疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 消化器 · 疾患

小腸内細菌異常増殖

Small intestinal bacterial overgrowth

別名
SIBO
臓器系
消化器
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 G-02:小腸疾患・吸収不良・消化不良内科学 S-29:吸収不良と消化不良
鑑別疾患
セリアック病過敏性腸症候群
続発疾患
巨赤芽球性貧血
治療薬
リファキシミン
原因薬剤
モルヒネパントプラゾール
症状
脂肪便腹部膨満下痢体重減少
検査値
水素呼気試験
原因となる疾患
全身性強皮症

🧠 全体像は、本来は細の少ない小腸にの細菌が異常に増殖した状態である。単一の原因病名ではなく、胃酸・・免疫という4つの防御機構のどれかが破綻した結果として起こる終着点の一つと捉えると、原因の整理と治療の道筋が見えやすい。もう一つの要点は、ビタミンB12は低下するのに葉酸は正常〜高値になるという特徴的な組み合わせで、これは細菌が葉酸を産生する一方でB12を消費するという相反する代謝の帰結であり、他のとの鑑別の手がかりになる。

病態:4つの防御機構のどれが破れたか

小腸は本来、胃酸・胆汁による殺菌、による蠕動と逆行性移動の防止、による大腸内容の逆流防止、による抑制という4系統の防御で細を低く保っている1。SIBOはこのいずれかが破綻した帰結であり、原因を「どの防御機構が壊れたか」で整理すると理解しやすい。

flowchart TD
    A["小腸の防御機構"] --> B["胃酸低下<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='achlorhydria'>無酸症</span>・PPI長期使用・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atrophic gastritis'>萎縮性胃炎</span>)"]
    A --> C["運動障害<br>(強皮症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='diabetic autonomic neuropathy'>糖尿病性自律神経障害</span>・オピオイド)"]
    A --> D["解剖学的異常<br>(盲係蹄・憩室・癒着・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Ileocecal valve'>回盲弁</span>切除)"]
    A --> E["免疫不全<br>(IgA欠損症・AIDS)"]
    B --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='SIBO'>小腸内細菌異常増殖</span>"]
    C --> F
    D --> F
    E --> F
    F --> G["胆汁酸の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deconjugation'>脱抱合</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fat malabsorption'>脂肪吸収不良</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='fat-soluble vitamin'>脂溶性ビタミン</span>A/D/K欠乏"]
    F --> I["細菌がビタミンB12を消費"]
    I --> J["ビタミンB12欠乏"]
    F --> K["細菌が葉酸を産生"]
    K --> L["葉酸は正常〜高値"]

原因を「胃酸・運動・解剖・免疫」の4系統で覚えておくと、初発のSIBOに出会ったときに背景疾患を探す道筋になる。 逆に、この4系統のどれにも当てはまらない反復性のSIBOは、他の未診断疾患を疑う契機になる。

病態生理:胆汁酸脱抱合とビタミン代謝の逆転

異常増殖した細菌は胆汁酸をし、を妨げてを招く。この結果、・体重減少・下痢に加え、(A・D・K)の欠乏を来す1

⚠️ ビタミンB12は低下する一方、葉酸は正常〜高値になる。 細菌は宿主が摂取したビタミンB12を奪い合って消費し、さらに回腸粘膜の結合部位を障害するためB12欠乏が進む。一方で細菌自身が葉酸を産生するため、葉酸は欠乏せずむしろ正常〜高値を示すことが多い1。この「B12低下+葉酸正常〜高値」という組み合わせは、両者がともに低下しやすい他のなど)との鑑別点として利用できる。B12欠乏が進行すればを来す。

診断:呼気試験と過剰診断への注意

(ブドウ糖または負荷後、90分以内に呼気水素20 ppm以上の上昇、メタンは10 ppm以上で陽性)が非侵襲的な第一選択検査である2。小腸液の直接培養(空腸吸引培養)はより直接的だが侵襲的で時間を要し、再現性にも乏しい1

⚠️ SIBOには検証されたが存在せず、が確立していない。 呼気試験は特異度に限界があり、臨床的背景と統合して解釈する必要がある13。このの不確かさゆえに、腹部膨満・下痢といった非特異的な症状を安易にSIBOへ帰属させる過剰診断が起こりやすい点に注意する3

⚠️ 過剰診断が起こりやすい一因は、症状が重複する疾患との鑑別の難しさにある。 セリアック病はいずれもSIBOとが重複するため、呼気試験が陽性であってもそれだけでSIBOとせず、これらを鑑別に挙げる必要がある1。特にセリアック病はSIBOと症状が似通うが、セリアック血清学が陽性かつ炭水化物呼気試験が陰性という組み合わせで鑑別できるため、血清学的検査で除外する1

治療

  • が中心で、ほぼ吸収されない抗菌薬という性質上、全身性副作用が少ない。550 mgを1日3回、または水素優位型では1650 mg/日を2週間投与し、有効率は61〜78%と報告される2。ただしACGガイドラインでの推奨は条件付き推奨にとどまり、エビデンスの質は低い2。メタン優位型ではを併用する1
  • 原因の是正:可能な限り背景にある運動障害・解剖学的異常・免疫不全の治療を並行する。原因を是正しないまま抗菌薬のみを繰り返しても再発しやすい。
  • 栄養補充A・D・KおよびビタミンB12を必要に応じて補充する。
  • ⚠️ 再発が多い。 特に強皮症や解剖学的異常など原因が是正できない背景疾患を持つ患者では、抗菌薬治療後も再発を繰り返しやすく、症状に応じた反復治療が必要になることがある。

まとめ

  • SIBOは本来細菌の少ない小腸に大の細菌が異常増殖した状態で、胃酸低下・運動障害・解剖学的異常・免疫不全という4系統の防御機構破綻の帰結として起こる。
  • 細菌による胆汁酸欠乏を招き、ビタミンB12は低下する一方、細菌が産生する葉酸は正常〜高値になるという特徴的な組み合わせを示す。
  • 診断はが中心だが、検証されたが存在せずが確立していないため、過剰診断に注意する。
  • 治療はが中心で、原因の是正と栄養補充を並行するが、再発が多い。

出典

  1. 1.Small Intestinal Bacterial Overgrowth(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)小腸の細菌数を低く保つ防御機構が胃酸・胆汁による殺菌、移動性運動複合体による蠕動・逆行性移動の防止、回盲弁による大腸内細菌の逆流防止、分泌型IgAによる細菌増殖抑制の4つであること。危険因子が胃酸低下(無酸症・膵外分泌不全)、運動障害(強皮症・糖尿病・麻薬性鎮痛薬・甲状腺機能低下症・放射線腸症・過敏性腸症候群)、解剖学的異常(小腸憩室症・腸管狭窄・術後癒着・胃バイパス術の盲係蹄・回盲部切除)、免疫不全(AIDS・分類不能型免疫不全症・IgA欠損症)の4系統に整理できること。細菌による胆汁酸の脱抱合が脂肪吸収不良を招き体重減少・下痢・脂溶性ビタミンA/D/K欠乏を来すこと、回腸粘膜のコバラミン結合部位障害によりビタミンB12は低下する一方、細菌が葉酸を産生するため葉酸は正常〜高値になること、SIBOには検証されたゴールドスタンダードの診断検査が存在しないこと、水素優位型には550〜1650 mg/日のリファキシミンが有効であること。Differential Diagnosis節では過敏性腸症候群・セリアック病・炎症性腸疾患がいずれもSIBOと症状が重複すること、セリアック病はセリアック血清学陽性かつ炭水化物呼気試験陰性という組み合わせで鑑別できることを確認した閲覧 2026-08-11
  2. 2.ACG Clinical Guideline: Small Intestinal Bacterial Overgrowth(American College of Gastroenterology (ACG)・2020)小腸内細菌異常増殖(SIBO)の呼気試験診断基準(75gブドウ糖または10gラクツロース負荷後90分以内に呼気水素20 ppm以上上昇、メタンは10 ppm以上)、症候性SIBOへの抗菌薬治療の推奨が条件付き推奨・エビデンスの質は低いにとどまること、リファキシミン550 mgを1日3回投与した場合の有効率が61〜78%と報告されていること閲覧 2026-08-11
  3. 3.Small Intestinal Bacterial Overgrowth—Pathophysiology and Its Implications for Definition and Management(Gastroenterology・2022)SIBO呼気試験の特異度に限界があり、臨床的背景と統合して解釈すべきこと。標準化された診断基準が確立していないため過剰診断・過小診断のいずれも起こりうること閲覧 2026-08-11