む方向で改訂された。 ESGEは2013年版で「3個以上の腺腫」を高リスクとしていたが、2020年改訂で「5個以上」へ閾値を上げ、1〜4個・10 mm未満(絨毛成分の有無を問わない)は一律に不要とした3。ただし米国のUS Multi-Society Task Force 2020年改訂は区分の切り方が異なり、1〜2個・10 mm未満の腺腫は7〜10年後に再検とする一方、3〜4個・10 mm未満には3〜5年間隔を残しており、「1〜4個は一律に検診へ戻す」とはしていない4。どちらの勧告に基づくかを明示して答える。

所見 次の対応
1〜4個、10 mm未満の腺腫 通常検診へ戻す。制度がなければ10年後
10 mm未満・異形成なしの病変 通常検診へ戻す。制度がなければ10年後
10 mm以上の腺腫、、5個以上の腺腫 3年後
10 mm以上または異形成を伴う病変 3年後
20 mm以上を 3〜6か月後に局所確認、その12か月後にも再検

「3〜10年」という幅は、上表の危険因子と切除法を用いて具体化する。

家族性大腸腺腫症

はAPCによる疾患で、では数百〜数千個の腺腫を形成し、未治療なら大腸癌リスクはほぼ100%に近づく5。では骨腫、歯牙異常、などを伴う。

管理

flowchart TD
    A["FAPを疑う多発腺腫・家族歴"] --> B["遺伝カウンセリング+APC検査"]
    B --> C["12歳頃から下部消化管<span class='jp-term jp-term-diagram' title='surveillance'>サーベイランス</span>"]
    C --> D["癌・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-grade dysplasia'>高度異形成</span>・制御不能なポリープ負荷"]
    D --> E["予防的大腸手術"]
    E --> F["直腸負荷が軽い:結腸全摘+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ileorectal anastomosis'>回腸直腸吻合</span>"]
    E --> G["直腸負荷が高い:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='total colectomy'>大腸全摘</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ileal pouch-anal anastomosis, IPAA'>回腸嚢肛門吻合</span>"]
    B --> H["上部消化管・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='desmoid (tumor)'>デスモイド</span>など生涯監視"]

無症候の保有者は12歳頃から下部消化管を開始する。癌または疑い、、著増するポリープ、内視鏡で制御できない負荷、症状が手術適応となる。術式は直腸ポリープ負荷、癌、肛門機能、妊孕性、リスク、患者希望で選び、全例を一律にとしない。術後も残存直腸または回腸嚢、十二指腸・胃の生涯が必要である。

Lynch症候群

はMLH1、MSH2、MSH6、PMS2、など系の生殖細胞系列異常による疾患で、「非」という名称でも腺腫がないわけではない。若年大腸癌、、卵巣癌、胃・小腸・尿路などの癌リスクが上がる。

  • ⭐️ 臨床基準(Amsterdam II・)だけに頼るとを取りこぼす。 米国の新規大腸腺癌1,066例でMSI検査を第一段階とする分子スクリーニングを行った研究では、確定した23例のうち5例はにもBethesdaガイドラインにも合致していなかった6。このため、すべての大腸癌でまたはMSI検査による普遍的スクリーニングを行う。
  • 異常パターン、MLH1メチル化・BRAF評価、家族歴を踏まえて生殖細胞系列検査へ進む。
  • の開始年齢・間隔は遺伝子別リスクで設定する。欧州指針ではMLH1/MSH2保有者は25歳、MSH6/PMS2保有者は35歳から開始し、通常2〜3年ごととする。PMS2では5年まで延長できる場合があるが、家族内の最若年発症に応じ前倒しする。
  • 大腸病変がない保有者への予防的大腸切除は推奨しない。癌発症時の部分切除か拡大切除かは遺伝子、年齢、リスク、機能、希望で決める。

Peutz-Jeghers症候群

STK11による疾患で、消化管と口唇・口腔・の粘膜を特徴とする。ポリープによる出血、貧血、に加え、膵、乳房、卵巣・子宮頸部、精巣など多臓器癌リスクが上昇する。

症候性または大きなポリープは内視鏡的に切除し、や内視鏡例では手術する。消化管だけでなく膵・乳房・婦人科領域を含む症候群別と家族の遺伝カウンセリングを行う。

まとめ

  • は組織型、径、個数、異形成、完全切除で再検間隔を決める。
  • 多くは内視鏡切除でき、手術は・非治癒切除・内視鏡制御不能例に限る。
  • FAPは若年から監視し、ポリープ負荷とに応じの時期・術式を選ぶ。
  • は全大腸癌のMMR/MSIスクリーニングから拾い上げ、遺伝子別に監視する。
  • はと多臓器癌の両方を長期管理する。

出典

  1. 1.Association of Colonoscopy Adenoma Findings With Long-term Colorectal Cancer Incidence(JAMA・2018)米国PLCO試験で大腸内視鏡を受けた15,935人を中央値12.9年追跡した解析。進行腺腫(径10 mm以上、高異型度異形成、または管状絨毛状・絨毛状組織型のいずれか)は非進行腺腫や腺腫なしに比べ大腸癌発生率が有意に高く(1万人年あたり20.0対9.1対7.5、腺腫なしとの率比2.7、95%CI 1.9〜3.7)、非進行腺腫は腺腫なしと有意差がなかった(率比1.2)閲覧 2026-08-26
  2. 2.Colorectal polypectomy and endoscopic mucosal resection: European Society of Gastrointestinal Endoscopy (ESGE) Guideline - Update 2024(European Society of Gastrointestinal Endoscopy(Endoscopy誌)・2024)微小ポリープ(5 mm以下)と小型ポリープ(6〜9 mm)はいずれも周囲1〜2 mmの正常粘膜を含めた冷スネアポリペクトミー(cold snare polypectomy)を推奨し、10〜19 mmの無茎性腺腫性ポリープには高周波スネアポリペクトミー、20 mm以上の無茎性腺腫性ポリープには内視鏡的粘膜切除術を推奨すること。すなわち10 mm未満が冷スネア切除の標準適応であること閲覧 2026-08-26
  3. 3.Post-polypectomy colonoscopy surveillance: European Society of Gastrointestinal Endoscopy (ESGE) Guideline - Update 2020(European Society of Gastrointestinal Endoscopy(Endoscopy誌)・2020)高品質な基準内視鏡で完全切除された場合、低異型度の1〜4個・10 mm未満の腺腫(絨毛成分の有無を問わない)または異形成のない10 mm未満の鋸歯状病変はサーベイランス不要で検診へ戻し(制度がなければ10年後に再検)、10 mm以上の腺腫・高度異形成・5個以上の腺腫・10 mm以上または異形成を伴う鋸歯状病変は3年後に、20 mm以上の分割切除では3〜6か月後の早期確認とその12か月後の初回サーベイランスを推奨するという2020年改訂の基準。2013年版の「高リスク=3個以上の腺腫」から「5個以上」へ閾値が緩んでいる閲覧 2026-08-26
  4. 4.Recommendations for Follow-Up After Colonoscopy and Polypectomy: A Consensus Update by the US Multi-Society Task Force on Colorectal Cancer(Gastroenterology(US Multi-Society Task Force on Colorectal Cancer)・2020)米国の2020年改訂版は、10 mm未満の管状腺腫1〜2個の次回検査間隔を旧勧告の5〜10年から7〜10年へ延長した一方、3〜4個の10 mm未満腺腫には3〜5年の間隔を残しており、ESGEの「1〜4個は一律に検診へ戻す」とは区分の切り方が異なること閲覧 2026-08-26
  5. 5.Familial adenomatous polyposis(The American Journal of Gastroenterology・2006)家族性大腸腺腫症は5q21のAPC遺伝子生殖細胞系列変異による常染色体顕性の大腸癌症候群で、数百個の腺腫性大腸ポリープを特徴とし、平均35〜40歳でほぼ不可避的に大腸癌へ進行すること。発端者と血縁者の内視鏡サーベイランスは10〜12歳から始めることが推奨されること閲覧 2026-08-26
  6. 6.Screening for the Lynch Syndrome (Hereditary Nonpolyposis Colorectal Cancer)(The New England Journal of Medicine・2005)米国オハイオ州の新規大腸腺癌1,066例を対象に腫瘍のMSI検査を第一段階とする分子スクリーニングを行ったところ、Lynch症候群と確定した23例のうち5例はAmsterdam基準にもBethesdaガイドラインにも合致しておらず、臨床基準だけに頼るとLynch症候群の症例を取りこぼすこと閲覧 2026-08-26