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Disease Atlas · 消化器 · 腫瘍

小腸腺癌

Small bowel adenocarcinoma

別名
SBAsmall bowel adenocarcinoma小腸腺がん
臓器系
消化器腫瘍
科目
PathologyOncology and Reconstructive Oncoplastic Surgery
トピック
病理学 C/42:小腸・大腸の腫瘍腫瘍学 II-07:小腸癌・大腸癌の疫学・病因・組織・病期・症状・診断腫瘍学 II-08:小腸癌・大腸癌の外科・薬物療法
鑑別疾患
カルチノイド症候群・神経内分泌腫瘍リンパ腫消化管間質腫瘍
関連疾患
大腸癌
治療薬
オキサリプラチン
症状
腹痛嘔吐体重減少下血閉塞性黄疸
検査値
CEA糖鎖抗原19-9
原因となる疾患
クローン病セリアック病家族性大腸腺腫症・リンチ症候群

🧠 全体像:(SBA)は「面積は最大、癌は最少」というから入るのがいちばん早い。小腸は消化管の長さの75%・の90%を占めるのに、はの約3%にとどまる1。その差を埋める説明が、そのまま小腸の生理(速い通過・希釈されたアルカリ性の内容・乏しい細菌叢・豊富なリンパ組織)になっている。もう一つの幹は背景疾患で、約20%が Crohn病・セリアック病・・といったの上に生じ1、どの背景かで好発部位も発症年齢も変わる。症状は非特異的で、出血や閉塞という合併症で初めて見つかることが多く、診断時に3分の1が遠隔転移を伴う。

なぜ小腸に癌が少ないのか

仮説 内容
通過が速い 大腸に比べが短く、食事性・異物と上皮の接触時間が短い1
内容が希釈されアルカリ性 液状でアルカリ性のがを薄める2
細菌叢が乏しい の濃度が大腸より低く、細菌によるの生成・分解が少ない12
が小さい の基礎レベルと活性が大腸より低く、酸化によるが少ない1
を備える 上皮がをはじめとする群を持ち、から守る12
リンパ組織が豊富 を含むリンパ組織が多くが強い2

⚠️ 希釈するのは、刺激するのは胆汁。主語を取り違えない。 小腸全体の希少性の側で「希釈」に当たるのは、通過の速さと希釈されたアルカリ性のであって胆汁ではない2。一方、十二指腸に癌が偏る理由としては、酸性胃内容・胆汁・による慢性刺激が想定されている1。胆汁は保護側の説明には現れず、部位分布では危険側に置かれる。

疫学と部位

背景疾患

背景 リスクの大きさ 好発部位・特徴
小腸病変例の34.9(罹病8年超で46.0)。は10年0.2%、25年2.2% 回腸83%、診断年齢中央値48歳と若く、低分化・転移例が多い
セリアック病 10()〜3.05(全国コホート) をきっかけに軽症のセリアック病が判明することがある
(・) 約1%。MLH1保因者の6.5%、MSH2保因者2.0% 十二指腸61%・空腸30%。空腸例があるため上部内視鏡だけでは足りない
の330、で123 十二指腸・乳頭部が大腸切除後の主要な死因
520 全体に占める割合は小さい(0.6%)

数値はいずれも上記のレビューによる1。⭐ 背景疾患を知ると病変の場所が読める——Crohn病なら回腸、・なら十二指腸、という対応が診断の入口になる。

分子背景:大腸癌との違い

同じ腺癌でも大腸癌と頻度が大きく異なる1。

  • APC 変異は13〜27%にとどまり、大腸癌の約80%より明らかに少ない。腺腫–癌連鎖が主軸ではない。
  • KRAS 変異43〜56%、TP53 変異38〜58%。BRAF 変異は4〜11%だが多くは V600E 以外である。
  • dMMR は5〜35%と報告に幅がある。MLH1 プロモーターのメチル化による割合が大腸癌より小さく、dMMR の背景として の比重が大きい。dMMR は予後良好と関連する。

そのため、すべてので MMR タンパクの発現または MSI を検索する(の拾い上げと免疫療法の適応判断を同時に果たす)1。

臨床像と診断

症状は非特異的で、腹痛・・体重減少・慢性の消化管出血によるが中心となる。十二指腸病変ではや膵炎を来しうる。閉塞や出血という合併症で緊急に発見される例が多い1。

flowchart TD
    A["非特異的な腹痛・貧血・体重減少・閉塞"] --> B["造影CT(胸腹骨盤)で局所進展と転移を評価"]
    B --> C{"疑われる部位はどこか"}
    C -->|"十二指腸"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper gastrointestinal endoscopy'>上部消化管内視鏡</span>+生検"]
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='terminal ileum'>回腸末端</span>"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='colonoscopy'>大腸内視鏡</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='terminal ileum'>回腸末端</span>まで)"]
    C -->|"空腸・部位不明"| F["CT enterography/MR enterography"]
    F --> G{"閉塞・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subocclusion'>亜閉塞</span>はあるか"}
    G -->|"なし"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capsule endoscopy'>カプセル内視鏡</span>→病変があれば<span class='jp-term jp-term-diagram' title='balloon-assisted enteroscopy'>バルーン内視鏡</span>で生検"]
    G -->|"あり・疑い"| I["カプセルは行わず<span class='jp-term jp-term-diagram' title='balloon-assisted enteroscopy'>バルーン内視鏡</span>や手術を選ぶ"]
    D --> J["MMR/MSI検索、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='carcinoembryonic antigen'>CEA</span>・CA19-9、必要に応じ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endoscopic ultrasonography, EUS'>超音波内視鏡</span>"]
    E --> J
    H --> J
    I --> J
  • の検出感度は88.9〜95%と高い1。
  • ⚠️ のある患者にを行わない。 少しでも疑わしければでを確認する1。カプセルは通過が速い十二指腸・の病変を見落とすことがある。
  • 十二指腸病変ではでを評価し、・・との区別を付ける。腫瘍の中心が乳頭部にあるものをとする1。
  • ・CA19-9 は特に転移例で予後情報として有用である1。

病期と治療

病期は分類(第8版)による。適切な病期評価には最低8個のリンパ節を要する12。欧米では診断時に stage IV が33〜36%を占め、進行して見つかりやすい1。

  • 手術が根治の軸である。・肛門側に少なくとも5 cmのを取り、腸間膜を含めて切除しリンパ節を郭清する。空腸・回腸では、・ではまたは、十二指腸第1・3部では、第2部や・膵に及ぶ例ではを考慮する2。
  • ・進行例のはとの併用が中心だが、根拠は大腸癌からの外挿であり、第3相のBALLAD試験が進行中である2。
  • 後は臨床評価・画像・で5年間の経過観察を行う1。

予後

後の5年生存率は20〜50%と報告に幅がある2。26の観察研究のでは後のは46%で、リンパ節転移陰性65%に対し陽性は21%と大きく開いた2。リンパ節転移の有無が予後を最も強く分ける。

まとめ

  • 小腸は消化管の長さの75%・表面積の90%を占めるのにはの約3%で、速い通過・希釈されたアルカリ性の内容・乏しい細菌叢・豊富なリンパ組織・がその説明として挙げられている。
  • 一方で十二指腸に55〜82%が集中し、その理由には胃酸・胆汁・による慢性刺激が想定されている。希釈に当たるのはアルカリ性ので、胆汁はむしろ刺激側に置かれる。
  • 約20%がを背景に持ち、Crohn病は回腸・若年、とは十二指腸に偏る。
  • APC 変異が13〜27%と大腸癌より少なく、dMMR の背景としての比重が大きいため、全例でMMR/MSIを検索する。
  • 診断は造影CTと部位に応じた内視鏡で進め、例にを行わない。
  • 治療は5 cmのとリンパ節郭清を伴う切除が軸で、薬物療法は大腸癌からの外挿にとどまる。後のは約46%、リンパ節転移陽性では21%まで下がる。

出典

  1. 1.Epidemiology, Risk Factors and Diagnosis of Small Bowel Adenocarcinoma(Cancers・2022)小腸が消化管の長さの75%・粘膜表面積の90%を占めながら小腸癌が消化管癌の約3%にとどまること、希少性の仮説として通過時間が短く食事性発癌物質との接触時間が短いこと・好気性グラム陽性菌の濃度が低いこと・活性酸素種の基礎レベルと抗酸化酵素活性が低いこと・上皮がベンゾピレン水酸化酵素を備えることが挙げられること、十二指腸優位(55〜82%)の理由として酸性胃内容・胆汁・膵酵素による慢性刺激が想定されること、空腸11〜25%・回腸7〜17%であること、素因疾患を伴う例が大規模コホートで20%に達すること、Lynch症候群の累積リスクがERISCAN研究で1%・MLH1保因者の十二指腸腺癌で6.5%、家族性大腸腺腫症の十二指腸腺癌の相対危険度が330・Vater乳頭部で123、Peutz-Jeghers症候群の相対危険度が520、小腸Crohn病の標準化罹患比が34.9(95%CI 11.3〜81.5、罹病8年超で46.0)で累積リスクが10年0.2%・25年2.2%、セリアック病の相対危険度がスウェーデンの登録研究で10・より新しい全国コホートのハザード比が3.05であること、NADEGEコホートでCrohn病例は診断年齢中央値48歳・回腸83%、Lynch症候群例は十二指腸61%・空腸30%であること、APC変異が13〜27%と大腸癌の約80%より低くKRAS変異43〜56%・TP53変異38〜58%・dMMR 5〜35%であること、欧米では診断時にstage IVが33〜36%を占めること、カプセル内視鏡の腫瘍検出感度が88.9〜95%であり亜閉塞では施行せずパテンシーカプセルで開通性を確認すべきこと、病期評価に最低8個のリンパ節郭清が推奨されることを確認した。閲覧 2026-09-02
  2. 2.Small bowel adenocarcinoma: An overview(World Journal of Gastrointestinal Oncology・2022)小腸腺癌がまれである理由の仮説として、上皮の入れ替わりが速いこと、リンパ組織が豊富で免疫監視が強いこと、通過が速く内容が希釈されたアルカリ性で細菌分解が乏しいため発癌物質への曝露が少ないこと、上皮が各種水酸化酵素を含む微粒体酵素群を備えることが挙げられること、外科切除では腫瘍の口側・肛門側に少なくとも5 cmの切除縁と腸間膜切除・リンパ節郭清を行い、十二指腸第2部やVater乳頭・膵浸潤例では膵頭十二指腸切除を考慮すること、病期評価に8個のリンパ節が必要とされること、切除後も予後不良で5年生存率が20〜50%であること、26の観察研究のメタアナリシスで根治切除後の5年全生存が46%、リンパ節転移陽性21%に対し陰性65%であったこと、補助化学療法の根拠は大腸癌からの外挿であり第3相のBALLAD試験が進行中であることを確認した。閲覧 2026-09-02